Aqours☆HEROES   作:ルイボス茶

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トリコリコPLEASE!!

お世辞にも綺麗とは言えない澱んだ空。

そこを飛び交うミラーモンスター。

鳴き声か叫び声か、きっと耳を塞いでも貫いてくるそれは鳴りやむことがない。

 

ダイヤは深くため息をついて空から視線を外した。

先から動く茂みに目をやり、呆れた声で呼びかける。

「いつまでそうしているんですか。別に、捕って食べようとか思っていませんわ。」

その言葉に反応し、隠れていた影が姿を現した。

「一応これはライダーバトル。相手がライダーなら普通は構えるずら。」

花丸はいつでも変身できるようにデッキを右手に持ちながらダイヤの前まで進んだ。

「相手がライダーなら、ね。おおよその見当はついているのですか。」

「・・・わからないずら。このライダーじゃないかと予想を立ててもそれが信じられない。それぐらい、おらが聞いていた戦いと現状が違ってきているずら。」

「無理もありません。まあ、答え合わせはそのうちに。それより用件は?何かあって戻ってきたのでしょう?」

「・・・わかっているくせに。」

「あら、二つも下の後輩にそんなことを言われては仕方がありませんね。」

 

「何か知っているんですか。今の世界のこと、ライダーバトルのこと。」

ダイヤは再び空を見上げた。

花丸もつられて空を見る。

「今の世界はミラーワールドと現実世界が混じった世界。逃げ惑う人々は現実で、それを追うモンスターは虚構。」

「今もたくさんの人が襲われています。今までだって時々モンスターは鏡から出てきて人々を鏡の向こうに引きずり込もうとしていました。モンスターたちは、ミラーワールドは何をしようとしているんですか。」

ダイヤは花丸の右手をつかみ顔の前まで持ち上げた。

突然のことに驚いた花丸は引き払おうとしたがダイヤはそれを逃さなかった。

「あなたが今こうして持っているデッキの中にもモンスターは眠っています。ライダーは皆、モンスターを飼っている。じゃあ、そのモンスターがなんであるか、あなたは考えたことがありますか。」

「モンスターが、何なのか・・・。」

言われ、花丸は自分の右手を見つめた。

今まで役目だと自分に言い聞かせてきた花丸にとって、それは考えることを拒んでいたことであった。

考えてはならないと、誰かに言われたような気がしていた。

「きっと、今まで考えてこなかったのでしょう。仕方のないことです。特にあなたは。」

「特に・・・?それってどういう・・・」

 

「先にライダーバトルとモンスターについて話しましょう。あなたのことはそれからでも遅くはありません。」

花丸の右手を離し、今度は自分の手を見た。

「誰もが一度は願うこと。お金持ちになりたい。頭が良くなりたい。絵がうまくなりたい。好きなあの子に振り向いてほしい。花丸さん、あなたにだってきっとあるはずです。」

「それは・・・。」

「あるところに、一人の少女がいました。その少女にも同じように願ったことがありました。ある理由で友達とけんかしてしまった少女はこう願ったんです。『私たちは一緒にならない方があの子にとって幸せだった。あの子のために、私たちが出会わない世界を』と。」

花丸はそれをじっと聞いていた。

「それはとても優しい願いでした。とても優しくはかない想いでした。やがてその想いが一つのモンスター、ゴルトフェニックスと仮面ライダーオーディンを生みました。それがライダーの始まりです。」

「オーディン・・・。ライダーバトルの最後に待ち受ける最後の戦士ずらね。」

「その通りです。様々なモンスターと仮面ライダーが生まれました。オーディンを含め、仮面ライダーは12体。少女が生み出した仮面ライダーに選ばれる条件は一つ。『誰かを想う気持ち』です。少女と同じように、誰かのため、誰かに、といったような想いでした。そこでは、愛、恋、友情、すべてが同じ想いとして扱われました。」

「てことは、おらも・・・?」

「ええ、きっとルビィや善子さんに対する友情でしょうね。姉としてその感情には感謝を述べなければなりませんが、それはまたすべて終わってからで。」

「え、あ、いや、そんな・・・ずら。」

「話を戻しましょう。誰かを想う気持ちが強い11人がライダーに選ばれる。でも、そういうのって11人しかいないはずがありませんよね。」

「そりゃあ・・・。」

「では、その選ばれなかった候補者たちの想いはどこへいくと思いますか?」

花丸は考えた。

私たち以外の、ライダーに選ばれなかった想いの行方。

「・・・まさか!!!」

花丸はそれが間違っていてほしいと願った。

「わかったようですね。」

けれど、それは叶わない。

「まさか、ミラーモンスターって・・・。」

「そう。ミラーモンスターの正体は仮面ライダーに選ばれなかった者たちの想いです。選ばれなかった、つまり他より小さな想いだと突き付けられたそれらは、他の願いや想いを取り入れて自己を大きくしようと考えました。ミラーモンスターが人々を襲うのはそれが理由です。」

「ミラーモンスターが、元はおらたちと同じ・・・。襲われた人はどうなるんですか。」

「外傷は与えられません。普段と同じように、なにも変わらず戻ってくるでしょう。けれど内面、好いていた相手や親しくしていた感情、その一番大きな部分がなくなります。」

「どういうことずら?」

「例えば、カップルの片方、男性が襲われた場合、その後男性は女性に対しての感情を奪われて女性に対して好きだと思わなくなるでしょうね。」

「そんなことって・・・。」

「あなたたちが行っていることだって変わりません。」

その言葉だけで花丸は何も言えなくなってしまった。

モンスターの元の正体を知った今、自分の力の正体にも気付いてしまったから。

「あなたたちがモンスターと戦うのは、あなたたちが使役するモンスターが本来行うべき行動を代わりに行っているということです。けれど人を襲うわけにはいかない。だから想いを持つモンスターを無意識的に倒すんです。」

今まで忌々しいと思っていたものと自分が同じだったと聞かされ、めまいがする。

「嘆くことも自分を責めることもありません。結果としてあなたたちは人々を救っているのですから。」

 

真実を知った今、後戻りが出来なくなったと実感した。

ライダーバトルで人は死なない。

けれどそれは、死なないのではなく死ぬことを許されないのだ。

死んでしまっては、誰かを想うことができないから。

想う者同士が戦い、傷つけあい、でも逃げられない。

戦わなければ、モンスターに想いを奪われてしまう。

結果、戦わなければ己という存在が生き残れないのだ。

「じゃあ、どうして今、世界が混ざり合っているんですか?」

花丸は決意した。

それでも戦うと。

その先へ進むと。

たとえその先が間違っていようとも。

 

「・・・覚悟ができたようですね。では、続きを・・・それは後になりそうです。」

ダイヤはそう言うと、花丸のさらに奥に焦点を当てた。

視線の移動に気付いた花丸も、その先に振り向く。

 

 

「やっと見つけたよ、ダイヤ。」

 

ポニーテールの少女は、歩きながらダイヤに話しかけた。

花丸もその少女が誰であるか察しがついた。

 

「あら、家にいるのは当たり前ではありませんか。で、ご用件は?」

「千歌から聞いた。デッキを渡されたって。どういうこと。」

「どういうことって。その言葉の通りです。それ以上でも、それ以下でもありません。」

「あくまで知らない、と。」

「もしそれでも聞きたいようでしたら、これがライダーバトルだって理解していますわよね?」

「・・・さすが。」

 

果南はデッキをダイヤに向け、ベルトを呼び出した。

 

「変身。」

 

二人の目の前にアビスが現れる。

花丸も変身しようとずっと持っていたデッキをかざそうとした。

しかし、ダイヤがそれを制止する。

「いいです、花丸さん。これは私が受けた戦いですから。」

「でも・・・。」

「先ほどの答え合わせです。」

 

ダイヤはデッキを宙高く投げ上げ、落ちてきたところで出現したベルトにデッキを差し込んだ。

 

「変身。」

 

「・・・ダイヤ、それ、なんなの。」

果南はその姿を見て眉を寄せた。

何度かライダーとは戦ったが、そのどれとも姿が異なっていた。

そも、変身時のベルトから、他とは明らかに異なっていたのだ。

花丸は絶句する。

その姿に、その変身に。

目の前にいるのは、仮面ライダーではなく・・・。

 

「どの仮面ライダーか。いいえ、これは仮面ライダーではありません。仮面ライダーのサンプルから作り上げた疑似ライダー。命名するならば、オルタナティブ、とでも。」




いつもありがとうございます。
最近ずっとバタバタしていて更新が不定期になっています、申し訳ありません。
なるべく近いうちに定期に戻すつもりです。

それでは内容のお話から。
3組目、AZALEA回スタートです。
ダイヤ様からライダーバトルについて説明してもらいました。
物語の最初の方でダイヤさんが曜ちゃんに「想いの戦い」みたいなことを言ったことがあります。それがつまりこういうことでしたー、って感じです。
龍騎を扱う以上、死をどうするか考えなければいけなくて、でもあくあちゃんたちには死んでほしくない、ならば死なせなければいい、これはあり得た世界の一つなんだから。とこの設定になったわけです。よりハードモードかも。
ちなみに、ライダーに選ばれなかった人がそのままモンスターになってるわけではなく、その想いが実体化してモンスターとなってます。なので死者なし。その元になった人の一番の思いはそこにないけれど。


近況です。
埼玉まであと少し!
最近ずっとカウントダウンしてます。
あとスクフェス何曲分かな?

それではまた。

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