梨子と善子へ一時の別れを告げたそのすぐ後。
花丸もまた、千歌とルビィへ別行動する旨を伝えていた。
「おらはもう一度黒澤家へ向かいます。」
「花丸ちゃん、ルビィも・・・。」
「ルビィちゃんは千歌さんのことを助けてあげて。」
「でも、お姉ちゃんが・・・。」
「万が一の時、あなたに見せたくはないから・・・。」
ルビィは別れる直前の花丸との会話を思い出していた。
無数に現れるモンスターを撃破しながら、逃げ惑う人々を守る。
やがて行き場がなくなるであろうことは考えないでいた。
「千歌さん!こっちはもう誰もいません!」
「おっけー!ありがとう!これでしばらくの安全は確保できたかな・・・。」
モンスターが密集していた場所で個体を倒し逃げ道を作っていた二人は、あたりを確認して武器を下ろした。
「花丸ちゃんに善子ちゃん、梨子さんも・・・。みんな大丈夫ですかね・・・。」
「大丈夫だよ、みんなまた戻ってくるって言ってたし。私たちも頑張らないと!」
「そう、ですよね。がんばルビィ!」
「なにそれかわいい!がんばルビィ!」
異変が起こってから初めて休息を取る。
変身を解除して、デッキの枚数をリセットする。
そうしなければ、カード切れで戦う手段が限られてしまう。
数分の休息を取った後、遠くの空からモンスターの群れが来るのが見えた。
「また、来ましたね。」
「うん、でももう大丈夫。さあ、まだまだ行くよ!」
「はい!」
「「変身!」」
鎧に身を包んだ二人は、再び戦いを始めた。
『ソードベント』
『ストライクベント』
各々が召喚した武器で敵を倒していく。
このままならば押し切れる、そう思った時だった。
敵の群れの中に、小さな少女がいることに気付いた。
「まずい!助けなきゃ!」
急いで少女のもとへ駆け寄る。
「後・・・少し・・・。」
あと5m、手を伸ばせば届きそうな距離。
あと少し、そう思ったところで一体のモンスターが少女の頭を掴み持ち上げた。
千歌の足が止まる。
すぐに少女から全身の力が抜け、腕がだらんとぶら下がっている。
まるで楽しむかのように、モンスターはその体を遠くへ放り投げた。
千歌の頭は真っ白になった。
それはだんだんと塗り替えられていく。
それに対する、憎悪へと。
「許さない。」
そのモンスターめがけ、歩き出す。
「許さない。」
力強く握った拳は爪が食い込み、鎧の下で赤くにじんでいた。
「許さない。」
噛み締めた唇からも血が垂れる。
「許さない許さない許さない許さない!!!!!!ああああああああああああああ!!!!!!」
やがて言葉では無くなり、同時に何度もモンスターを殴りつけた。
バランスを崩し倒れたモンスターの上から馬乗りになって殴ることを続けた。
「ああああああああああああああ!!!!!」
それが爆発とともに散ると、今度はその周囲のモンスターを片っ端から殴りつけていく。
喉が痛み、血の味がしても叫び続けた。
やがてそれはルビィの耳にも届いた。
「千歌さん・・・?」
明らかに様子がおかしい千歌の姿をみて、近づこうとするが周りの敵がそれを阻む。
「千歌さん!どうしたんですか!千歌さん!」
千歌の耳にルビィの声は届かない。
そこに確かにあるのは、殲滅する意思のみだった。
手の骨が折れる音がしても殴ることをやめなかった。
やがて周りのモンスターすべてが消滅しても、それに気づかず何かに向かって拳を振るい続けた。
「ストップ、千歌ちゃん。」
空に振るわれる拳を一つの手が止めた。
「もうまわりにモンスターはいないよ。だからもうおしまい。」
道を開けたルビィが、拳を止めた者の姿を確認する。
「・・・え?」
戦いで疲れているのだろうか。
けれど確かに、ルビィの目に映っているのは、ふたりの龍騎だった。
片方は、色が抜けているように感じる。
「あ、ああ、だれ・・・。」
「私だよ。あなたの頑張りは誰よりも知ってる。だから、この時のために、ずっと黙ってたんだ。ごめんね。」
もうひとりの龍騎は、威勢を失った千歌に語りかけた。
「千歌ちゃん、もう少しだけ頑張って。あなたがここで終わるはずはない。影に打ち勝つの。」
「私は・・・千歌は・・・。」
「そう、あなたは何?むやみに攻撃するようなモンスター?違うでしょ?千歌ちゃん、あなたは誰?」
「私は・・・私はヒーロー・・・。そう、私は、みんなを守るヒーローなんだ!」
その声に呼応するように、千歌の召喚機が赤い炎に包まれた。
やがて炎が消えると、銃型の召喚機が現れた。
「ヨーソロー!さあ、そのカードを引いて!生き残りを願う決意のカードを!」
それに頷いて、デッキからカードを引く。
召喚機の口を開き、炎渦巻くそのカードをセットして閉じる。
召喚機がカード名を宣言した。
『サバイブ』
今度は千歌の身体が炎に包まれる。
その中で、龍騎の鎧は変化した。
炎が消えるとそこにいたのは、基本カラーに金が加わり、全体的に大きくなった鎧を身にまとった龍騎だった。
「この姿は・・・?」
千歌はもうひとりの龍騎に尋ねた。
「それはサバイブ体。簡単に言うとね、パワーアップかな?」
もうひとりの龍騎はそう言うと、千歌の後ろを指した。
「まずは、あれを何とかしなきゃね。」
振り返ると、黒色に変色したドラグレッダーがこちらを見ていた。
「黒い・・・ドラグレッダー?」
「千歌ちゃん、ちょっと待っててね。」
もうひとりの龍騎は黒色のドラグレッダーへと近づいていった。
「千歌さん!」
様子を見ていたルビィが千歌に近づく。
「ルビィちゃん、大丈夫?」
「千歌さんの方こそ・・・。あの、あれは誰なんですか?」
「うん、声ですぐにわかった。曜ちゃんだよ。ほら、私の隣にいた。」
「え?でも、変身できないって・・・。」
「私も、曜ちゃんは仮面ライダーじゃないってずっと思ってたんだけど・・・今はまず、さっきの女の子と曜ちゃんを助けなきゃ!」
「えぇと・・・はい!」
「ドラグブラッカー、ダイヤさんはそう呼んでたっけ。」
ドラグブラッカーと呼ばれたモンスターは奇声を発した。
「さて、あなたのその力、曜ちゃんに貸しなさい!」
『ソードベント』
勢いを乗せた高い跳躍でドラグブラッカーの身体に乗り、剣をひと振りした。
しかし、シャーペンの芯が如く剣は2つに折れてしまった。
「えぇ!?弱!やっぱりブランク体じゃダメなのかなぁ。」
しがみつく曜を振り落とそうと、ドラグブラッカーは身体をくねらせる。
「うわわわわわわ。下が水ならきれいな着水を見せられるけど、地面だしなぁ・・・。」
「曜ちゃーん!」
声のする方へ向くと、変化したドラグレッダーに乗る千歌がいた。
「曜ちゃん!何をすればいい?」
「千歌ちゃん!なるほど、ドラグランザーの上に・・・。分かった、私もそっちに乗る!」
言い切るより早く身体を空に投げ出し、向かってきたドラグランザーに着地した。
「ナイスキャッチ!ありがとう千歌ちゃん!」
「ううん、なんかもう色々聞きたいけど、まずはアレだよね?」
「さすが!さっきまでの様子が嘘みたい!」
「そちらに向かう他のモンスターはルビィが引き受けますー!」
下からルビィが二人に呼びかける。
「ルビィちゃんも!ありがとうー!よし、じゃあ千歌ちゃん。今から私がすることを言うね。」
千歌が目を見て頷いた。
「アレと契約する。千歌ちゃんのドラグレッダーやルビィちゃんのメタルゲラスみたいに、アレを私の契約モンスターにする。」
「へ?」
「そのために私をギリギリまで近づけて!そこでファイナルベントを放つから!」
「え、ちょ、契約って。」予想外の回答に整理がつかなかった。
「よしじゃあよろしく!」
「なんかもうわかんないけど、曜ちゃんがそう言うなら!ドラグレッダー、じゃなかった。ドラグランザー!行くよ!」
ドラグランザーは咆哮を上げ応じるようにドラグブラッカーに向かって上昇した。
やがて、同じ高さに近づくと、曜が呼びかけた。
「このままもっと高く!」
「え?でも通り過ぎちゃうよ?」
「いいの!いっけー!」
言われるがままドラグランザーを上昇させ、ドラグブラッカーとの高さが出たところで、曜がまた叫んだ。
「よし!ありがとう!じゃあ千歌ちゃん、キャッチお願いね!」
「へ?」
きっと曜は千歌の抜けた返事を聞いていないだろう。
聞くより先に、ドラグブラッカーに向かって飛び込んでいったから。
「これだけ勢いがあれば!」
『ファイナルベント』
「ライダーキック!!!!!!!」
力を右足に込め、一直線にドラグブラッカーに向かっていく。
「はああああああああああああ!!!!」
足がドラグブラッカーに触れた瞬間、衝撃波が起こった。
自身もそれに耐えられず、身体が落ちていく。
ドラグブラッカーも無傷ではなく、身体がよろめきバランスを崩した。
「曜ちゃーーーーん!!!」
上から曜よりも早く急降下してきたドラグランザーと千歌が、落下する曜を拾い上げた。
「曜ちゃん!大丈夫!?何やってんの?!」
「おー、ナイスキャッチ!信じてたよ〜!」
急いで体勢を整え、もう一度ドラグブラッカーを見る。
「よし。契約だ、ドラグブラッカー。お前は私としか契約できないだろう?その力を貸しなさい!」
先までとは違う、真剣な声色でドラグブラッカーに呼びかける。
「それ!」
と思えば、いつもの明るい口調で、また身体を空に投げ出した。
「ちょ、また!?!?!?」
千歌が慌てて追おうとする。
「今度は大丈夫!」
曜が千歌に向かってそう言うと同時に、ドラグブラッカーが曜の元へ向かった。
やられる、千歌もルビィもそれを覚悟していたが曜は違った。
「よし、聞き分けのいい龍だ。」
気付けば、ドラグブラッカーの上に乗る曜の姿があった。
もうひとりの龍騎の色は黒色に変色し、バックルと仮面に龍の紋章が刻まれた。
「契約完了。あぁ、名前、そうだなぁ。龍騎、とは違うし。うーん。」
ちらりと千歌の方を見ると、口を開けて目が点になったまま曜を見てるのがわかった。
その間抜けな顔を見てくすりと笑い、
「よし、私はあの子の牙となる者。邪魔者がいれば噛み付こう。名前はそう、龍牙!」
いつもありがとうございます。
先週はちょっとお休みを・・・。
申し訳なかったです。
それでは内容のお話。
龍騎サバイブとリュウガ、曜ちゃん変身、CYaRon!集合!
てんこ盛り!
今回と次回は流れ的にCYaRon!回なんですが、その中でも特に最後の変身者曜ちゃんを中心にお話が進みます。
曜ちゃんにばら撒いた伏線をまとめて回収するぞー!
そして龍騎サバイブ。千歌は最初からサバイブを持っていたって話です。気づかなかった理由はまた次回。
近況です。
夏休み!更新たくさんするぞーって意気込んでいたのに早速お休みは申し訳ないです。
なんかめちゃ忙しくなってるんですけど、頑張ります!それでは!