呼吸が追いつかない。
息をすることすら忘れると言うが、忘れたくて忘れているのではない。
酸素を取り込もうと意識をそちらに向けては、負ける。
他の動作などしている暇がないのだ。
肺が無くなるのではないかとすら思う。
肺だけじゃない。
身体の全てが限界を超えそうだった。
それでも2人は剣を振るう。
最後の1人になるために。
2人の剣が止まる。
同じ異変を察知したらしい。
それについて言葉にする前に、思い切り肺を膨らませた。
ヒュウと音がした気がした。
曜は穴が空いてるのかもしれないと思ったが、それは笑えない冗談だと思い言わなかった。
代わりに、気づいた異変について梨子に投げかけた。
「モンスターの鳴き声が止んだね。」
梨子もそれに同意する。
「えぇ、パタリと。あれだけひっきりなしに鳴いていたのに。」
それまでずっと耳を支配していた、鼓膜を切り裂くような雄叫びがさっぱり消えたのだ。
それが意味することに、2人は気づいていた。
「果南さんが脱落したのね。」
「誰もこちらに来ないと言うことは、3人とも・・・。」
沈黙が続く。
久しく経験していなかった全くの静寂。
ひどい耳鳴りをかき消すように、梨子が言った。
「あとは、私たち2人。」
「どちらかが、オーディンと戦う。」
答えて、今度は曜が聞いた。
「梨子ちゃん、何を願うの?」
「ライダーバトルの消滅よ。」
梨子はすぐに答えた。
「本当に?」
仮面越しの曜の視線は決して鋭いものではなかった。
けれどその質問は確かに梨子を動揺させた。
「・・・どういう意味?」
「言葉の通りだよ。本当にそれが梨子ちゃんの願い?もっと他にあるんじゃないの?」
「・・・どうしてそう思うの?」
それは、梨子が誰にも言わなかった最後の謎。
それを曜は知っているかもしれない、梨子はそう思った。
知っていたところでやることに変わりはない。
曜を倒してライダーバトルを終わらせる、ただそれだけ。
けれど高校二年に進級したばかりの少女は悩んでしまう。
迷ってしまう自分が怖い。
それならば、いっそ自分が負けて曜に権利を渡した方が良いのではないかと考えてしまう。
「答えるまでもないと思うけど。」
当然のように曜は返す。
梨子は確信した。
曜は秘密を知っている。
また、曜も同じくして確信を得た。
梨子が隠していることではなく、もっと別のこと。
この戦いの結末を。
「・・・ごめんなさい。ここまで来たのに、私、まだ決められないの。自分のことを考えてしまうの。」
消えてしまいそうな声で梨子は言った。
助けを求めているようなか細い言葉を曜は噛みしめるように聞いていた。
「私が梨子ちゃんの立場だったら、悩まないと思う。」
きっぱりと言った。
どうして?と聞く梨子に曜ははっきりとした声で答える。
「残念だけど、私だから。どちらを選ぶかはわからないけれど、これ以上私は悩めない。もう十分悩んだから。そんなに器用じゃないんだよね。」
仮面の下で曜は笑っていた。
「でも、そうだね。だからこそ、こうして私も決めることができた。」
言葉を並べ終えると、曜は手に持っていた剣の先を自分のデッキに当てた。
大きく息を吸う。
梨子が慌てて何かを言っているのがよく耳に届いた。
それだけで十分だったのかもしれないと曜は思う。
元々、牙となった自分がそれを向けることはできなかったのだ。
心を決めた曜は目を瞑る。
龍騎の剣が、自身の身体を貫いた。
同時刻、浦の星女学院。
あれだけいた敵が全て消えた。
途方も無い戦いだと思っていたのに、あっさり終わってしまった。
花丸は変身を解き、その場に横たわった。
同時に、デッキは粉々に砕けてしまった。
元々試作機であるこのデッキがここまで堪えたのだ。
十分すぎる成果だと花丸は納得する。
「今度は、守ることができたずら。」
顔を横にし、保管されている身体を視界に入れる。
自分の戦いはここで終わる、そう思った。
敵が消えた理由はすぐにわかった。
千歌が戻ってこないことから、あちらもじきに終わるとう予測もできた。
勝者は何を願うのだろう。
今の自分なら何を願うだろう。
勝者が何を願っても受け入れよう。
花丸は、自分の今の願いを考えながらしずかに目を閉じた。
目の前の光景が理解できずにいた。
梨子は必死に考えを巡らせる。
しかしいくら考えても、現状は単純で複雑だった。
『曜が自ら脱落した。』
ただそれだけの事実なのに、到底受け入れられなかった。
「曜ちゃん!曜ちゃん!」
必死に叫ぶ梨子に曜が返事をする。
「そんな・・・叫ばなくても・・・」
「どうして!これなら私が・・・!」
「オーディンを倒すことができるのは、梨子ちゃんだけだって、自分もわかっていたでしょ?」
「・・・どういうこと」
「答えはもう見えてるはずだよ。」
曜の声が消えていく。
曜の身体を起こし、梨子が必死に名を呼ぶ。
残された力を曜は言葉に乗せた。
「きっと、たった一回頰にぶつけてやればそれで良かったんだよ。ちゃんと言葉にすれば良かったんだよ。ただそれだけ。こんな力、元々必要なかったんだ。」
腕にかかる重みが増す。
それは、曜の意識が消えたことを意味していた。
抱えていた上半身を梨子はそっと下ろした。
言葉が見つからない。
見つかるはずがない。
それでも、現実は梨子に突きつける。
桜内梨子が最後のライダーであると。
「正直、なんて言ったらいいのかわからないや。」
千歌の声がした。
今更目の前に突然現れるぐらいで驚きはしない。
「・・・決めたわ。」
力強く梨子が言う。
「オーディン、あなたを倒す。」
「叶える願いは変わらない?」
「いいえ。私の願いはライダーバトルの消滅でも、戦いを終わらせることでもない。」
「?じゃあ何を・・・?」
「ライダーバトルに関係した世界すべての消滅よ。」
千歌の口元がニヤリと笑う。
春先に不釣り合いの冷たい空気が2人を包む。
「さすが、この世界のイレギュラーだね。」
いつもありがとうございます。
更新遅くなってしまってすみません。
時間が取れたので、更新させていただきます。
前回からかなり時間空いてますね・・・。
それでは、内容のお話から。
曜の境遇を見る感じ、きっと「この世界でなければ」曜が一番勝利に近いライダーだったのかなと思います。
けれど、近くても届きはしない。曜はそれに気付いていました。
最後の曜の質問。曜は「悩める」ことが大切だと思っていました。悩めるから答えが見つかる。悩めるから間違いに気付ける。曜「なんかよくわかんなくなってきた、あは!」
結局、曜は梨子を最後に勝たせるためにここまで生き残ってきたようなものなんです。
誰のためか、最初は千歌のため、でも今はそれだけじゃなく・・・。
次回、最終話です。
このお話の最初は千歌vs梨子でした。
そして終わりも同じく。
次回いつ更新できるんでしょう?分からん!!!!!ごめんなさい!!!!!
近況です。
最近は更新できてないとはいえ、何だかんだこれ一年続きました。
感想もいただいたり、お気に入りしていただけたり、ふらっと寄っていただけたり。
良し悪しに関わらず、見てもらうことが一番嬉しいことだと思っている自分にとってこんなに嬉しいことはありません。いやありそう。
兎に角、ありがとうございました。最終話、頑張ります。
それではまた。