スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第1話 幻肢痛

「くっそー、どうして当たらねーんだ!」

「迎え撃て!俺たちがやられたら、地球は…うわあああ!!」

「ジェームズ!?ぐおおおお!!」

冥王星の宙域で、航空機やモビルスーツがガミラスの航空機、ツヴァルケと戦艦シュバリエルやデストリアの攻撃によって、次々と炎の花とかしていく。

現在、この宙域にはガミラスとの8年にわたる戦いを生き延びた艦隊が集結し、もはや地球には残った艦隊はほんのわずか。

つまり、この戦いは地球の命運をかけたものとなる。

だが、モビルスーツを上回る運動性を誇るツヴァルケと頑丈な装甲で攻撃を受け付けないシュバリエルに対して有効打を与えることができない。

「イェーガー!?くっそぉ、ガミラスめ!!」

次々と撃墜されていく仲間を見て、1人のパイロットが怒りを込めて操縦桿を握りしめる。

彼が所属する第25部隊は地球連邦軍月面最後のモビルスーツ部隊であり、この戦いに備えて、当時では新型の量産型モビルスーツであるジャベリンが回されていた。

だが、対艦攻撃にはうってつけであるショットランサーではガミラスの戦艦に傷をつける程度の威力でしかない。

そして、数で上回る航空機に対しては背後を取られたら詰みとなるし、戦艦のミサイルや主砲をビームシールドで防ぐことができない。

噂によれば、少数量産されているガンダムF91であれば、少なくとも攻撃次第でガミラスの戦艦を撃沈できるというが、今のご時世での上層部の判断はモビルスーツよりも戦艦や航空機を重点に置くのがベストとのことで、モビルスーツへ回される予算は年々減少している。

「全機!キリシマより伝達!!これより冥王星から撤退せよとのことだ!!お前ら、急いでキリシマに…!!」

爆発音と共に隊長機との通信が途切れる。

隊長機がいた場所を見ると、そこには爆散したばかりのジャベリンの残骸が漂っていた。

「た、隊長!!うわああ!!」

それに気を取られていた彼の機体にも激しい揺れと爆発が発生する。

真上からのツヴァルケによるミサイル攻撃を受けてしまったためだ。

両腕と頭部を失い、戦闘能力を失ったジャベリンではもはやどうしようもない。

「ちく…しょう…!ガミ、ラス…め…!」

カメラが壊れ、全周囲モニターがブラックアウトする。

コックピットがへしゃげ、全身から激痛を感じ、バイザーにも血がついている。

「親父…おふくろ…百合…」

薄れゆく意識の中、彼は家族の名を口にする。

ガミラスによる遊星爆弾攻撃を受け、家族も友人もすべて失っていた。

このまま死ねば、会いに行けるのかと考えてしまう。

ゆっくりとまだかろうじて動く右手を伸ばしながら、彼は意識を手放した。

 

「…ジさん。ソウジさん!!」

「ん!?はあ、はあ…ああ、チトセちゃんか…」

フライトジャケット姿のまま眠っていた彼は自分を起こしに来た女性に目を向け、タオルで顔についた汗を拭く。

ジャケットの左肩のあたりには彼が所属していた第25部隊のエンブレムが刻まれており、ベットのそばにある机には愛用のサングラスが置かれている。

なお、自分をおこしに来た女性はここに所属している兵士たちの要望によって露出度の高い私服で軍務についている。

巨乳なうえにそのような服装には普通の女性であれば恥ずかしがるはずだが、彼女の場合はあまり気にしていない模様だ。

「チトセちゃんか…じゃないですよ。もうすぐ集合時間ですから、急いで支度してください!」

「はいはい、相変わらずチトセちゃんはまじめだなぁ」

「相変わらずって、まだ会ってから3日しか経ってません!まったくもう…」

上官の軽口にあきれ果てたチトセは先に部屋から出ていく。

1人になった彼はびしょびしょになったタオルをかけ、ジャケットとシャツを脱ぐ。

「…ああ、叢雲総司。夢のせいか、すっかりびしょびしょになってるなぁ…」

毎日のように見る夢のせいか、いつも起きた時は汗でびっしょり濡れていて、不快感を感じながら1日を始めている。

体には数多くの傷跡が残っており、今では痛みを感じることがないが、夢の中で自分の機体がダメージを受けたときには目覚めるまでずっとあの時の痛みがよみがえってくる。

汗を拭き、シャツとジャケットを着て、サングラスをかける。

(もうすぐ1カ月たつってのにな…)

ソウジは夢の中での戦い、あの冥王星での戦い、メ号作戦からこれまでのことを思い出す。

大破した自分のジャベリンはそのまま冥王星宙域をただよい、偶然にも撤退していたキリシマによって回収された。

発見され、救助されたときは全身傷だらけで、生きているのか死んでいるのか全く分からないありさまだったという。

だが、軍医による懸命な治療によって回復し、そこで25部隊が自分を残して全滅したことを知った。

モビルスーツもすでに廃棄処分され、25部隊が存在した証として残ったのはこのジャケットだけとなった。

そのあと、航空機のパイロットへの転換が余儀なくされ、1週間の訓練ののち、月面特殊戦略研究所防衛隊へ、そして3日前にこの第三特殊戦略研究所防衛隊に『ERS-100』というシステムが入った端末とともに転属することとなった。

驚いたのはその防衛隊のメンバーが実戦経験ゼロの如月千歳という女性のみだということだ。

ガミラスとの闘いで多くの兵や将校を失った地球連邦軍にはほとんど余力が残されていない今、短時間の訓練だけを済ませて即配属というのがよくある話となっている。

だが、話で聞くよりも実際に見るほうが驚きが大きいもの。

実戦経験ゼロで大した訓練もしていない兵士1人だけの防衛隊とはさすがのソウジも驚きを隠せなかった。

一応、訓練では優秀な成績を見せているというのは所員曰く。

「さあ…行くか」

早く集合場所へ行かなければ、またチトセに怒られる。

先輩として情けない姿を見せたくないなと思い、ソウジは部屋を出て行った。

 




機体名:ジャベリン
形式番号:RGM-122
建造:アナハイム・エレクトロニクス社
全高:14.5メートル
全備重量:16.5トン
武装:頭部バルカン×2、ビームサーベル×2、ビームライフル、ビームシールド、ショットランサー×2
主なパイロット:叢雲総司、25部隊

地球連邦軍のメ号作戦時点における最新鋭の量産モビルスーツ。
かつてのクロスボーン・バンガードによるコスモ・バビロニア建国戦争で猛威を振るったデナンシリーズの武装であるショットランサーをミサイル機能を加えたうえで搭載しているのが特徴で、これは従来のモビルスーツの火力では傷一つ負わせることのできないガミラスの戦艦を攻略するための武装となっている。
しかし、初めてそれが実戦配備されたメ号作戦において、それはガミラスの戦艦に対して傷しか与えることができず、全機撃破された。
地球連邦軍月面最後のモビルスーツ部隊である25部隊の全滅もあり、このモビルスーツを最後に地球連邦軍はモビルスーツの量産を完全に打ち切ることとなった。

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