Aqours☆HEROES   作:ルイボス茶

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Aqours☆HEROES

初めて出会った時のこと。

この世界の「高海千歌」がどれだけ嬉しかったか、きっと梨子は知らない。

戦いの厳しさ、己の甘さ、他にもいろんなことを教えてくれた。

厳しいことも言われた。

それでも友達としていてくれた。

梨子は千歌に救われた、そう言っていた。

千歌にとってもそれは同じだった。

けれどそれは「私」ではない。

死ぬことのないこの戦いで、こみ上げる気持ちを殺す。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

漏れる呼吸は梨子のものだった。

攻撃が当たらない。

ナイトは剣を必死に振るうが、オーディンの身体には傷一つつかない。

かろうじて拾い上げたサバイブも、使う隙を与えてしまえばそれで終わってしまうそうだった。

嘲笑うでもなく、ただ第三者が観戦しているかのように千歌は躱す。

「まだ、届かないよ。」

そう言って右の拳に力を込め、梨子の腹部めがけて叩き込んだ。

およそ人間のものとは思えない声を漏らし、梨子は倒れた。

反動でナイトの変身が解ける。

「まだ・・・私は・・・!」

爪が剥がれていくのも気にせず、地を必死で掴み立とうとする。

その様子を見て千歌は言った。

「・・・立てるようになるまで、あなたについて答え合わせをしよっか。もう気付いていることだらけだろうけど。」

「そんなもの・・・もう!」

「いらない?そんなこと言わないで。梨子ちゃんの知らないこともきっとあるから。」

オーディンの変身が解ける。

表情は変えないまま、千歌は必死になっている梨子に語りかけた。

「あなたは本来であれば、ライダーバトルに関わるどころか、ここに来ることすらあり得ないはずの存在。リュウガやアビス、オルタナティブがライダーバトルのイレギュラーと呼ばれるなら、梨子ちゃんはこの世界そのものにとってのイレギュラー。」

梨子の口から出るのは立ち上がろうと力を込めるたびに漏れる嗚咽。

「桜内梨子という異端がライダーバトルに変化をもたらした。その結果、このライダーバトルではイレギュラーが生まれ、結果として負けるはずのない果南ちゃんが戦いに敗れた。そして最後に一人、あなたが残った。」

梨子に視界は無かった。

目の前で話しているのが本当に千歌なのかさえ怪しい。

それでも梨子は口の中の血を吐き出し、立ち上がろうと努力した。

「曜ちゃんが気付いていてダイヤさんたちが気付いていなかったのは認識の違い。曜ちゃんは自身がイレギュラーとなるつもりだったから気付きやすかった。けれどダイヤさんたちは、イレギュラーのライダーがいるからだろう、と逆の解釈をしてしまっていたんだよ。」

そこまでは梨子も気付いていた。

けれど、一つだけ、どれだけ考えてもわからないことがあった。

「どうして・・・どうして私だったの・・・」

「運命なんて、そんなものでしょ?」

「・・・そうね。」

よろけながら、梨子が身体を起こす。

力をどこかに入れようとするたびに舌を噛んで痛みを紛らわせた。

口からドボドボと溢れる。

鉄の味か、砂利の味か、曖昧なその感覚も捨てて立ち上がることだけに集中した。

「私は・・・あなたを倒す・・・関わった全ての世界を消す・・・それから・・・」

二本の脚で地面を感じる。

不安定な上半身をしっかり支え、顔を千歌へ向けた。

「それから・・・あなたたちと生きる!!!!」

全身から絞り出した叫びに反応するように梨子の周りを疾風が包み込む。

己の弱さが招いた結果だと悔やみ、そしてそれを乗り越えるために。

「変身!!!!!」

ナイトサバイブが剣を天に突き刺した。

「『あなたたち』、か。」

千歌はそう言うと、ナイトサバイブへと接近した。

 

視界になんて頼らない。

聴け、感じろ。全てを研ぎ澄ませ。

たった一回、一撃でいいのだから。

 

オーディンは拳を固め、ナイトサバイブのベルトめがけてそれを撃ち込んだ。

 

『ストレンジベント』

 

そのカードは、最期に曜が渡していたものだった。

何が起こるのかわからないカード。

どうしてこのカードだったのかその時は理解できなかったが、今ならわかる。

これは、奇跡を起こすカードだ。

 

カードはフリーズベントに変化した。

オーディンが冷気によって動きを封じられた。

 

「はあああああああああ!!!!!」

 

ナイトサバイブの剣がオーディンをデッキごと貫通した。

 

オーディンの変身が解ける。

 

千歌はその場に膝をついた。

 

「避けるつもり無かったんでしょう?」

梨子が変身を解いて言う。

「さぁ、どうだろう。」

千歌の声は、明るかった。

千歌がどんな顔をしているのか、梨子には分からなかった。

「おめでとう。あなたがライダーバトルの勝者だよ。」

「ねぇ、消えるの?」

梨子はそんな気がしていた。

「うん、元々鏡の中にいたからね。だからその前に。」

千歌は身体を引きずりながら梨子の元へと寄り、手を取った。

「ありがとう。やっと私は倒された。」

千歌の手の温もりが消えていく。

梨子はそれを逃さないように強く握りしめた。

「最後に聞かせて。千歌ちゃんは、ダイヤさんに何をお願いしたの。」

千歌は驚き、そしてこみ上げる感情を必死に抑えながら答えた。

それを聞き、梨子はうなづく。

「どこかの世界で、最後のそれは私たちで叶えましょう。」

 

梨子は残った。

数日間に及んだライダーバトルの勝者として。

「戦いが起こった、全ての世界の消滅を。」

願いは世界に受諾された。

消えゆく意識の中で梨子は笑う。

千歌はこれを狙っていたんだと気付いたから。

最初から、そのつもりだったのだろう。

 

そう思うと、笑えてきた。

意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『3つ、お願いしてもいい?』

「えぇ、なんでも。」

ダイヤは千歌の願いに応えた。

『ひとつ、オーディンを他に誰にも渡さないで。』

『ふたつ、私をライダーバトルへ参加させて。記憶はなくて構わないから。』

『みっつ、私もやりたいな。』

「何をですか?」

ダイヤは分からぬまま聞き返した。

『スクールアイドル。みんなで。』

「そうですね。全部終わったら、みんなで。」

 

 

 

 

 




いつもありがとうございます。
最終話です。
次が最終話だと言ってから、すごく時間が経ってしまいました。
生活面でバタバタが続いていたのですが、やっと落ち着いたって感じです。

それではまず、内容のお話から。
戦いが無くなることを望んだ2人のオーディン。
2人が願った結末は、自分らに関わらない誰かがオーディンを倒すこと。
その誰かが梨子ちゃんでした。
オーディンは自分から負けようとしても戦いを終わらせることができませんでした。
そんな中でやっと倒された。
ライダーバトルが、ようやく終わったのです。
しかし、千歌もダイヤも自分の願いは叶っていません。
物語はこの後本編に繋がります。というか、この世界はなかったことになるので本編に戻る、って感じです。そこでダイヤさんは奮闘。
千歌も自力でどうにかします。本編です。最後の会話はオーディン伝承時の会話です。
暴力で叶える願いは良くないのだから。

近況です。
読んでいただいた方、本当にありがとうございました。
自分にとって、とてもかけがえのない経験になったと思います。
またどこかで、機会があれば是非。
それでは。

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