剣と剣がぶつかり合う。
腕で受け止めた時には声も漏れないほどの痛みが全身を駆け巡る。
彼女たちのすぐ傍では、それぞれが召喚したモンスターたちが同じように戦っていた。
「まずい・・・。」
ダイヤは今いるトンネルがもたないのではないかと危惧していた。
今もぱらぱらとコンクリートが落ちてきている。
このまま戦っていれば、崩れるのは時間の問題だった。
今の体力のまま崩落に巻き込まれれば無事では済まない。
そんな事は容易に想像できた。
それよりも・・・
「崩れてしまう前に・・・。」
そこが崩れてしまうことを防ぎたかった。
そこは三人の思い出の場所。
戦いが終われば、また三人で来ることができる。
こんなつらい思い出さえも、きっとここなら上書きしてくれる。
そう、信じていたから。
仮面の下、果南の口元が笑う。
「ここはもう狭いよね。」
果南が指示を送ったのだろう。
アビスの指揮する二体のモンスターが先頭から離脱し、壁を駆ける。
それらは自分らが巻き込まれることなど考えず、ただひたすらに壁や天井を破壊し始めた。
弱っていたトンネルにとって、それは崩れるには十分すぎるほどのダメージだった。
「やばい!ダイヤ、外へ!!!」
「でも・・・!」
今更何ができるわけでもない。
鞠莉の言葉に従うように、足に力を込めて走った。
二人が外に出たそのすぐ後。
大きな音と砂煙を立て、思い出はがれきになった。
結局こんなものだったのだろうか。
ダイヤはその場で膝をついた。
戦いも、想いも、これからもすべて。
こうやって崩れてなかったことになってしまうのだろうか。
「そんなことない!」
鞠莉が否定する。
ダイヤが何かを言ったわけではない。
それでも、今何を考えているのかぐらい想像することは鞠莉にとって容易だった。
見上げるダイヤの頭にポンと手を置き、鞠莉は言った。
「今までの辛いことは必ず次の希望になる。私が想像できないぐらいに踏ん張ってきたんだから。」
「鞠莉さん・・・。」
「ダイヤが信じないのなら私がそれを叶える。だから立って。」
差し伸べられた手にダイヤはすがる。
今まで、鞠莉にこんなこと言われなかった。
確かに世界は変わっている。
ここでくじけてはそれこそすべてが無駄になる。
決めたじゃないかとダイヤは自分を叱る。
ここですべて終わらせる、と。
「・・・もう大丈夫です、ありがとう鞠莉さん。」
鞠莉はにやりと笑い、がれきに向かって言った。
「だからそのためにも、あなたをぶん殴ってやる。」
がれきから果南が姿を見せる。
「邪魔なものはなくなった、さあ、決着だよ!!」
『ストライクベント』
アビスのモンスター二体が近づき、融合する。
一つになり、肥大したモンスターが生まれた。
「ふざけないでよ!!!」
『ユナイトベント』
梨子のライア、ルビィのガイ、鞠莉の王蛇。
それぞれのモンスターが一つに融合する。
「ジェノサイダー。私の切り札よ。」
ジェノサイダーと呼ばれた合成獣が咆哮を上げる。
「私が奪い取ったみんなの意志、食らいなさい!!!」」
合成獣と合成獣がぶつかり合う。
同じくして、彼女たちもにらみ合った。
「今度こそ、果南を止めて見せる。」
「果南さん、覚悟は良いですか。」
果南は声を上げて笑った。
「何を言うかと思えば。私だって失った時間を取り戻すために頑張ったんだ、倒れないよ。あなたたちを殺してでも救う。」
『『『ファイナルベント』』』
「ドゥームズデイ!」
ジェノサイダーの腹部にブラックホールが出現する。
鞠莉はそれめがけて果南を蹴り込もうとした。
しかし、果南の合成獣がそれを正面から受ける。
その突撃を食らいながらも鞠莉はそれをジェノサイダーへと誘導した。
鞠莉は攻撃に耐えられずその場に倒れた。
互いの力と力がぶつかり合い、互いに消滅する。
「後はダイヤ・・・何!」
両腕を固定する形で、鞠莉は後ろから果南を取り押さえていた。
「いけえええええええ!!!!!!ダイヤ!!!!!!!!」
果南がそれに気付き、曇る空を見上げる。
暗い雲を背景にドラグブラッカーがダイヤを乗せて飛んでいた。
「ああああああああああああ!!!!!!!!!」
ドラゴンライダーキック。
かつて龍騎に変身していた時に使用した技を、果南にぶつける。
鞠莉は仮面の下で笑いながら、決して果南から離れなかった。
決めていたことだった。
戦いの始まりである果南と戦って、二人共に無事でいられる可能性はなかった。
淡島に向かう前に鞠莉はダイヤに話していた。
何かあれば、自分ごとやってしまえ、と。
もちろんダイヤは拒否した。
けれど鞠莉の意志は固く、最終手段として受け入れさせた。
「頼んだわよ」とだけ言って。
勢いで飛ばされた二人の体は別々に倒れていた。
ダイヤが鞠莉の元へ急ぐ。
王蛇のデッキが砕けて散らばっている。
ダイヤは震える声で鞠莉の名を呼んだ。
「鞠莉さん!答えてください!」
かすかに動いた瞼をダイヤは見逃さなかった。
「サバイブ・・・なきゃ・・・やばかったな・・・。」
風に消されそうな子細い声で鞠莉が言う。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・。」
傷口がふさがっていく。
反対に、鞠莉の意識はどんどん遠のいていった。
「すごいな・・・。やっぱり死なないんだね・・・。」
「今ならまだ・・・!そうだ、オルタナティブの試作機が!」
ダイヤの言葉を最後まで鞠莉が聞くことはなかった。
「あぁ・・・鞠莉さ・・・」
名前を呼ぼうとしたとき、腹部に違和感を感じた。
触れると、異物に触れた。
それが剣であると認識したときにはダイヤの意識は消えていた。
「・・・。」
果南は剣を引き抜き、そして自分も目を閉じた。
残されたのは傷が癒えていく三人の身体。
そこに魂はない。
その時代のデッキは砕け、他のものは消えてなくなった。
残るライダーはあと二人。
お久しぶりです。
一か月も・・・。すいません・・・。
少し落ち着いてきたので、更新していきます。
それでは内容のお話から。
三年生、解決することなく全員が脱落しました。
ダイヤは時間渡航から外れ、鞠莉は解決策を見つけられず、果南も道を間違えたまま。消化不良で救われないのですが、それには理由がありまして・・・。
これもあと1、2話で完結です。ずっと決めていた終わりにかかわることなので、追々で・・・。
ただ一つ言えることは、バッド「エンド」ではないということです。
近況です。
先にも書きましたが、あと1、2話なんですよ。だからホントは早く書き切りたかったんですけど・・・。
そんなわけで、残り少しよろしくお願いします。
それではまた。