千歌が黒澤邸で目を覚ましたのと同じ頃、梨子は淡島にいた。
桟橋から、富士を望む。
昨晩の戦いを思い返していた。
タイガのベルトを破壊した。
一つ、私の願いに近づいた。
けれど、胸に残るのは理想に近づいた達成感ではない。
次は自分なのでは、という恐怖でもない。
あの子を戦いから切り離すことができた、その安堵だ。
あの子は、高海さんは、優しすぎる。
このまま戦えば、あの子はさらに辛い思いをすることになるだろう。
だから、これで良かった。
痛い思いをさせた。ひどい言葉も投げかけた。
でも、きっとあの子のさらに奥に秘める正義は、それにも勝るだろう。
ひとつ、心残りがあるとすれば、それは・・・。
「千歌ちゃん、か。」
だめだ。私はもう人を傷つけた。
切り替えなければ。もう、戻れないのだから。
一つ、深く深呼吸をし、帰ろうと振り返った。
梨子の視線の先に、金髪の少女が一人、こちらを見ていた。
いつ現れたのかわからず、梨子は後ずさる。
金髪の少女が笑顔を見せながら先に口を開いた。
「Hi!驚かせちゃってごめんなさい~!」
明るく陽気な声に、張り詰めていた梨子の調子が狂う。
「あ、あなたは・・・?」
気持ちを持ち直し、質問する。
「あら、相手がだれか尋ねるときはまずは自分から、っていろんなジャパニーズコミックで読んだことあるけれど?」
ひとつ、間をおいて続く。
「ねえ、ライア?」
梨子の思考が一瞬止まった。
この人も、仮面ライダー。
金髪の少女は梨子の表情を見て、話を続けた。
「私は小原鞠莉。あなたが通う浦の星の理事長をしているわ。と言っても、歳はあなたの一つ上。三年生よ。普通ならこれが一番驚くことなのだろうけれど、あなたの関心は他にあるのよね。イエス。私もマスクドライダーよ。願いをかけた戦いに参加する、ね。」
梨子は忍ばせたカードデッキに手を伸ばす。
それを見た鞠莉はふふっと笑った。
「今は戦わないわ。あなた、昨日の戦いの疲れが残っているでしょう。そんな人と戦うなんて悪趣味なこと、マリーは好きじゃないわ。ブシドー?が日本にはあるでしょう?」
「じゃあ、なぜ私の前に・・・?」
「そうね。顔合わせなのもあるけれど。言われたのよ。高海さんは引き受けるから、桜内さんの様子を、って。」
「言われた?だれに・・・あっ。」
鞠莉がにやりと笑う。
「そう、あなたが高海千歌ちゃん、ちかっちと戦った後現れたライダー、龍騎よ。私がライダーになったときいろいろ教えてくれたのがあの人だったから、今回はそのお返しとして動いているのよ。だから私も、次からは自分の思うように動くわ。」
「どうして、龍騎がそんなことを?」
鞠莉の表情が変わった。
真剣な顔で、それを告げる。
「龍騎の変身者はね・・・。」
梨子は浦の星を始めて訪れた時、案内をしてくれた少女を思い出していた。
長く伸ばした黒髪が綺麗なその人は、自分はこの学校の生徒会長だ、と言った。
なりゆきでなったとはいえ、なったからには生徒皆さんが、楽しく過ごせるようにしたい、そう話していた。
その声は、凛としていて、それでいて優しかった。
龍騎が発したあの声。そうだ、思い出した。
龍騎の変身者は・・・。
「龍騎の変身者はね、生徒会長、黒澤ダイヤよ。」
梨子の浮かべた人に間違いはなかった。
「その顔は、納得という表情ね。」
鞠莉が続ける。
「でも、ダイヤもこれからどうするか決めたみたい。だからあなたももう一度、考えてみなさい。それじゃ、言いたいことは言ったから帰るわね、チャオ~!」
言いながら手を振りながら、その場から去ってしまった。
「考えろって、答えなんて、もう・・・。」
梨子はしばらく、桟橋で立ち尽くしていた。
いつもありがとうございます。
梨子ちゃん側はどうなってるの?って話でした。
鞠莉さん登場です、シャイニー。
上級生らしく問いかけを残していくマリー。
そのマリー自身も、願いのために戦わねばなりません。年上って大変ですね。
ここで一つ、先に言っておきたいなってことが。
このお話のライダーバトルでは、変身者は死なない、ということです。
この先物語の中で話そうと思っていたことで、そのシーンもいつか登場するのですが、先に言っておかなきゃなあ、と。
理由としては、ライダーバトルが生まれた理由に関係があるのですが、それよりも
Aqoursちゃんが死ぬとこなんて見たくないし考えたくない。
って思いがあるからです。戦わせといてなんなん。
なので、ライダーバトルからの脱落=カードデッキの破壊
となります。
また詳しいことはぼちぼちと。
それではまた。