力の限り戦う。
召喚した剣で、敵を斬り付ける。
それでも、そのモンスターに決定的なダメージは与えられずにいた。
千歌が相手の攻撃をかわしながら、善子に呼びかける。
「前よりは戦いになってるけど・・・やっぱり強すぎるよ!」
「遊ばれてるって感じするわね、って千歌さん危ない!」
「うわっ、と、ありがとう善子ちゃん。あの火の玉とか面倒だよね。」
「飛ぶとかズル過ぎない?チートよあれ!レギュ違反!」
空を見れば、鳥のように姿を変えた怪物が飛んでいる。
「なんかよくわかんないんだけど、善子ちゃんのそれ、白鳥でしょ?乗れたりしないの?」
「なるほど、リトルデーモンに乗るのね。やってみる!」
千歌の提案に賛成して、善子がデッキからカードを取り出す。
『アドベント』
「来なさい!リトルデーモン!」
現れたのは、先に千歌と花丸の争いを止めた白鳥のモンスター。
それを自分の元に呼び寄せると、またがるように背中に乗った。
「飛んで!」
号令に従い、高らかに鳴き、白鳥が空中へと舞い上がる。
「ととと飛んだ!やるじゃないリトルデーモン!」
「リトルデーモンって呼んでるんだそれ・・・。とにかく、空は任せたよ!」
「出来る限り、やってみるわ!」
『アドベント』
千歌も同様に、赤き龍を召喚した。
「ドラグレッダー、援護をお願い。」
指示を受けたドラグレッダーは、咆哮を上げ善子の元へ上昇した。
その後すぐ、梨子が千歌と合流した。
「梨子ちゃん、どうして?」
「それはまた後で。それより、劣勢って感じね。」
「うん・・・善子ちゃんとドラグレッダーが上で頑張ってくれてる。」
「そう、ならもう少しだけ、私たちで踏ん張らなきゃね。助っ人が来るはずだから。」
「助っ人?」
それがだれか聞き返そうとしたとき、空から人が降ってきた。
それがファムであると理解するのに時間はいらなかった。
「なんなのよあいつ!マントなかったら死んでたじゃない!」
「善子ちゃん大丈夫!?」
「あんまり大丈夫じゃないわね、こうやって振り落とされちゃったし。って、リリー?」
「リリーって?」
「今は触れなくていいわ・・・。それで、今はどうし・・・」
どうしているのか、そう聞こうとした時だった。
「善子ちゃん!!」
いつ現れたのか、あいつが善子のすぐ背後にまで距離を縮めていた。
千歌の叫びも間に合わず。
モンスターの拳が、善子の背中を捕らえた。
拳は鎧に食い込むように容赦なく振るわれる。
声を漏らす余裕などないまま、身体が地面に倒れ込む。
起き上がる為に力を込めるが、まるで入らない。
ただ、されるがままに善子の身体が蹴られ、殴られていく。
「やめろおおおおおおおおおおおお!!!!!」
喉が裂けそうになるほどの叫び。
それとともに、千歌は握りしめた拳を怪物にぶつける。
モンスターが退避した隙に、梨子が善子の身体を救出する。
「大丈夫!?返事をして!」
善子の口から聞き取れるのは、嗚咽のような声。
「善子ちゃん!」
「生きてるってば・・・。しんどいんだから返事させないでよ・・・。」
「よかった・・・。」
何とか意識があることを確認し、千歌に視線を向ける。
睨み合う龍騎とモンスター。
緊迫した空気に包まれる。
千歌がもう一度、拳を握りしめたとき。
砲弾が一発、モンスターを直撃した。
急いで砲弾の発射元を確認する。
「花丸ちゃん・・・!」
緑と銀。二人のライダーがいた。
「そっちはもしかして、ルビィちゃん?」
銀色のライダーは黙って頷く。
「ずら丸~ルビィ~おそいわよ・・・。」
せき込みながら、善子が二人を歓迎する。
花丸はそれを聞きながら、千歌の正面に立った。
「花丸ちゃん。ごめん、無理やり巻き込んで。」
「千歌さん、おら、自分が言ったことが間違ってたとか、そう思うつもりはないずら。」
「うん。」
「でも、人の気持ちも、もっともっと知るべきだった。」
「きっとそれは私も同じだよ。」
「そうかもしれないずら。だから、もう一度、立ち上がりたい。」
「戦ってくれる?」
「はい!それに、ルビィちゃんも。」
「うん、ルビィ頑張るよ。怖い怪獣さんたちやっつけるから!」
「・・・!ありがとう!」
戦いから逃げず立ち向かう、確固たる信念を持った5人の少女が、そこにいた。
「長期戦は無理ね。」
「どうする?梨子ちゃん。」
「私と千歌ちゃんで戦おう。二人はそれを狙って。」
「わかりました。」
「行くよ、千歌ちゃん。」
「うん!」
『ストライクベント』
『スイングベント』
「「はあああああああああああ!!!」」
今までよりもはるかに大きな力を込めて。
多く、人を傷つけたこの怪物を倒すため。
「あと少し攻撃があれば、おらとルビィちゃんで・・・。」
「じゃあ、任せたわよ。」
「え?」
『ファイナルベント』
それを発動したのは、重傷を負い回復に努めていたファムだった。
「善子ちゃん!そんなことしたら身体が持たない!」
「善子ちゃん!」
「ぶっちゃけしんどいわよ!!!でも、やっと回ってきたチャンスでしょ!なら、つかまなきゃ!」
白鳥が翼で風を起こし、龍騎たちの攻撃を受けていたモンスターを吹き飛ばす。
「おりゃあああああ!!!!」
吹き飛ばされてきたモンスターを、同じくファムが召喚した薙刀で切り刻んでいく。
「ずら丸!ルビィ!頼んだわよ!」
そう言い残し、ファムは地面に倒れた。
「任せて、善子ちゃん。」
『ファイナルベント』
「エンドオブワールド。」
花丸の掛け声とともに、一帯が火力の渦に包まれる。
必殺レベルの攻撃を食らい続けたモンスターには致命的なダメージが蓄積されていた。
「「「「ルビィちゃん!」」」」
「やるんだ、ルビィも、戦うんだから!!!!!」
四人の思いを受け取り、デッキから引いたカードを召喚機に挿入する。
『ファイナルベント』
現れたサイのミラーモンスターと角を模した武器を右腕に装備する。
「これが、1年生パワーだあああああ!!!!!!!!!!」
サイのモンスターの肩に乗り、高速でモンスターへと突進していく。
「いけええええええええええええええ!!!!」
確かにその角は、モンスターを捕らえた。
奇妙なうめき声。
大きな爆発とともに、モンスターの身体が粉々に乱れ飛ぶ。
5人のライダーの荒い息づかいだけがそこに響く。
「倒した・・・?」
千歌が言葉にして、それを確認する。
「花丸ちゃん・・・。」
ルビィが変身を解き、花丸の元へ駆け寄る。
「よかったよぉ・・・倒したよぉ・・・。」
「ありがとう、ルビィちゃん・・・。戦ってくれて。」
そっと、ルビィを抱き寄せた。
「善子ちゃんは!?」
「はーい・・・いきてますよー・・・何度倒れるんだろ・・・私・・・。堕天使関係ないわよねさすがに・・・。」
善子の変わらない調子に一同が安堵する。
長く続いた強大な敵との戦いが終わった。
五人は見合い、それぞれを目で確認する。
「長かったしつらかったね・・・。ありがとう、みんな。一緒に戦ってくれて。」
千歌の感謝に全員が頷く。
善子が続いて千歌に尋ねる。
「でも、これで終わりじゃないんでしょ?」
「そう、ここからなんだよね・・・。」
あのモンスターを倒した。
曜の言っていたこと通りに事が運べば、果南はきっとこれを無視できないだろう。
ここからが、正念場だ。
「とりあえず今日はもう帰りましょう。善子ちゃんだってボロボロだし。」
「だからヨハネよ!って、リリーもなかなかにボロボロよ。みんなもだけどね。
「リリー?」
「ルビィちゃん、それには触れなくていいから。」
「なんでよ!」
取り留めのない会話。
戦いが終わればそこにいるのは他と変わらない少女。
ただ、願ってしまい、ただ、力を手に入れてしまっただけの。
「さて、ここから出よ・・・何?地震?」
その揺れを全員が感じた。
思わずその場でしゃがみ込む。
「止まった・・・大きかったね。」
「えぇ、って、ルビィ大丈夫よ、止まったから。」
ルビィはまだ、しゃがみ込み小さくなっている。
「うん・・・。」
「梨子ちゃんと花丸ちゃんも大丈夫?」
「・・・」
二人から返事はない。
「二人とも・・・?おーい?」
「変わってない。」
梨子の言った言葉が、千歌には理解できなかった。
「変わってないって、そりゃ何も・・・。」
「違うずら。」
梨子と花丸の声が微かに震えていることがわかる。
千歌は恐る恐る聞き返す。
「どういうこと?」
梨子の口から放たれた言葉に、千歌は絶句した。
「変わってない、反転してないの。ミラーワールドから出ていないのに・・・。現実世界と変わってない。」
願い、力を手にした少女たちの、最後の戦いが始まる。
いつもありがとうございます。
まずは内容のお話から。
一年生編完結です。ありがとうございました。
一年生三人のファイナルベントはずっと決めていたので、楽しかったです。
ちなみに、文中で特に話はしませんでしたが、戦っていたモンスターはガルドサンダーでした。
そしてそのまま次のお話へ。
物語を終盤へと向かわせます。
よろしくお願いします。
近況です。
セミが容赦ない。
それではまた!