目を開く。
身体が布団の中にあることに気付く。
視界に広がるのが天井だと理解するのに時間はかからなかった。
ただ、それが自分の知らない天井であることを除けば。
窓から日が差している。
朝日だということは、視界に入る時計が教えてくれた。
寝ている身体を起こそうとした。
「あぁっ・・・!」
身体中を痛みが埋め尽くす。
どこに力を入れれば動くのかさえ分からなくなる。
何とか起き上がろうとするが、今度は痛みで気を失いそうだ。
「どうしよう・・・。」
呟きながら、また天井を見つめた。
静かに、部屋の障子が開いた。
「目が覚めましたか、高海さん。」
優しくて、それでいて芯の通った声が聞こえる。
この声、どこかで・・・。
寝たままで、何とか顔だけでも声のする方へと向ける。
凛とした、長い黒髪の少女がそこにいた。
消えそうな、かすれた声でそれを確かめる。
「生徒・・・会・・・長?」
「ええ。浦の星女学院三年、生徒会長の黒澤ダイヤです。ダイヤで構いませんわ、高海千歌さん。」
どうして、私の名前を?
千歌が疑問を抱いたのと同時にダイヤもそれについて話し始めた。
「元々生徒の数も多くないですし、仮にも生徒会長ですので全校生徒の顔と名前ぐらいは憶えていますのよ。」
言いながら、千歌の元へ寄り腰を下ろす。
「そうでなくても、あなたがライダーである限り、私はあなたを認知できます。」
その言葉を聞いて、千歌は思い出した。
仮面ライダー、タイガの力を・・・。
「事情はすべて把握しています。あなたが桜内梨子さんと戦闘を行ったことも、負けたことも。
それによってタイガのカードデッキが破壊されたことも。」
そうだ、梨子ちゃん。あの子を・・・。
「あ・・・ぐっ・・・。」
しかし、身体は反して動かず声が漏れる。
「気持ちはわかります。それでもまずは落ち着きなさい。その身体ではどうにもならないでしょう?それに、頼っていた力だって失っていますのに。」
「でも・・・。」
「落ち着きなさいと言っているでしょう?まずは整理なさい。それから、考えなさい。梨子さんにも言われたでしょう。それはきっと誰よりも、自分自身がわかっていたことであり、感じていたことであり、逃げていたことでしょう。それからまだ逃げているうちは、何も解決しませんわ。」
千歌は何も言えなかった。
「それに、どうせその身体では動くこともできないでしょう。しばらくここに泊まっていきなさい。あなたの家には、適当な理由をつけて話しておきますから。」
申し訳ないと感じたが、この状態を家族にどう話せばいいのか見当もつかないので、好意に甘えることにした。
「何かありましたら呼んでもらって構いません。しっかり、自分自身と向き合いなさい。鏡の世界の力を使うということは、そういうことです。」
「あの・・・。」
ひとつ、抱いた疑問をダイヤに投げかけた。
「どうして、ここまで私にしてくれるんですか?」
ひとつ、間をおいてからダイヤが答えた。
「生徒会長、ですから。」
そう言うとダイヤは部屋から出ていった。
ダイヤが部屋から出ると、一人、隠れて何やらしているようだった。
「ルビィ、そんなところで何をしていますの?」
ルビィと呼ばれた少女は驚きを前面に出した表情をダイヤに向けた。
あぁ、話を盗み聞きしていましたのね。我が妹ながらしょうがないことを・・・。
思いながらため息をこぼすと、ルビィが口を開いた。
「高海さん・・・大丈夫?」
根は優しいのに臆病だから、いや、臆病だからこそ優しいのか。
一人勝手に納得しながら、ダイヤが答えた。
「えぇ、しかしもう少しここにいてもらうことにしました。でも、あなたが心配することはもうありません。」
そっか、と頷いてルビィは小走りでその場から離れていった。
その小さな背中を見送る。
さて、と小さく呟いて、外を見通した。
「私も、決断しなくてはなりませんわね。」
一人、千歌はまた静かに天井を見つめていた。
こんにちは。いつもありがとうございます。
不定期更新なのもあれだと書きながら思いました。すいません。
今後は、火曜中の更新にしたいと思います、よろしくお願いします。
ダイヤさんと千歌ちゃんの会話シーンです。
ルビィちゃんも初登場。
話の本筋に関係なくても、少しずつメンバーみんなの名前を出していくつもりです。
曜ちゃんがしばらく出ていない・・・。
ポジション的に今のお話は「二年生編」みたいな感じなので、一応曜ちゃんもお話に、というか千歌ちゃんにとって必要な人物ではあります。ようちか。
それでは。