千歌が目を開ける。
視界に広がるのはまたも知らない天井。
自分の身体が敷布団に横たわっていることを確認する。
い草の香りが心地良く感じる。
腹部に痛み。直に蹴りを入れられたことを思い出す。
「デジャブかな・・・あはは。」
一人、力なく笑った。
「目が覚めたずら?」
声の主が花丸だということに千歌はすぐ気が付いた。
「もしかしてここ花丸ちゃんの・・・?」
「そうずら。ここはおらの実家のお寺。ここなら一先ずは安全です。」
「あれから、どうなったの?」
「おらも梨子さんもやられました。とはいえ、千歌さんに比べればダメージはひどくなかったのであの場で何とか動けるようにはなって。善子ちゃんは難を逃れたみたいで、手伝ってもらって今に至る、という感じです。」
「そっか。迷惑かけてごめんね。その、梨子ちゃんと善子ちゃんは?」
「梨子さんは一人になりたいって外へ。善子ちゃんも、戻ってくるからとは言ってましたけど、どこかにか・・・。」
「そうなんだ・・・。」
少しの沈黙。
ふと、曜がいないことに気付きスマホを確認すると、メールが1件届いていた。
『気になることがあるから、少し動きます。戦いを見届けられなくてごめんね。』
突然消えたわけではないことに安心して、再び花丸と話し始めた。
「あの敵、強かったね。」
花丸の顔がゆがむ。
「はい。すごく。今までいろんな敵と戦ってきましたけど、あれだけ戦闘能力の高い個体は初めてで・・・。」
よみがえる記憶。
攻撃能力の高いモンスター。
そして、隣にいた青のライダー。
「あの青の仮面ライダーって、敵なのかな。」
「はっきりとしたことは言えません。けれど、あのようなライダーが参戦している事実はありません。例外と呼ぶしかないずら・・・。」
「例外・・・。」
青の鎧。サメのような、シャチのような・・・。
サメ・・・シャチ・・・イルカ?
千歌の頭に一瞬、嫌なイメージが広がった。
「もっと調べてみます。千歌さんは痛みが治まるまでもう少し休んでいてください。」
そう言って、花丸が部屋から出ていった。
「・・・見つけた!」
善子の視線の先で、梨子が一人砂浜から海を眺めていた。
「もうすっかり暗くなったし、何も見えないんじゃない?」
話しかけられて初めて梨子は善子に気が付いた。
「善子ちゃん、どうして?」
「だからヨハネだってば。って、あんな顔して出ていくんだもん、追いかけないわけにはいかないでしょ。」
「・・・ふふっ。堕天使だってあれだけ言ってたのに、意外と優しいのね。」
「なっ・・・!!!別に堕天使だって心配ぐらいするし・・・!」
「全然・・・敵わなかった。」
「え・・・?」
それが何についての話題なのか善子はわかっていた。
「わたしね、千歌ちゃんに救われたの。ライダーとして戦う道以外に、助けてくれる誰かの力で願いが叶えられるんだって教えてくれた。だから、私も助けたかった。なのに目に映るのはあの子が倒れている姿。勝てなかった、勝てなかった・・・。」
涙が頬を伝う。
聞いていた善子は必死に言葉を探していた。
今言うべき言葉は何が正しいのだろう。
何を言えば、目の前の涙は晴れるだろう。
見つからない、わからない、追ってきたくせに、何も言えない。
いや。
考えるな。
さっきだって、さんざん考えた結果がこれだ。
考えなくていい。
今思うことをそのまま、伝えればそれこそ。
「変身よ。」
「変身・・・?」
「そう、変身。なりたい自分に、いつか思い描いていた自分に変身するの。仮面ライダーとかじゃなくて、きもちで。あこがれていた姿への変身。きっと大切なのは、変わろうとすることだと思う。リリーはさ、前の自分から変わろうとした。たぶん、あと少しなんだよ。」
自分に言い聞かせるように。先への不安にためらった自分じゃない、強い自分へ変身するんだと。強く、胸に。
何も言わない梨子に、だんだん恥ずかしくなった善子が顔を伏せる。
その様子がおかしくなり、梨子から笑みがこぼれた。
「なにそれ、励ましのつもり?」
「なによ!私だってこれでも・・・」
「でも、ありがとう。少し救われたかも。って、また私誰かに救われたのね。」
「あ・・・えっと・・・そ、そうよ!大切なリトルデーモンが困っているんですもの、たまにはこのヨハネが・・・」
「リトルデーモンじゃないし。っていうかリリーって何よ。私そんな呼び方認めてなんかないわ。」
取り留めのない会話が続いた。
その中で一つ、梨子は決めたことがあった。
「善子ちゃん。千歌ちゃんたちに伝えておいてもらっていいかな。行くところがあるって。」
「行くところ・・・。わかった。伝えておく。」
決心が伝わるそのまなざしを善子は信じることができた。
自分も、覚悟を決めたのだから。
「戻ったわよ、ずら丸。」
少ない灯りを頼りに寺に着いた善子は、まず花丸を探した。
「善子ちゃん!お帰りなさい。」
「ヨハネ!・・・千歌さんは?」
「少し前に目を覚ましたずら。もう少し、様子をみなきゃって感じだけど。」
「そう、はやく回復することを願うしかないわね。・・ねえ、少し話でもしない?」
寺の縁側。
外を見れば夜空が広がっている。
ちょうど月が雲から顔を出したところで、花丸がお茶を運んできた。
「お待たせずら。こうやってお話しするのもひさしぶりずらね。」
「そうねー。別に同じ市内に住んでるっていうのに案外会わないものね。」
「びっくりした?」
「ええ、それはもういろいろと。いくらこの私が堕天使だからって、キャパオーバーすぎるわ。」
「だよね・・・。」
「でも、変わってないところもあった。あんたのその口癖とか。それは、安心したかな。あの頃のままのこともあるんだって。」
「なんかあまりうれしく無いずら・・・。でも、それはおらも同じずら。」
「どういうこと?」
「おらね、ミラーワールドで善子ちゃんと再会したとき、本当は嫌だったんだ。大事な友達がこんな戦いに巻き込まれてるなんて、こんな再開したくなかったって。でも、善子ちゃんは善子ちゃんだった。それはどんな状況でも変わらないんだって。変わっちゃいけないんだって。」
姿を見せた月の明かりが二人を照らす。
慣れてきた目に、多くの星のきらめきが飛び込んでくる。
「・・・もう一つ。秘密にしてることがあるの。」
「ルビィのことでしょ?」
「・・・!?知ってるの!?」
「ううん、何にも。あんたと同じぐらいご無沙汰。でも、鏡の世界でその名前を呼んだあんたの顔、少し寂しそうだったから。」
「そっか・・・。これを見て欲しいの。」
花丸が風呂敷を取り出すとその結び目をほどく。
包まれていたのは、一つのカードデッキだった。
「さっきの話と同じ。こんな戦いに巻き込みたくなかった。おらにこれが何か尋ねられた時、咄嗟に嘘をついてこれを預かったの。使わないように。」
「それってつまり、ルビィも仮面ライダーってこと・・・?」
「そう、その資格をライダーバトルから与えられた一人。」
「どうするの?」
「本当のことを、話そうと思う。」
「そう、あの子ならわかってくれるわよ。」
用意されたお茶はぬるくなり、月が再び雲に隠れる。
この先どんな未来が待っているかなどわからない。
それでも、この日の夜空を、二人は忘れない。
今度は、三人でお茶をすすりながら。
いつもありがとうございます。
まずは内容のお話から。
今回はすべて1対1で会話が行われるため、自分的思い切りで会話多めにしました。
千歌ちゃんが寝てるときに他メンバーの話をするからそれ目的で千歌ちゃん寝かせてんじゃないの?って書きながらおもったんですけど、そうではないです。ないんです。
知らない天井~のくだりをずっと考えていたので、その都合で他メンバーの話もここにきた、って感じなだけです。
さて、ルビィちゃんがライダーの資格があることがわかりました。
どのライダーなのか、お楽しみにしていてもらえればうれしいです。
近況です。
パピコのストック切れないように注意しています。
それではまた。