Aqours☆HEROES   作:ルイボス茶

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それは冬の記憶。
自分よりもずっと大きなクリスマスツリー。
お姉ちゃんは、そのてっぺんにあるお星さまのようだった。
いつもルビィのことを見守っていてくれる。
注いでくれた愛情はどんなプレゼントよりもうれしくて。
幸せな日々はキャンディよりも甘い。
確認するように一つ一つ飾りをつけていく。

たとえそれが記憶でしかなくても。
自分の最後に悔いは無い。




ジングルベルがとまらない

善子は立ち上がるとすぐ背伸びをした。

「じゃあ、行ってくる。」

静かに眠るルビィを横目に、そう言った。

 

花丸の襲撃以降、千歌たちは体制を整え直していた。

善子はすぐ花丸を追おうとしたが、梨子がそれを止めた。

焦る気持ちばかりでは何も進展しない。

まずはこちらが十分に落ち着いてから動こうと提案した。

善子は渋りながらもそれに頷き、体力の回復に努めていた。

久しく見ていなかった時計が朝の7時を知らせていることに気付いたときは皆が驚いていた。

太陽の光さえろくに通さない分厚い雲で覆われた今、自然を頼りに時間を把握することは無理に等しい。

そしてそれからさらに2時間後、善子が動き始めるために立ち上がった。

 

「私も行きます。」

ダイヤが立ち上がりそう言った。

けれど、善子は首を振って

「ダイヤさんはここでルビィを見守っていてください。」

と言った。

善子は思った。

今ここでダイヤが離れてしまったら、ルビィが身体を張った意味が無くなってしまう。

いつか目を覚ました時、一番最初に目に映るのは姉であってほしい。

それに。

花丸を助けると約束した。

だから、これは善子自身の問題でもあるのだと。

「なら、私もいっしょに行くわ。」

柱の陰から姿を見せたのは鞠莉だった。

「んー!よく寝た。ねぇ、私ならいいでしょ?」

鞠莉は大きくあくびをしながら言った。

「鞠莉さん。でも・・・。」

「勘違いはNO。これは私の戦いでもあるの。せっかくダイヤに勝てたんだもん、また負けだなんて、そんなのイヤ。」

口調は明るくても、目は本気だった。

善子はそう感じ、それを許諾した。

「OK!そうと決まれば。」

鞠莉はダイヤに向かって言った。

「ダイヤ。これ、借りていくわよ。」

これ、と呼ばれたものを見てダイヤは驚いた。

「ほんとに・・・あなたは最悪のライダーですわ。」

「それは、誉め言葉として受け取っておくわ。」

鞠莉は陽気な笑顔を見せる。

ダイヤもつられて笑った。

 

 

 

「ダイヤさん、最後に寝たのはいつですか?」

善子と鞠莉が花丸の元へ向かってから、千歌がダイヤに聞いた。

「なぜそのような質問を?」

「ダイヤさん、オーディンに選ばれてから一睡もしていないんじゃないですか?」

少しだけ驚くも、微笑んでダイヤは返した。

「寝ている時間さえも惜しいのです。少しでも早く、この戦いを終わらせたいから。」

ダイヤはそう言うとルビィの頭をなでながら続けた。

「それに、寝るのが怖いのです。いつ戦いが起こるのかわからない。もしかしたらもう目覚めないのかもしれない。そう思うと、眠りにつくことができないのです。」

優しい口調で言われるも、千歌にとってそれはとても苦しく聞こえた。

だからこそ千歌は聞いた。

今ならきっとと思って。

「少し、寝てください。見張りとかは私たちがやります。ルビィちゃんの横ならきっと眠れるでしょう?」

ダイヤはルビィの顔を見る。

不思議と、今なら怖くなかった。

「・・・では、少しだけを。」

「はい。どこかのタイミングで起こしに来ますから、ごゆっくり。」

千歌はそう言い残して、部屋を去った。

先の戦いで屋敷の半分は壊滅しているため、姉妹はかろうじて残った部屋の中で一番部屋としての機能が保たれているところで寝ることとなった。

扉を閉めると、梨子と曜がいた。

「ダイヤさん、どうだった?」

「うん、今なら寝ることができそうだって。」

「よかった。まさかとは思ったけど、本当にずっと寝ていなかったなんて・・・。」

初めてダイヤに出会ったときのことを曜は思い返す。

当時は事情などいざ知らず。

どこまでも強い人だと感じていた。

「それで、私たちはどうしようか。」

残されたのは二年生の三人。

果南を探そうにも、下手に動くことはできない。

「作戦会議、かな。」

千歌の提案に二人も同意する。

「じゃあ、この先どう動くか、だよね。」

「紙とペン・・・って、私たち今デッキしか持ってないんだ。」

かつて教室でしたことと同じように、曜が梨子に差し出そうとしたがそれは叶わなかった。

「あれから、ほとんど時間は経っていないんだよね。」

曜が指を折って数える。

「そうだ、鞠莉さんが言った2週間の期限もまだ1日しか経ってないんだ。」

「2週間・・・ねえ、梨子ちゃん、曜ちゃん。」

千歌の呼びかけに二人とも目を千歌にあわせる。

「2週間もこんなつらい戦い、続けていられないよね。」

何が言いたいのかはすぐわかった。

けれど二人は、千歌の言葉を待った。

千歌もそれを感じ、慎重に告げた。

「残り3日。これですべて終わらせよう。」

「3日・・・。それまでに戦いの勝者が決まるってこと?」

「そういうことになるね。ただ・・・」

千歌はその先をためらった。

梨子はそれを察して言った。

「ただ、やっぱりライダー同士戦いたくないんでしょ?」

「うん・・・。どうすればいいのかな・・・。」

「私は、千歌ちゃんがしたいことを応援するよ。」

千歌の手を取り、曜が言った。

「私も同じよ。千歌ちゃんのしたいようにすればいいと思う。だって私たちは願いを叶えようとここにいるんだもの。」

そう言って、梨子も千歌の手を取った。

「曜ちゃん、梨子ちゃん・・・。ありがとう。決めた。決めたよ!」

今までの陰気な空気を振り払い、千歌は立ち上がる。

千歌は二人に太陽のような笑顔を向け、言った。

「ねえ、私思うんだ。願いってやっぱり戦って叶えるものじゃないって。」

 

 

 

 

 

「鞠莉、さっきダイヤに言ってたそれ何?」

歩きながら善子が聞いた。

「今はシークレットよ。でも、きっと切り札になるわ。」

「まさか、オーディンの・・・。」

「NO!花丸を見てわかったでしょう?あれは私にも使えません。」

会話は途切れ、歩みを進める。

今度は鞠莉から話を切り出した。

「もし花丸が暴走したままだったらどうする?」

善子の答えは早かった。

「倒すわよ、私がね。罪の背負いっこってわけじゃないけど。でもそれぐらいの覚悟を持ってなきゃここには来ていないわ。」

「そう。その答えが聞けてうれしいわ。」

再び会話が途切れる。

その後、会話が再開されることはなかった。

切り出すより先に、たどり着いた。

国木田花丸の元へ。

善子は吸い込めるだけ空気を吸い込んで、言葉を吐いた。

「迎えに来たわよ、ずら丸!」




いつもありがとうございます。
遅れ更新です、すいません。
本当は土曜日に更新しようと思ったのですが、せっかくクリスマスなのでタイトルと合わせてみました。

それでは内容のお話から。
タイムベントするたびに身体そのものはその時間と一緒に戻るので、ダイヤさんクマができていたりはしません。どちらかと言えば、夜を迎えられていない。みたいなニュアンスです。もちろん実際には迎えた夜もあるわけですが、寝てません。ユンケル飲ませたい。
そして二年生の会話。戦いたくない気持ちはあっても、現状ライダーバトルに進展が生まれるとすればライダーを倒すしかないわけで。それを三人とも理解した上でのこの会話です。三人は心の中で自問自答しています。二人を敵に回せるかどうか。そして答えを出す前に思うのです。二人を敵に回したその先に求めるものに意味はあるのか。反対に、善子ははっきり「できる」と言い切ります。これは「あなたが苦しいなら私も一緒に苦しむから」といったニュアンスです。善子優しいんだ。

近況です。
ブルーレイマラソンが始まった・・・。

それではまた。

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