Aqours☆HEROES   作:ルイボス茶

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少女と王蛇

すっかり冷めてしまった緑茶を含み、喉を潤す。

思うように喉を通らず、渇きは消えない。

そこでダイヤは自分が緊張しているということを自覚した。

言うべきことを言い終え、平然を装いながら様子をうかがっていたが、内心は恐怖でつぶれてしまいそうだった。

怖くなかったことなんて一度もなかった。

戦うことへの恐れ終わりのない旅の怖さ。

これまでそれらに何度も襲われてきた。

けれど今は違う。

今ダイヤが怖がっているのは話を聞いた皆の反応だ。

必死に自分を保つ。

それでも、心の震えは止まらなかった。

戦い続けて初めて、こうやって話すことができたのだから。

これまで多くを傷付けた。

心も身体も友人も家族もすべて。

これ以上傷付けたくなかった。

いつだって出来ることなら逃げ出したかった。

今だってそう。

今すぐここから去ってしまいたい。

でも、できない。

それが黒澤ダイヤであるから。

唇を噛みしめ、第一声を待つ。

 

沈黙を破ったのは鞠莉だった。

 

「・・・ふざけないで。」

今にも消えそうな声だった。

「ダイヤも果南も私のいる世界とは違うところから来たってこと?私の記憶とは違う人なんだ。別人なんだ。」

「でもそれはダイヤさんも・・・」

「私はダイヤに言っているの!!!」

梨子がフォローに回るも、鞠莉は強く言い捨てた。

「私は何のために戦ってきたの?プライドも捨て、傷だらけになって、それでも親友のために戦った。でもその親友は別人だった!私の知ってるあなたでは無いって言われたんだよ!」

ダイヤにこの言葉は重く、絞り出せる精いっぱいの言葉を返す。

「私は、私です。」

「言葉遊びはいらないの!ねぇ、教えてよ。私は、どうすればいいの。」

バックルをかざし、鞠莉は変身した。

「鞠莉さん!」

曜が止めに入ろうとする。

「変身しなさいダイヤ。私と・・・私と戦いなさい!」

「鞠莉さんやめて!もっとやることがあるでしょう!?」

「そうよ!こんな戦い意味ないじゃない!」

梨子と善子も訴えた。

それを鞠莉は振り切って

「意味なんて最初からなかったのよ。」

と吐いた。

「意味が無いなんて言わないでください。」

震えるダイヤの声はそこにいる全員の耳に届いた。

「果南さんを、私たちを、あなた自身を否定しないでください。」

「なら教えてよ、私は何のためにここにいるの。教えてってば!」

 

『ソードベント』

 

「・・・いつもいつもあなたは・・・あなたって人は・・・!!!」

ダイヤはオルタナティブのカードを手に取り、変身した。

 

『ソードベント』

 

王蛇とオルタナティブの交戦が始まる。

「止めないと、千歌ちゃん!」

千歌は二人をじっと見つめていた。

「千歌ちゃん・・・?」

「ん?あぁ、ごめん梨子ちゃん。」

「ちょ、こんな時にそんなぼーっとして・・・。」

「だめだよ。」

「え?」

「だめなんだよ。争うことはよくないことなのに、きっとこの二人は止めちゃダメなんだよ。」

「千歌ちゃん、どうして。」

曜が二人のそばから問う。

「報われないんだよ。ダイヤさんも、鞠莉さんも。」

 

「どうしてオーディンにならないの。」

剣を交えながら鞠莉が叫ぶ。

「だってあなた、負けっぱなしでしょう?」

「・・・!言わせておけば!!」

互いの剣撃が傷を残す。

どこかの骨が折れる音がした。

流れる血は多く、今にも倒れそうだった。

それでも二人は剣をふるい続ける。

「あなたはいつもいつも!」

「ダイヤだって!一人でいつも抱えて、私のことをいつも一人にして!」

「よく言いますわ!」

 

『ファイナルベント』

『ファイナルベント』

 

 

 

 

後に残されたのは砂ぼこりと半分を失った黒澤家の屋敷。

地面には大きなクレーターができていた。

千歌達の目の前のクレーターの中で、二人は横たわっていた。

「どうしてくれますの、家が半分なくなってしまったではありませんか。」

「知らないわ、そんなの。」

「身体はボロボロ。ライダーの治癒能力があるとはいえ、話すことがこんなにしんどいなんて。」

「なら話さなければいいじゃない。」

「・・・鞠莉さん。」

「何よ。」

「ありがとう。」

予想していなかった言葉。

痛む頭を何とか回し、ダイヤを見る。

仰向けになったダイヤの頬を涙が伝っているのが見えた。

「ありがとう、本当にありがとう。あなたがいたから私はここまで来られた。戦い続けることができた。ありがとう。ごめんなさい。」

「・・・いつもそうだった。ダイヤは本当は弱いのにいつからかそれを隠すようになって。強がり続けてた。いつも壊れてしまいそうなのに。いや、これは私たちみんなね。」

「鞠莉さん。」

「だからお願い。あなたと同じで、私も弱いの。とても弱いの。もう私を一人にしないで・・・」

必死で泣くことを堪える鞠莉の顔を見ながらダイヤは思う。

きっと一番強いのはこの人だ。

自分の弱さを誰よりもわかってる。

それでも立ち向かおうとする。

きっとこれ以上の強さなんてない。

「これはライダーバトル、勝者は願いを叶えることができます。」

ダイヤは痛みをこらえながらそばに落ちているオルタナティブのデッキに触れた。

デッキは中央に大きな傷を受け、その機能を失っていた。

「もう二度とあなたを一人にはしません。絶対に。」

その手を今度は鞠莉の方へと伸ばし、手に触れる。

温もりを感じた鞠莉は、その手をやさしく握った。

「オーディンとして、あなたに問います。あなたの願いは。」

「決まっているでしょう?二人の救済よ。」

 

「わかってたの?」

梨子が千歌の顔を覗く。

「うーん、どうかな。でも、想いの力ってきっとこういうことを言うんじゃないかな。」

「そうかもね。」

長い少女の戦いは一つ終わった。

この結末を、彼女は知らない。

けれど、大きな前進であるだろう。

一歩進んでは何十歩も戻っていた少女に訪れた二歩目。

二人は願う。

今度はこの手が三つになりますようにと。

そのために、今はもう一度立ち上がろうと。

 

満足感と達成感。

すべてが終わったわけではないが、それでも一つの区切りで気持ちが緩む。

 

だから、気付けなかった。

 

「違う、そうじゃない。」

 

砲口は二人に向けられていた。

「それじゃ救われない。解決しない。おらが、おらが救うんだ。」

 

『シュートベント』

 

放たれた砲弾が二人を直撃する。

二人の身体は宙を舞い、重力に従って叩きつけられる。

「そう、救わなきゃ。殺してでも、助けなきゃ。」

吹き飛ばされた反動で落ちたものを拾い上げる。

「これがオーディンのデッキ。これがあれば。」

 

突然のことに、その場の全員が身体を動かせなかった。

全員ができたことは起こったことを把握するのみ。

 

花丸が、二人を攻撃した。

 

「花丸ちゃん・・・?」

ルビィが恐る恐る口を開き名前を呼ぶ。

「嫌なところを見せてごめんねルビィちゃん。でも、必要なことなんだ。」

花丸は思う。

許されようだなんて思っていない。

許されるぐらいなら、その運命をこの姉妹へと。

胸の内にある怒りは自分が被害者だったことに対してなんかではない。

戦いのために配役がされた?自分は戦いの駒に過ぎなかった?

そんなことどうだっていい。

何も変わっていなかったって、信じていたのに。

 




いつもありがとうございます。
定時更新です。
それでは内容のお話から。

最終章開幕です。
鞠莉とダイヤのお話。
この世界で鞠莉が初めて変身したころ、ダイヤは鞠莉と行動を共にしていました。
力の使い方を知らない彼女への補助と鞠莉が道を逸れないように。
けれど本当のところは、ダイヤが鞠莉に頼ろうとした。疲れ切ったダイヤはもしかしたら助けてくれるのではないかとSOSを送ろうとしてたんです。
しかしその後きっかけがあり、やっぱり一人で戦いぬくことを選んだ。その時が来るまで言わないでおこうと決めた。そのきっかけはまた追々。
このことをダイヤはきっと鞠莉に伝えませんし伝えようとする気もありません。
もしかしたら鞠莉は気づいたのかもしれないけれど。

近況です。
函館・・・函館・・・

それではまた。

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