スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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今回はところどころオリジナル設定があります。
特に今回登場するあの機体については大幅に設定が変わっています。
好き嫌いがあるかもしれませんが、ご了承ください。


第13話 敵の正体

-ヤマト 医務室-

「まったく、無茶をしおって…。自殺するつもりですか!?艦長!!」

沖田の二の腕に注射を済ませた佐渡が自分を顧みないような無茶な戦いをした沖田に怒りを見せる。

確かに、あの時の戦闘はこれ以外になすすべがないということは分かっている。

しかし、佐渡は彼の友人である空間防衛総隊司令官の土方竜や現在の地球連邦政府大統領である徳川平八郎から推挙され、彼の命を預かっている。

地球へ帰る前に死なせるわけにはいかないという強い思いがある。

そのため、このような強い口調になってしまう。

「すまんな、佐渡先生。だが、ワシも死ぬつもりはないよ。青い地球を取り戻すためにも…」

「公には過労としておきますがね、これからはワシの指示に従ってもらいますぞ!」

今行った治療はあくまでも気休めにしかならない。

名医とうたわれている自分の手でさえ、沖田の抱えている病を完治させることができず、このような延命措置しかとることのできない自分を情けなく感じながら、佐渡は治療を続けた。

 

-ヤマト 航空隊控え室-

「やっぱり、刹那さん達のモビルスーツもガンダムなんですね」

「ああ…」

恒星を突破した後、トビアは刹那達が使っていた2機のガンダムを見た。

装甲の素材や太陽炉、そしてトランザムシステム。

自分たちが使っているクロスボーン・ガンダムとは根本的にシステムが異なるものの、頭部の形がこれまでのガンダムと似ており、おまけに額のあたりに『GUNDAM』という文字が刻まれている。

素材であるEカーボンや動力源である太陽炉は解析が難しいようで、現時点ではダブルオークアンタとラファエルガンダムの修理はゲッター1とグレートマジンガーと同じく、不可能とのことだ。

しかし、刹那とティエリアは地球の危機を知り、竜馬と鉄也と同じく、元の世界に変える手立てをつかむまでという条件でヤマトと同行することとなった。

2人の私服はヤマトで作られたもので、刹那は白いシャツに青い長そでの上着と紺色のズボンで、ティエリアは紫色のセーターと薄黄色のシャツ、そして薄い灰色の長ズボン姿だ。

「しかし、驚いたよ。世界が違っても、ガンダムが存在するなんて」

「それだけじゃないな。モビルスーツってカテゴリーまで…」

竜馬と刹那の話を聞いた限りでは、両者のいる世界の共通点は見られなかったため、少なくとも刹那とティエリアは竜馬のいる世界の住人ではないということは分かった。

しかし、ガンダムという名前とモビルスーツというカテゴリー。

この2つが存在する平行世界は存在する可能性があるというのは分かっているものの、それでも実際にこうしてみると驚きしかない。

「只の名前の符号ではない。なんとなくだがわかる。トビアとキンケドゥが乗っているモビルスーツも『ガンダム』なんだな」

「えーっと、その話は、さっきしたと思いますけど…」

「刹那は『ガンダム』の意味の符号を言っているんだ」

何のことを言っているのかわからないトビアにティエリアがフォローを入れる。

共に戦い続けてきたティエリアだからこそ、刹那の言葉が理解できる。

「あのー、ティエリアさん。『ガンダム』の意味って…」

「『ガンダム』は只のモビルスーツではない。人々の想いを受け、圧倒的な力で状況を…世界を変える存在なんだ」

「世界を変える…か…」

ソウジは歴史で出たアクシズ・ショックのことを思い出す。

たった1機のモビルスーツ、νガンダムが地球へ落下しつつあったアクシズの軌道を変えた事件だ。

当時は目撃証言だけで、公にその事実が認められたのは数年前のことだ。

地球が滅びるという状況を一変させたνガンダムにはその圧倒的な力があったのかもしれない。

その事件が起こったのはおよそ100年前のことであるため、本当のことは分からないが。

「だが、世界を変えるのは…本来であれば、力であってはならない…。だから、俺たちはガンダムを超えていかなければならない」

「へえ…だから、あんたのガンダムにはガンダムの名前がないのか…」

(刹那君って、なんだか不思議な人だな…)

刹那に助けてほしいというメッセージを送ったチトセには、刹那のトビアやキンケドゥ、そしてあのアムロ・レイのバイオ脳との違いが少しだけ理解できた。

刹那が目指しているのは、力ではない何かで世界を変えることなのだろうと。

「如月千歳…」

「うん…?」

「君だな?俺に語り掛けてくれたのは」

「無我夢中で、一方通行だったけど…。ありがとう、あんな状況の中で助けてくれて。つい、お礼を言いそびれちゃった」

「構わないさ」

柔らかい笑みを浮かべつつ、刹那はチトセに答える。

「ま、ガンダムが戦いの中で大きな役割を果たしたって点では、俺たちの世界も同じだけどな」

「一年戦争から始まるアースノイドとスペースノイドの戦いの中、ガンダムは常に戦局の中心にあったと聞く」

「キンケドゥさんがコスモ・バビロニア建国戦争の時に乗っていたF91も同じですよ」

「俺はそんな大それたものじゃないさ。ただ、大切な人を守るためにがむしゃらにやってただけだ」

キンケドゥは12年前に起こったコスモ・バビロニア建国戦争の時を思い出す。

その時は友人たちと一緒に必死にフロンティアⅣを逃げ回り、避難したフロンティアⅠで91年ぶりに開発されたサナリィ製のモビルスーツであるF91(といっても、元々はF91という名前であり、ガンダムはそれが保管されていた練習艦スペース・アークの艦長がつけているため、厳密にいうとガンダムではない)のパイロットにならざるを得なくなった。

状況に振り回されながら戦い続け、その中でキンケドゥはベラの秘密を知り、それからは彼女と仲間、そして家族を守るために戦い抜いた。

謙遜しているが、彼もまた、刹那の言う『ガンダム』だ。

「少なくとも、ガンダムがモビルスーツの中で特殊な枠組みであることは今でも変わらない。現にクロスボーン・ガンダムも地球を救ったからな」

「あ…そうだ。いっそのこと、聞かせてくれるか?お前らの世界のことやイノベイターについてよ」

冤罪で刑務所に入っていた竜馬からは彼のいた世界について、インベーダーのことを除いてあまり深く聞くことができなかった。

しかし、刹那達はガンダムという共通点もあり、おまけにその世界におけるニュータイプの枠組みに入るであろうイノベイターである刹那、そしてそれの模倣であるイノベイドであるティエリアがいる。

そのため、いろいろと話しやすいかもしれないと思い、ソウジは2人に尋ねる。

「悪いが、それはお預けだ。そろそろワープに入る。今回は敵の追撃をかわすため、いつもより長く跳躍することになる。各自は警戒態勢で待機を」

それだけ言い残すと、古代は第一艦橋へ向かうために控室を後にした。

「あ…戦術長にも聞きたいことあったのに…」

「チトセちゃんもか?実は俺も」

「あの、それはこれからの戦術のことですか?」

「そうじゃないさ。雪ちゃんについてさ」

「雪ちゃんって何ですか!?友人になったわけでもないのに、もう…。私は玲についてよ。赤道祭の時、2人で作業してたみたいだから…」

「マジで!?俺は雪ちゃんと展望室で2人っきりになってたって…」

相手が違うものの、どちらも聞きたい内容はほぼ同じようだ。

「古代戦術長じゃなくて、森船務長か山本三尉に聞けばいいですよね?」

「それが…はぐらかされて…」

「俺については相手にもされず。おまけにそれを聞いた真琴ちゃんに2時間くらい説教された」

ソウジは原田による説教を思い出す。

何を言っているのかわからず、口を挟もうとするとすごい剣幕を見せたため、質問すら許されないままずっと続き、森に質問しなければよかったと今は後悔している。

おそらく、チトセに代わりに質問してもらおうとしたら、その説教する人が変わるだけで何も結果が変わることがなかっただろうが…。

「もしかして戦術長って…とても器用な人なの!?」

「そいつはうらやましいぜ。ぜひともレクチャーを…痛てて!?!?」

「破廉恥です!ソウジさん!!」

いつもよりも力を入れて耳を引っ張られ、ソウジは涙目になって悲鳴を上げる。

それを見た刹那とティエリアがあっけにとられるが、キンケドゥとトビアはいつもの光景であるためか、助けることなく話を進める。

「どうだろうな。彼の性格からして、2人にはその気はないのかもしれないぞ?」

「キンケドゥの旦那ー…話し続けてねーで助けてくれよー…」

彼らのやり取りを見続けていた刹那がフッと笑みを浮かべる。

そんな彼を見たチトセはようやくソウジの耳を離した。

「あ…もしかして、緊張感がない連中だ…なんて思ってる?」

「いや、この世界も俺たちの世界と変わらないんだな…と思って。少し安心した」

ソレスタルビーイングとして、一緒に戦う仲間たちのことを思い出しながら刹那は言う。

圧倒的に不利な戦いをしているのに、このような緊張感のない、どこかゆとりのある空気が戦闘のない時には確かに存在した。

とある大きな戦いが起こる前には、仲間の1人の妊娠が発覚し、そのことを知ったときはみんなびっくりしながらも、祝福のためのパーティーを開いた。

ちなみに、その戦いの後で無事に双子を出産し、現在は父親である操艦士と共に育児休暇という形で離れている。

その時だけではなく、時には女性陣がショッピングへ行ったり、時にはメンバー総出で海水浴に出かけるなど、前はどうでもいい思い出に思えたことが、今ではとても大事に思えてきていた。

「どこの世界でも、みんな一生懸命生きている…。そんなみんなのために、私たちは戦っているのよ」

「そうか…あなたも『ガンダム』なんだな」

「褒め言葉、謹んで頂戴します!」

「おいおい、サブパイロットのチトセちゃんも『ガンダム』なら俺も…」

「ソウジさんはナンパ癖を治してからです!それから、ワープ後はいろいろ言いたいことがありますから、覚悟しといてください!」

「へーい…。俺が『ガンダム』になるのは夢のまた夢か…」

 

-ヤマト 第一艦橋-

クルーが集結した第一艦橋で、沖田の号令のもと、ワープの準備が始まる。

「目標座標、入力!絶対銀経274.76度、絶対銀緯-12.73度!距離63.7パーセクの空間点!」

「確認、座標軸固定した!」

島と太田の手で、ワープ地点の設定が行われる。

控室で古代が言っていたように、今回のワープは敵の追撃を逃れるという意味合いが強い。

旗艦を撃沈させたとはいえ、冥王星の生き残りの艦がこれ以上ないとは言い切れない部分がある。

仮にそんな艦がおり、ヤマトを襲撃してくると、大きなタイムロスを生んでしまう。

「波動エンジン、出圧上昇中!機関、圧力臨界に達した!」

「5…4…3…2…1…」

「ワープ!!」

ヤマトがワープを開始し、一直線に流星のごとく飛んでいく。

距離によるが、ワープでかかる時間は数秒もかからない。

しかし、10秒経ってもワープの時の青い空間からヤマトが出ていない。

「どうなっているんだ!?ワープは一瞬で終わるはずだろう!?」

「状況を確認」

冷静さを保ちながら、沖田が指示を出す。

波動エンジンの搭載でワープが可能になったとはいえ、それが自分たちの手で完全に生み出されたものではない以上、このような不具合やトラブルは想定の範囲内だ、

沖田の指示を受けた太田が現在のヤマトの状況の分析を行う。

「現在、本艦はワープを継続中!」

「なるほど…我々は今、ワープ中の1ナノ秒を認識しているようだ」

「い、今まで、こんなことなかったのに!」

「どうなるんだ…ヤマトは…」

ワープの際に想定されるトラブルの中に、ワープをし続けて出られないという想定は古代達の中にはなかった。

ワープ空間の中では、方角の概念はない。

仮にこのまままっすぐ進んだとしても、目標のワープ地点に脱出できる保証はどこにもない。

「…副長」

「はい。…森君、自動航法室を見てきてくれ」

「了解です」

真田の指示を受けた森は持っているライトの光を頼りに第一艦橋を出て、自動航法室へと向かった。

(きっと、自動航法室の彼女なら…行くべき道を示してくれる)

 

-ヤマト 自動航法室前-

「百合亜ちゃん…百合亜ちゃん!!」

「…んん??」

自動航法室の前で、意識を失っていた百合亜が星名に右手で頬を軽くたたかれ、目を覚ます。

「あれ…星名、なんで私、ここに…??それに、なんで倒れてたんだろう?」

「わからない…。僕がここの警備に来た時にはここにいたから」

星名がここに来たのは数分前で、その時に彼はこの場所で百合亜を見つけ、彼女を起こそうとしていた。

前に警備していた保安兵は交代の時に異常なしと報告している。

(目を離したすきにここまで来たのか…?それにしてはあまりにも…)

訓練された兵士の目を盗み、このようなライトを使わないと満足に進めないような暗闇の中をライトなしで進み、そしてここで気を失うことなどできるのかと疑問を覚える。

「あれ…?星名」

「ん…?」

「前から思ってたけど…星名の右手って、なんだか冷たいね…」

「岬さん、星名君!」

ライトの光が2人を包み、彼らを見つけた森が声をかけ、2人の元へ駆け寄る。

「何があったの!?」

「それが、ゆり…じゃなくて、岬准尉がここで気を失っていて…」

上官の前であり、プライベートではないことから、星名は百合亜を苗字で呼び、メリハリをつける。

兵士として、間違ってはいないことは自身も兵士であるため理解しているものの、少し面白くなく感じた百合亜は星名を不満げに見つめる。

「あ、あれ…??」

森にこちらからも報告しようとした百合亜だが、急に自動航法室から何か気配を感じ、そこへと続く扉に振り向く。

「…どうかしたの?」

「さっき…あそこから、女の人が…?」

「女の人…??」

百合亜が指さした、自動航法室のドアに2人は目を向ける。

自動航法室は保安兵すら、立ち入りが禁止されている場所であり、森も当然のことながら、この中を見たことがない。

百合亜の霊感体質については、小耳にはさんだ程度で知っているが、オカルトにはあまり興味がなかったこともあり、普段はあまり意に介すことがなかった。

しかし、自動航法室の不気味さが手伝って、なぜか今回は彼女の言葉が真実のように聞こえてしまう。

 

-???-

「ワープが終わった…」

青い光が消え、ヤマトが緑色の空間へと飛び出していく。

周囲には艦の残骸が漂っており、不気味なまでの静けさが包んでいる。

「どこなんだ…ここは??」

島の疑問に答えることのできる人物は第一艦橋にはいなかった。

見たこともなく、だれにも認識されることのなかった場所にヤマトがいる。

そして、そんな場所でさまよい続けた結末が目の前に広がっている。

「各部、点検急げ!」

「レーダー、スキャナー、いずれも反応なし!」

「超空間通信は使用できそうです!」

「超空間通信が使えたとしても、この空間の中でしか使えんだろう…。外部との通信ができそうにない。ということは」

「次元のはざま…つまり、次元断層に入り込んでしまった…というわけか」

真田の言わんとしていることを理解した沖田はフゥとため息をつく。

太陽系を超え、はるかかなた先の銀河にあるイスカンダルへ目指すはずが、宇宙を飛び越えてこの次元のはざまに来てしまった。

このようなことになるのであれば、敵に追いかけられているほうがましだったかもしれない。

だが、今はそのようなことを考えている場合ではない。

「まるでバミューダトライアングルだな…」

「縁起でもないことを言わないでください!!」

船乗りを父に持つ島は彼からその伝説について小さいころに教えてもらったことがある。

船、飛行機、乗組員がその場所で消滅してしまうという、カリブ海のミステリーだ。

過去にそのような事件がその領域では多発しており、なぜこのようなことが起こるのかは不明だ。

もしかしたら、ここがバミューダトライアングルの正体で、そこに入り込んでしまったから、見つからないのか。

最も、周囲にある残骸の中には中世ヨーロッパや20世紀の船の姿がないため、本当にそうなのかどうかは何とも言えないが。

「森船務長、ただいま戻りました」

「自動航法室はどうだった?」

「特に異常は見られませんでした」

「そうか」

持ち場についた森はレーダーを操作しながら、あの部屋の疑問を頭に浮かべる。

アクシデントへの対処を続けるクルーへの冷や水になりかねないと思い、あの部屋への疑問を真田へ口にすることはなかった。

百合亜は念のため、星名の手で医務室へ行くことになった。

「11時の方向、ガミラス艦。識別、Lクラス巡洋艦!!」

アナライザーの言葉に第一艦橋に緊張が走る。

まさかこのような場所でガミラスが攻撃を仕掛けてくるのか。

Lクラス巡洋艦、メルトリア級は臨戦態勢に入っており、しかもヤマトを射程内に抑えている。

「どうします!?敵は一隻ですが…!」

古代の言葉を聞き、沖田は冷静にメルトリア級を見る。

ヤマトとヴァングレイなどの機動兵器を使えば、あの一隻を落とすのはたやすい。

しかし、仮に落としたとしても、待っているのはこの緑の迷宮だけ。

そのことを判断しているのか、メルトリア級も攻撃を仕掛けてこない。

「泥沼に足を取られた2匹の獅子が互いに相争えば、沈むだけだ。向こうも、それがわかって攻撃をしてこないのだろう…」

「艦長!敵艦が接触を求めています!!向こうは使者を送る、とのことです!」

メルトリア級から発せられる光信号を解読した相原が沖田に伝える。

その巡洋艦の格納庫から赤い戦闘機が出てきて、ヤマトの前へ向かっていた。

カラーリングは異なるが、形状から判断すると、ガミラスで長年使われている重装備・高機動を共に実現した戦闘機、ツヴァルケで間違いないだろう。

「罠だ…!きっと、そうに決まっている!」

「ガミラス側はここを脱出する方法を知っていると言っています!」

「そんな方法を知っていながら、なぜ奴らはそれを行わない!?」

それを知っていたなら、もうすでに実行してここを出てもおかしくない。

しかし、見方を変えると、その方法は知っているが、メルトリア級ではできないような方法で、そのせいでここを出られないとみても不思議ではない。

だが、このように予想をしているだけでは結論を導き出すことができない。

この空間を出るのに求められているのは科学であり、哲学ではないのだ。

「すべての答えは、すぐにわかる。使者を受け入れるぞ」

「了解!戦闘機に信号を送ります!」

相原が戦闘機に光信号でヤマトの格納庫の場所を伝え、森が格納庫にハッチを開くよう要請する。

赤い戦闘機は返事に対する感謝を示す光信号を送ると、言われた通りにヤマトの格納庫へ向かい、そこで出てきたヴァングレイにサブアームで支えられて入っていった。

 

-ヤマト 格納庫-

「よし…これでOKだ!」

ツヴァルケの固定を終え、ヴァングレイからソウジとチトセが出てくる。

既に格納庫には伊東や星名ら保安兵や古代達第一艦橋のクルーなどが集まっており、全員がじっとツヴァルケを見ている。

ツヴァルケのコックピットが開き、中から人が出てくる。

青のバイザーが顔を隠している。

「見る限りは地球人と変わりなさそうだ」

「何言ってるんだ!人間を滅ぼそうとした連中なんだぞ!?きっと化け物みたいなやつらだ!」

「…」

「な、なんだよ?」

無言でにらみつけてきた刹那を見て、南部はぞっとする。

「余計な先入観は捨てるべきだ」

「事情を知らない新参者が勝手なことを…」

「俺たち人間が化け物のような行動をしなかったとでもいうのか?俺は化け物のような行動をとってきた奴を知っている」

刹那の脳裏に自分を戦うことしかできない人間に変えた男の存在が浮かぶ。

彼によって洗脳された刹那は家族を自分の手で殺させられ、おまけに次々と同じ境遇の少年兵たちが死んでいく血なまぐさい戦場を戦い続けてきた。

それだけではない。

自分たちの仲間の1人が彼に殺されたうえ、彼は喜々として戦果を広げることを楽しんでいた。

彼は確かに彼が殺した男の双子の弟の手で殺されたが、彼によって受けた傷は今でも心に残っている。

だが、それを起こしたのは化け物ではなく人間だ。

「でも…あいつらは、地球を…」

「そこまでにしろ。メットを外すぜ」

竜馬はじっとガミラスのパイロットを見る。

メットが外され、ガミラス人の顔がさらされる。

「そんな、馬鹿な…」

「これが、ガミラス人…。エリンが言っていた通りだ…」

赤い髪で、青い肌をしているものの、その見た目は明らかに地球人の少女そっくりだった。

化け物のような見た目だという先入観にとらわれていた南部は驚きを隠せなかった。

南部だけでなく、星名ら一部のクルー以外の面々も南部ほどではないが、驚きながらその少女を見ている。

「青い肌…証言通りだな」

「はい…」

ワープをする前、星名ら保安兵はエリンの同意の元、彼からガミラスについて知っている範囲での情報を聞き出していた。

そこで、ガミラス人は青い肌をしていることがわかっており、それについては既に沖田に報告されている。

そのことについてはワープ完了後に周知されることになっていたが、このようなアクシデントによってお流れになっていた。

「我々に交戦の意思はない」

(あれが異種…異なる文明の生命体か…)

「地球語を話せるのか?」

最初に動いた古代が少女に質問をする。

彼女が話していたのは明らかに地球語であり、なぜ話せるのか疑問に感じていた。

地球人を捕虜にして、彼らから言葉を学ぶというやり方もあるが、そのような形で一から言語を学ぶとなると、年単位で時間がかかる。

そもそも、地球を滅ぼそうとしている以上、そんなことをする意味がないのだが。

「そちらの言語は翻訳できる。それより、確認したい。これは地球の艦か?名前は確か…ヤマトと…」

「そうだ。僕はヤマトで戦術長を務めている古代進一等宙尉だ」

「失礼しました。私は銀河方面第707航空隊所属、メルダ・ディッツ少尉です」

敵とはいえ、階級が上である古代に対し、メルダは敬語に直して自己紹介をする。

「我が大ガミラス帝国の領内にも、あなたのような青い肌を持たない者がいます」

「それはザルツ人のことですか?」

「あなたは?」

「保安部の星名透准宙尉です」

「驚いたな、ザルツ人のような二等ガミラス人のことまで知っていたとは…」

ザルツ人についても、保安部はエリンへの事情聴衆の中で少しは情報を得ていた。

ガミラスによって併合され、地位向上のために危険な戦場に志願しているということも。

また、冥王星の部隊がすべてザルツ人によって編成されていたことも明らかになっている。

しかし、話を聞いていると、どこか彼女がケンカ腰になっているように古代には見えた。

冷静さを保って入るが、どこかこちらを信用していないように感じが否めない。

「それで、ディッツ少尉。君は、交渉する気があるのか?」

「交渉の使者に銃をもって対する者を信用することはできません」

メルダの言う通り、保安部をはじめとした兵士が銃を彼女に向けている。

地球を滅ぼそうとした彼らへの恨みを考えると当然ではあるが、交渉に来た相手に銃を向けるのは地球においてもマナーに反することだ。

「それに、地球人は宣戦布告もなしに攻撃を仕掛けてくる好戦的な種族ですから」

「何…!?」

「戦争を始めたのはそっちでしょ!?」

メルダの言葉で、格納庫内に動揺が走り、玲が怒りを見せる。

ガミラスによって家族をすべて奪われた彼女の彼らに対する怒りは相当なもので、地球を守るために死んだ兄を侮辱するような発言が許せなかった。

しかし、メルダは冷静なままで、ありのままに言葉を並べる。

「我が家は代々、軍の重責を担ってきた家系だ。その名誉にかけて、嘘偽りはない」

堂々と、地球側の非を主張するメルダに対する印象は最悪だ。

ヴァングレイのそばでやり取りを見聞きしていたチトセも怒りを見せていた。

「何なのよ、あいつ!!」

「こりゃあ…随分と気の強いお嬢さんだ」

「嘘だ…嘘に決まっている!!」

格納庫内で、島の大声が響き渡る。

彼の父親はガミラスとの最初の戦いで死んでおり、メルダの言いようがまるで戦争になった原因が自分の父親にあるようにしか聞こえなかった。

「島君…」

隣にいた森が抑えようとしたが、もう島は止まらない。

一度ついた怒りの炎を簡単に消すことができない。

「あいつの言っていることは嘘だ!最初に攻撃を仕掛けたのはガミラスだ!その攻撃で、父さんは…」

「やめろ!!今はそんな議論をしている状況じゃないことがわかっているのか!!」

不毛な言葉の応酬が繰り広げられることを良しとせず、古代が声を上げる。

彼の言葉を聞いた面々は沈黙し、島も納得できないが、古代の言うことはもっともなことからしぶしぶと口を閉ざす。

「山本、君もだ。銃を下すんだ」

「しかし!!」

「命令だ」

感情を抑え、静かに、そして無機質に古代は玲に言う。

上官からの命令であれば、逆らうことができない。

玲が銃を下し、古代はメルダに自分の銃を渡す。

「これは…?」

「交渉は対等に、だ。そのうえで君の提案を聞く」

メルダの一番近くにいたこともあり、彼は彼女が銃を持たずにヤマトに来たことを知っていた。

その証拠として、コックピットにも腰のホルスターには銃が入っていなかった。

そんな丸腰の彼女に対して、ヤマトは武器を持っており、やろうと思えばいつでもメルダを殺すことができる。

だが、それでは交渉にならないし、彼女の交渉しようという意思を踏みにじることになる。

「…感謝します、古代一尉」

受け取った銃をホルスターに収め、メルダは古代にガミラス式の敬礼を見せ、古代は返事をするかのように地球式の敬礼を見せた。

 

-ヤマト 航空隊控え室-

メルダとの話し合いは応接室で行われることになり、ソウジ達航空隊は控え室で待機することになった。

彼女と交渉を行うのは古代と沖田、真田の3人で、既に彼らが入ってから1時間以上が経過している。

「話し合い…終わりませんね」

「ガミ公のことだ。どうせ、こちらを騙すために適当な嘘を並べてるんだろうぜ」

「俺は…彼女がそういう人間とは思えない」

「刹那…格納庫の時から随分と彼女に肩を持つな」

南部ほどではないが、刹那の彼女への肩入れには加藤も疑問を持っていた。

イノベイターという、ニュータイプともオールドタイプとも違う感性を持つ彼の誤解なく理解しようとする姿勢がそうさせているのかもしれないが、それでも加藤は刹那のそれが面白くなかった。

彼女個人に恨みをぶつけるのは筋違いなのはわかるが、ガミラスとの戦闘で加藤は親友を失っている。

また、親友の妹である玲を天涯孤独の身にされた。

そのことが許せなくて、間違いだとわかっていても、どうしてもメルダを疑ってしまう。

「まさか、カワイコちゃんだからって理由?」

「多分、それはないと思います。ソウジさんじゃないんだから…」

「やめてくんない…?その傷つくような言葉」

「…直感として、そう感じただけだ」

チトセの言葉に傷つくソウジをよそに、刹那は篠原に答える。

刹那はこの地球でのガミラスとの戦争について詳しいことは知らない。

そのこととイノベイターであることを手伝って、もしかしたらそう感じたのかもしれない。

「きっと、その直感…大切なんだと思う。私も、信じられないって気持ちはありますけど…」

「じゃあ、あなたは憎しみで戦っているのか?」

刹那のまさかの言葉にチトセはドキリとする。

更に、あまり話をしたことのないソウジに対しても目を向ける。

「あなたに関しては、言葉の中で悲しみを感じる…」

「んなぁ、否定しねーけど…」

「いい加減にしろ、刹那。ガミラスは俺たちの敵で、俺たちの家族や仲間は奴らに殺されてきたんだぞ!」

ついに頭に来た加藤は刹那の胸ぐらをつかむ。

一思いに彼の顔面を殴ろうと右拳に力を籠めるが、ソウジにその腕をつかまれる。

「放せ叢雲!!」

「加藤隊長、今そんなことしても意味がねえでしょう…。それに、その拳で刹那を殴ってみろ。恩を仇で返すことになります」

「叢雲…くっそぉ!!」

強引に刹那を手から放した加藤はソウジを振り払い、控え室から出ていく。

出ていくとすぐにドン、という音が聞こえた。

刹那は加藤が出ていったドアをじっと見ていた。

「気にするな、刹那」

表情を変えない刹那にキンケドゥが励ましの言葉をかける。

なんとなくではあるが、彼が自分の言葉を後悔しているように見えたためだ。

「俺の無神経な発言がみんなを傷つけた…。だとしたら…」

(刹那…)

わずかに表情を曇らせる刹那をティエリアはじっと見る。

イノベイターとなり、刹那は普通の人とは異なる感性を手に入れた。

しかし、それゆえにほかの人との違いを認識するようになり、転移する前はほかのメンバーと会話する機会がめっきり減ってしまった。

例外として、イノベイドであるティエリアが刹那からそれについて何度も相談に乗ったが、最初からイノベイドである彼では明確な答えを返すことができなかった。

「刹那さん…ニュータイプって知ってますか?」

トビアの唐突な質問を受けた刹那は首を横に振る。

「僕たちの世界の伝説みたいなものですが、言葉を交わすことなく、誤解なく分かりあうことができる人たちのことです」

「一時は人類の進化みたいに言われてきたが、今ではおとぎ話みたいな扱いだ。そして、昔ニュータイプのことを提唱していたジオン・ダイクンがスペースノイドこそ、ニュータイプだと言っていた。まぁ…それを否定する証拠が出てきてしまったが…」

キンケドゥがチトセに目を向ける。

なんで自分がと思い、疑問を浮かべるチトセにソウジは苦笑する。

「チトセちゃん、君は宇宙に出たことあるか?」

「いえ、ヤマトに乗って出るのが初めてで…」

「ってことは、チトセちゃんは根っからのアースノイドで地球育ち。宇宙に出たわけでもないのにニュータイプだったってことだろ?」

ソウジの言葉で、チトセはああ、と納得したように首を縦に振る。

アマクサとの戦いが、チトセにとっては初めてニュータイプである自分の感性を自覚したときだった。

それまで宇宙で過ごした時間はわずか数日。

その数日の間でニュータイプに目覚めることはまずありえない。

ということは、チトセは地球で生まれ、地球で育ちながらニュータイプになったということになる。

最も、地球で暮らしていたころにその自覚がなかったようで、厳密には言えないが、それでも彼女が過酷な宇宙環境に適応進化した新人類をニュータイプとしたジオン・ダイクンの提唱を揺るがしかねない存在であることは否定できない。

「誤解なく分かりあえる…か…」

「イノベイターのようなものだな。だが、ニュータイプとイノベイターには違いがある」

「違いって…?」

「君の話を聞いた限りでは、ニュータイプ同士で誤解なく相互理解することができるように聞こえる。間違っていないか?」

「はい、それで大丈夫です」

「イノベイターは太陽炉が放出するGN粒子を触媒にして、不特定多数の人々と対話することができる。そして、刹那は史上初のイノベイターで、まだ彼以外のイノベイターは存在しない」

「もしかして…それで戸惑って、ムッツリしてるの?」

「ム、ムッツリ…?」

「ごめんなさい。いい言葉がわからなくて…」

もっと別にいいようがあったのではないかと思いながら、チトセは刹那に詫びる。

最初はきょとんとしていた刹那だが、慌てるチトセを見て、笑みを浮かべる。

「お、いい顔になったじゃないか。しかめっ面よりよっぽどいいぜ」

「そ、そうか…」

「そうそう!ってあれ、なんだか話題が変わっちゃった気が…」

「別にいいだろ。暗い話題してるよりよっぽどいい。ってことで、チトセちゃん。一緒に食事を…」

「丁重にお断りさせていただきます」

笑顔に戻ったチトセがソウジの誘いをきっぱり断る。

断られて、ちぇ、と口を尖らせたソウジを見て、控え室が笑い声に包まれていく。

刹那も声を出すことはないが、穏やかな笑みを浮かべていて、それを見たティエリアは安心したかのように彼を見ていた。

 

-ヤマト 第一艦橋-

「波動砲か…」

話し合いの中でメルダ、というよりも彼女の上官であり、目の前にいるメルトリア級の艦長であるヴァルス・ラング中佐から提案された方法だ。

波動砲によって発生する膨大なエネルギーを使って射線上に次元波動を起こし、仮にそれが位相境界線に当たれば、そこに元の宇宙への出口ができる。

真田と新見も理論上では可能と、科学的な見地で既にお墨付きしている。

しかし、この方法には1つだけ問題がある。

「問題は、ヤマトの残存エネルギーか…」

「波動砲を撃てば、ヤマトはエネルギーを失い、航行不能になります」

「それについては、前方のガミラス艦がヤマトを宇宙まで曳航することをメルダ・ディッツ少尉と艦長であるヴァルス・ラング中佐から約束されています」

メルトリア級には波動砲のような、次元波動を引き起こすほどの威力の兵器がなく、ヤマトには発射後に出るためにエネルギーがない。

机上では、かなりフェアーな交渉、一時的な同盟と言える。

利害が一致しているが、問題は信頼関係だ。

古代と沖田ら一部の兵士は信頼しているが、大多数の兵士はガミラスへの不信感がぬぐえずにいる。

「どうせ、波動砲を撃たせて自分だけ脱出を…」

「戦争の非はこっちにある、って言うやつらだからな」

その筆頭である島と南部の言葉を沖田は沈黙しながら聞く。

あの地球とガミラスの戦争のきっかけとなったあの戦いの関係者である彼はメルダの言葉の真実を知っている。

だが、今の状況を考えて、このタイミングでその真実を口にすることのリスクはかなり大きい。

「そんな問答をしている間にも、状況は悪くなっていく。艦長…」

歳を重ねたせいか、メルダとの遭遇に関しても冷静な態度を取り続けていた徳川が沖田を促す。

艦内には今回の取引に対して賛否があるが、最終決定権があるのは沖田だ。

沖田の言葉がヤマトの生死を決める。

「私は…メルダ・ディッツ少尉たちを信じる。古代、波動砲発射準備!!」

「了解!」

「相原、ガミラス艦にそちらの提案を承諾したこと、そして波動砲の射線上から離れるよう通達を!」

「はい!!」

徳川が機関室へ戻っていき、古代は波動砲発射のために森から送られる位相境界線の位置データから射線を決める。

そして、相原はメルトリア級に向けて通信を送った。

 

-メルトリア級 EX178 艦橋-

「…了解、賢明な判断に感謝する。ヤマトがこちらの提案を受け入れるとのことです!」

「そうか…」

通信兵から報告を受けたラングが前方のヤマトに目を向け、心の中で彼らのことを感謝する。

ラングや先ほどの通信兵を含め、この艦のクルーの多くがザルツ人だ。

ガミラス人であるメルダからも信頼されていることもあり、彼もまた、シュルツと同じく優秀な軍人であることがうかがえる。

だが、ラングの判断に異を唱える人物が1人だけいた。

「ラング艦長…二等ガミラス人で運行する、この艦にもチャンスが巡ってきたようだな」

思想指導将校としてEX178に乗り込んでいる、デスラー直属の親衛隊であるパレン・ネルゲ大尉がラングにそそのかす。

波動砲を撃ったヤマトを見捨てて、自分たちだけ逃げ出すことができれば、労せずヤマトを沈めたという大きな戦果と共に本国に凱旋することができる。

そうなれば、親衛隊である自分と二等ガミラス人であるラングには大きな褒賞が与えられることになる。

ネルゲにとって、これは天から与えられた大きな好機に見えていた。

しかし、ラングは違った。

「妙な考えはよしたまえ。この艦の艦長は私だ」

「ちっ…ザルツ人ごときが…」

階級ではラングの方が上であることから、ネルゲは舌打ちしつつもしぶしぶ引き下がる。

だが、すぐに何かを思いつくと、ニヤリと笑みを浮かべた。

「ヤマトに通達!これよりけん引ビームを発射し、送られたデータに従い、射線上を離脱する。なお、ディッツ少尉については信頼の証として連絡要員としてヤマトに残ってもらう。互いの無事な脱出を祈ると!」

「了解!!」

 

-次元断層-

通達が終わると同時に、EX178が180度回頭し、ヤマトへ後ろを向いたまま近づいていく。

後方から発射されるけん引ビームを当てると、速やかに船体を右へ大きくずらしていった。

「ガミラス艦の準備、完了したとのことです!」

「よし…総員、対ショック、対閃光防御!」

既に強制注入機が作動しており、波動エネルギーの収束が始まっている。

第一艦橋のクルーは全員ゴーグルをかけ、波動砲発射に備える。

「発射まで5…4…3…2…1…」

「波動砲、発射!」

「波動砲、てぇーーーー!!」

古代によって引き金が引かれ、波動砲が発射される。

膨大なエネルギーの青い閃光が緑色の空間の中を走っていく。

光りが消えていくと、位相境界線と思われる場所には大きな穴が開いた。

「突破口、形成された!」

「これで、ヤマトは自力航行できるだけの力を使い果たした…」

EX178はけん引ビームの再確認を行うと、そのままヤマトをけん引しながらゆっくりとその穴に向けて進んでいく。

「いいぞ、その調子だ…!」

波動砲によって生まれたあの穴はしばらくは開いたままになっている。

このままいけば、あと10数分で次元断層を脱出できる。

しかし、そんな楽観を崩す報告が森からもたらされる。

「これは…10時の方向から未確認機!その数、5!!」

「何!?まさかガミラスが…」

「いえ、これは…ガミラスではありません!映像を出します!!」

前方モニターにヤマトが見つけた未確認機の姿が映し出される。

緑を基調とした艦や戦闘機が多いガミラスにはない、白とライトブルーを基調としたもので、下部にビーム砲付きブースターを取り付けた戦闘機のような機動兵器で、ムカデか蛇のような長さをしている。

それが今、ヤマトに接近している。

「別の異星人の機動兵器だというのか!?」

まさかの敵の出現に第一艦橋が凍り付く。

更に、こういう場合に悪いことは続けて発生する。

「EX178からのけん引ビームの接続が解除されました!」

「何!?」

けん引ビームを解除したEX178が速度を上げ、ヤマトから離れていく。

「く…ネルゲ大尉!!何を!!」

けん引ビームを艦橋で勝手に操作したネルゲに抗議するラングだが、彼に銃を突きつけられる。

細く吊り上がった目でラングを見るネルゲは正面モニターを操作する。

モニターには親衛隊の兵士たちによって銃を突き付けられた兵士たちの姿があった。

また、艦橋には数人の親衛隊の兵士が入ってきて、彼らも銃を握っている。

「既にこの艦は我々が掌握した。これからは私の指揮下に入ってもらう」

「ネルゲ…この、ガミラス人の面汚しが…!」

「ふん、劣等種がガミラス人を名乗るな。それに、奴らはガミラスの敵なのだぞ?」

EX178はそのまま穴から次元断層を出ていく。

その艦を見向きもしない未確認機はそのままヤマトに向けて進んでいく。

そして、射程内に入ったヤマトに向けてビーム砲から大出力のビームを発射する。

ショックカノンを上回る出力のビームがヤマトの第2砲台をえぐり取っていく。

「うわああ!!奴ら、宣戦布告もなしに!!」

「艦長!最低限の機能は使用できまずが、波動防壁及び武装はすべて使用不能です!」

「相原、未確認機へ通信は?」

「駄目です!あちらはあらゆる接触を拒否しています!」

「やむを得ん…。機動部隊を発進せよ」

「了解!機動部隊に告ぐ、本艦は未確認機による攻撃を受けている。速やかに発進し、本艦に敵機を近づけるな!繰り返す!!」

 

-ヤマト 格納庫-

「まさか、こんなところでアンノウンとはちあうなんてな!!」

「やっぱり…裏切られた…」

サブパイロットシートに腰掛けるチトセは悔し気につぶやく。

刹那の言葉もあり、少しでも憎しみを捨てて彼女を信じようとした。

しかし、結果はこのザマだ。

「…チトセちゃん、今はそのことを考えるのはナシだ。それよりも、目の前のあの未確認機をどうにかしないと、裏切りを責めることだってできなくなるぞ?」

「ソウジさん…」

(コスモファルコン隊、出撃完了!ヴァングレイら機動部隊も速やかに発進してください!!)

「了解!叢雲総司、如月千歳、ヴァングレイ、出るぜ!!」

ハッチからヴァングレイが飛び降りていく。

そして、次のゲッター1とダブルオークアンタ、ラファエルガンダムが出撃準備に入る。

「刹那…お前の直感、外れたみてーだな」

「…」

「まさか、ガミラス人の使者を置き去りにするとは…」

3人にとって、メルダを置き去りにしてでのその裏切りはあまりに予想外だった。

ザルツ人の置き去りならともかく、本国人を置き去りにすると言うメンタリティには理解できないものがある。

「彼女は俺たちを油断させるための罠だったのか…?」

「竜馬、ティエリア、鉄也、今はそんなことを考えている余裕はないぞ!!」

ピーコックスマッシャーを装備したスカルハートのコックピットの中で、キンケドゥが叫ぶ。

この武器は冥王星での戦闘中に撃破した木星帝国軍の兵器のパーツを流用して作った試作兵器で、一気に広い角度の敵に攻撃できることから、今回使用されることとなった。

一方、ゲッター1はハイパー・ハンマーとゲッタートマホークを1つずつ手にしている。

「ああ…俺たちだって、こんなところで死ぬつもりはねぇ!出るぜ!!」

ゲッター1、ダブルオークアンタ、ラファエルガンダムもヤマトから発進していき、2機のクロスボーン・ガンダムも出ていく。

「修理不能とは言うが、今はそんなこと考えてる場合じゃねえ!!」

ゲッター1は一気に未確認機のうちの1機に近づき、正面からハイパー・ハンマーをたたきつける。

「よし、こいつでい…何!?」

棘付きの鉄球は確かに未確認機の前方のコックピットと思われる個所を叩き潰していた。

しかし、その蛇のような体が次々と分離していき、まるで某不思議のダンジョンのゲームで登場する灰色の食人鬼のように、9機に分かれていく。

そして、突出し過ぎたゲッター1に向けて、そのうちの3機がビーム砲を発射する。

「ちっくしょう!!奴ら、金太郎飴かよ!?」

ビームが次々と着弾し、ハイパー・ハンマーの鎖とゲッタートマホークが破壊される。

左腕のゲッターレザーを伸ばし、そのうちの1機で引き裂くことに成功するが、これでは焼け石に水だ。

「あの蛇みたいな見てくれだが、本当は10機が連なって合体しただけってことは…!」

「竜馬が撃破した2機を除くと…48機…」

こちらを大きく上回る数の機動兵器に全員の背筋が凍り付く。

「くそっ!!信じるんじゃなかったぜ、ガミ公がぁ!!」

加藤と篠原のコスモファルコンが2体の蛇が20機に分離していく姿を目撃しつつ、機関砲を発射する。

1機を撃破、1機を損傷させるが、50機近い相手の前ではぬか喜びにしかならない。

「隊長!!杉山のハヤブサが落とされました!!」

「村木、岡林!!返事をしろーーー!!」

2人の通信機に航空隊隊員の声が響き渡る。

愛機が拾っている信号を見ても、この間にすでに3機がロストしていた。

「…くっそぉーーーーー!!!!」

激高する加藤のコスモファルコンは未確認機の翼部から発射される小型ビームの雨をバレルロールしながら回避し、至近距離からミサイルを叩き込んだ。

それを見たもう1機の未確認機が下部のパーツをパージし、それを質量弾として発射するが、篠原のコスモファルコンのビームに横やりを入れられる形で撃破された。

(死ねるかよ…こんなところで!!必ず切り抜けて、あの裏切者を…!!)

 




機体名:不明
形式番号:不明
建造:不明
全高:15.2メートル
全備重量:49.3トン
武装:翼部ビーム砲×2、大型ビーム砲
主なパイロット:不明

次元断層でヤマトが遭遇した未確認機。
機体の姿はモビルスーツと戦闘機の中間ともいえる姿をしており、同規格の機体との集団戦闘を想定したものと思われる。
最大の特徴はその機体との合体機能であり、最大10機と合体することで敵にこちらの数を誤認させるだけでなく、戦艦の主砲以上の火力のビームを発射させることもできる。
なお、合体に関しては下部のユニットで行われており、構造も単純であるためか短時間で合体・分離及びその後の戦闘復帰が可能となっている。
機体の上下は切り離しが可能で、下部はそのまま質量弾としての利用も可能となっている。

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