Aqours☆HEROES   作:ルイボス茶

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変わる運命

 その日の夜、曜がやってきた。

「千歌ちゃん!!」

障子を勢いよく開け、切らした息を整えるより先に千歌の名を呼ぶ。

連絡を受け、飛び出してきたのだろう。まだ肌寒さが残る春の夜に不釣り合いなほど、服が汗で濡れていた。

千歌は、申し訳なさそうな顔をして

「曜ちゃん・・・。わざわざ来てくれたの?ありがとう、ごめんね。」

こんな時間に、と言いかけたところでせき込んでしまった。

 とはいえ、千歌の身体はほとんど完治に近い状態だった。

外傷は何事もなかったかのように消え、内臓の機能も生活に支障はないレベルにまで回復していた。

ライダーバトルの戦闘で発生した傷害は、多くが2-3日程度ですべて治ってしまうらしい。

日中、ダイヤがそう話していたことを思い出す。

「無理、しなくていいから。」

「ありがとう。でも、大分治ったから。」

こういう時の曜の優しさが、千歌は好きだ。

千歌が身体を起こすと、寄り添うように曜も腰を下ろした。

「話は全部ダイヤさんから聞いてる。梨子ちゃん、ほんとに戦い抜く気なんだね。」

「でも、私確かに聞いたんだよ!『もしかしたら・・・』って・・・」

最後まで言わず、千歌は黙り込んだ。

しばらく沈黙が続いた。

 

 先に話し始めたのは曜だった。

 

 

「千歌ちゃんは、これからどうしたい?」

 

 

言葉が出ない千歌に、曜がもう一度問う。

 

 

「どうする?やめる?」

 

 

こういう時の曜の優しさが、千歌は苦手だ。

 

「やだよ、止めたいよ、戦いなんておかしいよ、でも、言われちゃったんだよ、エゴだって、なんだって、そんなのわかってたよ、気付いてたよ、でもさ、輝いてるって、自分はヒーローだって、これが私なんだって思っていたかったんだよ、だから、だから・・・。」

涙がボロボロこぼれる。言葉が詰まる。悔しさと、無力さと、様々な感情が溢れ出す。ついに、千歌はただ泣くことしか出来なくなった。

情けない、情けない、情けない。

これがヒーローだなんて、かっこ悪い。失格だ。無責任だ。

拳を握り、自らの頭を叩く。馬鹿だ、阿呆だ、間抜けだ、と。

何度も、何度も叩いた。

 

 ふと、千歌は温もりを感じた。

 

曜が、そっと千歌を抱きしめていた。

 

やっぱり、こういう時の曜の優しさが、千歌は好きだ。

 

「悔しくても、辛くても、無力でも、何もなくても、それでも何かしなきゃって奮い立つことができる、それが千歌ちゃんの思い描いていた、いや、千歌ちゃん自身でしょ?」

 

答えは、出ていた。

でも今は気が済むまで泣かせてほしい。

言葉に出したわけではないが、曜もずっと千歌を抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 気付けば朝になっていた。

泣きつかれ、そのまま眠りについた千歌をしばらく見守っていた曜も知らずのうちに眠っていたらしい。

先に目を覚ました曜が千歌を起こす。

はっきりしない視界の中から、曜を見つけ出した。

「おはよう、曜ちゃん・・・。」

寝ぼける千歌の顔を見て、思わず笑ってしまう。

「おはよう千歌ちゃん。あはは、ひどい顔だよ。」

昨晩あれだけ泣いたのだ、瞼が腫れないはずがない。

真っ赤になった目元と寝起きの顔が重なり、千歌の顔は人に見せられるような状態ではなかった。

「曜ちゃん・・・。笑うなんてひどいよう・・・。」

「ごめんごめん、幼馴染の特権みたいなものかな?えへへっ。」

しばらくして、千歌の意識がはっきりしたところで曜がもう一度あの質問をした。

 

 

「千歌ちゃん、どうする?やめる?」

 

 

千歌の答えは決まっていた。

 

「ううん、やめないよ。やっぱり、争い合うのは良くないと思うんだ。いくら夢のためとはいえ、誰かが痛い思いをして叶える願いなんて間違ってると思う。もし、それでも戦い合わなければいけないのなら、私は争いをなくす為に戦うよ。」

矛盾してるけどね、と千歌が苦笑いする。

続けて

「孤独のヒーローでも構わない、誰も私のことを知らなくたっていい。私が守った、誰かの笑顔や笑い声が、きっと私が望む輝きなんだと思う。」

曜は満面の笑みを浮かべた。

「千歌ちゃんらしいね。でも、それでいいと思う。もしかしたら、この先もっといい答えが見つかるかもしれないし、今はそれでいいんだよ、きっと。」

「ヒーロー、高海千歌。輝き目指してまたここから頑張ります!」

「ヨーソロー!私も出来ること、精一杯手伝うからね!」

顔を見合わせ、二人は笑いあった。

 

「じゃあ、まずは梨子ちゃんを止めなきゃ。どこにいるんだろう。」

「まって、千歌ちゃん。」

動こうとする千歌を曜が制止する。

「ん?動くなら早いほうが・・・。」

曜は首を横に振った。

「そうなんだけど、違うの。千歌ちゃん、変身できるの?」

「あ。」

 

昨晩とは違う沈黙がしばらく続いた。




 いつもありがとうございます。

曜ちゃん久しぶりです。いい子だ。
先に言っちゃうと、曜ちゃんこの作品中では闇落ちとか、なんかそういう可哀そうな、目のハイライト消えそうな事案は起こりません。
いろんな作品でハイライト消えてて可哀そうでしょ!!!
そういう作品が嫌いかって言われれば、好きです。
一番はみんな平和に笑顔で、ですけどね!
戦わせといてなんなん。

近況をちらっと。
大学新学期始まりました。頑張らねばねば。

それではまた。

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