それから、どれぐらいたったのだろう。
壁にかかる時計を見れば2時間ほどしか経過していないことがわかる。
それでも、千歌をはじめそこにいる皆が時の流れを何倍にも感じていた。
花丸とダイヤを残し、善子を別室で安静にした後。
曜はダイヤが花丸に伝えたことを同じように千歌とルビィに伝えた。
既に姉への想いを奪われているルビィは、その話を聞いて黙り込んだ。
姉はずっと隠していた。実の妹が姉に無関心となろうとも。自分がその立場であればどうだろう。
きっと耐えられない。想いのない今、それは実感として湧かないがそれでも吐き気のする辛さだろう。
それを、あの人は一人で耐えてきたのだ。
友人と敵対しながら、怪物と戦いながら、この世界を閉じるために。
そうまでしてこの世界を閉じようとするわけはわからない。いや、興味がどうしても向かない。
あぁ、これもその影響だろう。腹立たしい。煩わしい。感じることのない愛情を、関心を、知らない間に奪われていた。
けれど、それを責めることが出来ようか。
ルビィのことを想い、友人は、花丸は戦いから遠ざけようとしてくれていたのだから。
先の悲痛な叫びを思い出す。
自分ができることは何だろう。
一方、千歌はそれらを受け入れようとしていた。
これまで、何度も悩み、迷い、逃げてきた千歌は覚悟を決めていた。
誰のために戦う?みんなのためだ。
何のために戦う?みんなが争わないようにするためだ。
誰が戦う?自分が戦えばいい。
それで、皆が再び笑顔になれるなら。
自分の想いは、誰かが覚えていてくれれば、それで・・・。
善子の回復を待つ間、千歌、ルビィ、曜の三人は交代で外の見張りと町の様子確認、善子の介護を分担した。
30分周期のローテーションで回すことにした三人は、それぞれの持ち場に移動した。
今からは曜は町へ、ルビィは家の外周、千歌が善子の世話を行う。
眠りから目が覚めていた善子は、横に座った千歌にそっと話しかけた。
「さっきの話、私も聞いてた。っていうか、あの人きっと聞こえるように話してたわ。」
「あはは、曜ちゃんそういうタイプだし。」
「ショックじゃないの?」
千歌は善子の顔を見てそれから視線を外へと移した。
「そりゃあ、ショックだよ。私たちは戦うしか道がないなんて、何なんだろう。」
善子は外を眺める千歌の背中を見つめていた。
「でもね、それを聞いたとき思ったの。もしかしたら、それって当然なのかなって。」
「どういうこと?」
「ほら、私たちこうやって大きな力を手にしたでしょう?誰かへの想いを、絆を守る為に。でも、本当にそれでよかったのかな。」
「力を使うことが、ってこと?」
「うん。前、って言ってもこの間の話なんだけど。梨子ちゃんとお友達になるときに、千歌思いっきり梨子ちゃんの頬にパンチ入れたの。」
「えぇ・・・。」
「今思えば痛そうだなーって。結局それから梨子ちゃんを止めることができてお友達になれたんだけど、時々思うんだ。あのときパンチしなくても同じ道を進めたんじゃないかって。」
千歌は言いながら、自分の右手を見た。
「・・・なるほど。そういうことがあったのね。」
「まあ、でも今は今やらなきゃいけないことがあるからね!」
「そうね・・・。リリー・・・。大丈夫かな。」
善子の泣きそうな声に気付いた千歌は立ち上がり、笑顔を作って善子の方を向いた。
「大丈夫!だって梨子ちゃんだよ。負けないって言ったんだから負けないし、大丈夫って言ったのなら大丈夫だよ。」
千歌がニカっと笑う。
つられて善子も同じ笑顔になろうとした時だった。
壁が崩れる音がした。
爆音が周囲を埋め尽くす。
砂埃が立ち込め、視界が悪くなる。
最悪の事態を予期した千歌は、手にデッキを握りしめた。
唾をのむ。
緊張で喉が渇いていく。
音で聴覚が若干異常を起こし、耳鳴りが止まらない。
それでも千歌は、砂埃の中に立つ一つのシルエットから目を離さなかった。
影はだんだんとこちらに近づいてくる。
あと数メートルというところで、先に正体に気付いたのは善子だった。
「王蛇・・・!!!」
現れたのは紫色の鎧を身に纏ったけだるそうな戦士。
二人の前に現れるなり、変わらない陽気な声で話しかけた。
「壊せばどこだって玄関になると思ったのだけど、案外そうはいかないのね。」
「鞠莉さん・・・!」
千歌もそれに気付き、緊張が加速する。
「塀と壁、壊さなくてもよかったんじゃないですか?」
「そんなことないわ。いつだって奇抜さは大事でしょ?それに、ちゃんと玄関から入ると見つかってしまうもの。」
「ダイヤさんに?」
「オフコース☆マリーがここに来たのは一つよ。」
『ソードベント』
「善子が持つサバイブ、それを取りに来たのよ。」
言いながら、鞠莉が善子に急接近を試みた。
「変身!!」
『ガードベント』
千歌は龍騎に変身し、盾を身に着けそれを防ぐ。
「私が相手だ・・・!」
『ソードベント』
剣を召喚し、体制を整える。
「あら、じゃあまずはあなたから・・・!」
勢いよく剣をふるう鞠莉の攻撃を必死に受け止める。
『『アドベント』』
同時にそれぞれ龍と蛇を呼び出し、それ同士も戦いを始めた。
「善子ちゃん!今のうちにダイヤさんのもとへ!」
「えぇ!」
さすがにダイヤにも聞こえているだろう、と突っ込む余裕は善子にはなかった。
回復しきっていない身体と緊迫した戦場。
何とか足を引きずりながら、逃げようとする。
それを鞠莉が見逃すはずがなかった。
「逃がさないわ。」
『アドベント』
「二枚目の・・・アドベントカード!?」
召喚されたモンスターに千歌は言葉を失った。
召喚されたのはエビルダイバー、梨子がライアに変身するために契約していたモンスターだった。
「なんで・・・梨子ちゃんのモンスターでしょ・・・。」
「元、ね。梨子は負けたのよ。」
鞠莉が笑みを浮かべながら告げる。
エビルダイバーは善子の前に立ちはだかった。
「デッキを・・・!」
善子は何とか変身しようとデッキを取り出した。
しかし、重傷を負った身体では満足に身体を動かすこともできず、デッキも下に落としてしまった。
「善子ちゃん!!!!」
千歌が叫ぶ。
助けに行こうにも、鞠莉がそれを許さない。
ドラグレッダーも戦闘を続けている。
鞠莉が冷徹に指示を出した。
「やりなさい。」
エビルダイバーが尾を振りかざす。
もうだめだ、善子は諦めようとしていた。
リリー、花丸、ルビィ、みんな、ごめんなさい。
サバイブを受取りながら、生き延びることができなかった。
いや、死ぬことはないのだから延々苦しみ続けるのか。
生まれた時から不運な自分の結末などそんなものだろう。
ごめんなさい、ありがとう。
そう呟いて、善子は目を閉じた。
『ソードベント』
「よっちゃん、いつまで立ったまま寝てるのよ。」
聞き覚えのある声がする。
今まで以上の痛みも感じない。
攻撃を、受けていない・・・?
善子がそっと目を開ける。
逸る気持ちが先行する。
この声は、この声は、この声は。
瞼を開け、広がる世界のすぐそこに、一人の騎士がいた。
騎士はその剣で自分を襲おうとしていたモンスターを討伐した。
「ごめんなさい、エビルダイバー。長く一緒にいたのに。」
祈りをささげ、エビルダイバーは消滅した。
鞠莉と千歌もそれに気付く。
「どうして・・・。なんで変身しているのよ・・・。」
鞠莉が今までの余裕とは正反対の明らかな動揺を見せる。
千歌は仮面のなかで口元を緩めた。
「お帰り、待ってたよ。」
騎士の耳にそれは届いた。
「ただいま。待たせたわね。」
今そこにある現実を理解し始めた善子の目に涙が浮かぶ。
「ほんとに、ほんとに戻ってきたのよね・・・?」
「えぇ、よっちゃん。サバイブを預かっていてくれてありがとう。」
仮面の下で騎士はやさしく微笑む。
善子は、喉は壊れるほどにその名を叫んだ。
「リリー!!!!!!」
「だから、それ呼んでいいって言ったわけじゃ・・・まぁ、いいか。」
梨子は剣を下ろし、鞠莉に言った。
「言ったでしょう?私は負けないって。この時をずっと待っていた。あなたがナイトのデッキを破棄したその時から。」
「あなた、最初から・・・!」
「さあ、第二ゲームよ。まだ勝負はついていない。そんなにこのカードが欲しいのならこの私を、ナイトを倒しなさい。ま、負けないけどね。」
『サバイブ』
お久しぶりです。
ここ最近ずっと予定が合わなくて更新が不定期になっております。申し訳ありません。
大学の講義が始まり、時間割の変更があったりで、前期のようにいかないという結論を出しました。
そのため更新を火曜から金曜に変更し、最終話まで突き進んでいこうと思います。
きっと来週からはまた週1ペースで・・・。
よろしくお願いします。
それでは内容のお話。
前回どこで終わったのか思い出しながら・・・。
ライダーバトルの真実をそれぞれが知って、どう行動するのか。
きっと前回の花丸以外にも、オーディンを求める人物は現れます。
前半はそんなお話。
そして後半。
これも、このお話を書き始めた時からずっとやりたかったお話で、やっとここまでたどり着いたなあ、って感じです。
もしあの時、梨子がサバイブを善子に預けていなかったら。
鞠莉がナイトのデッキの処分を確実に行っている世界に分岐します。
体力の残っていない梨子がサバイブさえも手放した。その様子をみた鞠莉の慢心がナイトのデッキを左右します。
梨子は鞠莉がデッキを捨てた時からずっとそれを狙っていました。
上記のように、もしナイトのデッキが破壊されていたら。
鞠莉は善子を探すことはせず、果南の元へ。
そしてサバイブを使用して王蛇サバイブとなり果南と戦います。
その後、王蛇サバイブが勝った場合。目的は果たしたものの目の前にあるのは倒れた果南の姿。自分への想いが奪われたかつて友人だった人物。
その現実に耐えきれず・・・。
というあまり後味の良くない最後を迎えます。