注意して辺りを見回す。
ここがミラーワールドであれば、建っている家は反転して存在するはずである。
しかし、千歌の目に映る建物すべては、千歌の目には見慣れた、そのままの建物ばかりだった。
それだけではない。
人が、歩いていた。
仮面ライダーでも何でもない、普通の人が当たり前のように歩いていた。
「何が起こっているの・・・。」
善子が呟いたその疑問は、当然そこにいる5人全員が抱いていた。
「ねえ・・・あれ・・・。」
ルビィが空を指差した。
今にも降り出しそうな曇り空。
その分厚い雲を覆うように、無数に飛ぶミラーモンスター。
数匹は地上めがけて降下していることが確認できた。
「嘘でしょ・・・。」
花丸は呆然と空を見上げた。
すると、少し離れた場所から女性の悲鳴が聞こえた。
悲鳴の数は次第に増えていく。
ミラーモンスターが人々を襲っていた。
老若男女問わず無差別に襲っては、飛んでその身体を遠くまで運んでいた。
「まずい、助けなきゃ!」
千歌は目に見える範囲から、モンスターを倒しにかかった。
それに続いて、4人も討伐にかかる。
「数が多すぎる、間に合わないよ!」
花丸が叫ぶ。
5人が戦っているその間にも、戦闘していないモンスターが次々と人々を連れ去っていく。
「みんな離れて!」
千歌はそう言いながらカードを一枚引き抜いた。
『ファイナルベント』
「ライダーキック!」
ドラグレッダーに力を借りたその技で、蹴りが入った敵とその周辺のモンスターすべてが衝撃で倒れた。
爆発とともに、モンスターの身体が飛び散った。
「でもまだ、たくさん敵いるよね・・・。」
ルビィは怯えながら、空を見上げる。
「おら、何も聞いていなかった、こんなことが起こるなんて。」
「ずら丸が悪いわけじゃないでしょ、っていうか、これ誰が悪いとかあんの?」
先の開かれた空間を埋めるように、モンスターの群れが近づいてきていた。
攻撃の手を休めることなく、5人は目に映るモンスターを倒していた。
「向こうで襲われている人が!」
千歌が指す先で、次々と人がモンスターに運ばれていた。
「梨子ちゃん!あっちにも助けに行かなきゃ!」
「そうね、でも。」
仮面の下で、梨子の首筋に汗が流れる。
「こっちの相手も、しなきゃいけないわね・・・。」
梨子が「こっち」と呼んだ相手が誰なのか、千歌が振り向いた。
その姿に言葉を失う。
「なんで・・・。」
それは、鳥を模したモンスター。
先まで5人で戦っていた、倒したはずの敵。
「なんでよ・・・さっき倒したはずじゃない・・・。」
「別個体、かもしれない。」
梨子が考えを口にする。
「今空に飛んでる無数のモンスターのように、このモンスターみたいな上位種も、いくつか個体があるんじゃないかしら。」
「そんな・・・。」
鳥型のモンスターはまだこちらに気づかずにいた。
「千歌ちゃん、行って。」
梨子の話し方は、いつもの会話と変わらないものだった。
「え?」
「行って、みんなも。遠くで襲われている人を助けなきゃ。」
「でも梨子ちゃんそしたら・・・。」
「えぇ、私はここで、あれの相手をするわ。」
「そんな!そんなことしたら梨子ちゃんが・・・!」
「そうずら!5人がかりでやっと倒せた相手を一人でなんて・・・!」
「じゃあ、向こうにいる人たちは誰が助けるの?」
「それは・・・。」
「意地悪な質問だったね、ごめんね。でも行って。私は、大丈夫だから。いつかあなたに助けられたように、今度はあなたが私を助ける番だから。」
梨子はいつもと変わらない笑顔を見せた。
「梨子ちゃん・・・。」
「必ず倒すから。だから、信じて。」
「で、残ったわけね。」
「そうだけど・・・どうしてあなたはここにいるのかしら、善子ちゃん?」
得意げな顔をした善子が、当たり前のようにそこにいた。
「ヨハネよ!そりゃあだって、ヒーロー一人なんてずるすぎるじゃない。最後のセリフとか完全にフラグだったし。」
「あーなるほど、一人じゃ心配だけど他の人が残るのも危ないし、じゃあ自分が残っちゃおう、ってことね。さすがよっちゃん。」
わざとらしくポンッと手を叩いた。
「んなっ・・・!って、よっちゃんって何!?」
「よっちゃんよ。善子ちゃんだから、よっちゃん。リリーっと呼ぶのと似た感じね。だめ?」
「あぁ・・・えっと・・・まぁ良いわよ・・・ほら、さっさとやるわよ!」
「ええ!あ、あとね、よっちゃん?」
「ん?」
「フラグなんて、へし折ってやればいいのよ。」
善子には、梨子の周りの空気がガラリと変わった気がした。
梨子はデッキからカードを一枚取り出した。
その瞬間、手にしていた召喚機が蒼い風に包まれた。
風が消えると、召喚機は形を変えていた。
「これが、戦いへの私の答えよ。」
召喚機へカードを挿入する。
召喚機は、そのカード名を宣言した。
『サバイブ』
ライア-梨子-の全身が蒼き疾風に包まれていく。
風が消えると、それは姿を見せた。
今までのライアの鎧の形を残しながらも、基調となる色に金が追加されたその姿に善子はただ驚いていた。
「これが、サバイブ体・・・。戦い抜くための力。」
変化した自身の鎧を見て、梨子が呟く。
「召喚機も弓みたいなのに変わってる。」
盾のような形をしていた召喚機はアーチェリーのような形へと変化していた。
「さあ、やるわ。」
召喚機を空を飛び回る鳥型のモンスターへ向け、弓を引く仕草をする。
すると、そこに実態のない弓矢が現れた。
「はっ!!」
声と同時に手を開いた。
威力を得た弓矢は勢い良く射出され、時を数える間もなく命中。
ゾルダの大砲でもダメージを与えられなかったそれを、撃ち落とした。
「何それ、強すぎでしょ・・・。」
その様子を見ていた善子は圧倒的な威力に動けなかった。
空から落とされたモンスターは立ち上がり、怒りと取れるような勢いで二人の元へ接近してきた。
「もう、あなたに負けることはないわ。」
右手に拳を作り、力を込める。
「千歌ちゃんを守るために!!!」
向かってくる的に拳を振りかざした。
「ライダーパンチ!!!!!!」
込められた拳は心臓部を捉え、体を砕いていく。
全身にヒビが渡ったところで爆発とともに、それは散った。
巻き上がった煙と炎だけがそこに残っていた。
「よっちゃん!このまま周囲の敵も倒していくわよ!」
善子があ然としているのがわかった梨子は、可笑しいと思いながら善子に呼びかけた。
それで正気を戻した善子はなんて言ったのかわからないような返事を返し、少し恥ずかしくなった。
「へえ、そんな力あるんだ。」
建物の陰から声がした。
誰かと慌てる善子を横目に、声の主に呼びかける。
「陰から見ているなんて、武士道はどうしたんですか。」
姿を見せながら、声の主は答える。
「そうねー、やっぱウィナーにならなきゃ意味なんてないでしょ?」
「え、ちょ、いろんなこと起こりすぎて、パンクしそう!?」
現れた人物に、善子のやっと落ち着いた思考が再び混乱する。
「こんな状況でも、あなたは戦うんですか?鞠莉さん。」
姿を見せた鞠莉はデッキを梨子たちにかざしながら答える。
「もう時間がないの。悪魔と言われたって良い。私は、勝ち残る。」
言ってから、鞠莉はかざしたデッキを落とした。
「新しいパフォーマンスでね。」
梨子と善子は目を疑った。
鞠莉が別のデッキを取り出したから。
紫色をしたデッキをかざし、出現したベルトに差し込む。
「変身。」
首を軽く回す。
関節の音が小さく鳴る。
紫色の、蛇を模したライダー。
「この王蛇の力で。」
いつもありがとうございます。
更新が遅れました。すいません。
以降、もしかしたら17時ぐらいの更新になるかもしれないです。
さて、内容のお話です。
ここからのお話を「サバイブ編」としたいです。
最初、誰をサバイブにしようか悩みました。
ライダー本編に沿わせようか、と考えたときに、「もしライアがサバイブを使っていたら」というイフがあることを思い出しました。
そうだ、このお話もイフなのだから、イフに沿って進めよう。
そうして、この話となりました。
ライアサバイブ、かっこいいですよね。
あと、サバイブ編ではユニットで物語を動かします。
今回はGuilty Kiss。
あぁ、なんとなく先が見えてきたぞぅ。。。
(とは言うもの、結末までは決まってます。)
楽しみにしていてもらえると嬉しいです。
近況です。
雨にやられる日が多い。
それではまた!