千歌がそれを聞いたのは今朝、花丸からだった。
「はい・・・。なんでも、理事長が決定したらしくて。今日から二週間休校とすると連絡が。」
「休み!ゲーム三昧じゃない!部屋に堕天!」
「善子ちゃん・・・。割と今、それどころじゃない状況ずら・・・。」
「善子言うな!・・・まあ、でもそうよね。」
学校の理事長と言えば鞠莉であることは皆知っていた。
鞠莉が学校の存在を大切に思っていることも。
学校が廃校になることを阻止するために活動している、という噂を千歌は思い出した。
廃校自体が噂話でしかないため、それが本当なのかは怪しいところではあるが、それだけ大切にしている学校をいきなり休校にするだろうか。
「まあでも、確かに人の数は少ないしなあ・・・。」
「なにがずら?」
「あわわ、ごめん。考えてることがそのまま口に出ちゃってた、あはは。」
何を考えようが学校が休みとなったことに変わりはない。
寝ている間に考えていたことをやろうと自分を奮い立たせた。
「お休みなら、私、行きたい場所があるの。」
「おらと善子ちゃんも、行くところが。じゃあ、別行動ですね。またあの敵が現れたら連絡ください。」
「うん、多分、大丈夫。」
本土と淡島をつなぐ連絡船から降りて桟橋に立つ。
今朝のやり取りを思い出しながら、千歌はそびえる小さな山を見ていた。
桟橋からすぐの場所にあるダイビングショップに来ることが千歌の目的だった。
ダイビングをするわけではなく、そこにいる人に会うために。
建物の隅でダイビング用のボンベを調整している少女が一人。
ポニーテールにした長い髪とスタイルの良さが特徴の彼女は千歌に気付くと名前を呼んだ。
「千歌、どうしたの。学校は?」
「休校だって。理事長が決めたことらしいよ。果南ちゃんこそ、まだ学校来ないの?」
「鞠莉が・・・。そっか。うん、父さんのけががまだね。もうしばらくは店の手伝いしなきゃって感じかな。」
「そっか。大変だね。はやく果南ちゃんと学校に行きたいなあ。」
「あはは、もう少し待っててね。」
「うん・・・。」
「千歌、どうしたの?」
最近、自分の鼓動の速さがわからなくなるぐらい、毎日のようにドキドキしていると千歌は思った。
それでも特に今は、今までで一番鼓動が早い気がしていた。
「果南ちゃん、イルカ好きだったよね。」
「うん、それがどうしたの?」
「シャチとかサメは?」
「・・・聞きたいこと、ストレートに言っても良いんだよ。」
「あの青の仮面ライダー、果南ちゃんなんだよね?」
「さすが幼馴染、ってところか。うん、そうだよ。アビスって呼ばれてるアレに変身したのも、モンスター、ガルドサンダーって言うんだけどね。それに指示出してたのも、私だよ。」
「どうして・・・。」
「どうしても何も。これは願いを叶える戦い。最後の一人になるまで戦うバトルロイヤルだからね。」
「私は、戦いたくなんか・・・。」
「うーん、まあ、千歌はきっとそう言うと思ってたんだけどね。それでも私は戦うの。」
「わかんないよ、どうして・・・。」
「先に一つ、千歌の質問に答えたから私から。どうして千歌が龍騎のデッキを持ってるの?」
「え?これはダイヤさんから。」
「ダイヤから?」
「うん、最初はタイガってライダーだったんだけど。」
果南が不審な顔をしたことを千歌は見逃さなかった。
今の顔が何を意味しているのかはわからないが。
「わかった、ありがとう。それで、まだ聞きたいこと、ある?」
「もちろんだよ!いくつだってある。全部答えてほしい!」
「まあ、そうだよね。でもね、千歌?これはライダーバトルだよ。」
「え、うん・・・。」
「願いを叶えるためには戦う、そうじゃない?」
「そ、そんなこと・・・!」
「待ってるから。変身。」
そう言うと、果南は反射したガラスからミラーワールドへと消えた。
ためらいながらも、千歌も変身し後を追う。
ミラーワールドに移るとすぐそこに青のライダー、アビスがいた。
「さあ、始めようか。あの時は逃がしたけど、今日は違うよ。」
『ソードベント』
召喚した剣を手に、アビスが近づいてくる。
戦いたくない。戦いたくない。戦いたくない。
それでも、矛盾した気持ちでも、決めたことは曲げない。
「果南ちゃん、私だって決めたんだ。こんな戦い終わらせるって。」
『ソードベント』
同じように龍騎も剣を手にする。
合図をしたわけでもなく、二人は戦いを始めた。
斬りつけ、薙ぎ払い、いなして、また斬りつける。
剣で攻撃を受け、また斬る。斬る。斬る。
しかし、勝負はアビスが優位にいた。
徐々に龍騎は押されていき、一撃、交わすことのできない斬撃を食らった。
龍騎が膝をつく。
立ち上がろうとしても、身体に力が入らない。
「ごめんね千歌、これは終わらせない。」
『ストライクベント』
「ハーイ!ここにきて騎士様の登場って、最高にかっこよくない?」
カード名を告げる機械音と同時に、陽気な声が聞こえた。
声の主は蝙蝠を模した姿をしていた。
その振る舞いは、本人が言うように騎士のようだった。
「鞠莉、何しに来たの。」
その名前に千歌が反応する。
「鞠莉って・・・理事長!?」
「イエース!浦女の理事長、マリーです!」
「鞠莉さん!学校お休みってどういうことですか!?」
「Oh...ちかっち、今それを聞くのね…。意外とハードなメンタルね。でもごめんなさい、今はそれに答えてられないの。」
「鞠莉、あなたと話すことはない。千歌と話をしているの。」
「話って、これが?戦いこそが話し合いとでも言うのかしら?全く、脳ミソまで筋肉なの?」
ジェスチャー付きのいかにも呆れている、という話し方。
慌てて千歌が会話に割り込む。
「鞠莉さん、私も果南ちゃんに聞きたいことがまだまだあるの。」
「ちかっち。」
『ソードベント』
「ちかっち、別に私はあなたの味方をしに来たわけじゃないの。私だって、あなたの望み通り戦いを終わらせられたら困るんだから。このナイトが黙ってないわ。」
召喚した剣を地面に突き立て、龍騎を牽制する。
「あなたは曜のもとへ向かいなさい。外で待っているはずだから。この場は、私に譲ってもらえないかしら。」
「鞠莉さん!!!」
千歌の言葉など聞く耳持たず。
ナイトと呼んだその姿で、視線はアビスに向けられていた。
「千歌、今日はもうおしまいみたい。今はこの駄々っ子を黙らせなきゃいけないからね。またおいで、いつでも相手してあげる。」
「ちかっち、行きなさい。」
嫌だ、と言うべきだ。
止めるべきだとわかってはいる。
それでも千歌にはかつて友人同士であった二人の睨み合いにこれ以上すべきことが無かった。
この時の止められない自分への悔しさを胸に。
この先また何度も訪れるであろう自分への悔しさに覚悟を決めて。
そして、アビスとナイトは戦闘を始めた。
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さて、内容のお話です。
躊躇いながらも、自分が戦うことには覚悟を決めてる千歌ちゃん。でも、他の誰かが戦って傷つくことは嫌。自分は傷ついていいから他の誰にも傷ついてほしくない。
自己犠牲って、ヒーローの多くが持つものだと思います。
それが良いか悪いか、それが問題です。
今回は、そんなお話です。もちろん大テーマは果南=アビスですが。
アビス、個人的にはすごく好きなんですよね。かっこいい。
近況です。
他のアイスも美味しいです。
ほんとに、いつもありがとうございます!
それではまた。