スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第10話 メ2号作戦

-冥王星前線基地-

「ふうう…」

「お疲れ様です。シュルツ司令」

ガミラス帝国兼国際の準備で忙しい本国にヤマト撃沈の報告を入れたシュルツがプレッシャーから解放されたことでたっぷりと息を整え、ガンツから受け取った飲み物を口にする。

ガミラス軍に志願し、日は長いものの、自ら本国へ、それに総統であるアベルト・デスラー本人に報告するというのは初めてのことだ。

重要な報告でなければ、不敬として処刑されてしまうが、彼自身、建国祭ということで機嫌がいいのか、注意にとどめた。

これでまた、ガミラスにおけるザルツ人の地位が向上する。

青い肌を持たず、ガミラスと共存、というよりも寄生しなければ生きていけないという現状のザルツ人の地位を高める術は戦果を挙げること、ただそれだけだ。

シュルツは本国に残してきた妻子のことを思い出す。

特に1人娘であるヒルデはようやく授かった子供で溺愛しており、妻のライザと同じように、自分の戦う理由となっている。

これが妻子に胸を張って言えるような戦いか、と言われたら、また別の問題となるのだが。

ビーッビーッビーッ!!

「何事だ!?」

「テロンの人型兵器及び2機の飛行物体が基地に近づいております!!」

「何!?ヤマトから脱出してきたのか、もしくは沈んでいなかったのか…」

部下の報告にシュルツは自分の詰めの甘さを感じざるを得なかった。

 

-冥王星前線基地周辺-

「見つけたぜ!!」

「きっと、この基地のどこかに砲台が…!」

前線基地が見えてくる中、ソウジ達は必死に砲台を探し始める。

実はヤマトは水中で偽装爆発を起こし、沈没したと見せかけながら、水中で先ほどの攻撃について解析が行われた。

真田が出した結論は基地から発射したビームを冥王星周辺の衛星で反射させることで、実質的なオールレンジ攻撃を仕掛けているということだった。

かつてのグリプス戦役と第1次ネオジオン抗争で使われたサイコガンダムMk-Ⅱという巨大モビルスーツに搭載されたリフレクター・ビットに似た要素がある。

衛星にビーム砲が搭載されているのではないかという意見があったが、衛星そのものから強い熱源が感知されたわけではないということから否定され、攻撃の核となっている砲台をつぶすことで攻略できると結論付けた。

「各機、基地の位置は既にヤマトへ送った!散開しろ!」

「了解!!ガミラス…今は戦争だから、兵士が死ぬのは仕方がねえことだ。だが、俺自身のけじめをつけるためにも、倒させてもらうぜ!」

「ヤマトをいたぶった借りは私たちで返しましょう!」

「気を付けろ、攻撃部隊が出てくるぞ!」

「あれは…!」

基地から出てくる木星帝国の戦艦とバタラやヴァゴン、アラナ、カングリジョといったモビルスーツの姿を見たキンケドゥとトビアは驚きを隠せなかった。

「木星帝国…ガミラスと手を組んだということか!」

これで木星帝国残党が外宇宙へ飛び出した理由がわかった。

地球をつぶすという共通の目的を持った相手と手を組んだ、最もシンプルな結論だ。

「やむを得ない。各機、木星帝国もガミラスの戦力として叩け!ヴァング1、ヴァング2、ならびにアルファ2はヤマトを撃った砲台を探せ!」

「了解!頼んだぜ…玲ちゃんに99!」

ヴァングレイと玲が乗るコスモゼロが散開する古代達と距離を取り、砲台の捜索を開始する。

チトセはコンソールを操作して例の砲台が発すると思われる強い熱源を99と共に探す。

「同じ地球から生まれたのに…どうして地球潰しにかかわる!?」

ヴァングレイを発見したバタラに向けて、玲のコスモゼロに搭載されている機関砲が火を噴く。

ビームこそ球体状で小型であるものの、最新のビーム圧縮技術によってピンポイントにヴェスバーに匹敵する破壊力のダメージを与えることが可能となっている。

小型のビームと高をくくり、ビームシールドで受け止めようとしたバタラはあっさりとそのビームで貫かれ、胸部に穴をあけた状態で機能を停止させた。

「チトセちゃんは99と共にヤマトを攻撃した犯人探しに集中しろ!索敵は俺がやる!」

「でも、私が制御しないとポジトロンカノンは…!」

「俺が何とかすりゃあいい!」

先ほど玲が撃破したバタラを皮切りに、ヴァングレイに向けて数機のモビルスーツとメランカがやってくる。

「邪魔すんじゃねえぞ、ガミ公!!」

 

「うおおおお!!」

鉄也が乗るグレートマジンガーが2本のマジンガーブレードをもって接近し、カングリジョやヴァゴンを切り裂いていく。

木星帝国戦艦が主砲で攻撃するが、グレートマジンガーの超合金ニューZ製の装甲の前ではダメージを与えることができない。

「長距離から…であれば、こうだ!」

グレートマジンガーの両耳の突起部分に強い放電が発生し、電気が右手人差し指に集中する。

「くらえ、サンダーブレーク!!」

人差し指を木星帝国戦艦に向けると、激しい電気がそれに襲い掛かる。

強烈な電気を受けた戦艦の電子系統がショートし、グレートマジンガーに向けてビームを放ち続けた主砲が動きを止める。

戦艦が動かなくなったことで、指揮系統が混乱し始めたのか、木星帝国のモビルスーツ部隊の動きが乱れ始める。

「もらったぁ!」

X3のザンバスターがそのうちの1機のペズ・バタラのメインカメラを撃ち抜く。

そして、スカルハートがブランド・マーカーを手にする。

「コックピットをつぶすぞ!死にたくなければ、飛び降りろぇ!!」

キンケドゥの殺気のこもった通信を耳にしたパイロットが慌てて飛び降り、その直後に宣言通りにペズ・バタラのコックピットがブランド・マーカーによって叩き潰された。

スカルハートのメインカメラが映したそのパイロットの背丈はかつて、クロスボーン・バンガードに入ったばかりのトビアと同じくらいだ。

(子供じゃないか…。ドゥガチめ、木星帝国の未来までつぶすつもりか!?)

「俺とトビアでカバーに入る!キンケドゥは武装解除させろ!」

「助かる!!」

鉄也とトビアは兵士とキンケドゥを守るように前に立ち、ザンバスターやサンダーブレークで敵を近づかせないようにする。

そして、スカルハートから降りたキンケドゥは少年兵のもとへ向かう。

「すまない、まずは武装解除させてもら…!?」

急に少年兵がキンケドゥに向けて発砲する。

しかし、実戦で撃ったことがないのか、弾丸は大きく外れて、後方のスカルハートにカツンと当たった。

手は激しく震えていて、目からは涙が流れている。

「もうやめろ、あの異星人と手を組んでまで地球潰しをするのに何の意味がある!?」

「黙れ!!総統を殺した海賊め…!総統は木星の…俺たちの希望だったんだぞ!?その総統を殺した貴様なんかに…!」

「いい加減にしろ!!」

キンケドゥは所持していた銃を撃ち、少年兵の銃を飛ばす。

一瞬驚いたものの、それでも彼はキンケドゥを殺そうとつかみかかり、バイザーを開いて指で目をえぐろうとする。

「そんな動きで!!」

直線的で読みやすい動きの彼のみぞおちにキンケドゥは膝蹴りをする。

思わぬ鈍い一撃を受けた少年兵は口を大きく開き、そのまま意識を失った。

「…まだまだ、俺は未熟だということか…」

死んだ指導者の妄執にとらわれた、未来のある子どもを説得することのできない自分を悔やむ。

かつての1年戦争では、ジオンの少年兵が連邦軍の少年兵を説得し、投降させることに成功したというエピソードがある。

その直後に現れたサラミスによって撃墜され、2人とも戦死してしまうという悲しい結末が待っていたが…。

キンケドゥは気絶した彼の両手を拘束し、舌をかまないようにさるぐつわをつけた。

 

「どうだ!?チトセちゃん、99!!まだ見つけられないか!?」

ビーム砲でメランカやアラナを撃墜しながら、ソウジはチトセと99に声をかける。

「もう少し…基地の全容は分かりましたけど…!」

(…。お2人に質問です)

「ええ!?」

「おい、このタイミングでかよ!?」

(はい。エンゲラトゥスの時に伺えなかった質問です。お2人は直前までケンカしていたにもかかわらず、なぜいつも通りにヴァングレイを動かすことができたのですか?)

「ええっと、それは…」

「99。人間ってのはどうしようもねえ生き物なのさ。ほんのちょっとのすれ違いで相手を憎んだりしちまう。でも、悪かったと認めて謝って、腹を割って話すことで、そんな相手と理解しあえるようになる。ま、あの時はお互いに嫌われたかもって思ってただけで、ちゃんと話したら、チトセちゃんはまだまだ俺に気があるみた…」

「ソウジさん!!誤解を生むような発言はしないで!!」

まるで自分がソウジに好意を抱いているという前提で話を進めるソウジにチトセは顔を真っ赤にして抗議する。

(…残念ながら、まだケンカ中のようですね)

「いやいや、いつものことだから…!」

 

 

-冥王星前線基地-

「ええい、あの人型兵器の軍団をまだ撃破できんのか!?」

届く情報が味方が撃墜されたという情報がばかリで、いまだに人型兵器を撃墜したという知らせを聞いたことのないヤレトラーが怒りを見せる。

「あわてるな!ヤマトの位置の特定はできたか?」

「ハッ!偵察用のメランカからの情報が届きました…。これは…!?ヤマトです!ヤマトが水中で動いています!」

「ヤマトは生きていたか!」

上下が入れ替わった状態で水中を移動するヤマトの画像を見たシュルツの拳に力が入る。

既にヤマト撃沈の報告を入れてしまった以上、このことがばれたらどうなるか…。

「ガンツ!反射衛星砲のチャージは!」

「まもなく完了します!」

「よし、反射衛星砲装填!!」

 

-冥王星前線基地周辺-

(高エネルギー反応、確認)

「あそこね!!」

99が表示した座標を即座に古代とヤマトへ送信する。

「ヤマトへ、ヴァングレイより敵戦術兵器の位置座標がまもなく送られる!なお、敵は既にチャージを終え、攻撃態勢を整えている!早急に対処を!」

チトセからの通信を受け、古代はメランカ2機を相手にしながらヤマトに向けて詳細を伝える。

入手した熱源反応の大きさを考えると、発射まであと10秒未満。

今こうして通信を送っている間にも、急激に反応が大きくなる。

「急いでくれ…ヤマト!」

ビームが発射されようか、という状況で山なりに数発の砲弾が飛んでくる。

飛んできた砲弾のうちの1発が発射しようとしていた砲台に命中、わずかなタイムラグののちに爆発を起こした。

 

-冥王星前線基地-

「は…反射衛星砲、大破!エネルギーが逆流します!!」

「いかん!!」

ほんのわずかな時間差で、ヤマトに先手を取られ、切り札である反射衛星砲を破壊されたシュルツは急いで総員に脱出命令を出す。

反射衛星砲の動力源は基地にあり、破壊されたタイミングで大量のエネルギーを送り込んでいた。

そのエネルギーが逆流し、動力源に戻ってくると大爆発を引き起こし、基地は崩壊する。

脱出のため、航空機や戦艦、モビルスーツに次々とザルツ人兵士や木星帝国兵が乗り込んでいく。

シュルツの予想通りに、反射衛星砲が破壊されてから1分も満たないうちに爆発が起こり、次々と誘爆が発生、その爆発は外にいるソウジ達にも視認できるほどの規模だった。

 

-冥王星前線基地周辺-

「やった…やったぞ!!」

冥王星基地の爆発を見たトビアは反射衛星砲の破壊成功を確認する。

「実弾の三式融合弾に時限信管をセットしてでの曲射…さすがは沖田艦長だ」

「古代戦術長、聞こえますか!?」

「森君か…!」

「古代戦術長は山本三尉と共に帰投してください」

「了解だ!聞こえたか、山本!」

「了解です。叢雲さん、チトセ…後は頼むわ」

水中から現れたヤマトに2機のコスモゼロが帰投する。

「ここまでヤマトが動いてくれていたなんてな…」

ヤマトが移動するということは古代からすでに伝えられていたが、基地の近くまで動いていたというのはソウジにとっては予想外だった。

しかし、ヤマトがここまで動いてくれたおかげで相手は切り札を使わざるを得なくなり、こうして基地を崩壊させることにつながった。

「ソウジさん!敵基地から、敵艦多数!」

「もう基地がぶっ壊れるからって、脱出するんだろうな…!」

ソウジ達と同じように、ヤマトも基地から脱出する艦隊をキャッチしている。

デストリア級とボルメリア級が3隻ずつ、そして、シュルツの座乗艦であるシュバリエルだ。

「ヤマトは最大船速!機動部隊と共に前に出ろ!」

「了解!最大船速で前へ出ます!」

古代が第一艦橋に戻ってくると同時に、島はヤマトを前へと進める。

「ここで旗艦を叩き、ガミラスを太陽系から駆逐する!」

敵艦隊へ既に脱出のためにヤマトから背を向け、最大船速で冥王星から逃げ出そうとしている。

「流!敵旗艦を撃沈させる!ハイパー・ハンマー・ランチャーで攻撃を開始してくれ!」

「了解だ!どうせ、これくれえしか俺の出番はねえからな!」

ヤマトから発進した竜馬は照準を合わせ、両手でハイパー・ハンマー・ランチャーを支える。

照準が合うと同時に引き金を引きと、その大型の大砲からハイパー・ハンマーが発射される。

発射されてからわずかな時間差でハイパー・ハンマーについている小型のスラスターが噴射しはじめ、更に速度を上げて敵艦めがけて飛んでいく。

「何!?棘付きの質量弾…だとぉ!?」

ボルメリア級の艦長が通信兵の連絡を聞き、驚くと同時にその艦の中心がハンパー・ハンマーによってえぐり取られる。

真っ二つになったボルメリア級は左右に分かれて、冥王星の大地に墜落した。

「オラオラぁ、逃げてんじゃねえぞ!侵略者が!!うおおお!?」

続けて敵艦を撃沈させようと、照準を合わせようとするゲッター1のそばをビームが横切る。

ビームを撃っているのは木星帝国のモビルスーツ部隊で、彼らは冥王星から脱出することなく、そのままヤマトを攻撃し続けている。

「もうやめろぉ!!基地は崩壊したんだぞ!?戦う意味なんてないんだぁ!」

オープンチャンネルでトビアは木星帝国へ投降を呼びかける。

アマクサでの一件もあり、無駄なことだとは思うが、それでも1人でも多く失われなくてもよい人命が失われないようにしたかった。

しかし、帰ってきたのは沈黙とビームの雨だった。

「ふ・ざ・け・る・なーーーー!!」

自分で考えることを放棄し、感染したドゥガチがまき散らした妄執のミームの赴くままに戦い続ける彼らに怒りを覚えたトビアはムラマサブラスターを手に敵モビルスーツへ接近していく。

そして、バタラが持つビームライフルを両腕ごと切り裂いた。

「駄目…これじゃあ、狙えない!!」

自分の命に毛ほどの価値も見出していない木星帝国の抵抗は強烈で、ヴァングレイも合流したグレートマジンガーによる援護を受けているが、彼らへの対応が精いっぱいで敵艦を狙うことができない。

「チトセちゃん…残念だが、今は俺たちとヤマトの安全の確保だ」

「でも、彼らにはたくさんの命を奪った償いを…」

「だからこそだ!ここで死んだら、償わせることもできなくなるぞ!…それに、償わせたことでなんになる」

「ソウジさん…」

最後の一言が聞き取れなかったチトセだが、なぜか彼からは深い悲しみと痛みが感じられた。

シュバリエルを攻撃できないのはヤマトも同様で、ヤマトの場合は逃げていく仲間に背を向け、1隻だけで特攻を仕掛けてくるデストリア級への対応に追われていた。

そんなしんがりを務めるその艦と運命を共にしようかと、更にデストリア級1隻とボルメリア級1隻がついていき、ボルメリア級は搭載しているメランカを全機出撃させて、ヤマトと機動部隊に迫っている。

「ショックカノン、てぇーーー!!」

ショックカノンが発射され、2門の主砲から放たれた6条のビームによって穴だらけになったデストリア級が炎上するが、生き残っている砲門からはなおも攻撃が続けられている。

更に、メランカはシュバリエルを含めた味方の艦隊が見えなくなるようにあえて正面を中心にヤマトに接近・攻撃している。

「ミサイルとパルスレーザーで迎撃しろ!波動防壁はどうなっている!?」

「展開可能です!」

「よし、波動防壁展開!ハヤブサは発進し、ヤマト及びゲッター1に敵を近づけさせるな!」

「ようやく出番だ…。お前ら、大砲屋に負けるんじゃねえぞ!」

出撃した加藤は仲間たちにげきを飛ばすと、即座に機銃でゲッター1に向けてミサイルを発射しようとするメランカを撃墜する。

篠原らの機体もパルスレーザーの弾幕の中を飛び回り、メランカを攻撃する。

「仲間を逃がすために…か。心意気は買うけどなぁ!!」

加藤と篠原らが視界を確保してくれたことで、もう1隻のデストリア級を照準に入れる。

全砲門からビームや魚雷を発射させながら、ヤマトに接近し続けている。

「ヤマトめ…!!シュルツ司令はやらせん!!」

この艦の艦長であるヤレトラーがそう叫びつつ、自らの操艦で動かしている。

彼はほとんどの兵士を退艦させ、脱出部隊と合流させてからこの特攻を仕掛けていた。

「させるかよぉ!!」

ゲッター1のハイパー・ハンマー・ランチャーがデストリア級の艦橋に向けて発射される。

「シュルツ司令!!ザルツ人の未来をぉーーー!!!!」

上官であり、自らの希望であるシュルツにすべてを託したヤレトラーは艦橋もろともハイパー・ハンマーに押しつぶされていった。

艦橋を失い、コントロール不能となったデストリア級だが、それでもヤマトに向けて直進をやめない。

既に肉眼で見えるくらい爆発を繰り返している。

ヤレトラーら、しんがりを務めるザルツ人たちの執念が宿ったかのように。

しかし、執念だけで何かを変えることができるとは限らない。

ヤマトから次々と発射される魚雷とビームによって、デストリア級は大爆発を引き起こし、消滅していく。

爆風に飲み込まれたヤマトは波動防壁によって守られていた。

「ヤレトラー!!」

シュバリエルの艦橋でヤレトラーの艦の反応の消失を知ったガンツは戦友の死を悼む。

「最大船速、ヤマトを振り切れ!!ヤレトラー…そして、この冥王星で散った同胞たち。必ず、お前たちの願いを…!」

シュバリエルがさらに速度を上げていき、ワープを開始する。

ようやくシュバリエルを視認したヤマトからショックカノンと三式弾が発射されるが、それらが来た頃にはその艦は生き残った艦と共に冥王星の空から消えていった。

「彼らは…旗艦を逃がすために…」

「(古代守と同じだ…。彼らは同じ人間だというのか…?)ガミラスの冥王星基地は終わりだ。地球に遊星爆弾が降ることはもうない」

「やったな、古代!」

「ああ…!(兄さん、やったよ…)」

この喜びは兄の仇を討てたからというものではない。

ただ、地球を滅ぼす脅威を取り除くことができたことへの純粋な喜びだった。

「これで、ガミラスは太陽系から撤退するだろう」

「イスカンダルへの旅に集中できますね」

遊星爆弾は地球だけでなく、コロニーにも容赦なく襲い掛かっていた。

このまま放置していたら、そこに残している仲間か家族の命を危険にさらしていたかもしれない。

(母さん…リィズ…)

キンケドゥはコスモ・バビロニア建国戦争終戦後から一度も会っていない肉親のことを思い出す。

彼とベラは終戦後に木星帝国が起こしたとあるテロによって表向きは死亡扱いとされている。

そのため、彼の母親であるモニカ・アノーも妹のリィズ・アノーも彼を死んだと思っている。

サナリィを通じて彼らの行方はつかんでおり、モニカはバイオコンピュータの平和活用のための方法を模索していて、リィズは友人の1人と結婚したとのこと。

(母さん…行ってきます。リィズ、母さんのこと…頼んだぞ)

「往復33万6000光年か…」

「ガミラスの連中が邪魔してくるなら、何度でも返り討ちにするだけだ」

本来では当事者でないはずの鉄也と竜馬も闘志を燃やす。

こうして間近でヤマトの戦いを見て、共闘したことで、もはやこの世界の地球は完全に彼らにとって他人事ではなくなっていた。

 

-大ガミラス帝国 総統執務室-

金色の柱と青い壁をベースとした、広い部屋の中で、この国の総統であるデスラーは副総統であるレドフ・ヒスから報告を受けていた。

「プラート(冥王星)が落ちた…と?ヒス君、私は夢でも見ていたのかね?確かヤマトは沈んだのではなかったかな?」

ヤマトを沈めたというシュルツの連絡から数時間も立たないうちに、このような報告が届いた。

デスラーでなくても、夢を見ていたのかと思いたくなるような報告だ。

しかし、報告するヒス自身の表情を見て、冥王星基地壊滅は真実だということは理解できる。

「はっ…私も、そのように…」

「シュルツは基地を放棄、戦線を撤退したのだな?」

「はっはい!」

「大ガミラスに撤退の二文字はない。勝利か、然らずんば死だ」

「はっ…」

シュルツへの死刑宣告を抱え、ヒスは執務室を後にする。

デスラーはゆっくりと天井に描かれている絵を一瞥する。

自身と金髪の美女が互いの故郷の星を手にしていて、その2つの星が白い一陣の光によってつながってる絵だ。

その絵を見た後で、地球のある方角に目を向ける。

「テロン人か…。戯れに銀河系への派兵を決めたが、退屈しのぎになりそうだ…」

うっすらと笑みを浮かべたデスラーは静かにある機関と通信をつなげる。

「私だ。例の試作兵器は完成しているか?そのテストをやらせたい部隊がいてね。至急彼らのもとへ届けてくれ」

 

-ヤマト 下士官用居住部屋-

「うーん、デジャブだな…」

チトセと2人っきりになった個室でソウジは正面にいるチトセを見る。

2人ともすでにいつもの制服、もしくは私服に着替えている。

「ソウジさん、99からの質問に答えてた時、腹を割って話したら理解しあえるって言ってましたね」

「ん??ああ、そういやぁ…」

「…それに、一緒に戦っているとき、なぜかいつも軽い態度を取ってばかりの貴方から、強い悲しみを感じて…」

「…ニュータイプの勘ってやつ?」

「それプラス女の勘、かもしれませんけど…」

普段からソウジはチトセが言う悲しみを気づかれないように気を付けてふるまっているつもりだった。

だが、ニュータイプである以上にサブパイロットとして同じ機体に乗り、一緒に戦うチトセはほかの仲間たち以上に長く一緒に行動することになる。

勘ぐられても仕方ないかもしれない。

このままあの時のようにすれ違いを起こす、という愚を繰り返したくなかったソウジはため息をつく。

「その…話してくれますか?あなたについて…」

「…あんまり楽しい話じゃないぞ」

いつもとは異なる、重いまじめな口調のソウジにチトセは首を縦に振った。

 




機体名:メランカ
正式名称:戦闘攻撃機DWG299 メランカ
建造:大ガミラス帝国
全高:11.0メートル
全幅:27.3メートル
武装:13ミリ機関銃×6、空対地ミサイル×6
主なパイロット:ガミラス兵

ガミラスの戦闘攻撃機。
地表への爆撃を得意としており、機銃もほかの航空機と多く、火力に優れている。
作戦によっては、対艦魚雷への換装も可能となっており、コストパフォーマンスにも優れていることもあって、生産量が多い。
ただし、あくまで戦闘攻撃機であるため、同じ空対空における戦闘能力は低いものと思われる。
また、翼幅が極端に広いため、ボルメリア級でのみ出撃可能。


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