スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第17話 ヒーロー見参

-旋風寺コンツェルン本社ビル 社長室-

「こちらに、社長の旋風寺がおります。失礼します」

部屋の中にいると思われる彼に声をかけた後で、青木たちは社長室に入る。

さすがは大企業というだけあって、大きな社長室になっており、少しセッティングをすればパーティーを開けるくらいだ。

天文学的な資産を所有しており、業績を去年の3倍にまで拡大させるほどの手腕を誇るやり手の社長の姿をソウジとチトセは想像する。

(こんだけ稼ぐんだ。きっと、小太りのおっさんがやってんだろうな…)

(やり手としたら、もしかして沖田艦長みたいな…)

年齢の違いはあるものの、ある程度歳を食っている男性が社長を務めているという認識ではどちらも一致している。

社長室の一番奥には日光のせいでよく見えないが、確かに誰かが椅子に座っている。

おそらく、その人物が例の社長だろう。

「舞人様、例の人物をお連れしました」

「ありがとう、青木さん」

声を聞いたソウジとチトセは何か違和感を感じた。

2人が想像した人物と比較すると、その人物の声があまりにも若々しいからだ。

良くて20代くらいの若者で、下手をすると高校生と予想できてしまうほどの。

雲にさえぎられたことで日光が遮断され、その正体が明らかになる。

「初めまして。旋風寺舞人です」

そこにいたのは青い髪の高校生だった。

いい意味で期待を裏切られたソウジとチトセは驚きを隠せない。

「若い…!」

「まぁ、誰もが驚くわな」

辰ノ進には2人の反応が当然のように感じられた。

彼本人も旋風寺コンツェルン社長として舞人をテレビで見た際、あまりにも若すぎる彼にできるのかと不安を覚えたことがある。

しかし、この1年の驚異的な業績アップの結果を見て、見事にその不安は吹き飛んだのだが。

「青戸工場先代工場長の神宮司さんですね。お元気そうで何よりです」

「ありがとうございます、社長。一従業員である私のことを覚えておいでになるとは…」

辰ノ進は自分のことを舞人が覚えていてくれていたことに驚いていた。

舞人とは半年前に行われた青戸工場OBの同窓会の社長あいさつの時に会っただけだ。

それ以降はテレビやネット、新聞などのメディアでしか見たことのない、まさに雲の上の人物だ。

「何をおっしゃるんですか。社員はすべて、旋風寺コンツェルンの宝です」

「ナイスガイだ…」

キザなセリフを何の屈託もなく口にする彼にびっくりしつつ、ソウジはなぜか昨日一緒に戦った彼のことを思い出してしまう。

彼もまた、目の前の舞人と同じようにこのようなキザなセリフを口にしていた。

だが、その彼と舞人とではあまりにも声が違いすぎて、とても同一人物とは思えない。

「ただのナイスガイではありませんよ。キャッチフレーズは嵐を呼ぶナイスガイです」

社長室に入ってきた赤髪の女性がフォローを入れると、舞人に書類を手渡す。

「フォローありがとう、いずみさん。この書類は…」

「例のものです。ご用が済み次第、確認してください」

「…わかりました」

「申し遅れました。私は社長秘書の松原いずみです。よろしくお願いします」

「世界有数の金持ちの少年社長にロマンスグレーの執事、おまけに美人秘書。マンガだけの存在かと思ったけど、実在するなんて…」

3人を見たチトセは目の前の光景があまりにも現実離れしているように見えた。

自分たちがいた世界でそんなのがいたら、すぐにメディア注目の的になる。

ふと、聞きたかった疑問を思い出したソウジは落ち着きを取り戻し、本題に入る。

「で、その社長さんが俺の身元引受人になったのは、ヴァングレイが気になったためでございましょうか?」

わざとらしく恭しい口調で舞人に質問する。

「そうかしこまらないで下さいよ。昨日一緒に戦った仲ではありませんか…『流れ者さん』」

机の収納スペースから小さなバッジを取り出し、それを口に近づけた舞人の声が変化する。

その声はまさしく、ソウジが昨日聞いた、マイトウィングのパイロットの声そのものだった。

「ボイスチェンジャー…まさか!!」

「そのまさかです。俺は勇者特急隊の隊長でもあるんです。叢雲さん…いや、ソウジさんと呼ばせていただきます」

もうびっくりすることに疲れてしまったソウジはもう笑うしかなかった。

昨日一緒に街を守るために戦ったあの人物が実は世界有数の金持ちで、おまけに大企業である旋風寺コンツェルン社長であり、高校生だなんて、きっと何も知らない人に言ったとしても、笑われるだけだろう。

ソウジ自身も、きっと同じことを言われたら、まともに相手をすることはないと思っている。

しかし、現実として自分がそのような経験をしてしまった。

本当に現実は小説よりも奇妙だと改めて実感した。

「あなたの身元引受人になったのは、昨日のお礼を言うためです。町を…青戸工場を守っていただき、ありがとうございます」

「当然のことをしたまでだ。君と同じさ」

「さすがです。俺が見込んだ通りのナイスガイだ」

「舞人!!すごいよ、あのヴァングレイっていうモビルスーツ!!」

ノックもせずに、社長室に黄色い長そでにシャツ姿で黒いミディアムヘアーの舞人とほぼ同じくらいの身長の少年が入ってくる。

彼はソウジたち客人の姿を見た瞬間、固まってしまった。

「す、すみません!お邪魔してしまって…」

「かまわないよ。紹介します、俺の親友の浜田光彦君です」

浜田に代わり、舞人が彼を紹介する。

もう突っ込むのに疲れてしまったのか、ソウジはヴァングレイはモビルスーツじゃないということをもう言う気になれなかった。

「浜田です。よろしくお願いします。叢雲さん…ヴァングレイっていうモビルスーツのことなんですが、あれってもしかして地球外の文明のものではないですか?」

ヴァングレイについて、詳しく知らないソウジはその浜田の指摘に対して答えることができなかった。

そして、同時に彼の着眼点に感心していた。

ソウジはあくまでヴァングレイを地球の技術のみを使って作ったロボットという認識にとどまっており、地球外の文明というのを考えてもいなかった。

ソウジたちの世界で地球外文明といえば、イスカンダルとガミラスくらいしかないため、考えられなくても仕方がないのだが。

「ああ…地球外と決めつけるのは早いですね。先史文明のロストテクノロジーと現行の技術の融合という線も考えられます。既存の技術との互換性があるにもかかわらず、少し距離が感じられますから…」

「浜田君は勇者特急隊計画の一員で、メカニックデザイナーも務めているんです。ですから、ヴァングレイのことがどうしても気になってしまったみたいで…」

目を輝かせながらヴァングレイについての持論を展開する浜田にフォローを入れる舞人。

ソウジにはヤマトでは一番のインテリと思われる真田とは全く異なる目線で独自の答えを出した浜田が天才に思えた。

「少年社長の親友は天才メカデザイナーか…。もう、ごまかせないみたいだな」

「ソウジさん…」

ソウジがこれから何を話すのか、チトセには理解できた。

このことは本社ビルにつく前からすでに決めていたことだが、いざ彼がそのことを話すとなると、どうしてもチトセは不安を覚えてしまう。

そんな彼女を安心させるため、ソウジは彼女の肩に手を置く。

「大丈夫だ、チトセちゃん。この人たちは信用できる。おまけに身分を隠して正義の味方をやっているんだ。これ以上ないほどの身元引受人だぜ。ま、俺の直感だけどな」

「直感…」

直感という言葉がチトセの心に重くのしかかる。

本来ならばニュータイプである彼女がその直感を大事にしなければならないはずなのだが、今ではソウジがその直感に対して素直に信じることができている。

ソウジに隠れて、キンケドゥやトビアに彼がニュータイプの可能性があるか聞いたことがある。

その結果、彼らから見てもソウジはニュータイプとしての素質がないことが分かった。

しかし、いまのチトセにはソウジが自分以上のニュータイプに見えて仕方がなかった。

「では…話して…!?」

急に社長室に警報音が響き渡る。

舞人は机上のノートパソコンを開くと、それにはヌーベルトキオシティに昨日交戦した大型ロボットと同じタイプのロボット数機が現れ、攻撃を行っている光景が映し出されていた。

警察が出動させたガバメントドッグはもうほとんど撃破されている。

戦争によって、世界情勢が不安定になった影響で日本でも軍事費拡大が続いている。

武装ロボット対策として、警察にも予算が回されることになったものの、それでもモビルスーツ部隊を多数作るには予算が足りず、このように警察が独自に開発したガバメントドッグが使われるのがほとんどだ。

日本独自の機動兵器としてはエステバリスというネルガル重工製のものがある。

しかし、操縦系統がモビルスーツ以上に複雑なために体内にナノマシンを打ち込むことで機械とのリンクを可能にし、頭でイメージした通りに動かすことが出来るIFSの使用が必須となっている。

そのうえ、ナノマシン処理中は精神的に不安定になりやすく、そうなると幻覚や幻聴を伴い暴走してしまうというリスクがある。

実際、3年前の木連との戦争中、とあるオネエ口調の地球連合軍高官が自暴自棄となったままIFSを自身に打ち込み、その影響で精神不安定となった上に幻視や幻聴を引き起こしてしまって事故死してしまう事件が起こっている。

その一件のためか、地球連合軍は訓練時間をさほど必要としていないものの、このようなリスクのあるIFSとそれの搭載を前提としたエステバリスの採用に難色を示しており、その影響が日本にも及んでいる。

遺伝子調整された人類であるコーディネイターの存在も、IFSへのマイナスイメージを加速させることにつながっており、結局エステバリスよりも高価で大型なモビルスーツか自力開発したガバメントドッグを採用することになった。

なお、IFSのようなナノマシンについてはプラントや火星、木星ではそれほど忌避されるものではない。

特にナノマシンによるテラフォーミングで移住が可能となった火星では重機などを使用する際にIFSが使われるなど、日常的なものとなっている。

「昨日の奴らの仲間か!」

「くそっ!せっかく衝撃の真実を語ろうってしてたのによぉ!」

「ソウジさん…その話は夕食の時にゆっくり聞かせてもらいます」

立ち上がった舞人はドアへ向かって走っていく。

「お、おい!!どこへ行くんだよ!?」

「ここはヒーローの出番です!いくぞ、勇者特急隊、出動だ!」

 

-ヌーベルトキオシティ メガロステーション付近-

「うわあああ!?!?」

「くっそぉ!奴ら、ここまで!?」

ティーゲル5656のミサイル攻撃を受けたガバメントドッグが次々と撃破されていく。

現場に駆けつけていた小沢はこの一方的な状況に唇をかむ。

「くそ…テロリストめ!!ジンクスⅢはどうなっている!?」

「まだ、会議が終わるまで時間がかかると…」

「く…犯罪者は待ってくれないんだぞ!?」

ヌーベルトキオシティ警察には、ガバメントドッグのほかにも、3機だけだがジンクスⅢが保管されている。

かつて、ソレスタルビーイング討滅のために開発された疑似太陽炉搭載型モビルスーツ、GN-Xの発展型だ。

1年前のアロウズ解体と地球での混乱がきっかけで行われた地球連合軍再編計画の中で、新型量産機が開発されることにより、旧型化したジンクスⅢの多くは後方に下げられることとなり、このように武装ロボットを使う犯罪者集団を取り締まる警察などに回されることになった。

コストとパイロットの安全を優先したガバメントドッグよりもはるかに性能は上だが、モビルスーツのような高価な兵器を持つとなると、それだけで膨大な維持費がかかる。

そのため、緊急事態でなおかつ上層部からの許可が下りなければ、モビルスーツを使うことができない。

こうして待っている間にも、ガバメントドッグは全滅し、5機のティーゲル5656が前進する。

その中心のティーゲル5656は両腕をドリルに換装し、両肩に展開型の球体センサーを追加装備した上に頭部が大型のビーム砲になっているあまりにも奇抜な姿だった。

「もう青戸工場を襲うなどというみみっちい真似はやめた!一気にメガロステーションを落として、ワシが開発したこのティーゲル5656の強さを全世界に示してやる!」

青い鬣のような髪型をした豚に似た耳をした科学者がそのティーゲル5656のコックピットの中で息巻く。

彼はこのティーゲル5656の集団のボス、ウォルフガング。

世界一強いロボットを作るためには手段を選ばないマッドサイエンティストだ。

彼が落とそうとしているメガロステーションは日本の鉄道交通網の心臓部ともいえる場所であり、これが破壊されてしまうと日本に与えるダメージは計り知れない。

「ウォルフガング様、何か近づいてきます!」

両肩のセンサー制御を行っているイッヒがガバメントドッグやモビルスーツとは異なる反応をキャッチする。

その報告と同時に、マイトウィングとガインが現地に到着した。

「あのロボット…!例の…!」

ガインとマイトウィングを見たウォルフガングは逃げ帰ってきた部下の報告を思い出す。

青戸工場襲撃のために派遣したロボットたちがこの2機と黒いモビルスーツによって全滅したという話だ。

ドイツ人であり、コネで手に入れたパティクラフトを搭載したティーゲル5656まで破壊されたため、報告を受けたときは一瞬夢かと疑った。

「ガイン、あのロボットの足を止めろ!」

「了解した!だが、舞人は…?」

「あそこに逃げ遅れた人がいる!」

マイトウィングが近くに崩れたビルの近くに着陸し、ガインがカバーに入る。

ガインがミサイルをガインショットで破壊していく中、マイトウィングから降りた舞人は逃げ遅れたセーラー服の少女に駆け寄る。

「どうしたんだ、君!?」

「あ、足が…鉄骨に挟まって…」

うつぶせで倒れている少女の足を挟んでいる鉄骨に目を向ける。

幸い、重量は舞人1人でも持ち上げることができそうだ。

「待っていろ、いま助ける!」

鉄骨を持ち上げ、助けた舞人は少女の挟まれた箇所を調べる。

骨折はしていないが、この痛みでは走るのは難しそうだ。

舞人はヘルメットについている通信機を起動し、近くの警察に連絡を取る。

「よし…もうすぐ助けが来る!物陰に隠れて待つんだ。あのロボットたちは俺たちが何とかする」

安心させるため、両肩に手を置いて笑みを浮かべながら言う。

バイザーで顔が完全に隠れているため、相手は顔を見ることができないが…。

「あ、あの…あなたは…?私は、吉永サリーです…」

助けられた少女、サリーは自分を助けてくれた彼を知りたいと思い、まずは自分の名前を言う。

相手に尋ねる場合はまず自分からという両親からの躾が行き届いているのだろう。

「サリー…いい名前だ」

名前を誉められたサリーは若干顔を赤く染める。

こんなことを言う人をフィクションでしか見たことがなく、初めての体験だからだ。

「あの、あなたは…!?」

「名乗るほどのものじゃないさ。さぁ、急いで!」

サリーから離れた舞人はマイトウィングに乗り込む。

離陸したマイトウィングがバルカンでミサイルを撃破しつつ、ティーゲル5656にレスキューナイフで挑むガインのサポートに入る。

「待たせたな、ガイン!」

「気にするな!」

どのような状況であろうと、人助けをする舞人のことを良く知っているガインは責めることなく、目の前の敵に集中する。

頭部のメインカメラを至近距離からのガインショットで破壊し、ジェネレーターをレスキューナイフで一刺しすることで行動不能に追い込んだ。

「ガインめ、勇者特急隊め!またワシの邪魔をするのか!?」

「だったら、どうする!?」

「生意気な口をたたきよって、ワシを誰だと思っとるんじゃ!?」

「知ってほしくば、まず自分から名乗るべきだ」

「よかろう!センサーの感度を最大にして聞くがよい!ワシこそが世界最高のロボット工学の権威、ウォルフガング博士よ!」

「ということは、昨日のロボットを開発したのは貴様だな!?(うん、ウォルフガング…??)」

名前を聞いた舞人は昨日の武装ロボット集団の正体を推測すると同時に、彼の名前を聞いて疑問を覚える。

どこかのデータベースでその名前を見たことがあるのは思い出せたが、どういうデータで見たのかを思い出せない。

「あんな試作機と一緒にするなよ!バージョンアップしたこのティーゲル5656の力を思い知らせてくれる!」

「そうはいくか!このヌーベルトキオシティの…いや、世界の平和は俺たち勇者特急隊が守って見せる!」

ウォルフガングへの疑問の解決は戦いが終わってからでいいと判断した舞人はガインとともにティーゲル5656の集団に向けて突撃していく。

改造が施されていないティーゲル5656であれば、このレスキューナイフでどうにかできるものの、問題は兵器としての一面が全開に引き出されているティーゲル5656だ。

「まずはあいさつ代わりにこれじゃあ!!」

ウォルフガング専用のティーゲル5656の胸部装甲が展開し、ミサイルが発射される。

町への被害を考えた舞人はマイトウィングのバルカンで撃ち落とすが、爆発とともに真っ黒な煙幕が発生し、それがマイトウィングとガインを飲み込んでいく。

「なに!?この煙は…!?」

「ま…舞人…!?何も、何も見えない!!」

「ムハハハハ!!ジャミングミサイル効果ありじゃ!!超AIであることがアダになってなぁ!」

「くっ…!」

超AIによって自律行動をとるガインはセンサーやカメラがキャッチする情報に必然的に依存する。

人間が乗るロボットの場合、その場合は危険はあるもののコックピットを開くなどして目視による警戒をすることができる。

しかし、自律行動をとるロボットにそのような芸当ができるわけがなく、こうなると周囲の被害を想定すると何もできなくなってしまう。

「なら、煙の中から!!」

煙幕の外へ出て、そこから目視してガインに指示を出すことを思いついた舞人は上昇する。

煙幕の範囲の特定はできているため、その外に出ればジャミングの影響が軽減されるかと予想した。

だが、煙幕の外に出てもマイトウィングのセンサーが回復しない。

できるのは目視だけだ。

「これは…!?」

煙幕を見た舞人はそれの不自然な動きに目を向ける。

それはなぜかガインの周りで動きを止めており、しかも風が吹いているのに動く気配を見せていない。

(この煙幕はもしかして…)

少しだけ、ジャミングミサイルの正体が見えたように感じた舞人だが、ほかのティーゲル5656のミサイルが襲い掛かり、やむなくそれをバルカンで撃ち落とす。

よく見ると、ウォルフガングのティーゲル5656以外の3機のティーゲル5656が舞人へ攻撃を集中している。

まるで、舞人に目視で得た情報をガインに伝えさせないようにしているかのように。

「く…舞人!状況はどうなっている!?」

やみくもに攻撃してしまうと、周囲の建物や避難できていない住民、誘導する警官たちに被害を与えてしまう。

ガインを包むジャミングが強くなったせいか、ついに彼との通信にもノイズが入り始める。

「く…!あれが来れば…!」

「そこじゃあ!!」

焦る舞人を追い詰めるため、ヴォルフガングのティーゲル5656の頭部砲台からビームが発射される。

ミサイル攻撃を終えた3機のティーゲル5656は攻撃対象をガインに変更する。

戦艦の主砲に匹敵する出力のビームがマイトウィングに向けて直撃コースで直進する。

「しまった!!」

「させるかよ!!!」

ソウジの声が舞人の通信機に響くのと同時に、上空に現れたヴァングレイがマイトウィングをかばい、左腕のシールドでビームを受け止める。

「ぐう…う…!!」

「ソウジさん、どうして!?」

ビームを受け止め続けるソウジに舞人は問う。

あのまま本社ビルで待っていてもよかったにもかかわらず、どうして救援に現れたのか。

「ヴァングレイの補給で、旋風寺コンツェルンに融通してもらったからな!その借りを返さねえと…!」

幸い、左腕に装着されているシールドにはX3と同じIフィールド・ジェネレーターが内蔵されており、ヴァングレイやマイトウィングへの被害はない。

問題はこのIフィールドがどれだけ持つかで、それについてはぶっつけ本番となっているソウジには分からない。

「そんなこと気にしないでください!それに…あなたには戦う理由が…」

「ヒーローを助ける流れ者ってのは定番の展開だろ?気になるなら、身元引受人になってくれた恩返しってことで。これで貸し借りなしだな、社長」

ソウジの話を聞いた舞人は彼という人間を見誤っていたと感じた。

彼が戦う理由はいたってシンプルで、口ではそういっているが、本音はただ単純にこの街や世界の平和を守りたいだけなのだろう。

だとしたら、自分と同じ理由で戦っている。

それを拒む理由はないはずだ。

「最初から、そんなのはありませんよ。俺たちは正義のために戦う戦友なんですから」

ビームが消えると、Iフィールドを解除し、ヴァングレイがマイトウィングの背後のカバーに入る。

バックパックのガトリング砲を撃ち、ガインに向けて攻撃しようとしたティーゲル5656の内の2機をハチの巣にする。

戦闘前に、青戸工場が鹵獲したティーゲル5656の解析データを浜田を介して受け取っているため、コックピットの位置は分かっている。

また、ティーゲル5656はパワーと装甲重視の設計であり、動きが鈍いこともあって、コックピットを避けて攻撃することは簡単だった。

ガトリングの雨を受けた2機のティーゲル5656が動きを止め、パイロットが逃走する。

「正義のため…か…」

このようなシンプルな理由で戦うことのできる舞人のことを、ソウジはうらやましく思う。

ガミラスによって地球が滅びの瀬戸際に立たされたことで、共に戦う戦友の多くが肉親や大切な人の仇、もしくは復讐を目的として戦い、命を散らしていった。

ヤマトのクルーのように、地球を救うという目的で戦う仲間もいるが、メルダの一件から、ガミラスへの憎悪を捨てることはあまりにも難しいことだと知った。

そして何よりも、正義のために戦うとシンプルにそう言うことができる人が自分の周囲にいなかった。

「おかしいですか?」

「いや…最高だ」

「では、俺のことは舞人って呼んでください!今は旋風寺コンツェルンの社長じゃなくて、勇者特急隊の隊長ですから」

「了解だ、舞人!まずはガインをどうにかしないとな!!」

「それについては大丈夫です!対抗手段がもう少しで到着しますから!(ガイン…待っていてくれ!)」

マイトウィングのバルカンがガインとヴァングレイを襲うミサイルを撃ち落とす。

ビームサーベルを抜いたヴァングレイは接近し、ティーゲル5656とクロスコンバットに持ち込む。

両足をビームサーベルで切断し、ティーゲル5656のすねから上の部分が広い路上に倒れる。

これで、残ったのはウォルフガングのティーゲル5656だけとなった。

「ウォルフガング様!昨日のモビルスーツがまた…!」

「ふうむ…」

味方4機がすべて撃破され、焦るイッヒ達とは異なり、ウォルフガングは嬉しそうに、しかも興味津々にヴァングレイを見ていた。

過剰ともいえる出力と推力を誇り、ありあわせの装備をつけただけの一見粗末なモビルスーツに見えるそれだが、ヴォルフガングにはそれが未知の技術の宝箱のように見えた。

「ウォ…ウォルフガング様…?」

返事をしないウォルフガングに火器管制を担当するリーベが心配そうに尋ねる。

「あのロボット…興味深い」

「と、おっしゃられますと?」

ナビゲーターのディッヒが尋ねる。

「奴を鹵獲する!!あれに詰まっている未知の技術を解析して、研究材料にしてくれる!!ジャミングミサイル発射じゃぁ!!」

「りょ、了解!!」

まずはセンサーを使えなくするため、ジャミングミサイルを発射する。

「気を付けてください!!あの中にはジャミング機能のある煙幕が…!」

「ガインを痛めつけているあの煙を…!?だったら!!」

幸いミサイルそのものの追尾性が低いためか、横へ飛んで回避することに成功する。

そして、すぐに後ろに振り向いてレールガンでミサイルを撃ち落とす。

ミサイルからは例の煙幕が発生するが、ヴァングレイには届かずに霧散した。

「煙幕の正体はモビルスーツなどが持つ動力源に反応する特殊なナノマシンのようです。一定距離内にそれの反応がなければ機能を停止させる…」

「お、99。ようやく機嫌を取り戻したか?」

ガインを包む煙幕、もしくは先ほど破壊したミサイルから出た煙幕から解析した99の久しぶりの言葉にソウジは笑みを見せる。

「それは自分の非を認めたことへの陳謝と判断します」

その言葉と同時に、モニターに1人の少女の姿が表示される。

それは昨日の戦いで出会った少女と同じ姿だ。

「また、あのお嬢ちゃんか!?」

「敵はまだ残っています。無駄話をしている暇はありません。サブパイロットレベルとはいきませんが、私がある程度アシストしますので、さっさと駆逐してしまいましょう」

「りょ、了解…」

「新たな敵影、確認。西側からです」

「何!?って、お嬢ちゃん!!どこからオペレートを…うわあ!?」

急に飛んできた苦無をよけながら訪ねるが、彼女から返事が返ってこない。

おまけに地面に刺さった苦無は数秒で爆発する。

「く…こいつもミサイル同様撃ち落とさねえとな!!ああ…それからお嬢ちゃん!もう余計なことは言わないから、へそを曲げないでくれ!!ったく、これじゃあどこの誰かさんそっくりじゃねえか…!」

「聞こえていますよ。敵影の映像、表示します」

99が言い終わると同時に、4機の武装ロボットの姿が表示される。

赤い忍装束をした人型ロボットで、クロスボーン・ガンダムよりもわずかに小さい13メートルクラスのサイズだ。

手には苦無が握られており、おまけに口には何かを発射する装置までついている。

「なんだ、あのヘンテコ忍者?」

4機の忍者型ロボットが再び苦無を投げてくる。

「く…!ウォルフガングだけじゃなかったのか!?」

ガインをカバーするマイトウィングでも、その4機の武装ロボットの姿を確認できたようで、舞人はどのように対処すべきか考え始める。

そんな中、彼らの通信に強制的に誰かが割り込んでくる。

「よく聞け、木っ端ども!!吾輩はショーグン・ミフネであーる!!」

歌舞伎役者の化粧をつけ、緑色の忍装束にちょんまげ、更に背中に日本刀と武士と忍者などの日本文化をサラダボールのようにミックスさせた大男がモニターに表示される。

通信の邪魔をしないためか、4機の忍者型ロボットは攻撃の手を止めている。

だが、ウォルフガングのティーゲル5656はそれを無視してドリルアームを起動させてヴァングレイに接近する。

「うおおお!?」

後ろへ回避するも、わずかに胸部装甲をドリルがかすめ、冷や汗をかく。

少しでも反応が遅れていたら、ぽっかりとドーナッツができていたかもしれない。

「日本の民よ、このショーグン・ミフネが伝統ある正しい日本を取り戻すため、これより、このヌーベルトキオシティを焼け野原とし、真・江戸を新たに作り上げる!」

「何だって!?」

ただの日本文化にあこがれ過ぎた男と思っていたが、彼の思想は過激そのもの。

テロと何も変わらず、舞人達を動揺させる。

「古き良き日本の伝統を忘れし、愚か者ども!覚悟するがいい!!男は黙ってぇー…天下を取る!ゆけ、ニンジャ達よ!」

「「ミフネ様のために!!!影の軍団、参る!」」

鉄砲型ビームライフルに装備しなおしたニンジャ達が舞人達ではなく、町に向けて攻撃を開始する。

ビルや道路、線路などが次々とビームで破壊されていく。

「あれが噂のショーグン・ミフネ…。やれやれ、想像以上にむちゃくちゃな奴じゃわい…うおおお!?!?」

ビームがウォルフガングのティーゲル5656にも飛んできて、すんでのところでドリムアームを盾にする。

対ビームコーティングを施したおかげで、ドリルアームはビームにも対抗することができる。

仮に先ほど、ヴァングレイがビームサーベルで防御しようとしたらどうなっていたかは想像に難しくない。

「どどど、どうします!?ウォルフガング様!」

「このままじゃ、俺たちまで巻き込まれちゃいます!」

こちらにまで攻撃を仕掛けてきたニンジャにさすがの3人も動揺し、ウォルフガングに指示を仰ぐ。

あまりのイレギュラーに頭を抱えたウォルフガングだが、ショーグン・ミフネの存在がチャンスのようにも見えた。

「奴がかく乱している間にガインとあの黒いモビルスーツを手に入れる!心配いらん、ドリルアームで防御すれば…」

「新たな熱源が2つ接近!これは…水が煙幕に向けて飛んできます!」

「何ぃ!?」

曲線を作るように水が飛んできて、ガインを覆う煙幕を襲う。

水が煙幕を洗い落とし、ガインのセンサーを回復させる。

「ジャミングが解除された!?」

「ガイン、舞人、大丈夫か!?」

礼儀正しい若い男性をイメージさせる声がガインとマイトウィングの通信機に届く。

ガインはセンサーが拾った反応に従って、水が飛んできた方向を見ると、そこには赤が基調で背中に水を発射できるキャノン砲を2門装備したロボットがいた。

「ガードダイバーか!?助かった!!」

「俺たちも…忘れてもらっちゃあ困るぜ!!」

続けて荒々しい声と共に、鉄砲型ビームライフルを握るニンジャの1機が左腕と左足が赤、右腕と右足が青、それ以外が緑のラインでカラーリングされている、白が基調で25メートル近い大きさと太めの手足が特徴で来たロボットによって片手で振り回された挙句、地面にたたきつけられて撃破される。

パイロットは脱出に成功したものの、振り回された影響でかなりの吐き気を覚えたらしく、マスクを取った後で嘔吐して気絶した。

「トライボンバー、私は人命救助と消火を行う!カバーを頼むぞ!」

「任せておけ!!ヌーベルトキオシティを焼け野原にしようってんなら、相手になってやるぜ!!」

ガードダイバーが分離し、消防車型のファイアダイバーとパトカー型のポリスダイバー、ジェット機型のジェットダイバー、ドリル戦車型のドリルダイバーとなって消火や逃げ遅れた人々の救助、更に上空から避難誘導が行われる。

当然、彼らを妨害しようとニンジャが攻撃を仕掛けようとするが、高いパワーを誇るトライボンバーに守られていることと、ニンジャが1機撃破されたこともあり、不用意に近づくことができない。

「もしかして、あいつらも…」

「そうです!勇者特急隊の一員です!そして…!!」

ガードダイバーとトライボンバーに遅れるように、青い大型のSL蒸気機関車型の電車も現場に到着する。

「なんだ!?あのSLの化け物は!?」

「ロコモライザー!!よし、これさえあれば…!」

「ガイン、合体だ!」

ガインとマイトウィングがロコモライザーへ向けて接近する。

当然、何か危機感を感じたニンジャやティーゲル5656がそれを許すはずもなく、ビームやミサイルで攻撃を仕掛けるが、トライボンバーとヴァングレイがそれらを阻む。

「レェェェェッツ、マイトガイン!!」

舞人が腕時計代わりに左腕に取り付けているダイヤグラマーという予備の通信機を兼ねた端末に合体命令を出す。

すると、3機が正三角形を描くような配置となり、そこから合体が始まる。

マイトウィング、ガインがそれぞれ変形して腕となり、ロコモライザーが両足と胴体、頭部へと変形する。

2機が取り付けられると同時に、マイトウィングのコックピットが頭部へと移動する。

合体を終えると、そこには金と青、赤のトリコロールで、25メートル級の人型ロボットへと変貌を遂げていた。

「あれが…あれが噂のマイトガインなのか!?」

「そう…その通り!」

「銀の翼に望みを乗せて、灯せ、平和の青信号!勇者特急マイトガイン、定刻通りにただいま到着!」

「あれが…マイトガイン…」

かつては存在していたものの、整備性などの問題ですっかりすたれてしまい、アニメや漫画でしか見ることがなくなった合体ロボットを別の世界とはいえ、こうして実際に見ることになるとは思いもよらなかっただろう。

攻撃の手を止めたソウジはじっとマイトガインを見る。

なお、ニンジャやティーゲル5656もマイトガインの登場に驚いたのか、攻撃の手を止めている。

「かっこいい…」

「え…?」

「おのれ…バカにしおってぇ!!」

99の言葉に驚く中、ヒーローみたいな登場の仕方をしたマイトガインに腹を立てたウォルフガングがジャミングミサイルを発射する。

「ガイン、ターゲットはあのミサイルだ!」

「了解!シグナルビーム!!」

額についている信号機を模したビーム砲から赤と緑のビームが発射され、ジャミングミサイルが破壊される。

同時にビームで中のナノマシンも焼き尽くされてしまった。

「己の私利私欲のため、このヌーベルトキオシティを混乱させる者!」

「人々から平和を奪った悪事、許しはしない!!」

 




機体名:ティーゲル5656
建造:ウォルフガング一味
全高:26メートル
武装:(量産型)クローアーム、火炎放射器、ミサイル
   (パティクラフト搭載型)クローアーム、火炎放射器、ミサイル、プラズマキャノン、プラズマフィールド
   (ウォルフガング専用機)ドリルアーム、頭部ビーム砲、ミサイル、ジャミングミサイル
主なパイロット:ウォルフガング一味

ウォルフガングが「世界一強いロボット」を目指して開発した武装ロボット。
ロボットに必要なのはパワーであるというウォルフガングの主義が反映されており、機動力はそれほど高くないものの、破壊力に関しては地球連合軍のモビルスーツであるジンクスⅢを上回っている。
また、パティクラフトを搭載した試作機や自身専用の機体もあり、やろうと思えばかなりのバリエーションの本機を開発することが可能というのはウォルフガングの主張。
なお、ウォルフガング機については勇者特急隊との戦いを想定しており、特に煙幕型ナノマシンで長時間ピンポイントでジャミングすることができるジャミングミサイルは超AIを搭載するガインを行動不能に追い込んでいる。
更に火力強化のために火星で入手したとある技術で開発したビーム砲を頭部に装備し、両肩には球体型センサーを搭載した。
ただし、その分操縦系統が複雑になっており、イッヒ、リーベ、ディッヒの3人がサブパイロットとして乗り込んでいる。
欠点としては、完全な陸戦型で海や空、宇宙での戦闘ができないことも挙げられるが、それについてはウォルフガング本人も不満足な様子。

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