-ヤマト 下士官用居住部屋-
「まぁ…まず見てほしいのは、こいつだな…」
ジャケットのポケットの中にあるボロボロの写真をチトセに見せる。
写真には地球連邦軍の軍服を着たソウジと白髪が生え始めた夫婦、そして幼い少女の姿が映っていた。
まだパイロットとして宇宙で出撃していないためか、日焼けをしておらず、若干薄い黄色の肌をしている。
「高校卒業と同時に、俺は軍に入った。ま…あんまり勉強が得意じゃなかったからな、それに…親父のような生き方をしたくないって思ってさ…」
「どうして、そう思ったんですか?」
「親父は今じゃあなくなっちまった企業の社員で、いつもお客やお偉いさんにぺこぺこしてた。そんな頭を下げてばかりの生き方をしたくなかったのさ…。で、1年間月で訓練をした後にモビルスーツパイロットとして第一次火星沖海戦で初陣を飾ったのさ。ま…乗っていたのはポンコツのヘビーガンだったけどな」
その当時の時の戦いを思い出す。
戦場の花形であったはずのモビルスーツがガミラスの艦隊の堅牢な装甲と高密度な攻撃によってなすすべもなく敗れ去っていく光景を。
その戦闘でソウジはどうにかガミラスの戦闘機を2機撃墜することができたが、戦艦に傷を負わせることはかなわなかった。
そして、その戦いから1か月後、休暇をもらったソウジは実家へ帰ろうとしたが…。
「初陣の戦いを生き延びたことを親父やおふくろ…妹の百合に伝えたかったが…できなかった」
「できなかったって…まさか…!」
「ああ…。みんな死んでしまったからだ。家族だけじゃない。俺が住んでいた町は壊滅して、友達も…親戚も…恩師も、みんな灰になってしまった」
「ソウジさん…」
ガミラスの遊星爆弾によって家族をすべて失ったり、恋人や親友を失ったという人間は多い。
しかし、ソウジは恋人を除くそのすべてを失ったのだ。
「そして、ガミラスとの戦いが続く中で、仲間も次々と死んでしまった。で、1人になった俺が入ったのが、このジャケットがトレードマークの月面航空隊第25部隊だ…」
「25部隊…」
月面最後のモビルスーツ部隊であり、メ号作戦で全滅した部隊。
この話は新兵であり、地球から出たことのないチトセは加藤に教えられるまで知らなかったことだ。
加藤はその時、生き残りが1人だけいるという話を聞いていたが、それが誰なのかは教えてもらえなかった。
浮遊大陸の戦いで、ソウジが25部隊の十八番戦術と宣言してあの攻撃を行っていたため、もしかしたらと思っていたが…。
「もしかして、ソウジさんが…」
「そう。俺が月面25部隊最後の生き残りだ。隊長、イェーガー、クレイ、バーディ…みんな冥王星の海で死んでしまった。おまけに俺は…」
ソウジはジャケットとシャツを脱ぎ捨て、自分の体をチトセに見せる。
数多くの傷跡で埋め尽くされたソウジの体を見て、チトセは両手で口をふさぐ。
「俺の機体も撃墜されたけど、運よくキリシマに回収された。体中血まみれで内臓もボロボロ…普通の患者なら安楽死が妥当なほどの傷だったみたいだ…。でも、軍医が懸命に治療してくれたおかげで、このとおり今も生きてるってことだ。ま…俺は1人になってしまったけどな…」
1人になった、と寂しげにつぶやくソウジ。
いつも通りの口調で話そうと心掛けているようだが、何度も大切なものを失い続けてきたソウジにとって、この話をするのは辛いことのようで、表情が険しくなっている。
なお、ソウジの受けた傷は現代であれば年単位での治療が必要で、治ったとしても後遺症が残るほどのものだ。
だが、このようにパイロットを再びこなせるくらいに回復できたのは、新正暦となってから2000年以上積み上げてきた医療技術の賜物だ。
「でも、傷跡なら佐渡先生に言えば消してもらえて…」
「消したところで、死んだ奴らが戻ってくることはないからな…。今でも夢を見る…。死んだ家族や仲間たちのことを…。そのたびに、俺の体の傷跡がうずきだすのさ。まだ傷が治っていないかのように…」
話している間に、再びうずきだしたのか、ソウジは脂汗をかきながらベッドに座る。
「おまけに、最近見始めた夢の中では…加藤隊長や古代戦術長、玲ちゃんといった仲間たちまで俺を残して死んでしまう光景を見る。そして、ヴァングレイが損傷して、後ろを向くと…」
更に痛みが激しくなったソウジは口を閉ざす。
この後の言葉を想像できたチトセはソウジの抱える大きな悲しみと苦しみを感じ、目から涙をこぼしていた。
「はあ、はあ…で、死んだみんなが口々に…なんでお前だけ生きていて、俺たちだけが死ななければならないんだって言ってくるのさ…。そして、両腕を使って這いながら俺を追いかける…。俺は反論もできずに、逃げるしかなかった…」
「ソウジさん…」
「俺はさ、あんまり人と関わっちゃあいけないのさ。俺とかかわった人間はみんな死んでしまう。だから…」
「そんなの…そんなのおかしいですよ!!」
ソウジの言葉を遮り、チトセは涙を流しながらソウジに向けて叫ぶ。
「チトセちゃん…」
「ソウジさんから…みんなからすべてを奪ったのはガミラスです!どうして…どうしてソウジさんが悪いみたいになるんですか!?そんなの…おかしいですよ!!」
大粒の涙を流し、ソウジの胸を何度もたたきながらチトセが泣き出す。
徐々に叩く腕の力が弱くなっていき、最後には叩く気力さえ失っていた。
「ソウジさん…私も…ガミラスのせいで家族を全部なくしちゃったんです。父さんも母さんも…妹のユウちゃんも…」
「チトセちゃん…」
「だから…みんなが死んだのは自分のせいだって、思わないでください…。それじゃあ、私だって、自分を責めなきゃいけなくなってしまうじゃないですか…」
家族を失ったチトセにはソウジの大事な人を理不尽な形で失う悲しみと苦しみを理解できる。
チトセは高校時代の友人などで生き残っている人がいるため、1人ではないという実感があるのだが、ソウジは違う。
今のソウジにとって、知り合いがいるのはこのヤマトの中だけだ。
「…そう、だよな…。こんなかっこ悪い姿ばっかり見せていたら、みんなに悪いよな…」
「ソウジさん…」
「ありがとな、チトセちゃん。少しだけ、元気になれた。きっと、その大きな胸を押し付けれくれたからか?」
いつも通りの笑みを浮かべたソウジの目線がチトセの胸の谷間に向かい。
思いっきり体を密着させてしまったことで、チトセの大きな乳がソウジの胸に密着してしまっていた。
「…キャーーーーー!!!」
一気に顔を真っ赤にさせたチトセはソウジをビンタし、部屋を飛び出してしまう。
1人残されたソウジは真っ赤になった頬を手で抑える。
「痛た…これは何も言わないのがよかったか…?」
ベッドで横になり、痛む頬を手でそっと撫でる。
頬の痛みに神経を集中させたせいか、傷跡から感じる痛みは治まっていた。
(チトセちゃん、ありがとうな…。けど、俺は…)
-ヤマト 食堂-
「諸君の奮闘により、冥王星基地は陥落した。心より感謝する。そして、これより…イスカンダルへの航海と地球への帰還の成功を願い、太陽系赤道祭を開始する!」
食堂に沖田の声が響き渡り、多くのクルーやパイロットが集まっていた。
OMCSによって生産された食材をふんだんにつかったケーキやパフェ、ステーキなどがあり、普段は食べられないようなリッチな料理に一部のクルーは舌なめずりをする。
「だが、航海はまだ始まったばかりだ。これが終わったら、地球を振り返るな!前を見ろ!イスカンダルまでの道を見据えるんだ!赤道祭の成功を祈る!乾杯!!」
沖田のコールと同時に、クルーたちは持っているコップやグラスを周囲の仲間たちのそれとぶつけ合う。
「うまい…すごくうまい…!」
「トビア、こっちの料理もおいしいわ。一緒に食べに行こう?」
「うん、今行く!」
このような料理や祭りとは無縁の暮らしが続いてたトビアとベルナデットにとって、これらの料理はかなり久しぶりに口にするもので、しかもとびきりにおいしいこともあり、2人はいろんな料理を手にし始める。
なお、OMCSについて知っている一部のクルーは野菜には手を付けはするが、肉などには一切手を出さず、カロリーブロックを口にしていた。
「ぷはぁ、うまいのぉーーー!!お前さんも一杯どうじゃ!?」
「私は飲めません」
佐渡に勧められた酒をアナライザーは丁重にお断りする。
そして、彼の眼はメイド服を着た原田に向けられていた。
(あんなふうには、なりたくありませんから…)
「ほらほらーー、加藤隊長、もっと飲んで飲んでーー!!」
「や、やめろ原田!!く、く…苦しい…」
顔を真っ赤にし、メイド服姿で酒が入った瓶を片手にした原田が加藤の首を腕を拘束しながら彼に酒を進める。
酔っぱらっているせいか、腕にかなり力が入っており、だんだん加藤は息苦しくなっていく。
なお、彼女がこうなってしまった犯人は佐渡で、メイド服に関しては太田だ。
酔っぱらった彼女は太田に赤道祭は仮装が恒例とうそをつかれて、それを真に受けてしまっていた。
「いやー、いいですね。隊長。こんなにかわいい女の子にお酒を進められて」
「篠原、ばかなことを言ってないで、助けてくれー!!」
「みなさん、地球との交信の割り当ては1人あたり5分間です!順番は事前に知らせていた通りですから、時間になりましたら通信室へ来てください!次は大沼二等兵です!」
森が地球への交信を希望する面々に次の順番を伝える。
赤道祭が行われている理由の一つがそれで、ヘリオポーズのせいでここから先、地球との交信ができなくなるためだ。
そのため、家族や友人、恋人にしっかりと話せるようにと沖田の提案でこの祭が行われることとなった。
「そういえば、キンケドゥさんはベラ艦長と話すんですか?」
フライドポテトを口にするキンケドゥにトビアが尋ねる。
彼は恋人である彼女と話をするものだとばかり思っていた。
「そのつもりはない」
「え…?」
予想外の言葉にトビアとベルナデットは驚きを見せる。
もしかしたら、これが最後の会話になるかもしれないのに、それでいいのかとさえ思ってしまう。
そんな彼らを安心させるため、キンケドゥは笑みを見せながら言う。
「次に会うときは、生きて帰ってくるときだって決めたからな。それに、俺は必ず帰る」
「気持ちがつながっているんですね」
「ニュータイプとか、そういうのは関係なく、人間として当たり前のことだ」
「人間として当たり前…か」
キンケドゥの言葉がトビアには分かる気がした。
火星でヤマトと出会う前、クロスボーン・バンガード残党の隠れ蓑として機能しているブラックロー運送にトビア宛に荷物が届いていた。
中身はトビアがコロニーで生活していたときに愛読していた漫画で、さらに自分を育ててくれた養父母からの手紙も入っていた。
トビアは幼いころ、両親を事故で亡くしており、養父母からはわが子同然に育ててもらっていた。
クロスボーン・バンガードに加わった後はすっかり連絡ができなくなり、木製戦役が終わったころには自分は死亡扱いになっていて、彼らも自分のことを死んだものと思っているだろうとばかり思っていたトビアにとっては驚きの出来事だった。
手紙には詳しいことはよくわからないけれど、元気でやっていてくれているのならそれでいい、トビアは自分たちの誇りだというような内容が書かれていた。
両親がなぜ自分がそこにいるのを知っていたのかはわからないが、トビアはそのとき、養父母との心のつながりを感じることができた。
「だけど、お前たちは火星に連絡しておけよ?きっと、ウモンじいさんやヨナ、ジェラドが心配しているだろうからな」
「はい…!僕も生きて帰るって誓ってきます!」
「トビア君、ベルナデットちゃん。もうすぐ時間だから、通信室へ」
「ほら、行ってこい!」
キンケドゥに背中を押され、2人は食堂を後にする。
そんな彼らを見ながら、船務科の岬百合亜准尉は星名とともにジュースを飲んでいた。
「盛り上がっているね、みんな」
「地球を出てからは緊張の連続だったからね。いい機会だと思うよ」
「ふーん…」
「な、なに??」
百合亜がじーっと自分を見てきたことに、星名は困惑する。
「じゃあ、星名もちょっとは探検してみたら?例えば、誰もいないところに私を連れて行って…」
「そ、そんな場所…ヤマトには…」
百合亜の言っている言葉から、何かを察した星名は顔を赤くする。
そんな彼の反応を見て、百合亜はクスリと笑う。
「あるでしょ?開かずの間が」
「自動航法室のこと?」
そこは確かに百合亜の言う通り、誰もいないところではあるが、立ち入り禁止となっている。
もしそこに入って、彼女といろいろしてしまい、航行に支障をきたす事態が発生してしまいましたとなると、ギャグでは済まない。
「そういえば、知ってる?あそこって…出るらしいよ。きれいな女の人の幽霊がスーっと」
話題をそらすように、星名はその部屋に関するうわさに話題を変える。
これは自動航法室付近に配置のあるクルーでは有名な話であるが、あくまで噂であり、信ぴょう性は不明だ。
「それ、地球でよく見た」
「ええ!?」
百合亜のまさかの発言に星名はびっくりする。
あの話は宇宙に出てから出始めたうわさであり、地球にいたころに見たという人は誰もいない。
ということは、彼女がそれの第一発見者であり、噂の信ぴょう性を証明する人物になる。
「私…見える体質だから」
「そ、そうなんだ…」
どう反応を返せばいいのかわからなくなった星名はこういうありきたりな返事をすることしかできなかった。
「おひとり、ですか?」
部下である星名が百合亜と話しているように、伊東は集まりから離れて1人で飲み物を口にする新見のそばへ行く。
「こんなところで接触する気?」
「逆にこんなところですからね。新見女史に声をかける身の程知らずのナンパ師にしか見えないでしょう」
「何の用なの?」
伊東に目を向けることなく、新見は飲み物が入ったままのコップをテーブルに置く。
彼とは早い段階で話を切り上げたいと思っていた。
「別に…たまには仕事以外の話でもしようかと思いまして」
「用がないなら接触は謹んで。万全を期するためにもね」
「了解です」
伊東は新見から離れていく。
仕事以外の話、の意味を理解していた新見はじっと伊東の後姿を見ていた。
そんな中、通信を終えた南部がため息をつきながら食堂へ戻ってきた。
「どうした?地球との交信で何かあったのか?」
ほかの面々が決意を新たにする、もしくは泣くのを我慢しながら帰ってくる中、それとはまったく異なる反応を見せている南部のことが気になった島が尋ねる。
「帰ってきたら見合いしろと親に言われました」
「めでたいことじゃないか。親御さんはお前が無事に帰ってくるって信じてるってことだろう?」
これから命がけの航海をする子供に言うことか、と思いながらも息子の帰還を信じる親の存在をうらやましく思う。
もし、父親が生きていて、こういう機会があったら、どんな言葉をかけてくれたのだろうと思いながら。
ちなみに南部は南部重工大公社の御曹司であり、ヤマトの建造にかかわっている。
ヤマトに乗り込んだ時には、両親の反対を押し切る形となったため、叱られるか親子の縁を切られるかと思っていた南部にとって、彼らの許しはありがたいことだった。
だが、見合い話はあまりありがたくないことだった。
「そうは言いますけどね、僕には心に決めた人が…!」
「な…マジか!?」
「誰なんですか?その人は!」
まずいと思い、口を閉ざした南部だが、時すでに遅し。
一部のクルーが彼の話を聞いてしまい、その人がだれなのかを尋ねてくる。
いつもの軽率さが出てしまったと後悔する中、徳川が彼のそばまでくる。
「そうか…南部は嫁さんを探していたのか」
「はいっ!?」
まるで地球を救うためではなく、このような個人的な理由でヤマトに乗ったといわんばかりの徳川の発言に驚きを見せる。
確かにその通りではあるが…。
「残念じゃな…もう少し待ってくれるのなら、ワシの孫娘を紹介してやったというのに…」
「参考にお聞きしますと待つって…どれくらいです?」
「そうだな。あと20年くらいかな」
「まだ子供じゃないですか!?」
孫娘、という言葉で予想はできていたが、そんなに待つ気にはなれない。
冗談だ、と言いたげに徳川は笑みを浮かべて酒を飲む。
「それなら、俺の弟の次郎のほうがお似合いかもしれないな」
「だがな…ワシらがイスカンダルにたどり着かねば、アイ子も島の弟も南部の親御さんも…すべて終わりなんじゃ」
徳川の言葉に南部たちは沈黙する。
悲しい表情を浮かべたクルーの中には家族や恋人、友人の死をこの交信で知ったという人が多い。
「…僕も、家族と話して、それを実感しました」
「頑張ろうな、みんな。地球を…ワシ達の大事な人たちを救うために」
「…はい!」
-ヤマト 格納庫-
「ソウジ、お前はいかなくていいのかよ?」
「ん…?」
格納庫では、ソウジと鉄也、竜馬がそれぞれの愛機のメンテナンスをしていた。
鉄也はそれだけでなく、被弾した装甲のチェックも行っており、ガミラスの兵器による攻撃がどれほどグレートマジンガーにとって脅威となるのかを確かめていた。
「俺たちとは違って、お前はこの世界の人間だ。だったら…」
「いつでも出撃できる人間はいたほうがいいだろうって思ってな」
「だが、交信は…」
「交信するような人はもう…ヤマト以外にはいないのさ」
「…すまない」
ソウジの身の上を察した鉄也は軽率な発言だったと彼に謝罪する。
「気にするなよ、ずっと前のことさ…」
「お前、背負ってるんだな…顔に見合わず」
「うるさいよ。そっちはムショ暮らしで顔の筋肉が固まっちまったのか?」
「なに…?」
手を止めた竜馬はじっとソウジをにらみつける。
彼の言葉にカチンときており、彼がすぐそばでそんな発言をしていたら、本気で一発殴っていたところだ。
「無実の罪だっていうなら、堂々としてろよ。壁を作って、自分を閉じ込めんなよ。ましてや、ここはお前のことを知らない世界なんだぜ?」
ソウジの言葉に竜馬はハッとする。
竜馬はいつの間にか、この世界が自分のいる世界とは違うということを失念していた。
インベーダーとの戦争もなく、自分が刑務所に入ったということを知る人も当然いない。
それなのに、冤罪とはいえ服役することになってことで、どこか余裕をなくしていたのかもしれない。
そのことに気付いた竜馬はフッとこれまでの自分に対して一笑する。
「そうだな、お前の言うとおりだ」
「おお、ちゃんと笑えるじゃないか。…お世辞にも、チャーミングとは言えねえけどな」
ヴァングレイから出て、ハイパー・ハンマー・ランチャーのそばにいる竜馬の顔を見たソウジは安心したように軽口をたたく。
「つくづく口の減らねえ野郎だぜ…」
-ヤマト 作業艇-
「すいませんね、戦術長に如月三尉、山本三尉。修理を手伝ってもらって」
修理し終えた個所のプログラムをチェックする榎本が古代とチトセ、玲に礼を言う。
「気にしないでください。自分は手が空いていますので」
「私も、交信が終わってますし、食べ過ぎちゃって、こうして動かないとまずいと思いましたから…」
「まぁ、こっちとしてはおかげで若いのを赤道祭へ行かせてやれるんで、助かりますけどね」
古代の身の上を知っている榎本は古代たちを深く追及することはしなかった。
「じゃあ、俺は外の整備をしてきますんで。あとは3人でどうぞ。にしても、戦術長は女の扱いが上達したようで…?」
「は…??」
なにを言っているのかよくわからないと言いたげな古代の顔を見て、笑みを浮かべた榎本は外へと出て行った。
「掌帆長は何と…?」
古代の隣へ行き、配線をチェックをする玲が古代に尋ねるが、彼自身も何を言っているのかわからず、首を傾げた。
「玲は赤道祭に行かなくていいの?手伝いばっかりで、このままだと交信が…」
「もう、家族はいないの。たった1人残った兄もガミラスとの戦闘で亡くなったわ…」
「じゃあ、加藤が君の航空隊への配属に反対していたのは…」
「ええ。兄は隊長の親友だったんです。だから、私を死なせないように…」
「…同じね、玲」
「チトセ…?」
「私も、両親と妹をガミラスの攻撃で亡くしてるの…」
彼らが健在だったことを思い出しながら、チトセは2人に告げる。
特に妹の如月優美はもうすぐ10歳の誕生日で、チトセによく懐いていた。
そのころ、チトセは留学のために海外へ飛んでいたため、命拾いすることになった。
爆心地付近に家があったこともあり、遺品も遺骨を何もかもが灰になっていた。
「だから、あなたがガミラスを…」
「…うん」
「…僕も同じだ」
「戦術長…」
「僕も、通信する相手がいないんだ」
-ヤマト 艦長室-
「…」
星の海を窓から見ながら、沖田はグラスに入った酒を飲む。
彼のそばには徳川もいて、彼が空っぽになった沖田のグラスにお代わりの酒を入れる。
「お互い、年を取りましたな。やはりここにおられたとは…」
「ああいうところが少し苦手になってしまってな…」
開会のあいさつの後、沖田は1人、艦長室へ戻っていた。
古代たちと同様、自分にも交信する相手がおらず、こうして佐渡からもらった酒を飲んでいる。
徳川がここに来たのは10分ほど前で、彼はほかのクルーと十分に楽しんだ後に長い付き合いである沖田を心配して探しに来てくれていた。
「んん…これは…」
沖田のベッドのそばに置かれているぬいぐるみが徳川の視界に入る。
犬だかネズミだかわからない顔にずんぐりとした二頭身で、蝶ネクタイと大きな瞳、帽子がかわいらしいマスコットで、このようなぬいぐるみがあるのは意外だった。
「息子が幼いころ、誕生日プレゼントで買ったぬいぐるみだ。形見のようなものだ。どういう名前のぬいぐるみだったのかは…すっかり忘れてしまったがな」
息子、という言葉を聞いた徳川は沈黙する。
沖田の息子は第二次火星沖海戦で戦死している。
彼だけでなく、多くの若者がガミラスとの戦争で命を落としてしまった。
「艦長、次の一杯は…」
「うむ、今生きている若者たちの未来を願って…」
沖田と徳川は乾杯した後、一気に酒を口の中に入れた。
-ヤマト 展望室-
「…」
展望台で、古代は1人でハーモニカを吹く。
これは彼の趣味の1つで、たまにこうして1人でいるときに吹くときがあるが、それをあまり人前で見せることはない。
今吹いているのは、両親が健在のころに聞いた曲『真っ赤なスカーフ』だ。
吹き終わり、ハーモニカをしまうと拍手の音が展望室内に響く。
「森君…」
「きれいな音色ね」
古代の隣に座った森は笑みを浮かべ、彼のハーモニカを素直にほめる。
人前で吹いたことのない古代にとって、これが褒められたのは初めてのことだ。
「ああ、その…」
「大丈夫、誰にも言わないから。それと、補修作業ご苦労様」
「え…」
「展望室から見えてたの」
「ということは、まさか…」
「そんなことないわよ。私は交信する人を呼ばなきゃいけないから…」
古代が言いたいことを察した森は即座に否定する。
「まぁ…どうせやることがなかったからな」
「なんで、交信しなかったの?」
森は交信する人の順番を決める際、当然のことながら、希望者の名簿を見ている。
その中で古代の名前がなかったため、気になっていた。
「…家族は、みんな死んだ」
「…!」
「君の方はどうなんだい?家族と話したの?」
あまり自分のことを話題にしないほうがいいと思い、古代は即座に話題を切り替える。
個人的に彼女の身の上のことが気になったのもあるが…。
「そっちと同じかな…」
「あ…ごめん…」
しくじったと思いながら、古代は彼女に詫びる。
まさか彼女も自分と同じだとは思わなかった。
「謝らないで。私ね…昔の自分を覚えてないんだ…」
「え…?」
「覚えているのはここ一年間の記憶だけ。その前の記憶はないの」
「そうか…」
普段の彼女からは記憶喪失だとまるで感じられず、古代はどのような言葉をかければいいのかわからなかった。
仮に肉親が死んだとしても、覚えていれば、いつでもそばにいてくれると感じることができる。
しかし、その記憶をなくしてしまうと、もう思い出すことすらできなくなる。
仮に自分が記憶をなくしてしまったらどうなるだろうか。
きっと、ガミラスを憎む気持ちが少しは薄らぐかもしれない。
しかし、家族の死を悲しむことができるのは自分1人しかいない。
「ねえ、エンゲラドゥスで一緒だったとき、私に変なこと聞いていたよね?」
「あ…うん…」
ユキカゼを探していたときのことで、古代は森に宇宙人の知り合いがいるかと尋ねたことがある。
というのも、火星で眠っているサーシャと森がそっくりだったためだ。
「彼女と…君がよく似ていて…。そういえば、彼女が来る一年前にも、もう1人来てたんだよね?波動エンジンの設計図を届けに。名前は確か…」
「ユリーシャ・イスカンダル…それが、彼女の名前よ」
-ヤマト 下士官用居住部屋-
「あー、これですっかりやることは寝ることしかなくなっちまったな…」
ベッドでゴロリと横になったソウジは天井を見つめる。
ヴァングレイの整備も終わり、すっかり手持ち無沙汰となってしまった。
これから赤道祭の会場である食堂へ行っても、もうお開きとなっているだろう。
そんなことを思っていると、急にドアが開く。
「チトセちゃん…」
「ソウジさん。その…これを…」
部屋に入ってきたチトセはソウジにケーキを差し出す。
「ケーキ…?」
「はい。確保しておいたんです。私と…ソウジさんの分…」
「…そうか、ありがとな」
自分のために用意してくれたことを嬉しく思いながら、ソウジはケーキを受け取る。
紙皿とプラスチック製の使い捨てフォークという安上がりな食器だが、今の2人にとってはそれは些末なことだ。
「ソウジさん…絶対に地球へ帰りましょうね」
「…ああ」
-シリウス星系宙域-
冥王星を離れたヤマトは地球から8光年離れたシリウス星系の宙域に差し掛かる。
ヘリオポーズのせいで、もうヤマトは地球と交信することができなくなった。
そして、ここからのワープによって、ヤマトは完全に太陽系を出ていくことになる。
-ヤマト 第一艦橋-
「次のワープは12光年を跳躍。グリーゼ581に到達予定です」
「12光年か…ヤマトのVLBi望遠鏡であの地球の姿を見られる最後の機会だな。真田君」
「はい。モニターに地球の映像を流します」
真田の操作により、望遠鏡に映し出された地球の姿が映し出される。
出発の時とは違う、青い海のある地球にヤマトのクルー達は驚きを見せる。
「8光年離れているからな。これは…8年前の地球だ」
「ガミラスの侵略を受ける前の地球か…」
その時の地球には家族がいて、友人もいた。
あのままガミラスの攻撃がなければ、自分は軍とは無縁の暮らしを送っていたかもしれない。
だが、もうあの頃の暮らしは戻ってこない。
しかし、少なくともあの青い水の惑星を取り戻すことができるかもしれない。
「忘れるな、これが我々の取り戻すべき星だ」
ワープの準備が完了し、ヤマトは12光年先へ向けて跳躍する。
同時に映っていた青い地球も消えてしまった。
-ガイデロール級シュバリエル ブリッジ-
「お父さん、お仕事終わらせて帰ってきてね。お母さんもお父さんを心配しているの」
「…」
ブリッジで最愛の娘であるヒルダのビデオレターを見るシュルツは沈黙する。
いつもならば、家族の手紙が届いた時にはうれしそうな表情を見せる彼ではあるが、今回は事情が違う。
「もう…生きて会うことはないだろう」
「司令…」
冥王星基地を失い、太陽系からの撤退の責任をこれから取らされることになる。
これから行われる作戦は仮に成功した場合、その失態の帳消しが約束されている。
しかし、その作戦はあまりにも危険で、成功したとしても全滅は避けられないという、いわば死刑判決だ。
できれば、一目だけでも妻子と会いたかった。
このような思いを自分だけでなく、部下にもさせてしまったことをふがいなく思いながら、シュルツは目を閉じる。
「ヤマト、ジャンプしました」
「ジャンプ座標を特定しろ」
「時空間波動、計測開始!空間痕跡トレース!!」
ガンツらシュルツの部下は黙々とヤマトの居場所の特定を開始する。
「ヤマトがジャンプした先…そこでゲール将軍から届けられた例の物を使う。そして、我々はヤマトと最後の決戦に挑む。すべてはガミラスのため、死んでいった同胞たちのため、そして…ザルツの未来のために…」
機体名:グレートマジンガー
建造:不明
全高:25メートル
全備重量:32トン
武装:マジンガーブレード×2、アトミックパンチ×2、グレートタイフーン、ネーブルミサイル、グレートブーメラン、ブレストバーン、サンダーブレーク
主なパイロット:剣鉄也
鉄也と共にどこかの平行世界から転移したロボット。
モビルスーツでもゲッターロボでもないその兵器はガミラスの戦闘機や戦艦による攻撃をしのぎ、更にはモビルスーツを上回る高い攻撃力を誇る。
特にグレートタイフーンを受けると、装甲が酸化して強度が低下することもあり、足の遅く、攻撃を受け止めるタイプの敵にとっては脅威の対象となる。
なお、ヤマトでの解析の結果、使用されている装甲が超合金ニューαというものが素材であることがわかり、ヤマトでもそれと同じ強度の装甲を作ることができることが判明した。
ただし、再現できたのは強度だけで重量は重く、コストも高いため、実質的に修理不能なブラックゲッターと並んでヤマトでは扱いにくい機動兵器となってしまっている。