「頑張ってる人にそれを言うのはどうかと・・・。」
「う、うるさいわね!ほかになんて言えばいいのかわからないんだから仕方ないじゃない!」
「でも、気持ちはちゃんと伝わってると思うよ。」
つい最近まで通っていた、自分の学校。
人数は多くないけれど、それでも人の声が絶えない明るい学校だった。
それが今はどうか。
聞こえるのは外から響く怪物の雄叫び。
それ以外の音はなかった。
水道の蛇口から落ちる水の音が聞こえるぐらいに静かだった。
歩みを進める。
足音が廊下中反響する。
目的の扉の前にたどり着き、花丸は足を止めた。
「ここ・・・。」
理事長室と書かれた標識が目に入る。
覚悟をして扉を開く。
辺りに注意しながら室内を見渡した。
「・・・見つけた。」
探していたものは、理事長のデスク後ろに隠されていた。
人がちょうど入るぐらいの大きな箱が三つ。
腰を下ろし、その一つに手をかける。
中に何があるのかは想像できた。
それを守るためにここに来たのだから。
上蓋を外し、中をそっと覗き込む。
「やっぱり・・・。」
中には人がいた。
冷静さを何とか保ちつつ、その口元に手をかざす。
小さな吐息を手のひらに感じた花丸は蓋を閉じて立ち上がった。
「花丸ちゃんが来たんだね。」
今まで誰もいなかった部屋に、何かが現れた。
それが何なのか花丸はすぐわかった。
「オーディン・・・。」
思えば、その姿を見るのは初めてだった。
けれどそれよりも気になったのはその声。
オーディンの変身者はダイヤだったはず。
それを知ったから、今花丸はこうしている。
しかし、今の声はダイヤとは明らかに違った。
花丸の記憶の中で合致するその声の主は・・・。
「私が誰か気づいてるんだね。」
オーディンはそう言うと変身を解除してその姿を見せた。
「千歌さんがどうしてオーディンに変身してるずら。」
「うーん、話せば長くなるんだけど。私もオーディンだった、じゃダメかな。」
「今はそれでいいずら。それで、おらに何か?」
千歌は窓の外を指して言った。
「ソレから守るためにここに来たんだよね?」
窓の向こうには多くのモンスターが群がっていた。
あるものはガラスを割ろうと引っかき、あるものは壁ごと破壊しようとしていた。
「だったら、どうするずら。」
「花丸ちゃんが持ってるそれはイレギュラーの一つだからね。ライダーバトルには何にも関係しない。だから私も関わらなくていいんだけれど。」
「だったら、ここに来る理由は何も・・・。」
「もうすぐ、ライダーバトルが終わる。」
言いかけた言葉が何であったか、花丸は思い出せなかった。
窓が今にも割れそうな音を発している。
「それでも、おらがやることは変わらない。」
「花丸ちゃんが何もしないでも未来が決まるのに?」
「そうずら。ライダーバトルの敗者がどんな道をたどるのか知ったらなおさら。」
それを聞いた千歌の視線は花丸の後ろにある箱に移っていた。
「ライダーバトルで人は死なない。その代わり、負ければ意識を失い戻ることはない。願いを奪い取るにはそれが一番だから。」
「そうして最後の一人になるまで戦いを続け、意識を失った戦士から取った願いの力で次の世界へ向かう、それがこの戦いの全部だよ。」
「意識を失った人はモンスターからも襲われる。おらはこの人たちをそれから守りに来たずら。」
「・・・今までは鞠莉さんが守っていたんだね。」
戦いの真相を全員が知るより前。
先に脱落した三人のライダー。
鞠莉は果南が倒したと話していた。
鞠莉は意識を失った三人をかくまっていた。
敗れた者がどうなるのか知っていたわけではない。
守らなければいけないと感じたから、守っていた。
誰かがそれを知ることはない。
大切な友を傷つけようとも、鞠莉の根底はずっと変わっていなかった。
窓が割れる。
壁が壊れる。
モンスターたちが流れるように部屋に入ってくる。
「なら、今度はおらがこの人たちを守るずら。」
花丸はデッキを敵に向け、ベルトを出現させた。
通常のライダーとは異なる形をしたベルト。
それにデッキを差し込んで、花丸は叫んだ。
「変身!!!」
「ダイヤさんに黙って持ってきちゃったんだけどね。」
善子は苦笑いしながら花丸の手にそれを置いた。
「もし帰れないようなことがあったとき、あなただけでもと思って持ってきたの。鞠莉さんは別のものを借りてたんだし、いいわよね。」
渡されたそれを持つ手に、今度はルビィがそっと手を置いた。
「ルビィも背中を押すよ。花丸ちゃんならきっとできる。戦いに送り出すなんて・・・とは思うけど、それでも!」
目には涙が浮かんでいた。
「それでも、後悔しているのなら行ってきて。帰ってきたら今度は三人で遊ぼう。」
想いを込めて。
花丸の背中を二人は強く押した。
姿が変わる。
かつてダイヤが変身した姿と同じ。
それでいて少し違う、いわば試作機。
その姿の名をそっと呼ぶ。
「オルタナティブ・ゼロ」と。
「二人が背中を押してくれたんだから。最後ぐらい、ルールテラーらしい仕事をするずら!!!」
『アクセルベント』
「そう、花丸ちゃんの願いはもしかしたら叶ったのかもね。」
千歌はオーディンに再び変身し、数体のガルドサンダーを呼び出した。
「行け。」
ガルドサンダーたちは千歌の指示を受け、モンスターたちと戦闘を始めた。
「千歌さん・・・?」
不思議そうにする花丸に千歌は言った。
「その人たちはね、私の大切な友達で、守れなかった人たちなんだ。だから、せめてこれぐらいはね。」
そう言い残し、千歌はその場から消えた。
いつもありがとうございます。
不定期更新です。
それでは内容のお話から。
前書きで少しずつ進めていた一年生組の話です。
ライダーバトルからは脱落したけれど、オルタナティブとして復帰してイレギュラーとなった花丸です。
時系列は前回と変わりません。梨子と曜が戦い始めた時に千歌が向かったのが花丸の元でした。善子がデッキを持っていくのをちらっと見ていた千歌ちゃんです。
それを覚えていた千歌、ライダーバトルが終わりに向かうにつれて気になっていたことがありました。オーディンの記憶を引き継いだ時に知った三人の脱落者の存在です。
これが誰なのか明言はしませんが、千歌や曜の友達三人組だったりしますってわけです。
近況です。
最近足のむくみがやばいんですよ。
それではまた。