終われない。
終わらせたい。
酷く苦痛だった。
身体に刻まれたのは二人を救うという目的のみ。
そこに私の意志はなかった。
ただ、オーディンに変身する前の私が願ったことを実行しているだけの人形。
それでも構わないと決めたのもまた自分自身。
私はそれに従い続けた。
その日は突然やってきた。
何度タイムベントを繰り返しても戻れる時間は決まって同じ。
いつの間にか、果南さんの目から光が消えていた。
ライダーバトルが始まる。
何度目だろうか、数えることをやめたその戦いで今回も最後の一人が選ばれた。
王蛇だった。
「あなたの願いは何?」
何度も問うてきた質問を王蛇に投げかける。
相手に問うたびに、同時に自身にも問いかけ続けてきた。
多くの人は想う人と結ばれたいと願った。
家族の回復を願う者もいた。
それもまた、誰かを想う気持ちだ。
私と果南さんの知らない誰かが、他の知らない誰かを想っていた。
それが、今回は違った。
「あなたを救うためよ。」
嘘だと思いたかった。
きっと果南さんも同じ気持ちだっただろう。
王蛇の仮面の内側にいたのは、鞠莉さんだった。
鞠莉さんは変身を解くと、果南に訴えかけた。
「果南!もう一度あの時みたいに三人で笑いあおうよ!私たちならきっと!」
鞠莉さんは必死に訴えた。
「嘘だ、なんで、鞠莉まで、ダイヤも鞠莉もどうして、やめてよ、なんでなのさ」
膝をつき、果南さんの光無き瞳が鞠莉さんに向けられた。
「果南、帰ろう?もうこんなことやめよう」
手が果南さんに差し伸ばされた。
もしここで手を取っていたら、運命は変わっていたのかもしれない。
けれど果南さんは、その運命を許さなかった。
「オーディン、やって。」
きっと抵抗したかった。
きっと叫びたかった。
きっとやめようと言いたかった。
きっと違う選択肢だってきっとあると伝えたかった。
けれど、私はオーディン。
逆らうことは決してない。
鞠莉さんの叫ぶ声はイヤになるほどよく聞こえた。
本当に、何のために戦っているのでしょうね。
「今までで最悪のライダーだった。」
果南さんは王蛇のデッキを拾うとそう言った。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね」
何度も謝る姿を、私はただ見ていた。
「オーディン、タイムベントを。」
私はオーディン。
その指示に従うのみ。
悲劇は続いた。
次の世界でも鞠莉さんはライダーに選ばれた。
次も、その次も。
何度時間を巻き戻しても、鞠莉さんが戦いから外れることは一度もなかった。
「果南、もうこんなことは・・・」
「やめて!!!!!!!!!!!!」
何度も聞いたセリフを遮って果南さんは叫んだ。
「なんで、ダイヤは一度だけだったじゃん、なんで鞠莉もそうじゃないの、ねえ、なんでなの!!!!!!!!!!」
「果南・・・?いったい何を・・・」
空を見て、果南さんは言った。
「・・・もう嫌になった。」
次の世界で、ライダーバトルは行われなかった。
果南さんがそれを願ったから。
私の目的が達成できない。
そう思ったが、私はオーディン。
ライダーバトルが行われないのなら存在意義はない。
私はオーディンであることを隠し続けた。
お父様のケガのため、実家のダイビングショップを手伝うことを理由に果南さんは休学届を提出した。
鞠莉さんは短期の留学のため学校を離れた。
皮肉にも、最悪の形で果南さんの願いは少し叶えられたことになる。
私は生徒会長として、変わらぬ生活をつづけた。
「これが戦いの行く末だったんだ。」
休学前、果南さんが言ったことを私は忘れなかった。
これが、二年間のうちに起こった主な出来事。
状況が変わったのは、三年生として新学期が始まってからだった。
二年前流れた統廃合の噂。
今度は噂ではなく現実として突き付けられた。
生徒会室でそれを知った私は、二年前のことを思い出した。
思い出した、と言っても忘れたことは一度もなかったが。
私たちに奇跡は起こせなかった。
たった二人の友人さえ繋ぎ止められなかった。
あの人にだって謝らなければならない。
回想ついでに当時の部室に行こうと席を立った時、部屋の扉が開いた。
「久しぶり、ダイヤ。」
留学に行ったはずの鞠莉さんがこちらを見ていた。
私に近づき、懐かしい言葉を口にした。
「スクールアイドル、やろう。」
右手に二年前の衣装があることに気付く。
「留学はどうしたのです。」
「そんなのどうだっていい。私たちの学校がなくなるんだよ。もう一度私たちが立ち上がって・・・!」
「・・・どうして鞠莉がいるの。」
今度は果南さんが扉を開けて立っていた。
「果南!会いたかった、ねえ果南もまた一緒にやろうよ!」
「・・・そう、終わったと思ってたのに。やっぱり戦い続けるしかないんだね。」
果南さんはそれだけ言って、その場から立ち去った。
鞠莉さんも後を追いかけ、部屋には私一人残された。
嫌な予感がした。
予想はできた。
きっとまたライダーバトルが開かれる。
これを良しとしない、果南さんによって。
二年間触れることのなかったオーディンのデッキを取り出す。
「変身」
果南さんの命により、タイムベントを使用。
二年の経過により、戻る時間は二年の三学期に変わった。
再び繰り返される戦いの中で、ルールが再構築された。
一つに、ルールテラーの設定。
戦いを円滑に進めることができるように設置された。
幾度となく繰り返されることへの効率化だろうか。
役の候補者には国木田の家が選ばれた。
この土地に代々続く寺の地主を選出することで、伝達のしやすさを確保できるためだと考えられる。
二つに、選出される変身者。
これは皮肉が過ぎた。
果南さんは、せめて自分の周りだけま巻き込まないようにと思っていた。
想ってしまった。
想いは歪み、気付けば果南さんに関りがある、またはそこからつながる人が選ばれるようになった。
数ある寺院から国木田の家が選ばれたのも、私の妹であるルビィと国木田花丸さんが友人であったからだ。
三つ、ライダーは死ななくなった。
誰かが死ぬことを果南さんは恐れた。
しかし、これもまた歪められることになる。
ライダーとして契約するモンスターが変身者のだれかを想う気持ちをを奪うようになった。
死んでしまえば誰かを想うことはできない。
生きていれば、それがなくなるまで奪いつくすことができる。
自分の想いが奪われたくないのであれば、誰かと戦い、それをモンスターに差し出すという手段を取らざるを得ない。
こうして、戦いを加速させた。
同時に、契約しない野良モンスターも出現した。
これらはライダーに選ばれなかった人々の想いから生まれる。
私がオーディンにならなければ、オーディンになっていたであろう人々だ。
こうして、想いが想いを刈り取るシステムが出来上がった。
何度も繰り返した。
何度も、何度も、何度も。
そのどれも、時間を変えることはなかった。
果南さんは言った。
「戦わなければ何も変わらないんだ。」
次の時間で、果南さんはアビスのデッキを手にした。
違う。
こうなるためにオーディンになったんじゃない。
違う。
二人の救済を願っただけなのに。
違う。
私も果南さんも、目的を見失っている。
私はオーディンだから?
違う、違う、違う。
果南さんを救うためにオーディンになったんだ。
もう戦わせない。
力を貸して――。
『タイムベント』
2月終わりの空気はまだまだ冷え切っていた。
私は凍える手に息をかけてその人を待つ。
バスから降りたその人に私は話しかけた。
「こんにちは、渡辺曜さん。」
鏡の前に立ち、その向こうで行われている戦いをじっと見つめる。
「止まりませんのね、もう。」
何度も期待しては打ち砕かれたその常套句を意味も持たず発し、私は龍騎に変身した。
「あら、もう攻撃する必要はないのでは?」
「私は私のやり方で果南さんを、いいえ、この戦いそのものを終わらせます。」
できるかどうかなんてわからないのに。
それでも、あなたのそんな姿、もう見たくはないのです。
「ルビィ、お姉ちゃんに対する感情がないの。」
ごめんなさい、私のその感情ははるか昔に失われています。
それでもあなたが姉と呼んでくれるのならば、私はあなたの姉です。
それにあなたには、素敵なお友達だっているから。
これまでの出来事を千歌たちに語りながら、ダイヤは思う。
いつかこの戦いが終わるとして、その結末はあまり良いものではないだろうと。
私は、私たちは、罪を重ねすぎた。
いつもありがとうございます。
定時更新です。
それでは内容のお話から。
未熟DREAMER編これにて完結です。
ダイヤ視点の過去話、どうでしょう?
このお話は、アニメ本編の未熟DREAMERの三年生組一年次から分岐するお話です。
あり得たかもしれない、でもあり得ないお話。それがこれです。
ダイヤ視点があれば果南視点もあるのですが、それはまたいずれ。
時間渡航を繰り返すうちに、誰かのためではなく時間を戻すために戦うようになっていく。
そのための戦いの時間を短縮するために生み出されたのがこの世界のアビスです。
反対に、ダイヤはそれに気づいたがために本編の時間のような、自分の行動ができるようになったわけです。もちろん果南にばれないようにはしていますし、オーディンに変身できるわけですから、想いうんぬんは・・・。
ダイヤが変身したと千歌からきいた果南は未熟編を踏まえるとSAN値チェック必要な気がします。
次回から最終章です。ダイヤの話を聞いたライダーたちがそれぞれどうするか、また、果南はどうするのか、次回からもどうぞよろしくお願いします。
近況です。
アニメ本編めちゃくちゃしんどくないですか。SAN値チェック!
それではまた。