スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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今回はガミラス側にオリジナルのメカが登場します。


第12話 炎の嵐の中で

-グリーゼ581宙域 ヤマト第一艦橋-

「ぐう…左舷より衝撃、伝わる!!」

太田が衝撃に耐えながら沖田に報告する。

ワープを終え、再びイスカンダルを目指して暗い海を走り始めてからわずか数分。

衝撃によって傾いた船体を島が舵を取り、修正を始める。

艦橋の目の前に肉眼で見えた太くて青い稲妻。

それがこの衝撃の犯人だ。

「電気機器の一部に異常発生!!」

「強力な荷電粒子の波動を感知」

「どうやら、ヤマトは超高密度のプラズマフィラメントに接触したようです」

「何ですか、それは!?」

またも真田の口から飛び出す専門用語に太田は悲鳴を上げる。

敵の攻撃が来ている可能性があるのに、彼の長ったらしく難しい説明を聞いている暇はなかった。

沖田もそれをわかっているのか、自らの口で簡単にその答えを出す。

「恒星から放射されるフレアプラズマの束だ…太陽風だ…!」

太陽風、という言葉に一同が騒然とする。

太陽風の温度は約10万度で、そのような温度に長時間ヤマトは耐えられない。

仮に耐えられたとしても、その前にクルーやパイロットがその風に焼き殺されてしまう。

「しかし、おかしい…。理論値の数億倍のビルケランド電流…明らかに人為的なものだ」

人為的、つまりはガミラスの手でその恒星に仕掛けが施されたということになる。

「前方および後方に敵艦隊ワープアウト!中央に冥王星基地で目撃した旗艦の姿もあります!!」

ヤマトの目の前でワープアウトしたポルメリア級1隻を引き連れたシュバリエルが出てきて、後方から現れたデストリア級の魚雷発射管から魚雷が1発だけ発射される。

「撃ってきたぞ!」

「補足している!対空戦闘、開始!」

「魚雷発射管扉開け!」

「撃てぇ!」

どのような意図で一発だけ発射してきたのかはわからないが、それをヤマトにはいどうぞと命中させていい理由がない。

沖田と古代の命令によって発射された3発の魚雷によって、敵の魚雷を撃破する。

「命中確認!敵魚雷は…ちょっと待ってください!?」

「どうした!?」

「これは…ガスです!破壊した魚雷からガスがあふれ出ています!」

ヤマトのレーダーでキャッチした映像に移っていたのは赤い稲妻がいくつも走っている黒いガスで、膨張しながらヤマトに迫っている。

ガスの発生を確認したシュバリエルがヤマトに向けて艦砲射撃を開始し、さらにポルメリア級からもメランカが発進していく。

 

-デストリア級 艦橋-

「デスラー魚雷、起動確認しました。これより、本艦はヤマトの攻撃を…」

デスラー魚雷発射というお膳立てを終えたデストリア級の艦長らしき若者がシュルツに連絡する。

矢を放ち、ヤマトがそれを壊してくれたことでもう思い残すことはなくなった。

あとはザルツ人とガミラスの未来のために突撃するだけ。

「貴様らは直ちにワープし、本国へ帰還せよ」

「な…!?待ってください司令!?我々はヤマトを攻撃し、時間を稼ぐのではなかったのですか!?」

「そのような命令、いつ下した。私はただ、デスラー魚雷を発射せよとだけ命令したはずだが?」

シュルツの話を聞いた艦長は作戦会議でのことを思い出す。

デスラー魚雷はその性質と今作戦の都合上、後ろから発射することが求められる。

そのため、魚雷を発射できるシュバリエルかデストリア級を後方に配置し、デスラー魚雷を発射する。

それから発生するガスから逃れようとするヤマトを前方のポルメリア級と残る1隻の艦で攻撃して時間稼ぎをする。

そして、デスラー魚雷発射という栄えある一番槍を任されたのは昨年艦長となったばかりの若き兵士が率いるデストリア級だ。

だが、発射した後の後方の艦をどうするかについては何も話し合われなかった。

「我々だけで時間を稼ぐ。お前たちはいま攻撃しても、あのガスに飲み込まれて死ぬだけだ。我々は死ぬ覚悟できたが、犬死はザルツ人の名誉に反する」

デスラー魚雷に内蔵されたこのガスはあらゆるエネルギーを吸収・増殖する試作生物兵器であり、強いエネルギーのあるものに引き寄せられる性質がある。

仮にデストリア級がヤマトへ主砲や魚雷で攻撃したとしても、それにあっという間に吸収され、そして特攻のために前へ進んだとしてもガスに飲み込まれてチリ一つ残らない。

つまり、こうなった時点でデストリア級の仕事は終わったのだ。

「まさか…シュルツ司令、あなたは…!」

「その艦には少年兵をはじめとした若い兵を乗せている。一番槍は貴様らだ。それを手土産にすれば、総統も重い罰は与えまい」

「ですが…!」

「貴様らは生きろ。この一見の責任は老人がすべて背負う。行け!ザルツ人とガミラスの未来のために!」

その言葉を最後に、シュルツは一方的にデストリア級との通信を切った。

「艦長…」

「…ワープしろ。我々は本国へ帰還する。…シュルツ指令や仲間たちの思いを無駄にするな…!」

「…了解!」

 

-シュバリエル 艦橋-

「デストリア級、ワープしました」

シュバリエルのレーダーにはワープするデストリア級の姿が映し出されていた。

同時に、それが出したと思われる複数の緑色で十字の形をした四角い無人機の反応をキャッチする。

「これは…観測ポッド、アーグです」

「ふっ…せめてもの、ということか。彼らしい」

アーグは無人機で、戦闘機ほどのエネルギーがないため、ガス生命体にはあまり見向きされない。

そして、それがヤマトやシュバリエルの近くで飛ぶようにプログラムされているようで、これらから提供される観測データがあれば、少しは有利に戦えるかもしれない。

現にアーグのおかげで、ヤマトとガス生命体の距離などを正確に知ることができた。

「これで未来は若者に託すことができました。あとは…」

ガンツに向けて強くうなずいたシュルツはマイクを手にし、今この線上にいるすべてのザルツ人に最後の言葉を贈る。

「冥王星の戦士たちよ、これよりわれらはヤマトに最後の戦いを挑む。このようなことになったのは、すべて私の不徳によるところだ。そして、皆には家族と再会するという未来を奪ってしまったこと…すまないと思っている」

シュルツの言葉を聞いた兵士たちは口を挟まず、黙って彼の話を聞いていた。

もう2度と最愛の妻や娘に会えないつらさを必死に耐えながら、自分たちのことを考え、悲しんでくれる彼に対して、誰も責めようとしなかった。

ある兵士は家族の写真に別れの言葉を言って、それを胸ポケットにしまい、ある兵士は戦友たちと最後の別れのあかしのたばこや酒を交わしていた。

「若者たちには…すでに未来を託した。われらの生きざまは必ずや、彼らが語り継ぎ、ザルツ人の未来に希望を与えてくれる!あとはわれらの命のすべてを…子供たちの未来のためにささげる!諸君!我らの前に勇士なく、我らの後に勇士なしだ!」

「シュルツ司令…!」

感極まったガンツは涙を流しつつ、シュルツに敬礼する。

そして、シュルツもマイクを置くと、故郷にいる妻子や同胞たち、そしてまだ見ぬザルツの子供たちに対して敬礼した。

「行くぞ…!ヤマトを沈めろ!!」

 

-ヤマト 第一艦橋-

「レーダーに感あり!戦闘機が発進しています!!」

ポルメリア級から20機近くのメランカが次々と発進し、シュバリエルと母艦と共にヤマトに向けて接近していく。

シュバリエルに関しては前進しながらヤマトに向けて主砲で攻撃を仕掛けている。

「ガミラスめ…あのガスの中に閉じ込めるために時間稼ぎを…」

「最大船速!パルスレーザーによる対空防御を行いつつ、前進せよ!島、測定したプラズマ緩衝地帯は抜けられそうか?」

「なんとかなります!」

太田から送られたコースの確認をしながら、島は自信たっぷりに沖田に返事をする。

先ほどの電子機器の異常は既に修理を終えたが、あのような雷を何度も受けてしまうと、今度こそヤマトが動かなくなってしまう。

しかし、伊達に地球最後の希望であるヤマトの操舵手を務めているわけではないことをガミラスに証明するいい機会であった。

「ま、待ってください!このコースで緩衝地帯を抜けたら…!!」

コースの設定を続けていた太田が冷や汗をかきつつ、そのゴール地点をブリッジの正面モニターに表示する。

それに映るものを見たクルー全員が沈黙した。

赤々と燃え上がり、触れたものをすべて焼き尽くす恒星。

これがそのコースのゴール地点だった。

「嘘だろう…?」

逃げてもなお、敵の術中にはまっていることを知った古代は静かに漏らした。

 

-大ガミラス帝国 総統執務室-

執務室に設けられている大型モニターにはガスと雷を避けるために進むヤマトとその目の前にある恒星が映し出されている。

そこにはデスラー以外にも、副総統であるレドフ・ヒスや軍需国防大臣のヴェルテ・タラン、その弟であり、大本営参謀次長を務めるガデル・タランや中央軍総監のヘルム・ゼーリック、艦隊総司令のガル・ディッツ、宣伝情報大臣のミーゼラ・セレステラ、食料資源省・食料生産管理局長のドーテム・ゲルヒンなど、ガミラスの首脳が集まっている。

なお、セレステラ以外はガミラス人の特徴である青い肌をしていて、セレステラの肌は淡青灰色で、おまけに耳はとがっている。

それは彼女が精神感応波を操る能力のあるジレル人であるためで、ザルツ人と同じく、二等ガミラス人ではあるが、彼女の能力がデスラーによって認められ、このような高い地位についている。

また、ほかに残っているジレル人は現在確認されている範囲では1人だけで、それはその感脳波を操るという特異な能力のせいで各地で弾圧を受けたためだ。

ちなみに、彼らがこうして集まっているのはガミラス帝国建国1000周年、そしてデスラー紀元103年の祝いのためであり、この映像が映っているのはひとえにデスラーによるこの祝いの余興のためだ。

「お見事な作戦です。デスラー総統。自立性自己複製システムを持ったガス生命体と巨大な恒星による二重の刃。完璧な作戦です」

「ふっ…戯れにシミュレーションと航路パターンの解析をしただけだ。大したことはない」

今回の試作兵器、デスラー魚雷の正体であるガスは併合したミルベリア星系で見つかったもので、物質エネルギーを変換・同化・吸収して無限に増殖する特性を持っている。

本国で兵器として扱えないか研究が行われたものの、使いどころを間違えると味方をも巻き込み、更にはこれから併合しようとする星や入手できるはずの資源や将来の臣民たちまでガスに変えられてしまう危険性があり、研究は難航していた。

今回、シュルツに回されたのはデスラーからの特別許可が下りたためであり、普段は持ち出しを完全に禁止されている。

デスラー自らが言ったように、ヤマトのワープする位置は彼一人によってばれてしまっていて、恒星に人為的な細工を施したのも彼の命令だ。

「では、諸君。テロン人の健闘を祈って、乾杯しようではないか」

「ガハハハハ!!これは愉快!罠に落としておいて健闘を祈るか!?総統も相当冗談がお好きで!」

既に酒で酔っていたドーテムがゲラゲラ下品な笑い方をしながらデスラーの冗談をほめる。

苦労して結果を出し、こうして初めて総統主催のパーティーに参加できた喜びもあったのだろうが、そんな彼を見た周囲の参加者はため息をつくか、「こいつ、馬鹿だな」と心の中であきれ果てる。

デスラーの薄い笑いが一瞬消えると、彼は椅子についているコンソールを操作する。

「え…?ほわぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

ドーテムの足元の床が開き、彼はそのまま奈落の底へと真っ逆さまに落ちていった。

「ガミラスに下品な男は不要だ。では、諸君。これからゲームをしよう。これから3つの選択肢のうち、ヤマトがどれを選ぶか…」

「3つ…2つではないのですか?」

「ああ、3つだ。1つ…あのガス生命体の中に飲み込まれてはてる。2つ…ガス生命体から逃げるために恒星へ突っ込み、その熱によって力尽きる」

「では…3つ目は…?」

「…ガス生命体と恒星をはねのけ、生き延びる…だ」

デスラーの3つ目の選択肢を聞いた参加者たちは耳を疑う。

あのような完璧な作戦を野蛮な地球人が攻略できるわけがない。

参加者たちは1か2の選択肢を選んでいた。

このゲームの提案者であるデスラーは答えを出さず、じっとその映像を眺め始めた。

(さあ…テロン人よ。私を楽しませてくれるか…見極めさせてもらおうか)

 

-ヤマト 格納庫-

「榎本さん、機動部隊は発進できないってどういうことですか!?」

ノーマルスーツに着替えていたチトセが整備兵たちの指揮をする榎本に詰問する。

20機近いメランカがヤマトに接近していて、おまけにシュバリエルによる艦砲射撃も来ている。

それに足止めをされ続けたら、ヤマトはあのガスに飲み込まれてしまう。

ヤマトを最大速度でプラズマ緩衝地帯から脱出するためには、機動部隊で少なくともメランカを撃墜する必要がある。

パルスレーザー砲があるとはいえ、それでいつまでも防御できるわけではないうえ、速度を維持するために波動防壁の展開もできない。

「駄目です!!ヴァングレイは確かに今の機動部隊の中では一番速度を出すことができますけど、雷を一発でもうけたりしたらそれでお陀仏なんですぜ。おまけに、今出撃したら、ヤマトに置いてけぼりにされるのがオチです」

「けど…」

「まあまあ、チトセちゃん。ここはいつでも出れるようにコックピットで過ごすのが正解だぜ」

整備兵から分けてもらったカロリーブロックを口にしながら、パイロットシートにもたれたソウジが目を閉じながら答える。

ヤマトがガスと恒星という二重のピンチに見舞われていて、おまけに機動部隊では対処できないというのに、あまりにも彼が気楽に思えた。

「ソウジさん…」

「ヤマトには優秀なクルーがいるんだ。沖田艦長や古代戦術長達は冥王星基地で、信頼して俺たちに命を預けてくれた。今度は俺たちが命を預ける番だ」

 

-ヤマト 独房-

「今、ヤマトはガミラスと戦闘に入った。揺れたり、明かりが消えたりするかもしれないが、あまり慌てないでくれよ」

独房を2人の保安兵と共に警備している星名が中にいる少年兵に声をかける。

冥王星基地でキンケドゥによって捕まってから、彼はノーマルスーツを脱ごうとせず、食事のときを除いて、ずっとヘルメットをつけている。

伊東や星名による聴取を受けているときも同じで、ずっと沈黙を保ち続けている。

「…どうせ、無駄だ」

「ん…?」

初めて少年兵の声を聞いた星名は驚きながら独房の小さな鉄格子から彼のヘルメットに隠れた顔を見る。

「33万6000光年を1年で…?ガミラスや木星帝国が妨害してるのに…バカげてる」

少年兵にはヤマトのクルー達が理解できなかった。

あと1年で地球が滅びてしまうのであれば、新しい居住可能な惑星を見つけ、移住するイズモ計画を実施したほうが建設的だ。

この旅の目的をそれに切り替えれば、ワープができるこのヤマトであれば数多くの居住可能な惑星を見つけることができるかもしれない。

それなのに、そんな可能性のある惑星が近づいても見向きもせずにイスカンダルを目指し続ける。

狂っているようにしか見えなかった。

「確かに、そうかもしれないな。地球を見捨てて、別の星かコロニーを探すのもいいかもしれない…」

「じゃあ、さっさとあの沖田って艦長に進言して…」

「でもさ、ほんのわずかでも故郷を救う可能性があるなら、それにかけたいって思っても、不思議じゃないんじゃないかな?仮に木星が同じような状態になったら、君はどうしてた?」

「…あんな星になんて…未練はないさ」

仮に木星が地球のように恵まれていたのなら、ヤマトのようなことをしていたかもしれない。

しかし、彼が知っている木星は資源に限りがあり、地球では当たり前のように吸うことのできる空気でさえ自分の手で作らなければならなかった。

そんな星に少年兵は愛着を抱いていなかった。

自分たちを導いてくれたドゥガチがいないのであれば、なおさら。

 

-ヤマト第一艦橋-

「島、恒星に向けて最大戦速」

「な…恒星へ向けてでありますか!?」

確かに今のヤマトの逃げ道はあの恒星へのコースしかない。

しかし、恒星に突っ込めば、そのまま太陽にも匹敵する熱で焼き尽くされてしまう。

どちらにしても、死を待つことには変わりない。

「…最大戦速、ヨーソロー!」

島の復唱とともに、ヤマトはパルスレーザーを発射したまま進んでいく。

この命令が何を意味するのかは分からない。

だが、英雄である沖田を信じ、賭けるだけだった。

パルスレーザーの弾幕をかいくぐり、ミサイル攻撃を受けて揺れる船体を持ち直しながら、島は最大スピードのヤマトの舵を握り続ける。

彼の両手にヤマトの1000人以上の兵士、そして地球で待つ人々の命がかかっている。

普段の戦闘の時以上に、ヤマトの舵が重たく感じ、両手に焼けるような熱と震えを感じる。

「島…」

「心配するな、古代!お前は周りに集中していろ!!」

両目に入りそうになった汗をぬぐい、島は目の前の恒星を見る。

太田が設定してくれたコースのおかげで、ヤマトは雷に触れることなく進むことができている。

「熱源反応!主砲、来ます!!」

「島ぁ!」

「く…!!!」

あのビームに当たるわけにはいかない。

島はヤマトを左へ40度倒し、赤いビームをかわす。

「メランカ、突っ込んできます!!」

「何!?特攻か!?」

ヤマトから見て、左側にあるメランカがミサイルを発射することなく、第一艦橋に向けて突っ込んできている。

先ほどの主砲を回避したせいで、ヤマトの第一艦橋が自分からメランカに当たりに行くような格好となってしまった。

「く…くっそおおおおおお!!!」

このままでは第一艦橋が破壊されてしまう。

沖田は冷や汗をかきつつ、じっと接近するメランカを見ていた。

とてつもなく、ゆっくりと時間が過ぎていく。

メランカが当たるか当たらないかというところまで来ていた。

だが、真上から降ってきたピンク色のビームに貫かれ、メランカのパイロットは勝利を確信したまま炎の中に消えていった。

「上からビーム…??」

「これは…!上空にモビルスーツ!?レーダーに反応しないなんて…」

ミノフスキー粒子がないため、通常であればモビルスーツが近づけばレーダーに間違いなく反応する。

おまけに、通信についても異常が発生している。

森はカメラによってそのモビルスーツの姿を見る。

そこには2機のガンダムの姿があった。

 

-ヤマト 格納庫-

「…!?この感覚…」

「どうした?チトセちゃん!?」

「プレッシャー…?でも、敵意を感じない…」

突如として感じた不思議な感覚に驚きを感じながら、チトセは集中してその感覚の正体を突き止めようとする。

「キンケドゥさん…感じますか?この感覚…」

「ああ。今まで感じたことのない感覚だが、敵ではないのかもしれない。こうして意思を伝えてくる感覚…ニュータイプか?」

ニュータイプの力が若干落ちていて、バイオ脳からの声を感じることができなかったキンケドゥでも、今チトセとトビアが感じている感覚を感知することができた。

それが敵意を持っていないということも。

「何か来たって…何が来たんだよ?」

ニュータイプではないソウジには3人が何を感じているのかわからなかった。

ヤマトも新たに出現した2機のモビルスーツについての情報をまだ確実ではないということからまだ全員に伝えられていない。

おまけにレーダーや通信にも異常が発生しているため、伝えるのが非常に困難ではあるが。

チトセは目を閉じ、祈るようにその感覚を放つ誰かに伝えようとする。

(お願い…。地球を守らないといけないの。どうか…私たちに力を貸して…!)

 

-グリーゼ581宙域-

「ん…!?この感覚は…それにここは…」

「ここはいったいどこだ?我々は、木星で量子ワープの実験をしていたのではなかったのか??」

2機のガンダムのうちの1機であるラファエルガンダムに乗っている紫色のノーマルスーツのパイロット、ティエリア・アーデが今の座標を調べ始める。

彼の言う実験が成功したなら、第4衛星であるカリスト付近にいるはずで、少なくとも木星圏から出ることはないはずだ。

しかし、今いるのはグリーゼ581で、木星はおろか、太陽系の外へ出てしまっている。

何度もテストを重ねているのだが、このようなことは彼にとっても、一緒にテストを行っていたもう1機のガンダムであるダブルオークアンタのパイロット、刹那・F・セイエイにとっても初めてのことだ。

「ティエリア、あの灰色の艦から声が聞こえた。助けを求めている」

「助け…?それにこの状況…。我々の知らない組織同士の…いや、未知の文明同士の衝突だというのか!?」

ティエリアの知っている範囲では、今の人類は太陽系の外に出るのはあり得ない話で、仮に出るとしても、地球連邦軍に接収されている外宇宙航行艦ソレスタルビーイングがなければ不可能な話だ。

それが可能な艦同士の戦闘をこの目で見たティエリアがそのように思ってしまうのは仕方のないことだ。

「ティエリア、この声は…確かに…確かにそうだ!地球を守らないといけないと言っている!」

「地球??一体どういうことだ?地球を守るとは…」

「わからない…。だが、彼女たちは声に偽りはない」

「…わかった、できる限りのことをするぞ!」

「了解!」

ダブルオークアンタとラファエルガンダムがヤマトに向けて接近する。

先ほど、特攻したメランカを撃墜したガンダムを敵と認識したメランカはダブルオークアンタにも攻撃を仕掛けている。

「道を開く!君はその灰色の艦と接触するんだ!」

「仕方ないか…」

刹那は両軍に対して、この状況について知りたかった。

だが、あのメランカを撃墜しなければ、ヤマトがどうなっていたかわからない。

その攻撃によって、彼らは完全にこちらを敵と認識してしまった以上はやむを得なかった。

ティエリアはGNビックキャノンを発射し、射線上のメランカを次々と撃墜していく。

そして、開かれた道を刹那は最大スピードで突き進んでいき、ヤマトの第一艦橋と接触回線をつなげる。

「聞こえるか!?俺は刹那・F・セイエイ、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ!事情を説明してくれ!!」

 

-ヤマト 第一艦橋-

「ソレスタルビーイング…ガンダムマイスターだって?」

「話しているのは地球標準語…そして、未知の技術を持つ未知のガンダムか…」

竜馬と鉄也のような大型ロボットではなく、まったく知らないガンダムに乗った、おまけに名前すら聞いたことのない組織の名前を口にした刹那というパイロットの言葉に真田は驚きを見せる。

彼らもまた、同じように別の世界の地球から転移してきたのだろうか。

しかし、竜馬たちと同じように地球標準語を話すというのは単なる偶然なのだろうか。

仮に竜馬が彼らのことを知らないのであれば、刹那達は彼らとは別の世界から来たということになる。

このような同じ言葉を話すという偶然があり得るのだろうか。

だが、今はそのようなことを考えている場合ではない。

「相原!こちらに敵意はないことを伝え、保護を申し出ろ!」

「了解です!ええっと…ソレスタルビーイングのパイロット、こちらは地球連邦軍のヤマト、これより貴官らを保護する!下部のハッチを開くため、急ぎ着艦せよ!!」

ヤマトの速度とガスのことを考えると、これ以上2機のガンダムを放置するわけにはいかず、ヤマトの中に入れて安全を確保させた方がいいと考えた。

だが、驚くべきは接触しているダブルオークアンタだ。

バックパックとつながっているシールドに搭載されているGNソードビットで展開したGNフィールドによって第一艦橋と自機の防御を行いつつ、最大船速で動いているヤマトから少しも離れていない。

ヴァングレイを上回るスピードを誇るそのモビルスーツを真田はじっと見ていた。

(ガンダム…別世界のガンダムか…)

 

-グリーゼ581宙域-

「こちら刹那・F・セイエイ。保護の申し出に感謝する!しかし、まずは障害となっている敵部隊を可能な限り撃破する!」

シールドに搭載されているGNビームガンでメランカが発射してきたミサイルを撃ち落としたダブルオークアンタがヤマトを離れ、別のメランカをGNソードVで真っ二つに切り裂く。

「GNビックキャノン、高濃度圧縮粒子解放!!」

続けてティエリアは再チャージを完了したGNビックキャノンをポルメリア級に向けて発射する。

「な、なんなんだ…なんなんだ、あの人型機動兵器はーーーー!!??!」

突然現れたラファエルガンダムとダブルオークアンタの未知の性能への疑問を叫びながら、ポルメリア級の艦長はほかのクルーもろとも光に包まれていった。

母艦が沈み、帰る場所を失ったメランカはそれでも戦いを辞めず、ヤマトや2機のガンダムに攻撃を仕掛けてくる。

「ティエリアは先にヤマトへ!」

「了解だ!刹那もすぐに来い、トランザム!!」

刹那に背中を任せたティエリアはラファエルガンダムに搭載されているトランザムシステムを起動する。

機体内部に蓄積された高濃度の圧縮粒子を全面開放し、3倍以上のスピードを獲得し、赤く染まったラファエルガンダムは一気にヤマトへ向けて突っ込んでいく。

「モビルスーツであんなスピードを!?」

「ハッチを開け、急ぎ収容せよ!!」

沖田の指示により、ヤマトのハッチが開き、ラファエルガンダムはトランザムを維持したまま着艦した。

一方、残りのメランカを撃墜した刹那もまたトランザムを発動する。

赤い粒子を放出するラファエルガンダムとは違い、緑色の粒子をバックパックとシールドから出しているダブルオークアンタは膨大なGN粒子を放出しながら機体を赤く染めていく。

そして、圧倒的なスピードでヤマトを追い越していき、それに突撃しながら攻撃を続けるシュバリエルに肉薄する。

「攻撃する力を奪う!!」

GNソードVで主砲と魚雷発射管を切り裂き、シュバリエルの攻撃能力を奪うと、再び猛スピードでヤマトへと戻っていき、そのまま開いているハッチから着艦した。

「馬鹿な…」

「ヤマト!こちらに接近してきます!!」

古代ギリシャ演劇の悲劇で用いられたデウス・エクス・マキナのような展開に呆然とするシュルツだが、クルーの言葉で正気を取り戻す。

破壊されたのは武器のみで、シュバリエルはまだまだ航行することができる。

このまま突撃し、体当たりすることができれば、ヤマトの速度を緩めることができる。

もう自分たちの生存が勝利への必要条件にはなっていない。

ヤマトが沈みさえすれば、自分たちの勝利だ。

「最大戦速でヤマトに突っ込め!」

「了解!!」

その思いはシュバリエルのクルー全員も同じだ。

シュルツの命令を聞き、すぐにシュバリエルは速度をさらに上げていき、ヤマトへ向けて突っ込んでいく。

冥王星基地で死んだヤレトラーをはじめとする同胞と故郷に残してきた家族のため、負けるわけにはいかなかった。

「敵旗艦、特攻を仕掛けてきます!!」

「速度そのまま!バレルロール!!」

「了解!!バレルロール!!」

傾いたまま前進していたヤマトの角度がさらに第一艦橋を軸に左へ傾いていく。

巨大なヤマトの船体が上下さかさまとなり、シュバリエルの真上を通過していく。

「か…回避されました!」

「このままでは、我々がガスの中に…!!」

まさかのヤマトの曲芸によって最後の特攻が回避され、ガスがシュバリエルに迫ってくる。

ブレーキをかけ、回頭して追いかける時間をあのガスは与えることなく、シュバリエルを飲み込んでいく。

「ザルツ、万歳!!」

「ザルツ、万歳!!」

死を覚悟した兵士たちの故郷と自らの民族の栄光と安寧を願う声が響く中、シュルツは目を閉じる。

(すまん…ヤレトラー…。すまん、ライザ、ヒルデ…。だが、ヤマトよ。お前たちが進む先も地獄。先に地獄の炎の中で待っているぞ…)

シュバリエルがガスの中で分解されていき、その姿を消していった。

「敵旗艦、ガスに飲み込まれて消滅しました」

「恒星への進路を維持。このまま突っ込む」

「了解…!」

敵が全滅したことで、ヤマトの道を阻む存在はいなくなった。

しかし、シュバリエルを吸収したガスは膨張し、速度を上げてヤマトに迫ってきている。

すでにヤマトの最大戦速を超えていた。

「もうすぐ、恒星です…」

「よし、このまま恒星の表面を沿うように進め」

「りょ…了解…!」

恒星に接近したことで、ヤマトの艦内温度が90度以上まで上昇していく。

ヤマトに備え付けられている艦内環境制御システムが温度を一定値まで下げようと起動しているが、あまりの温度の高さに処理が追い付いていない。

「艦長、波動防壁を展開してはいかがでしょう?このままでは艦内温度が限界を超えてしまいます」

このまま艦内温度が上昇したら、10分から20分の間にクルー全員が干からびてしまう。

波動防壁を使えば、少なくとも10分程度は時間を稼ぐことができる。

「その必要はない。全員船外服を着用。このままエネルギー消費を最小限に抑えて進む」

 

-ヤマト 格納庫-

「船外服を持ってきました!みなさん、急ぎ着用してください!!」

船外服に身を包んだ原田が整備兵たちにそれらを配布する。

ソウジたちヤマトのパイロットが着用するノーマルスーツは船外服と同じく、高温から身を守れるようになっているため、問題はない。

しかし、それでも体感温度で30度以上あるため、暑いことに変わりないが。

「うげえ…めちゃくちゃ熱いぜ…」

「弱音を吐くな!心頭滅却すれば火もまた涼しだ!!」

「それ、限度ありますぜ?」

加藤のアドバイスに余計な一言を入れつつ、ソウジはヴァングレイのクーラーをつける。

1度か2度くらいしか下がらないものの、ないよりましだ。

そんなヴァングレイのコックピットの前にノーマルスーツ姿の刹那がやってくる。

「ん?あんたが謎の正義の味方さんのパイロットか?」

「そうだ。そのモビルスーツのサブパイロットか?俺に声をかけてくれたのは」

刹那の目がサブパイロットシートに座っているチトセに向けられる。

「え…?もしかして、あなたが…」

「俺は刹那・F・セイエイ。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ」

「ソレスタ…よくわからないが、とりあえずありがとよ。ヒーローさんよ」

よくわからない名前の組織だが、少なくとも彼らによって自分たちは助かったため、ソウジは素直に刹那に礼を言う。

また、ティエリアはトビアとキンケドゥから話を聞いていた。

「ニュータイプ…?私たちの世界でいうイノベイターのことだというのか?」

「イノベイター?何なんです?それは」

「脳量子波によって他者と表層意思を共有することのできる新人類のことだ。今、ヴァングレイというモビルスーツのパイロットと話している刹那がそのイノベイターだ」

「ヴァングレイはモビルスーツに見えるが、モビルスーツではないらしいがな…」

ティエリアの話を聞いたことで、なぜ自分たちにあの感覚が発生したのかの理由が理解できた。

おそらく、原因不明の事故で転移した刹那が呼びかけたからだろう。

そして、真っ先にチトセが彼にメッセージを送ってくれたことで、こうして自分たちのもとへ来てくれた。

「ちなみに、ティエリアさんは違うんですか?」

「うん…?」

「いえ、あなたからも刹那さんと似たような感覚がして…」

「僕はイノベイターじゃない。イノベイターとは似て非ざるもの…と認識してもらえれば十分だ」

「は、はぁ…」

トビアにはそれがどういう意味なのか理解できなかった。

しかし、彼自身も答えたくないのだろうと思い、これ以上聞くのはやめた。

「それよりも、キンケドゥ・ナウ。あの如月という少女が言っていた、地球が危ないという話だが…」

「ああ。今俺たちを攻撃している緑色の戦艦や戦闘機を使う連中、ガミラスのせいで、あと1年で人類が滅びてしまう。人類だけではない、地球でまだ残っている数多くの動物や植物もだ」

「(着艦した後、トレミーと連絡を取ることも、ヴェーダにアクセスすることもできなかった…。ということは、我々は平行世界へワープしてしまった、ということか…)そうか…。だが、今後のことは…」

「そうだな。すべてはヤマトがこの絶体絶命の危機を乗り越えてからだ」

 

-ヤマト 第一艦橋-

沖田達は佐渡が持ってきた船外服に身を包んでいる。

既に艦内温度は100度を突破している。

シュバリエルを飲み込んだガスは既に大和をあと一歩のところにまで迫っている。

「これは…ガスが恒星へ!?」

シャッターによって閉鎖されているため、ヤマトのカメラからしか外の様子を目視することができない状態になっている中、森はガスの異変に気付く。

恒星に近づいたことで、ガスがヤマトではなく恒星を飲み込もうとそれに近づいていき、逆にフレアによって焼き尽くされていた。

「おそらく、あのガスはより強く、より大きなエネルギーに反応するようだ。そして、身の程知らずに恒星を飲み込もうとして、逆に焼き尽くされて消滅する…」

これで、ガスの脅威は去った。

しかし、ワープ終了とほぼ同時に最大船速で戦闘を繰り広げてしまったために、エネルギーが大幅に消耗している。

波動エンジンのおかげで、ある程度時間がたてば、エネルギーの問題はどうにかなるものの、問題はその時間だ。

今のヤマトのエネルギー残量ではこの恒星の重力から逃げ出すことができない。

エネルギーが回復するまで、今度は雷ではなくフレアを回避しながら慣性に任せて進むしかない。

フレアに飲み込まれたらどうなるか、それはもうわかりきっていることだ。

「うぅ…!?」

「艦長!?」

「なんでもない…暑さに、やられただけだ…!」

胸を抑えつつ、脂汗をかきながら沖田は駆け寄ろうとした森を制止させ、姿勢を整える。

(ふっ…ワシも衰えたものだ…。1000人を超えるヤマトの仲間たちの頂点に立っていながら、自分の体1つ自由にできんとは…)

この不調は地球を出発する前からすでに起こっていた。

佐渡の助けを借り、地球である程度手術を受けたことで、ヤマトでの旅に支障をきたさない程度には回復したが、それはあくまで一時しのぎ。

死んでいった若者のこともあり、沖田は既に死を覚悟していた。

だが、死ぬのはコスモリバースシステムを手にし、あの青い地球を取り戻した時と決めている。

それを成し遂げるまでは、死ぬわけにはいかない。

(イレギュラーが発生すれば…今のヤマトは持たん。エネルギー…せめて、エネルギーがあれば…)

「何…艦長!航空隊の叢雲三尉より意見具申が!」

「意見…?」

 

-ヤマト 独房-

「…めちゃくちゃ暑くなってるけど…どうなってるんだ?」

「今、ヤマトは恒星の周りを飛んでいるんだ。ノーマルスーツは脱がないほうがいい。脱ぐと余計に暑くなるから」

「…このまま脱いで死んだ方がいいかもな」

少年兵には生きる理由がない。

ドゥガチが死に、故郷である木星から離れてしまい、仲間ももういない。

自分が死んでも悲しむような人間はいないなら、と少年兵はノーマルスーツを脱ごうとする。

「自殺は許さないよ」

「…」

独房に入ってきた星名によって両腕を拘束され、手錠をかけられる。

両腕を縛られ、バイザーを開けることすらできなくなった少年兵はじっと星名をにらむ。

「俺はもう、一人なんだ。生きようが死のうが勝手だろう?」

「捕虜になっている以上、そんな自由は認めない。いや…たとえ認められたとしても、僕が許さない…」

「何…?」

「ガミラスの遊星爆弾で、数えきれない人たちが生きたいと思っていたのに、生きられなかった。そんな彼らの分も生きる義務がある。僕たちにも…君にも」

星名の言葉に少年兵は驚きを見せた。

地球人が地球を滅ぼそうとした自分に生きろ、というはずがないと思っていたからだ。

確かに、クロスボーン・バンガードは木星帝国兵に対して、必要以上の殺傷を避け続けてきた。

だが、それはベラ・ロナの方針であり、彼らがイレギュラーであったためだ。

しかし、目の前にいる保安部の兵士は自分に生きろ、と言ってきた。

彼らの故郷を滅ぼそうとした悪魔である自分に対して。

「…エリン」

「え…?」

「エリン・シュナイダー…俺の名前…」

この恒星の炎をヤマトが脱出できるかわからない。

しかし、なぜか星名には自分の名前を知っておいてほしいと少年兵は思っていた。

 

-ヤマト 格納庫-

「あー、正確に言えば、俺じゃあなくて99から…なんスけどね」

ヴァングレイのモニターに古代の姿が映り、ソウジは右拳を作り、親指を上に向ける。

「99から…?」

「ええ。それが…収容したダブルオークアンタを利用してエネルギーをチャージできるって言ってます!」

「馬鹿な…そんなことが!?」

別世界のモビルスーツであるダブルオークアンタの動力源は当然のことながら、ヤマトの波動エンジンとは全く違うものだ。

大量の電力を使ってエンジンを起動するのとでは意味が全く違う。

それに、百歩譲ってダブルオークアンタのエネルギーを使うにしても、問題は変換効率だ。

変換効率が低いと焼け石に水で、それをチャージしても雀の涙程度にしかならない。

地球の文明の産物と思われるそれと地球外の技術で作られた波動エンジンのエネルギー変換効率が未知数である以上、結果がどうなるかわからない。

「それが、できるみたいなんです!ヴァングレイで波動エネルギーに変換して、ヤマトにダブルオークアンタのエネルギーをヤマトに送り込みます!」

「ヴァングレイにそんなシステムが…!?」

真田や新見の手で、何度もヴァングレイの解析が行われたものの、そのようなシステムがあるという話は聞いたことがない。

よく考えると、全員ヴァングレイの動力源が何なのかもわからなかった。

推進剤の補給をしたことがなく、整備でやったこととしたら武器や装甲の修理程度だ。

真田曰く、『調べれば調べるほど謎の深まる人型兵器』であるヴァングレイの謎がより一層深まる格好となった。

「…それで、チャージが完了するまでにはどれほど時間がかかる?」

「ええっと…99が言うには、トランザムって機能を使うことで2分くらいは…」

トランザムは機体に蓄積された高濃度圧縮粒子を全面開放するシステムである故、稼働にはタイムリミットがあり、それを越えてしまうとしばらくの間、トランザムも使用できなくなる。

ダブルオークアンタは短時間しかトランザムを使っていないため、再びトランザムを使用することができる。

問題はこの99が今になって明かした機能の存在を信じるか否かだ。

 

-ヤマト 第一艦橋-

「自分から機体のシステムをいろいろ説明できるのに、なんで今までそのシステムを話さなかったんだ!?信用できない!」

南部にはその99があまりにも身勝手に思えて仕方がなかった。

「く…フレアが来る!!」

こうしている間にも恒星からフレアが発生し、島はヤマトを慣性航行を続けたままそれを回避させる。

小さいフレアであれば、そのやり方で済ませることができるが、問題はヤマトを飲み込むほど大きなフレアが発生したときだ。

そうなると、今のヤマトでは回避することができない。

沖田は機関室と通信をつなげる。

「こちら機関室です」

電話には藪が出た。

「徳川機関室長に伝えろ。強制注入器を作動させ、いつでも波動砲を発射できるように準備をせよと」

「りょ、了解です!」

「艦長…まさか!?」

「今の我々にできることは…今できることのすべてをやりきることだ。叢雲総司…いや、システム99の意見具申を認証する!」

 

-ヤマト 格納庫-

「よし…2本のケーブルの用意、できました!」

「ヴァングレイと波動エンジンの接続はどうするんだ!?」

「ヴァングレイをそこまで移動させて、そこで接続します!」

「なら、ダブルオークアンタも随行する!ケーブルの長さを可能な限り短く!」

ある程度耐熱性を持った設計となっているこの黒いケーブルでも、フレアの熱を受けたら溶けてしまう。

奇跡的だったのが、ダブルオークアンタにもそのケーブルを接続できることだった。

どちらも地球連邦軍製のものではないため、もしそのケーブルの規格が合わなかったら、何もかもがパーだった。

2本のケーブルを持ったヴァングレイとダブルオークアンタの出撃準備が完了する。

「頼むぜ…お前ら!」

「了解了解、ご褒美楽しみにしてますぜ、加藤隊長!叢雲総司、如月千歳、ヴァングレイ、出るぜ!」

「ダブルオークアンタ、刹那・F・セイエイ、出る!」

2機のロボットが格納庫から飛び出し、ヤマト後方へと向かう。

外部からの電力を供給するための接続口が船外に設けられており、ヴァングレイがチトセが制御するサブアームによって、ケーブルがダブルオークアンタと自らに接続される。

もう1本のケーブルもヴァングレイとヤマトに接続される。

「ケーブルの耐熱性とこのフレアの温度を考えて、1分半が限度です。その間に…」

「了解だ。頼むぜ、刹那のあんちゃん!!」

「了解。トランザム!!」

刹那の声と同時に、2機の太陽炉の高濃度粒子が解放され、それによって生み出されるエネルギーがケーブルによってヴァングレイに送り込まれる。

(エネルギー伝達を確認。あとは私でエネルギーの変換とヤマトへの伝達を行います)

ヴァングレイの動力源を通ったダブルオークアンタのエネルギーが波動エネルギーに変換され、ヤマトに注ぎ込まれていく。

30秒が経過し、ケーブルの外装が赤熱し始める。

「あともうちょい…頼むぜ!!」

 

-ヤマト 第一艦橋-

「まずい…イレギュラー発生!巨大なフレアがヤマト前方に!」

恒星の中から巨大なフレアが壁のように生まれ、ヤマトの行く手を阻む。

まるで、ガスに宿ったシュルツらザルツ人の執念に恒星がとりつかれたかのように。

「古代、波動砲をフレアに向けて発射せよ!」

「な…フレアに向けて、でありますか!?」

「復唱、どうした!?」

「りょ、了解!波動砲、フレアに向けて発射!!」

既に機関室での波動砲発射準備は完了し、あとはエネルギー充填が終わるのを待つだけとなっている。

「薬室内、タキオン粒子圧力上昇!」

「ターゲットスコープ!オープン!照準補正開始!」

「総員、対ショック、対閃光防御!」

波動砲の銃口が巨大なフレアの壁に向けられる。

完全にエネルギーが回復したわけではないが、ダブルオークアンタとヴァングレイのおかげで、どうにか波動砲を一発は発射できる。

「ヴァングレイとダブルオークアンタより報告!フレア熱に耐えられず、ケーブル溶解!これ以上の外部からの波動エネルギー供給が不可能に!!」

「充分だ。これでここを突破できる!波動砲…発射!!」

「波動砲…てぇーーーー!!!!」

波動砲の2回目の引き金が引かれ、膨大な波動エネルギーがフレアに向けて発射される。

木星で浮遊大陸を完全破壊したそのメギドの炎によって、フレアの壁が貫かれ、ぽっかりと丸い大穴が開く。

それに吸い込まれるようにヤマトは入っていき、その穴が閉じる前にそこの突破に成功した。

「ダブルオークアンタ、ヴァングレイ収容後、ただちに恒星を離脱せよ…ふぅぅ…」

危機を乗り越えたことで、少し気が抜けたのか、沖田の全身から力が抜けていく。

「真田…少し席を外す。後のことは頼めるか?」

「ええ。お任せを…」

艦長席が動き出し、上部に設置されている艦長室へと移動していく。

とある事情で、沖田はすぐに艦長室と第一艦橋を移動できるようにこのような仕組みがなされている。

波動砲でかなりエネルギーを消耗したが、それでも恒星の重力から逃げ、そして離れるだけのエネルギーは残っている。

しかし、真田には大きな疑問が残っていた。

(ヴァングレイが波動エネルギーを作り出した…。一体、あの欠陥兵器は何のために…)

 

-大ガミラス帝国 総統執務室-

「まさか…」

「ヤマトが恒星を突破しただと…!?」

デスラーが作った完璧な作戦が破られたことに、参加者たちの間に動揺が広がる。

しかし、デスラーは愉快そうにそのヤマトの姿を見ていた。

今の映像はアーグから送られているもので、今映像を送っているアーグが最後の1つとなっていた。

それがフレアに耐えきれず消滅し、映像がブラックアウトした。

「シュルツもヤマトも…見事な戦いぶりだった。楽しいゲームだったよ。ヒス君」

「はっ…」

「戦死者には二階級特進、遺族に対しては名誉ガミラス人の権利を与えたまえ」

「サー・ベルク(了解!)では…これから本国に戻ってくると思われる生き残りに関しては…」

「彼らは無事に映像とデスラー魚雷の貴重な実戦データを届けてくれた。よって、彼らとその家族にも名誉ガミラス人の権利を与えたまえ」

名誉ガミラス人は二等ガミラス人の本人かその親族がガミラスに対して多大な貢献をしたことへの褒美として与えられる権利であり、それを得ると本国人と同等の権利が与えられる。

当然、シュルツが最後まで気にかけていた妻子にも同様の権利が与えられるため、彼の死は無駄ではなくなった。

「そういえば…セレステラ。あのテロンの戦艦の名前は何だったかな?」

「確か…ヤマトだったと…」

普段は敵の将軍や戦艦の名前をたとえ強敵であったとしても覚えようとはせず、興味も抱かなかったデスラーが珍しい疑問を示したことに、セレステラは驚きつつも、彼の疑問に答える。

「ヤマトか…覚えておこう」

「ふむ…」

「どうされましたか?タラン国防相」

「フレアに大穴を開けたあの武器…兵器開発局で試作中の物と似ている…」

「本当か!?兄さん…!」

ヴェルテの言葉にカデルが驚きを見せる。

仮に彼の話が真実であるとしたら、ヤマトは何らかの手段で波動エンジンを手にしているということになる。

そして、波動エンジンはガミラスレベルの技術力がなければ作れない代物。

技術が遅れている地球人に作れるものではないはずがない。

しかし、その波動エンジンを持っていると考えると、冥王星基地を陥落させたこと、そして今までできなかったワープが行えたことも十分説明がつく。

(さて…テロン人よ。次はどのような楽しみを私に見せてくれるかな?)




機体名:アーグ
正式名称:無人観測機OOP023 アーグ
建造:大ガミラス帝国
全高:8.0メートル
全幅:14.3メートル
武装:なし
主なパイロット:なし

大ガミラス帝国が20年前から使用している観測ポッド。
試作兵器のデータ収集を目的として扱われているだけでなく、暗礁地帯における早期警戒管制システムとしての役割も担っている。
小型であるものの、プログラムや中継している艦の存在があれば、グリーゼ581宙域からガミラス本国といった長距離に観測データや映像の通信を行うことができる。
コストパフォーマンスが良く、ステルス性も高いことから、新たな観測ポッドが開発されている現在でも使用されている。
なお、アーグはガミラス語で『目』と意味する。

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