曜は振り返る。
皆、思った通りの反応をしていた。
ただ一人を除いては。
わからない。
これだけ考えて、計画して、行動して。
それなのに、このざわつきは何?
あなたは何故、そんな顔をしているの?
再びダイヤの方へ。
あと一歩、あと少しなんだ。
あなただけじゃない。
きっとみんなが救われる。
きっと――。
ずっと音が鳴っている。
うるさい、うるさい、うるさい。
それが、自分の心臓の音だとやっと気付いた。
空を飛び交う怪物たちの悲鳴がその脈打つ音でかき消される。
「ねぇ、曜ちゃん?」
穏やかな口調。
千歌は曜の背中に語りかける。
「曜ちゃんは今から何をしようとしているの?」
曜は振り返らずそれに答える。
「オーディンを倒すんだよ。それでタイムベントを手に入れて、戦いが始まる前まで遡って。誰もつらい思いをすることなく、これでお終い。これだけだよ。」
「そっか。」
「千歌ちゃん・・・?」
千歌の変化に梨子が気付く。
真実に怯える鞠莉がその口を開いた。
「私が戦ってきたのは何だったの・・・。何もかもを犠牲にして、それでもあの楽しかった日々を取り戻すためにって、こんなになってまであがいてきたこの時間は何だったの!!!!こんなことなら、知らない方がよかった!!!」
それでも曜は振り返らない。
「鞠莉さん、その長い苦しみももう終わりますから。」
『ソードベント』
龍騎のそれより低い機械音がカード名を宣言する。
召喚された剣を握り、先をダイヤに向けた。
「あなたがこのデッキを私に与えた時話したこと、覚えていますか。」
ダイヤの表情は変わらない。
「あなたの名前は曜。日の光が輝く様を現す言葉。けれど光には必ず影がある。だからこそ、これはあなたに相応しい。と申しました。」
「今ならその意味が分かる気がします。確かに今の私は、影だ。」
剣を構え、曜は勢いよくダイヤの元へ詰め寄った。
ほんの一刺し。
それだけで人は倒れてしまう。
そう、だからこれが決まればすべて終わる。
変身されたら押し通せばいい。
そのために手に入れたこの力なのだから。
けれど、曜の一撃は阻まれた。
オーディンに変身したダイヤではなく。
また、オルタナティブでもなく。
「違うよね、曜ちゃん。」
リュウガを阻んだのは龍騎だった。
「千歌ちゃん、どうして?そりゃあダイヤさんを傷つけるのは私だって・・・」
「違う。そうじゃない。」
「え・・・?」
「曜ちゃん、本当は曜ちゃんがオーディンになろうとしているんじゃないの?」
そこで梨子が気付いた。
「まさか曜ちゃん・・・。」
「うん。きっと曜ちゃんは救おうとしているんだよ。自分以外の人すべてを。自分を犠牲にして。」
曜が剣を下ろす。
「それが、私がこの戦いにかけた願いだから。厳密にいえば、千歌ちゃんの願いを叶えたい、なんだけどね。でも、一緒でしょう?」
その声は明るかった。
「違う。私が望むのはそうじゃないよ。」
千歌はリュウガの顔をじっと見た。
「確かに私はこの戦いを終わらせたい。けれどそれは、全員が元通りに戻るってことなんだよ。曜ちゃんだけ取り残された平和なんて、私は望まない。」
マスクの下で曜の顔がゆがむ。
「千歌ちゃんだけ違った。気付いてたんだね。」
『ストライクベント』
「でも、ごめんね。」
リュウガの腕に装着された龍頭を模したグローブ。
そこから黒い火が千歌に放たれる。
曜の中で何かが崩れていく。
こんな結末じゃなかった。
あの子の笑う顔が見たかっただけなのに。
そうだ。
これからやり直せばいい。
そのためにも、カードを。
『サバイブ』
黒い炎が次第に赤い炎に飲み込まれていく。
サバイブ体に変身した龍騎が炎の渦の中にいた。
「ならわたしは止めなければいけない。曜ちゃんの友達だから。」
すべてが崩れる。
自分が積み上げたものはこれじゃなかったと気付く。
同時に、新しいものが積みあがっていく。
これまでとは違う、それでいて高くて丈夫に。
どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。
こんな彼女だから、私はリュウガになったというのに。
このデッキのせいだろうか。
いや、違う。私自身の弱さだ。自身の無さだ。
戦いながら成長していく彼女が、まぶしかったから。
どれだけ転んでも、最後には起き上がる彼女だったから。
曜は引こうとしていたカードをしまった。
「私、馬鹿だな。」
「でも、そんな曜ちゃんだから私は信頼できるんだよ。」
視界がぼやけるのはこの仮面のせいだろうか。
今回だけは、仮面があってよかった。
「やっぱ、千歌ちゃんには敵わないや!あはは!」
見守っていた梨子も安堵した。
曜の計画は想像もしなかった。
・・・やり直す?
「え・・・?」
それに気付いた瞬間、心臓は鼓動を速めた。
あり得ないことだと、吐き気が襲う。
でも、例のカードさえあれば・・・。
「ダイヤがオーディン・・・。ダイヤが・・・。なら、私があなたを倒せば・・・!!!」
鞠莉の言葉に梨子が返す。
「まって鞠莉さん!!!」
「何よ!!もう私にはこれしか・・・!!!」
「それでも!!!あなたこそ真実を知らなければいけない!!!」
梨子はダイヤに訴える。
「ダイヤさん!!話してください!すべてを!今まで鞠莉さんや果南さん、ルビィちゃんに隠していたこともすべて!」
今まで黙って聞いていた善子が梨子の隣に並ぶ。
「そうね。私からもそう願うわ。こうなった以上、もう隠す必要なんてないでしょう?」
ダイヤは空を見上げた。
頬を伝う涙に気付いたのは千歌だった。
「ダイヤさん・・・?泣いてるんですか・・・?」
「あの時から、泣かないと決めていたのです。なのに・・・まだ終わっていないのに・・・やっとここまで来た・・・。」
「ダイヤ・・・?」
思い返してみれば、鞠莉はダイヤの泣く姿をほとんど見てこなかった。
泣いている姿と言えば、幼少の頃の・・・そう、まだルビィと同じで臆病さが抜けていないあの時以来だ。
それはルビィも同じだった。
妹の前で絶対に涙など流さない姉の頬を伝うそれは、どこか不思議だった。
ダイヤは涙をぬぐうと、そこにいる全員の顔を見た。
「まずはあなたたちに敬意を、感謝を、そして謝罪を。」
深々と頭を下げる。
顔を上げると、言葉をつづけた。
「皆さんには多く辛い思いをさせました。けれどおかげで私はあなたたちにすべてをお話しする機会を得ました。」
視線は鞠莉の方へ。
「今からお話しすることは、鞠莉さんには特に辛いことかもしれません。」
鞠莉は笑みを浮かべた。
「ノープロブレム。もう辛いことは散々体験してきたわ。プライドだって捨てているんだもの。内容によっては、あなたを攻撃しかねないけどね。」
「構いません。鞠莉さんだけでなく、皆さんも。すべてを知った後でどう動くかはあなたたちの自由です。」
反応のない花丸をルビィは気にしていた。
「花丸ちゃん、大丈夫?」
「・・・うん。大丈夫。ありがとう。」
そう、大丈夫。
だって、私があなたたちを守るから。
「少し長い話になりますので中へ。お茶が入り次第始めましょう。2年前のお話を。」
いつもありがとうございます。
定期更新!
それでは内容のお話から。
作中時間って、実は始業式始まってそんなに経ってないんですよね。そんな中、曜の計画は3学期からあったわけで。普通に考えればこんなあっさり諦めるわけないですよね。でも千歌ちゃんに言われてこう引き下がったのは曜が戦いにかけた願いの根本によるものです。「千歌ちゃんを助けたい。」なので、自身が精神であれ何であれ傷つけるのは違うって気付いた、そんな感じです。あと、曜の過去編でside曜として触れていた「名は体を表す。」もここで・・・。
そして後半。
いつも通り察しがいい梨子さんが今回も気付いた。それはまた来週以降なんですけど。
主に鞠莉がしんどいです。梨子が気付いたのはダイヤさんのしんどさです。あと花丸はダイヤがオーディンだって知ってしんどさゲージフルスロットルです。
黒澤邸で、果南以外の八人が集まって、雨の日で・・・。TVアニメ本編のあの話と似た状況。来週から三年生過去編が始まります。タイトルはもちろん・・・。
近況です。
2期2話見て、やっぱりAqoursちゃんは笑っていた方がいいな!って!
こんなお話書いているけれど!
あ、そうそう!このお話のゲージ?みたいなやつに色がついてました!評価していただいた方々がふえたからですかね?めちゃくちゃうれしいです!ありがとうございます!
それではまた。