スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第16話 再会する希望の光

-ヌーベルトキオシティ-

「すごい…あの戦闘機とロボット…」

ソウジと共に避難誘導を行っているチトセは6機のティーゲル5656を相手に立ちまわる2機の動きに舌を巻く。

25メートル近い大きさを誇るそのロボットは電力を大量に使っているためか、かなりのパワーを誇っている。

15メートルクラスのガインでは当然、力比べでは勝てないし、そのうえ町への被害を考慮して、ガインショットなどのビーム兵器の使用が上空のミサイル迎撃を除いて制限されている。

そのためか、ガインはマイトウィングに牽制を任せて接近し、レスキューナイフをコックピットに突き刺すことで、爆発させることなく討ち取っている。

トビアがキンケドゥがやったように、脱出するよう促してからであるため、コックピットをつぶされたロボットのパイロットは逃げ出している。

「確かに町への被害を避けながらの戦いは見事だが、これじゃあまずいぜ…」

ティーゲル5656を2機戦闘不能に追い込んだガインだが、その時点でレスキューナイフには刃こぼれが生じている。

戦闘用というよりも救助用という意味合いが強いレスキューナイフでは限界がある。

「いいぞ、ガイン!この調子だ!!」

ガインのそばに来たマイトウィングからもう1本のレスキューナイフが投下され、ガインの手に渡る。

刃こぼれしたダガーナイフは投擲し、ティーゲル5656のメインカメラを破壊した。

「あわわわ!?カメラが…!これじゃあなにもできない!」

急にモニターがブラックアウトし、外の景色が見えなくなったウォルフガングの部下はコックピットを開き、外の様子を見る。

既にガインが目の前に接近しており、新しいレスキューナイフが握られていた。

「コックピットから出ろ!その機体を破壊する!!」

「ひ、ひいいいい!!!」

涙目になったウォルフガング部下だが、命は惜しいと飛び降りてしまい、レスキューナイフがコックピットを貫く。

後方からガインめがけてミサイルが飛んでくるが、それは上空のマイトウィングのバルカンが破壊した。

「いいアシストだ、舞人!」

「ガイン…無理はするな。俺たちの本当の力を見せる時まで」

「了解だ」

攻撃してきたロボットをしとめるため、ガインとマイトウィングが一度散開する。

ガインは位置を特定すると、トレインモードに変形してそこへ向かおうとしたが、その瞬間、その近くにビームが降ってくる。

あと数十センチ横にずれていたら当たっているほどの至近弾だ。

「ビーム兵器だと!?しかも上空から!」

再びロボットに切り替わったガインはガインショットを上空へ向ける。

そこには蜘蛛のような6本足のユニットが下半身に装着されたティーゲル5656の姿があった。

「なんだ、コイツは!?!?」

真上から落ちてきて、そのまま踏みつぶそうとしてくる。

あの重量で踏みつぶされてはひとたまりもないため、やむなくその場を離れる。

ほかのティーゲル5656をバルカンで攻撃していた舞人もその機体の姿が見えていた。

「舞人!何か奇妙な装備をしたロボットがいるぞ!」

「あれは、確かAEUのパティクラフト!!」

舞人は映像のみであるが、実際に見たことがあるそのユニットの正体に気付いた。

パティクラフトは太陽光紛争時代に開発されたモビルアーマーで、3年前のユニオン・AEU・人革連の合同軍事演習でもその存在が確認されているものだ。

その時は脱出装置を兼ねて、AEUイナクトが搭載されていた。

どのような形であるかは不明だが、ウォルフガングはパティクラフトのデータを入手し、ティーゲル5656の強化のために独自改良したものと考えられる。

まさかにイレギュラーに舞人は悩む。

こちらはほかのティーゲル5656への対処に精いっぱいで、あの機体を倒す場合はほかのティーゲル5656をしとめてから2機で、もしくはガイン単独で戦うことになる。

「(パティユニットを搭載したとなると、かなりパワーが増す。あいつがここにいてくれたら…)くっ…!」

悩みが操縦に影響を与えたためか、マイトウィングの動きが鈍くなり、ティーゲル5656のミサイルをかすめる。

ガインは町への被害を抑えつつ止めるために真下へ入り、そこから両足のガインバスターで貫こうとする。

ティーゲル5656の胴体を避けるように照準を固定したため、発射すればそのロボットの両腕もろともパティクラフトを無力化させることができる。

上空から攻撃という手もあるが、飛行能力のないガインにはできない相談だ。

「駄目だ、ガイン!!6本足から離れろ!!あれはプラズマフィールド付きだ!!」

ガインの様子を知った舞人は大声で通信を送るが、すでに手遅れだった。

パティユニットに搭載されているプラズマフィールドが起動し、ガインが高圧電流に飲み込まれる。

「うわあああ!!!」

「ガイーーーン!!」

高圧電流によってガインショットが爆発し、ガインも動けなくなる。

避難誘導を続けるソウジはその姿を見ていた。

「やばい…これじゃあ袋叩きだ!!」

あのパティユニット付きのティーゲル5656以外にも、舞人が撃破したものを除いて、あと2機残っている。

マイトウィング単機であの大物を相手にするのは無理だ。

「ソウジさん…私たちも逃げよう」

「何言ってんだ!まだ逃げ遅れている人がいる上に、ロボットも残ってるんだぞ!?」

「ほかの人に任せればいいじゃない!!」

辰ノ進に拾われてから、初めてチトセが声を上げる。

何もできないことが悔しいのか、拳にはすごく力がこもっており、泣くのを我慢している。

ここに来てソウジはようやく、チトセが軍人という前に1人の少女だということを理解した。

「だって、そうでしょう…。私たちには何の力もない。あの世界で軍人だったけど、この世界ではただの無職の居候…。だから…戦うのはほかの人に任せればいいのよ!!」

チトセの言葉を聞いたソウジは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

しかし、すぐにフッと笑い、穏やかな表情を見せる。

(そうだった…ヴァングレイで一緒に戦ってきたせいで忘れてた…)

トビアや刹那からニュータイプだと指摘された彼女だが、本来は戦う人間ではない。

すぐ感情が表に出るタイプだが、一途で一生懸命な、まるで昔なくした妹そっくりな性格の少女だ。

戦況の悪化と家族を失ったことがきっかけで軍人になったが、本来は戦うことに恐怖を覚えるのは当たり前だ。

そんな彼女を突き合わせる必要はない。

「付き合わせてごめんな、チトセちゃん。さ…君は逃げるんだ」

「だったら、ソウジさんも!」

「俺は…やっぱりこういう生き方しかできない…」

確かに今逃げている人たちと同じように、自分や家族、友人の命を優先するのは正しくて、そのことを考えると、チトセの言葉は正しい。

しかし、ソウジは正しいとはわかっているが、それに納得することができない。

ソウジにとっての正しい答えは別にある。

「たとえ、ここが平和な世界で俺がよそ者だとしても…いや、だからこそ、この平和を壊すような奴らを許すことができないのさ」

この1週間、この世界で生活して、ソウジは青い海と緑あふれる世界と平和のありがたさを改めて知った。

そして、それを守るために戦うのが軍人であることを再確認した。

地球連邦軍三尉の肩書はこの世界では意味がないのは分かっている。

しかし、ソウジにとってはそれは戦わない理由にならない。

着ているジャケットを右手でつかみ、何かに誓うように言葉を続ける。

「だから…俺は…」

「あなたは、そういう生き方を選ぶんですね」

「へっ…?」

急に10代前半の少女の声が聞こえ、びっくりした2人は声がした方向に目を向ける。

ガードレールにぶつかって、そのまま放置された車の上にはゴスロリ風の黒いワンピースを着た白い髪の少女が座っていた。

「ちょっと、何やってるの!?早く逃げなさい!!」

いつからその場所にいるのかわからなかったが、チトセはその少女に逃げるように促す。

しかし、彼女を無視するかのように少女はソウジに目を向け、話し続ける。

「不合理で非効率…。でも、あなたは面白いです」

「あのね、お嬢ちゃん。今はそんなことを言ってる場合じゃないの」

「理解してます。これでも空気は読めますから。大通りをあっちへまっすぐ進んでください」

少女は大通りの、それも舞人とガインが戦っている場所への方角を指さしていた。

しゃべっている間、彼女は表情を見せておらず、ずっとポーカーフェイスのままになっている。

「まぁよくわからんが、やるしかねえ!チトセちゃん、その子を連れて逃げろ!!」

「ソウジさん!!」

「俺は…生きてる限り、全力で生きてることを楽しむ!!」

チトセと少女に背を向け、ソウジは彼女がさした方向へ走っていく。

彼を止めようとジャケットをつかもうとしたチトセだが、するりと離れて行ってしまった。

その間にも人々は逃げており、そこに残っているのはチトセと少女の2人のみ。

「さあ、私たちも避難しましょう」

「何なの、あなたは!?あなたが余計なことを言うから、ソウジさんは…え??」

ソウジに避難を促さず、戦うよう仕向けた彼女を許せず、怒りをぶつけようとしたチトセだが、なぜか感じる違和感が怒りの熱を冷やしていく。

初対面であり、あったばかりのはずなのに、なぜか彼女と前から知り合いのような感じがしたのだ。

「どうしました?」

「いえ…なんでもない…」

どういうわけかわからず、困惑するチトセを見て、少女は車の上から降り、彼女の手を握る。

「行きましょう。あなたが怪我をしたら、あの人が悲しみます」

「え、ええ…」

 

-ヌーベルトキオシティ 大通り-

「うわっと!!来たのはいいが…こっからどうするか…!」

ミサイルの爆風で吹き飛ばされたソウジは起き上がると、周囲を見渡し、逃げ遅れた人がいないか探し始める。

チトセの言う通り、今の自分には戦う力がない。

しかし、人ひとりを救うだけの力はあると自負している。

その一人をおんぶし、ここから連れ出すことくらいはできるはずだ。

探している中、プラズマフィールドに苦しむガインの姿が目に入る。

「くそっ!あれをどうにかしねえと、戦場が広がっちまうぜ!…ん??」

南側を見ていたソウジの目に、こちらへ接近するロボットの影が見える。

右手の平で日光を遮り、注意深く見てみると、そのロボットの形がなぜか親しみのあるものに見えており、距離が縮まるほどその正体を確信していく。

奇妙な出会いと奇妙なAI、そしてチトセと二人三脚で動かした欠陥モビルスーツモドキ。

「ヴァングレイ!?なんでここに…!!」

パイロットが乗っていないヴァングレイがなぜ自分の居場所をつかみ、ここまでやってきたのかわからず、困惑するソウジの前で地上へ降りたヴァングレイはコックピットが開き、なかったはずの右腕を伸ばして、右手の平をソウジの前に置く。

「腕がある…しかも、ちょっと変わったか?」

ソウジの記憶にあるヴァングレイの最後の姿はポジトロンカノンを破壊され、装甲にダメージがあり、左足を失ったものだ。

しかし、目の前にいるヴァングレイはなかったはずの腕があり、おまけに左足と装甲が直っている。

ヤマトと合流して、そこで直してもらったのかと疑問に思うソウジだが、今はそんなことを考えている場合ではない。

「よくわからんが、とりあえず頼むぜ、ヴァングレイ!!」

右手に飛び乗ると、ヴァングレイの手がコックピットのそばまで動き、ソウジは飛び乗る。

コックピットが閉まり、ソウジがメインパイロットシートに乗ると同時にヴァングレイは再び浮上した。

「よし、まずはあの特急ロボを助ける!」

「では、盾に内蔵されているビームサーベルを使用してください」

「ビームサーベル!?いつの間にそんなモンを…って、その声は!!」

ヴァングレイの中で聞こえた99の声を聞き、ソウジはハッとする。

この1週間はこの世界について知り、ヤマトを探すため、そして先ほどは避難誘導をしていたため、すっかり失念していたが、今聞こえるその声は先ほどあった少女のそれと同じだった。

「まさか、ヴァングレイを君が操縦していたのか!?」

「そういうわけではありません」

「じゃあ、どういう…って、今はそんなことを考えてる場合じゃねえ!!」

彼女の言う通りシールドのビームサーベルを引き抜いたソウジはパティクラフトを搭載したティーゲル5656に向けて接近する。

「なな、なんだ!?あの黒いロボットは!?」

「ただの…流れ者さ!!」

急に現れたイレギュラーに動揺した隙を突く形で、ヴァングレイのビームサーベルがティーゲル5656とパティクラフトを両断する。

プラズマフィールドが消え、自由になったガインは即座に両足のガインバスターを発射し、そのロボットの両腕を破壊した。

「なんだ、モビルスーツか!?」

ガインを救ったヴァングレイを見た舞人は驚きを見せる。

当然のことながら、そのロボットは今まで見たことがなく、彼が持っているデータバングにもその情報はない。

しかし、1つだけわかることがある。

「ガイン、あのモビルスーツと共闘するぞ」

「了解だ。だが、今のプラズマフィールドのせいでガインショットを失ってしまったうえ、動きもおかしい。舞人、フォローを厚めに頼む」

分かることはあのロボットも町を守るために戦っていることだ。

それだけがわかれば、共闘する理由になる。

「くっそーー!貴重な試作機をー!!お前ら、ミサイルであの黒いモビルスーツを撃ち落とせーーー!!」

脱出していたティーゲル5656のパイロットが通信機で命令を出すと同時に、2機のティーゲル5656がヴァングレイに向けて一斉にミサイルを発射する。

乗っている人間のことを考えないほど高い出力を誇るヴァングレイであれば、避けることができる。

しかし、それだと町が爆発でめちゃくちゃにされてしまう。

「く…ミサイルを破壊しねえと!!」

「バックパックにガトリングガンがあります。それを使ってください」

「ガトリング…よし!」

ビームサーベルをしまい、後方へ飛んで距離を取りながらバックパックのガトリングガンをポジトロンカノンと同じ要領で右腕に装着し、ミサイルに向けて発射する。

高速で連射される弾丸は次々とミサイルを撃ち落としていき、ミサイル発射のために動きを止めていたティーゲル5656の開いた胸部に吸い込まれるように命中する。

ただ、サブパイロットがいないため、照準補正が難しく、若干のぶれが生じている。

胸部に弾丸を受けたティーゲル5656にスパークが生じ、パイロットはジェネレーターの停止をさせないまま脱出してしまう。

「あとはまだ動いている1機を…」

「いや…!!」

ガトリングガンを戻したヴァングレイが加速し、スパークするティーゲル5656をつかみ、上昇を始める。

高い出力を持つヴァングレイであれば、自身よりも大型のロボットであるティーゲル5656をこうして運ぶことも可能だ。

しかし、放っておけば爆発するティーゲル5656をどうして上空へもっていくのか、99には理解できなかった。

「わかりません…。このまま放っておけばいいのに、どうしてこのような非効率なことを…?」

ヴァングレイのセンサーで周囲を確認し、近くに人がいないことは確認されている。

このまま爆発させても、人的被害は出ないはずだと彼女は分析している。

「いいか…99。俺たち軍人は人々を守る存在だ。だが、ただ守ればいいって話じゃない。その人たちの暮らし、当たり前のように流れる平和な時間を守らなくちゃいけない!だから、この街も俺たちの守る対象なのさ…ま、昔読んだ漫画の受け売りだけど…な!!」

上空へ放り投げたティーゲル5656に向けてビーム砲を連続発射する。

次々とビームを受けたティーゲル5656は上空で爆発し、消滅した。

「ぎぇぇ!?まさか、残ったのって俺だけ!?俺だけなのか!?」

最後に残ったティーゲル5656のパイロットは味方機の反応がないのを知り、パニックになる。

そのロボットを3機が包囲した。

「すぐにロボットから降り、投降しろ!これ以上の抵抗は無意味だ!」

「うぐぐ…こうなったらヤケクソだぁ!!」

ヤケになったパイロットは自爆コードの入力を始める。

残っているミサイルの数とエネルギー量を考えると、囲んでいる3機を損傷もしくは破壊して道連れにすることができる。

「く…この馬鹿野郎が!!」

「これで終わりだぁ!勇者特急隊ぃ…って、あれ??」

コードはすぐに入力し終えた。

しかし、同時に起動するであろう強制脱出プログラムは起動せず、おまけに自爆もしない。

「な、ななな、なんで、なんでなんだ!?なんで爆発しないんだ!?」

コードにミスがあったのかともう1度入力するが、やはりうんともすんともしない。

それだけでなく、コックピット内のモニターの映像も消えてしまった。

「え、ええええ!?」

「ふぅ…間一髪だな、ガイン」

「ああ。馬鹿なことを考えてくれる」

ティーゲル5656のバックパックにはガインのレスキューナイフが突き刺さっていた。

装甲の隙間を狙った一撃で搭載されていたジェネレーターが壊れ、エネルギー供給ができなくなってしまっていた。

そのせいで自爆することすらできなくなっていた。

「ふぅ…何とかなったな」

自爆しようとしていたときはさすがに驚いてしまい、冷や汗で手が濡れてしまっている。

この1週間でこのような汗をかいたことは一度もない。

そして、久々の戦闘のせいか疲れも感じていた。

だが、何か充実感に満たされていた。

「あとは警察に任せよう。いくぞ!」

「了解!」

ソウジらに背中を向け、2機のロボットがその場を離れようとする。

「おい、待ってくれよ!名前を聞かせてくれよ!!」

立ち去ろうとする2人を止めようと、ソウジは通信を送る。

これからどうなるかわからないが、一緒に戦った仲間の名前をどうしても覚えておきたかった。

「俺たちは勇者特急隊です。ご協力、ありがとうございます。流れ者さん」

「町を守ろうとするお前らのガッツにシビれただけさ」

「それが俺たちの務めですから。それでは、機会があったらまた会いましょう!」

そう言い残すと、彼らはヌーベルトキオシティを去っていく。

その2機の後姿を見たソウジは昔見ていたヒーロー番組を思い出していた。

「勇者特急隊…まさにヒーローだな」

「ヒーロー…軍人とは違うんですか?」

「そいつはちょっと説明が難しいな…。って君さ、さっきから一体何なんだよ?」

「何、と聞かれても困ります」

避難を済ませ、路地裏に隠れていた少女は通信機を使うことなく、チトセの前でまるで独り言のようにしゃべっていた。

その独り言がヴァングレイの通信機に聞こえている。

それだけでなく、彼女のゴーグルからヴァングレイに乗っているソウジの声が出ていた。

(あの子…もしかして、ソウジさんと話してる!?ゴーグルを通信機にして…)

「さてっと、じゃあヴァングレイをどこかに隠さないと…ん??」

このままヴァングレイを放置するのは危険であるため、隠せる場所を考えたソウジだが、考える時間がないことを告げるかのようにパトカーのサイレンの音が聞こえ、同時に8機の警察が所有しているロボットであるガバメントドッグがヴァングレイの前にやってくる。

それらに守られるように後方でパトカーが止まり、それに乗っている警察官がスピーカーを手にしてソウジに向けて呼びかける。

「そこのモビルスーツのパイロット!武器を捨てろ!!」

「へ…?」

「未登録の武装ロボットの使用は法律で禁止されている!おとなしく武器を捨てて、こちらの誘導に従え!」

「…だよな、個人でこんなロボットを持ってりゃ、そうなるよな…。でも、ヴァングレイはモビルスーツじゃないんだけどな。やれやれ、警察の世話になるなんて、平和な世界のヒーローってのは世知辛いな…」

ソウジは持っているレールガンとビームサーベルをその場に置かせると、サブパイロットシートに移動し、ビーム砲とミサイルポッド、そしてガトイングガンをパージする。

そして、ガバメントドッグの誘導に従う形で警察に連行されてしまった。

「ソウジさん!!そんな…ソウジさんが警察に捕まっちゃった…」

チトセは警察に捕まるソウジを見守ることしかできなかった。

 

-警察署 応接室-

「ニュースをお伝えします。昨日のお昼頃、ヌーベルトキオシティの青戸工場が未登録ロボットによる襲撃を受けました。ロボットは無力化されましたが、その戦闘中に襲撃していたロボットとは別の未登録ロボットに乗っていた、住所不定無職の叢雲総司容疑者23歳を武装ロボット登録法違反により逮捕、拘束しました。現在、警察では本人の事情聴取を行っています」

「まったく、住所不定無職ってテレビで公に言われるなんてな…」

「文句が多い男だな。ちょっと前は取調室が汚いだのかつ丼の量が少ないだの言っていたのに、まだ言い足りないのか?」

テレビを消したヌーベルトキオシティ警察署の警部である小沢昭一郎はため息をつく。

逮捕後、彼から事情聴取を行ったが、そこでもいろいろ文句を言われており、そのせいか少し疲れを見せている。

取り調べは夜まで続き、結局ソウジは家に帰ることができず、留置所で一晩過ごすことになった。

「いや、刑事さんには感謝しているさ。かつ丼おごってくれたからな。しかも大盛りで」

「襲撃しているロボットから工場を救ったことは分かっている。目撃者もいるからな。これはヌーベルトキオ警察署きっての敏腕警部である小沢昭一郎の個人的な感謝のしるしだ。だが…」

「武装ロボット登録法違反は見逃せない…と。お堅いなぁ」

武装ロボット登録法の内容は小沢本人から説明を受けている。

やはり武装しているということもあってか、それについてはかなり厳重な取り締まりが行われており、10年以上の懲役、または無期懲役、最悪の場合は死刑もあり得るほどの厳重な法律で、たいていの場合は実刑判決ということになる。

「当然だ。最近ではそういうロボットで悪事を働くような輩が多い。で…そろそろ真実を話してくれないか?」

昨日の取り調べで、ソウジはヴァングレイ及びソウジ自身の正体について追及されたものの、黙秘もしくはのらりくらりとかわしてきた。

ヴァングレイは海で拾った、もしくは月で発掘しただの言ったし、自身については通りすがりのパイロットとかロボット操縦が趣味のニートとも供述した。

当然、それを小沢が信じるわけもなく、そのことはソウジ本人も分かっている。

(俺としても、本当のことを言いたいが、別世界から来たなんて信じてくれるわけでもなさそうだし、証明する手立てもないからな。面倒事も避けたいしな…)

「これだけ言っても、駄目か…」

「職務熱心なんだな、警部さんは」

「言っただろう、俺は敏腕警部だと。…まぁいい。そろそろ来る時間だが…」

納得のいかない表情を浮かべながら、小沢は腕時計を見る。

時刻は午前9時半で、約束の時間が来ている。

「え…そろそろ来る時間って、もしかしてチトセちゃんかタツさんが…」

「失礼します」

誰が来るのか予想するのと同時にノックの音がし、ドアが開くとそこにはスーツ姿の男性とチトセ、そして辰ノ進の姿があった。

「お、チトセちゃんにタツさん!ん…?この人は…」

2人が来るというところまでは予想できたものの、スーツ姿の男については面識がなく、だれなのかソウジにはわからなかった。

「お待たせしました、叢雲さん。遅れて申し訳ありません」

「へ…?どちら様?」

「何言ってるのよ、ソウジさん!旋風寺コンツェルンの青木さんよ!」

「チトセちゃん…?あ、あああ…お騒がせしました、青木…さん…」

チトセの言葉で少しは察することができたソウジは青木に挨拶をする。

そして、3人に送れるように大阪もやってきて、小沢に事情を説明する。

「なるほど…ヴァングレイは旋風寺重工が極秘裏に開発していた新型機で、それゆえに登録が遅れてしまったと。まぁ、そういうことは確かにありますが…」

小沢の言う通り、新型の武装ロボットを極秘で開発する企業は存在する。

特に軍と関係にある大企業に多い傾向があり、それは登録によって情報が漏えいし、悪党やライバル企業に奪取されてしまう可能性があるため、自衛として極秘に開発し、完成した後で登録してすぐに納品するという形をとっている。

「実弾の所持に関しては、こういうタイプの機体ですから、奪いにやってくる輩もいますので、いざというときの自衛として所持させていました。そして、青戸工場を襲撃されたので、こちらが要請して守備に当たってもらったのです」

「なるほど…事情は分かりました。しかし、車両づくりがメインのはずの旋風寺重工がまさかこのようなモビルスーツを作っていたとは…」

(だから、ヴァングレイはモビルスーツじゃないって…)

旋風寺重工は青木の言う通り、創業してからずっと車両づくりをやってきていて、このような兵器とは縁遠い仕事をしてきた。

といっても、その技術を兵器づくりに転用することは可能であり、決して珍しいことではない。

特に3年間の戦争によってモビルスーツを中心とした武装ロボットの数が爆発的に増えたうえ、民間でそれを保持するケースも出てきている。

そして、その武装ロボットを利用した犯罪が世界中で起こっている。

そのため、武装ロボット登録法ができた。

「まぁ、こちらにもいろいろと事情がありますからね」

「わかりました。所属がはっきりしているのであれば、市民の協力者でありますので、我々としても歓迎しますよ」

「ってことは、俺はこれで釈放ってことでいいんスね?」

「そういうことになるな。二度と警察の世話にならないでくれよ」

「いろいろとご迷惑をおかけしました」

笑みを浮かべ、敬礼したソウジを見た後で、小沢は釈放手続きのために応接室を後にする。

ドアが閉じ、彼が離れて行って外に聞こえる心配がなくなった後でソウジはチトセに尋ねる。

「ねえ、チトセちゃん。これ、どゆこと?」

「タツさんが助けてくれたの」

「大変だったな、ソウジ君。しかし驚いたよ。まさかモビルスーツを持っていたとは…」

「いや、タツさん。あれはモビルスーツじゃ…ああ、もういい」

元々の世界でも、ヴァングレイは構造がモビルスーツに近いことからモビルスーツモドキと呼ばれることが多かった。

それはこちらの世界でも変わりない。

モビルスーツとかかわりのある世界にいる限り、こういうモビルスーツモドキの名前が一生ついて回るだろうと思えた。

「でも、タツさん。どうしてここに…?」

「チトセちゃんから連絡を受けて、すぐにヌーベルトキオシティまで来たのさ」

「君にはお礼を言わせてもらうよ。おかげで我が旋風寺重工青戸工場への被害が最小限に抑えられたのだからね。私は工場長の大阪次郎だ」

「ちなみに、俺はその先代というわけさ」

「タツさんから話を聞いた私はすぐに親会社の旋風寺コンツェルンの社長と連絡して、君の釈放手続きを取ったのさ」

「そのために派遣されたのは私です。旋風寺家の執事を務める青木圭一郎と申します」

「ああ、ども…。聞いてるかもしれないスけど、叢雲総司です…」

旋風寺コンツェルンに助けられたということになるが、分からないところがいくつもあった。

そういうことであれば工場長本人が来ればいいだけの話なのに、なぜここで執事である青木まで来ているのか?

そして、わざわざ旋風寺重工の新型機とうそをついたのはなぜか?

他にもわからないところがあるが、少なくともこのままでは帰れないということだけは分かる。

「叢雲さん。これから私についてきていただけないでしょうか?旋風寺コンツェルン社長の旋風寺がぜひともあなたにお会いしたいとのことですので。貴方の正体についても、興味があるようですし…」

「正体…か…」

本当であれば、先ほどの小沢同様に煙巻くことにしたいが、彼らには助けられたという借りがある。

旋風寺重工と掛け合ってくれた辰ノ進と釈放に尽力してくれた旋風寺という社長に対して。

そんな彼らに嘘をつくのはソウジの信条に反することだ。

「もう…言い逃れできないな…。わかりました、青木さん。その社長さんの前ですべてを話しましょう」

「いいの、ソウジさん?」

「ヴァングレイを出しちまった以上、どうしようもないだろ?それに、助けられた恩を返さないとな。あ…そういえば、あの女の子はどうした?」

「え?ええっと、それがソウジさんが捕まった後、いなくなっちゃって…」

「そうか…」

「ソウジさん、あの子って…」

チトセもヴァングレイに乗っていたときに聞こえた99の声を思い出し、それとあの少女の声が同じであることに気付いた。

しかし、色素が薄いとはいえ、人間にしか見えない彼女が99とどういう関係があるのか全く分からない。

実際、チトセは彼女の手を握ったとき、体温と柔らかさを感じており、義肢に利用されているフィルムスキンでないのは明確だ。

ヴァングレイをヌーベルトキオシティまで飛ばしたのかという質問についても一部否定している。

「…ま、考えても仕方ないな。まずはその旋風寺の社長さんのところまでいかねえと。それに、もしかしたら、またどこかで会えるかもしれないからな…」

「どうして…?」

「俺の勘さ」

 

 




機体名:ヴァングレイ改
形式番号:AAMS-P01
建造:?
全高:16.4メートル
全備重量:28.6トン
武装:電磁加速砲「月光」、可変速粒子砲「旋風」×2、空間制圧用大型機関砲「春雨」、多連装型ミサイルポッド「鎌鼬」×2、脚部ミサイルポッド×2、小型シールド、サブアーム×4、ビームサーベル×6
主なパイロット:叢雲総司

次元断層における未確認機との戦闘で損傷したヴァングレイがソウジ達が飛ばされた世界で改修されたもの。
近接戦闘時の脆弱性が露見したことから、シールドなどにビームサーベルが追加で装備されており、サブアームを利用することで六刀流の変則的な行動も可能となっている(ただし、サブアームを動かすサブパイロットがいることが前提で)。
また、破壊されてしまったポジトロンカノンの代わりとしてどこかで調達したガトリング砲である空間制圧用大型機関砲「春雨」が搭載されており、火力に関しては低下してしまったが、利便性に関しては向上している。
なお、形式番号及びサブパイロットの搭乗が前提であることには変化がなく、改修の際にその点は検討されたのか、それともそもそも検討されてないのかは不明。

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