Aqours☆HEROES   作:ルイボス茶

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声が聞こえる
何も見えない世界で、私を呼ぶ声が
世界はリセットされ、これから私も「生まれ直すことになる」
なのに、私を呼ぶ声は消えることがない
鼓膜を確かに揺らすその声を私は知っている






リバイブ①

ほのかな潮の香りと優しい日差しが朝を告げる

頬に紙の感触

背の低いテーブルには飲みかけの紅茶が置かれたまま

少し伸びをして立ち上がる

「そのまま寝ちゃったんだ・・・」

桜内梨子はそうつぶやくと、ゆっくりと立ち上がった

座ったまま寝たからだろう、身体が固くなっているのを感じる

「千歌ちゃん起きて、朝だよ」

寝起きの声のまま、同じように目の前で寝ている高海千歌を起こす

梨子と同じように机に頭を預け、うつぶせに寝たまま動かない

このままそっとしておこうかとも考えたが、そうはいかない

梨子は部屋に飾られた壁掛けカレンダーを見る

赤い丸で囲まれた日付が目に入る

「仕上がるかしら、曲」

溜息をつこうとしたがやめた

幸せが一つ、逃げるような気がしたから

すっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干す

お世辞にもおいしいとは思えなかったが、目は覚めた

「千歌ちゃん、曲、仕上げなきゃ」

「はっ!!曲!!」

背中が逆方向に曲がるんじゃないかと思うぐらいの勢いで千歌が身体を起こす

あたりをしばらく見渡した後、千歌は梨子に言った

「梨子ちゃん、おはよう!」

「おはよう、じゃなくて曲。もう時間ないんだから」

「そうだ曲!!!仕上げなきゃ!」

 

梨子と千歌はスクールアイドル活動をしている

正確には3人

渡辺曜を合わせた3人でスクールアイドル活動をしている

している、とはいえ始めたのはつい最近で、

今後部員を増やすために近くライブを企画していて、

3人で行う最初のライブ、気合が入るものの肝心の曲が出来上がらず

この日も学校おわりと翌日の休みを利用して千歌の家で泊りがけの会議を行っていた

「楽しみだね、ライブ」

その笑顔に嘘はない

「ええ、そうね」

梨子も気持ちは同じで、だからこそ不安だった

千歌が飲み物を持ってくるといって席を立つと、梨子はかばんのそれに目をやる

 

視線の先にはあるのはカードデッキだった

 

 

戦いは終わった

梨子が勝者となり、願いが受諾されて世界はリセットされたはずだった

目が覚めて、広がった世界ではライダーバトルなど存在しなかった

千歌も曜もごく普通の日常を過ごす女子高生になっていて、かかわった他の人物にもその気配はない

ただ一人、梨子を除いて

梨子だけはライダーバトルのことをすべて覚えていた

覚えていただけじゃない

戦いに必要なカードデッキが、手元にあった

かつての世界でライアと呼ばれた赤みがかったそのデッキケースは、戦いのときのものであるとすぐに分かった

あの戦いは無意味だったのか

誰もが傷ついた最悪はまた繰り返されるのか

目が覚めてからしばらくは考えては絶望した

けれど、戦いが始める様子はなかった

鏡から音は聞こえず、ほかにライダーがいる気配もなかった

 

それだけじゃない

この世界で、千歌の最後の願いが確かに叶えられてた

千歌は自分からスクールアイドルをすると発起し、

梨子と曜を巻き込む形で前の世界の夢をかなえた

かつてスクールアイドルをしていたらしい、黒澤ダイヤも松浦果南も小原鞠莉も賛同してくれた

後輩となる新入生、津島善子と国木田花丸もライブを見に来てくれると言ってくれた

 

梨子に記憶があり、デッキが手元にある

そのことを除けばこの世界は千歌や梨子が望んだ世界そのものだった

だから、明日戦いが始まるかもしれないという不安を抱えながら、梨子は誰にも言わず日々を過ごしていた

自分が隠していれば、この日常は幸せなのだから

 

 

 

 

 

 

時間が流れ、曲が完成した

やることはすべてやり、ライブ前日の夜

梨子はダイヤに呼ばれ黒澤邸へと出向いた

「忙しいときにすいません」

ダイヤは梨子を部屋に案内しながら言った

「いえ、やれることは全部やれましたし。それより話って何ですか?」

あまり長居するのもよくないだろうと、梨子は本題を切り出した

ダイヤの表情が真剣なものに変わったのに気付いた梨子は、嫌な予感と聞かなければよかったという後悔を覚えた

「馬鹿な質問だと思われるかもしれませんが・・・」

ダイヤは一呼吸おいて、梨子に質問した

「鏡に、何か心当たりはありませんか?」

「・・・どういうことですか?」

梨子は激しい動悸でおかしくなってしまいそうな胃を殺す

「いえ、ないならいいのです。むしろないほうが・・・」

「・・・ライダーですか」

ダイヤは冷静に、しかし目つきを変えて言った

「いつから・・・」

「最初から。いつを最初とするかと言われたら困りますが」

次の言葉を梨子が選んでいると、ダイヤが先に続けた

「驚くのも当然です。絶望さえするでしょう。あれだけのことをしたのですから」

「そうです!みんな自分を犠牲にして戦ったのに!」

「でも確かに、この世界はあるべき世界ではありません」

「どういうことですか?千歌ちゃんや曜ちゃんはデッキのことを知りません。

それに、スクールアイドル活動だって始まった。願いがかなっているのに!」

ダイヤは冷めた緑茶を口に運んでから答えた

「確かに、見かけは理想的な世界です。しかし、2点、あるはずの世界とは異なっているのです」

「2点?」

「まず一つ。本来の世界では、私と果南さんと、鞠莉さんは仲違いするはずです。

それなのに、私たちはスクールアイドルを辞めているとは言えど3人『仲良く』あなたたちの手助けをしています」

「でもそれは、戦いが終わったからで・・・」

「私たちは誰も最後の戦いで、あの日の出来事をやり直したいと願いませんでした」

梨子は思い返す。

ダイヤの言う通り、最後に叶えられたのは梨子の願いだった

3人がすれ違う出来事がなかったことになるはずがない

「そしてもう一つ。私の妹です」

「妹・・・?ダイヤさんに妹なんて・・・」

言いかけた言葉が詰まる

これまで忘れていた記憶の扉が開く

かつて一緒に戦い、姉のために戦った少女がいた

「黒澤ルビィ・・・ルビィちゃん!」

「そうです、この世界にはルビィがいないのです

彼女のことを知っている人も、見た人も誰もいません。私と、思い出したあなた以外に」

「どうしてですか!?だって彼女は正しい世界でも存在していたんですよね」

ダイヤの表情が変わる

怒りとも、悲しみともとれる複雑な表情

「私たちの戦いの記憶、ルビィ以外にとって理想的な世界。考えられるのは一つです」

ダイヤは部屋に設置された机の引き出しを引いた

中から取り出したのは龍騎のカードデッキ

ダイヤはそれを見ながら言葉を発する

「この世界がルビィによって作られた、ということです」

「そんなこと、大体どうして!?」

「それは私にもまだわかりません。けれど、私のやるべきことだけははっきりしています」

 

世界を呪えばいいのか、己の弱さを呪えばいいのかわからない

かつての私がもっと別の勝ち方をしていれば、世界は変わったのだろうか

梨子にはわからず、ただしかし、これまでと同じ、否、これまで以上に悲しい戦いが始まる予感がした

ダイヤは言った

「私はルビィを倒します」

 




お久しぶりです。ルイボス茶です。
本編が終了してから、初めての更新になると思います。

現在ニジガクを題材にショートストーリーをのんびり書いていますが、こちらの方も少し更新させてください。

長く続いた戦いのその後、エクストラターンの話です。
そんなに長くは続きません(10話もいかないです)
元々本編更新中から考えていたことをもったいないので書いてしまおう、という感じです。
ルビィがいないことや、ダイヤと梨子が選ばれたことなど、追々書いていきます。
のんびり更新します。

それではまた。

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