Aqours☆HEROES   作:ルイボス茶

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何度この言葉を口にしただろうか。
「どうして?」と。
資格があるわけがない。
このまま、おらは・・・。
けれど二人は微笑む。
「ずら丸なら/花丸ちゃんなら やれる。」

あぁ、そうか。
まだ私に期待してくれている。



ふたりのキモチ

千歌が従えるガルドサンダーたちとそれ以外のモンスターたちが互いを滅ぼしあう。

数は目に見えて減っていく。

例えるなら、これは・・・

「まるで戦争ですわね。」

武器を下ろし、じっとその様子を見つめる。

戦うことをあきらめたのではない。

戦う理由がなくなったから、ダイヤは武器を下ろしたのだ。

数はさらに減っていく。

千歌側が圧倒的優位な状況で。

そう、戦争なんてものじゃない。

梨子は首を振って否定する。

「これは、殺戮です。」

 

自分たちだって同じことをしていたとわかっていた。

 

何度も悩み、考え、その度に乗り越えようとした。

けれどいつになっても付きまとってきたこと。

やがて曜も梨子も手を止めた。

誰も手を出さなくてもこの場は鎮まる。

 

「自分の実家だとは思えない有様ですわね。」

ため息をつきながらダイヤはがれきに触れた。

ダイヤの家だけではない。

今日まで共にしてきた生活のほぼすべてが失われた。

かつての内浦の姿はもうない。

モンスターがやったこと。

自分たちがやったこと。

「これじゃ、戦いが終わってもどこに帰ればいいのか。」

ただ一つ、変わらず広がる海を見つめて梨子が言う。

「ううん、きっと初めからなかったんだよ。ね、千歌ちゃん。」

曜はそう言って千歌を見た。

千歌は、笑みを浮かべていた。

せつなく、決意に満ちた笑みを。

それから、千歌は事の経緯を話し始めた。

 

 

 

千歌はライダーバトルに選ばれた。

ダイヤが参戦するよりも前、果南によって開かれた原初の戦いに。

とても純粋な、輝きたいという願いに導かれて。

けれど、千歌は変身できなかった。

誰かを殺すなんてことできるはずがない。

誰かの夢を踏みにじることなんてできない。

千歌はひたすら隠れて生活した。

鏡の向こう、ミラーワールドからはいつも金属がぶつかり合う音が聞こえていた。

悲鳴と、雄たけびも。

デッキに潜むモンスターが千歌を蝕んでいたことにも、千歌は気付かなかった。

 

昔から、運が悪いわけではなかった。

だからなのかもしれない。

千歌はオーディンを除く最後の二人にまで生き残った。

見つかり殺されるわけでもなく、戦い戦死するわけでもなく。

隠れ続け、生き残ってしまった。

 

その日も同じように隠れて過ごしていた、はずだった。

その日鏡から聞こえてきたのはいつもの金属音ではなかった。

声。

千歌を呼ぶ声。

「戦え。」

 

名前を呼ばれたわけではない。

性別の区別さえつかない声で、ただそう聞こえただけ。

けれどそれは明らかに千歌に向けられていた。

関係ない、変わらず隠れ続ければいい。

聞こえないふりをしてやり過ごせばいい。

そう思っていたはずなのに。

 

鏡を見てしまった。

 

倒れている鎧が一つ。

真っ赤に染まった地面に突っ伏していた。

そのすぐ正面に二つの影。

金色の鎧を着た戦士と、ポニーテールの少女。

横たわる鎧から噴き出すそれを浴びても動こうとしない。

千歌が初めて見た鏡の向こうは地獄のようだった。

 

耐えきれず、身体から逆流するもので口の中が酸に染まる。

こらえきれない不快感と高まる緊張。

その少女を千歌は知っていた。

毎日のように一緒にいた千歌の幼馴染。

一つ年上の優しいお姉さん。

松浦果南に間違いなかった。

果南は血をぬぐうこともなくその場を去った。

残ったのは、金色の鎧一体のみ。

 

気づけば、千歌はデッキをかざしていた。

ベルトを呼び出し、変身した。

すぐにその場へ向かい、前に立った。

「これは何?」

鎧は答えない。

「どうしてこんなことしたの。」

鎧は答えない。

「どうして、ここに果南ちゃんがいたの!!!」

鎧は答えない。

「答えてよ!!!!!!!!!!!」

カードを引いた。

なんて書いてあるのかはよくわからない。

ただ、それを使えば目の前の鎧を倒せることだけはわかった。

 

『ファイナルベント』

 

「今まで隠れていたのが駄目だったんだ。」

身体をめぐるすべてを右手に集中させる。

「私も戦うって決めた。」

力の溢れ出る手のひらを拳に変えて叩き込んだ。

 

「ライダーパンチ。」

 

鎧は消滅し、デッキだけがそこに残った。

それを拾い上げ、今の変身を解く。

「戦わなきゃ、生き残れない。」

元持っていたデッキを力の限り地面に叩きつけた。

衝撃に耐えられなかったデッキは簡単に砕け散った。

「こんなにもろいのに、どうしてこんなことができるんだろうね。」

そこに答えはいらなかった。

求めたかったのは一つ。

「変身。」

その掛け声と共に千歌は金色の鎧に身を包んだ。

「そう、オーディンっていうんだ。」

千歌は覚悟を決めた。

高見千歌はここで死んだ。

今の自分は仮面ライダーオーディン。

こんなろくでもない戦いを終わらせる、その日まで。

 

 

 

この時に果南を殺していれば、すぐに終わっていたのかもしれない。

けれど千歌は知りたかった。

どうして果南がこのようなことをするのか。

それを知ってから、倒してすべて終わらせようと決めていた。

問いへの答えはすぐに出た。

しかし、知ってしまったが故に千歌は手が出せなくなってしまった。

自分が関わってどうにかなることではないと知った。

 

 

 

 

 

「それからダイヤさんが参戦して、私はそれを見つけて。」

「私にオーディンを譲渡したと。」

ダイヤの言葉に千歌は頷いた。

曜は千歌に問いを投げようとした。

けれど千歌がそれよりも先に話を続けた。

「私から言えるのはここまで。それから、私は果南ちゃん側に付くから。」

誰も、すぐには理解できなかった。

一番に口を開いたのは梨子だった。

「それって、つまり千歌ちゃんと戦うってこと?」

「そんなのできないよ!関係ないじゃん!」

曜も同調して抗議した。

「ううん、高見千歌は死んだんだよ。あなたたちが戦うのはオーディン。オーディンは果南ちゃんの戦士だからね。」

ダイヤは黙ったまま聞いていた。

「鞠莉さんが今、果南ちゃんを追いかけているみたい。先に行くから。どうするか決めてね。」

そう言い残し、ゴルトフェニックスを使ってその場を後にした。

 

 

 

「おそらく、これが最後の戦いになるでしょう。」

ダイヤは二人に言った。

「でもそれは、私たちが戦ったらの話ですよね。」

ダイヤは黙って頷いた。

「千歌ちゃんを倒せだなんて・・・。できるはずがない。」

曜は膝を抱えて座り込んだ。

「もし戦わなかったら、どうなるんですか。」

梨子の問いに顔を曇らせてダイヤが答える。

「いつかはこの戦いの勝者を決めなければなりません。この戦いを終わらせるにしても。仮にあなたたちが戦いを放棄した場合、私と鞠莉さんが果南さんとオーディンの相手をすることになります。勝てば、まあ。しかし、まず無理でしょう。」

「どうしてですか?」

「あなたたち二人がサバイブを持っているからです。もしサバイブだけ私たちに渡すとしたら、結果はわかりませんが。そんな中途半端な逃げをあなたたちはできますか?」

「それは・・・」

梨子はダイヤの言葉を聞いて下を向いた。

「どちらかしかないのでは?戦うか、降りて戦いを止めずに終わるか。それもいいとは思います。あなたたちの記憶はここで途切れるのですから。」

「でも、それだと千歌ちゃんは・・・。」

「そう、また果南さんと同じようにタイムベントを繰り返すでしょう。」

「ねぇ、梨子ちゃん。」

顔を伏せたまま曜は梨子に聞いた。

「千歌ちゃん、私たちに助けてって言ってたのかな。」

「曜ちゃん・・・。」

「なんでも、一番先に決めることが一番辛いんだよね。私も少しぐらいはわかるから。でも千歌ちゃんは戦うって決めてた。あれだけ戦いたくないって言っていたのに。」

顔を上げてじっと梨子を見た。

「千歌ちゃんのためにも、剣を抜かなきゃダメなんじゃないかな。」

じっと目をつむり、梨子は思考を巡らせた。

けれどそれはすぐに不必要だと気づいた。

「そうね。友達、だからね。」

互いに笑みを向けた。

「決まりましたか。」

「はい、それから、ダイヤさん。」

梨子と曜はダイヤに近寄った。

「オーディンは私たちに任せてください。ダイヤさんたちはダイヤさんたちの決着を。」

「・・・えぇ、必ず。」

 

 

 




いつもありがとうございます。
遅れ更新です、すみません。

それでは内容のお話から。
最終章とかいいながらいつ終わるんだって感じでしたが、やっと最後の戦いです。
ライダーと同じで、50話前後を目安に考えています。
本編では触れなかったこととかをぼろぼろと・・・。
最終決戦の場所はあのトンネルです。
三年生の決戦にはふさわしいかと。
ずっとどうしようって悩んでいたのですが、二期を見てここだ!と。
最後までどうぞよろしくお願いします。

近況です。
前々回の近況で冬休みって書いたんですけど、春休みでしたね。
季節感/zero

それではまた。

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