Aqours☆HEROES   作:ルイボス茶

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いったいどれだけ傷つけたのだろう。

いつもそばにいたのに、私たちはわからなかった。


未熟DREAMER(いつもそばにいても)

「スクールアイドル?」

「そうですわ!学校を廃校の危機から救うにはそれしかありませんの!」

「鞠莉スタイル良いし、一緒にやったら絶対注目浴びるって!」

 

 

高校一年の時、浦の星には統廃合の噂が流れていた。

それもそうだ。

静岡は沼津の海沿いにある小さな町。

その片隅にある小さな女子高が浦の星女学院。

生徒の数は頭の中で整理がつくほどなのだから、むしろ今までこうやって続いてきた事の方が不思議なくらいで。

それでも。

生まれ育ったこの場所と、同じ時間を過ごしたみんなが大好きだったから。

どうにかして統廃合を阻止できないかって考えた。

 

μ'sのようなストーリー。

ただの少女たちが起こした奇跡。

 

私は早速果南さんに相談した。

果南さんは快く引き受けてくれた。

そして言った。

「鞠莉も誘おう。ずっと一緒だったでしょ。」

 

最初は断っていた鞠莉さんも、最後は引き受けてくれて。

私たちは三人でスクールアイドルを始めることになった。

 

学校に申請して割り当てられた体育館横の小さな部室。

それが私たちの秘密基地だった。

毎日ダンスの練習と歌のレッスンをした。

全国のスクールアイドルの動画を見て研究会もした。

ホワイトボードに歌詞を書いて、恥ずかしくなって何度も消して。

初めて作った衣装は袖を通すことを忘れていた。

たくさん笑った。

とても充実した日々だった。

 

不安に思うこともあった。

果南さんが私に話してくれたことがある。

職員室で話している先生と鞠莉さんとの会話。

 

「本当にいいの?」

「は、スクールアイドル始めたんです!」

 

私たちが誘わなければ、鞠莉さんにはもっと他の道に進めたのではないだろうか。

未熟だった私たちは、考えれば考えるほどわからなくなった。

 

活動を重ねるうちに、一つの知らせが入った。

東京で行われるスクールアイドルイベントへの招待。

その招待を受けたとき、私はどれだけ浮かれていただろうか。

私だけではなかった。

三人みんな飛び跳ねて喜んだ。

少しでも良いパフォーマンスをしようと練習を増やした。

増やしすぎてバテもした。

その時も、私たち馬鹿だってみんなで笑った。

 

「大丈夫ですの・・・?」

「全然・・・!!」

当日、鞠莉さんはけがをしていた。

足首の捻挫。

巻かれた包帯の下が腫れ上がっていることを私たちは知っていた。

それでも鞠莉さんは強がって、平気なふりをした。

そして、私たちの出番が回ってきた。

 

 

 

私たちは歌えなかった。

正確には、果南さんが歌えなかった。

そこに集まったスクールアイドルに圧倒されて。

会場の空気に負けて。

初めての東京は、そうして終わった。

 

 

 

数日後、果南さんは私に話があると言った。

「スクールアイドル、やめようと思う。」

その時私は最初に何と返しただろう。

けれど、続く果南さんの言葉に私は言葉が詰まった。

「私たちは進むべき道を間違えたんだよ。」

それが何を意味するか、私はすぐに分かった。

 

東京の日、果南さんは歌えなかったのではない。

わざと歌わなかった。

あのまま続けていればけがが悪化していたのは確実だろう。

事故につながる恐れすらあった。

けれど、それだけではなかった。

無理してまでステージに立とうとする鞠莉さんをみて果南さんは思った。

このままだと、もっと無理をさせてしまうのではないか。

未来の様々な可能性を奪ってしまうのではないか。

 

私は、それに同意した。

 

 

 

「どうして?東京で歌えなかったぐらいで。」

鞠莉さんにすべては話さなかった。

嫌になった、ただそれだけ。

鞠莉さんは納得いかない様子だった。

きっと私が同じ立場でも、同じ反応をしていたと思う。

鞠莉さんは私たちに衣装を突き出した。

それを私たちは手に取りはせず。

ホワイトボードに書かれた歌詞は完成しないまま。

私たちの活動は終わりを迎えた。

 

 

 

鞠莉さんは先方の話を受け海外へ短期の留学をすることになった。

果南さんも、実家の手伝いのために休学届を提出した。

私は、今までと変わらず浦の星での毎日を過ごした。

あれだけ好きだったスクールアイドルが、その時は言葉さえも耳に入れたくなかった。

 

時々、部室に入った。

ホワイトボードをなぞり、当時の記憶を呼び起こす。

無力さとむなしさを再認識するだけなのに。

 

 

 

 

いつからか私は思うようになった。

「せめてあの二人の先に、輝かしい未来を。」

 

 

 

 

異変に気付いたのは、そのすぐ後だった。

誰かに見られている、そんな気がした。

部室を見回せど、誰かいる様子はない。

気のせいだと自分に言い聞かせた。

きっと疲れているんだ。

今日はもう帰ろう。

そう決めてスクールバッグを肩にかけた。

その時だった。

 

 

キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン

 

 

耳を塞ぎたくなるほどの不快音。

知りうる限りのすべてのものが出せるはずのない甲高い音だった。

「何ですの!?」

私はもう一度見回した。

視線が入り口のガラスに移動したとき、瞳は確かにそれをとらえた。

 

ガラスの鏡面の中に人がいた。

 

正確には、鎧を着た人間。

音も、その方向から鳴っていた。

ただじっと、こちらを見ていた。

私を見ているというよりは、私の心を見ているかのように。

私はその場で動けなくなった。

 

やがて状況が呑み込めないながらもなにか言わなければいけないと脳が判断した。

口から出た言葉は「誰?」

人間、未知の体験をすると間抜けなことを言うのだと、今振り返ればわかる。

けれど、その時の私の脳はそれが精いっぱいだったのだろう。

 

鎧の人物は私を指さして言葉を発した。

男か女か、どちらにも分類されないような声をしていた。

「戦え。そうすればお前の願いは叶う。」

戦え?何と?

許容量をとっくに超えていた私の思考はさらにあふれた。

そんなことお構いなしに、鎧の人物はこちらに向かって何かを差し出した。

鏡面から現実世界へ差し出されたそれを私は受け取った。

体が動いたことで思考が巡るようになり、私は問いを投げかけた。

「あなたは何ですの。」

「オーディン。そう呼ばれている。」

呼ばれている?

誰か他にいるのだろうか。

私は続けて質問をした。

「戦うってどういうことですの。」

「それを使って仮面ライダーとなり、他のライダーを倒せ。最後の一人になればお前の願いが叶う。」

それを最後に、鎧の人物は消えてしまった。

 

あの音もいつの間にか消えていた。

手元には、渡された何かが残っていた。

「ベルトのバックル・・・?」

簡単に調べてみると、中にカードが入っていることが分かった。

けれどそれが何かわからず、太陽にかざしたり振ってみたりする。

何も変化は起きなかった。

戦い、願い、仮面ライダー・・・。

何もかもが分からないことだらけで、私は座り込んだ。

世界は私に恨みでもあるのだろうか。

そんな馬鹿なことを考えるぐらいには頭は回復していた。

結局あれは誰だったのだろう。

オーディンと名乗った鎧の人物。

鏡の中に消えたことを思い出し、手の中のそれをガラスにかざした。

 

「え・・・?」

 

気づけば、私の腰に機械チックなベルトが巻かれていた。

やはり疲れているのだろうか。

このベルトが、ガラスの中から出てきたような気がした。

 

「えぇ・・・。」

 

触って確認して、それが現実であることを知る。

疲れていて全部幻想でした。

そんなオチを期待した未来はもうなかった。

 

それが現実だと諦めたところで、ベルトのある部分に気付く。

先にバックルみたいだと言ったそれがはまるようになっていた。

まさかと思い、差し込んでみる。

それはきれいにはまった。

 

同時に、身体が何かで覆われた。

視界、感触、すべてが一瞬にして変わった。

 

ガラスを見れば、そこに映るはずの自分はいなくて。

 

代わりに、先とは違う鎧の人物が立っていた。

 

確かに分かることが一つ。

 

「これ・・・私ですわ。」

 

これが、私の初めての変身。

後にこの姿が仮面ライダーガイと呼ばれる姿だと知る。




いつもありがとうございます。定時更新です。

それでは内容のお話から。
未熟DREAMER編、またの名を三年生過去編スタートです。
やっとこの時が来たって感じです。
この連載は、今週から続く未熟編が軸となって出来上がった作品です。
どうすればこうなるんだ・・・。
世界としては、アニメ本編のダイヤたち一年時とほぼ同じです。そこから仮面ライダーへと分岐していきます。

近況です。
3話、あの演出ずるくないですか・・・。
すごくラブライブだなって感じしましたし。
あと、ビルド。
見た目すごく好みなんですよ。
お話もテンポ良いし、毎週すごく楽しみにしてます。

それではまた。

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