その少女は、国木田花丸と名乗った。
善子の幼馴染で、同じく浦の星に籍を置く高校一年生。
住んでる場所の関係で、小中は別々の学校だったらしいが。
高校が同じであることさえ知らなかったらしい。
善子と花丸は、思いがけぬ場所での再開に戸惑いを隠せないでいた。
そして、その姓を知っている者がもう一人。
梨子はもう一度確かめるように聞く。
「国木田・・・。あなたが国木田さんなのね。」
まるで前から知っていたかのような言い方だね、と千歌が口をはさむ。
「知っていたかのような、じゃなくて知っていたのよ。国木田の家について。」
言いたいことを理解した花丸が一歩前に出た。
「それは、私の方から説明します。善子ちゃんにも。」
普段は自分はヨハネだとすぐ訂正する善子も、花丸の真剣な表情に言葉が詰まる。
言い返さない善子に少しばかりの面白さを感じながら、花丸は自分の役割について話し始めた。
内浦には、代々続く寺がある。
国木田の家は、代々その寺を守ってきた家系である。
花丸も、寺に生まれた娘として国木田の役割を担ってきた。
しかしもう一つ。国木田の家が継いできた役目がある。
千歌たちが現在参戦しているライダーバトル。
その勝利条件や、そも、この戦いについての説明をするための存在、言わばルールテラーとしての役割である。
ライダーとしての力を授かったものが現れれば、その者にライダーバトルのルールを伝える。
代々受け継がれてきたゾルダの力を使い、自らも戦いに身を置くことで幾度もその役目を果たしてきた。
「でも、おらは戦いなんて望まない。」
代々継がれてきた家の役割を否定することは苦しかった。
それでも、戦い続けることは間違っているとしか思えなかった。
そのため、今回のライダーバトルにおいてのルールテラーである花丸は誰にも教えようとはしなかった。
自身で戦いの意味を知り、それでも戦おうとする者を止めることはしなかった。
それは、その人の意志であるから。
自分が自分の意志で役割を放棄している以上、止める資格はないとの考えからだった。
ミラーモンスターが出現したときだけ変身して駆逐する。
現実世界に被害を及ぼさないようにすることが、自身にできるせめてもの行動であり、役割を放棄した償いでもあった。
「そんな時にあなたたちが現れた、というわけずら。」
「私が調べてたどり着いたのは国木田って家の人たちが戦いを管理している、ということだけ。だから沼津に着たら話を聞こうと思っていたのだけれど・・・。」
それがこのような考えを持つ少女だと、梨子は予想していなかった。
だから、千歌や善子は何も知らなかった。
少し、話が繋がった気がした。
しかし、梨子には一つ不可解なことがあった。
鞠莉が以前話していたこと。
鞠莉は戦いについてダイヤから話を聞いた、と話していた。
であれば、どうしてダイヤは戦いについて知っていたのだろうか。
梨子のように、調べれば良い話ではあるのだが。
ならばどうして国木田の家のような役割があるのだろう。
現状で解決できない疑問が多すぎる、何かがある。
一方、千歌は目を輝かせて花丸を見ていた。
「あなたも、わたしと同じなんだね!!!」
戦いを望まない。人同士の争いは間違っている。
その考えは千歌と同じだった。
この子はきっと協力してくれるだろう。
戦いについてもっと詳しいことも知っているはずだ。
そうすれば、この戦いを終わらせる方法を見つけられるかもしれない。
うまくいけば、だれも争わずに戦いをなくすことだってできるかもしれない。
今でも期待は「かもしれない」で留まっているが、それでも希望の灯りは大きい。
「花丸ちゃん!」
千歌が花丸の右手を両手で握る。
花丸が間抜けな声を出したことなど気にもせず、じっと見つめた。
「花丸ちゃん。わたしね、この戦いを終わらせたいんだ。あなたと同じで、私も戦いなんて嫌だって思ってる。そりゃあ、ヒーローになれたことはうれしいけど、梨子ちゃんに『なろうとしてなるものじゃない』って言われちゃってるし。」
顔を向けると、梨子はため息交じりに小さくはにかんだ。
「でもね、やっぱりこの力、ヒーローだと思ってる。私が思うヒーローって、大切な誰かを守る為の勇気をくれる存在なんだ。そんな力を与えられたのに、それ同士が戦っちゃうなんておかしいよね。誰かを想う気持ち、守りたいって気持ちは変わらないもん。力の強い弱いとかじゃない。って、なんか話がまとまらなくなっちゃったけど、とにかく!私はライダーバトルなんて終わらせたい。協力してくれないかな?」
自分の説明力不足を恨んだ。ちゃんと伝わったか不安でいっぱいだった。
しかし、その不安は花丸が向けた晴れやかな笑顔で消え去った。
「千歌さん!!!千歌さんはとても優しい人ずら!おらもこんな戦い終わらせたい。協力するずら。家の監視が厳しいかもしれないけれど、何とか搔い潜って行動するずら。」
「花丸ちゃん・・・!梨子ちゃん!仲間が増えたよ!」
見てわかるようにはしゃぐ千歌。
それを見ながら、今まで黙っていた少女が声を発した。
「・・・私も!!」
3人はあからさまに驚いた顔を善子に向けた。
「ちょっと!私のこと忘れてたわけじゃないでしょうね!まったく・・・。そりゃあ、話の半分も理解できてないけれど・・・。それでもこのヨハネにかかれば問題ないわ!私もあなたたちに協力する。怖いけど!怖いけど!!!!まだ戦ったりとかしてないし。でも、モンスター?あの変なのそのままにしとくと現実の人たちが危ないんでしょ?私のリトルデーモンたちが危ない目に合うかもしれないなら、このヨハネが守ってあげるしかないじゃない!」
じゃんけんのチョキの変化形みたいな手を目にかざしたお決まりのポーズを取る。
千歌と梨子は顔を合わせて微笑んだ。そしてふたりして、ありがとう、がんばろう、と声をかけた。
花丸はというと、ジト目になりながら善子に話しかけた。
「おら見てたずらよー?善子ちゃんが腰抜かしてるところ。ほんとに戦えるのかなー?」
「な、なによ!あれは別に・・・!っていうか、こんな大変なこと背負ってたのなら、もっと早く言いなさいよ。学校離れてたとはいえよく遊んだ仲なんだから・・・。いきなりこんな再開したら、戸惑って素直に喜べないじゃない・・・。」
言い終わるより先に頬を赤く染め、視線を下に逸らす。
そんな善子を見て花丸は安心した。
何も変わらない、あの時の優しい善子だと。
「ありがとう、善子ちゃん。おら、うれしいずら。」
「なによ・・・。っていうかずら丸、あんたいまだに『~ずら』とか『おら』とかついてんのね。」
「ななな・・・!!!またおらって言っちゃってたずらか~!!!」
いつか幼少の頃と変わりのない会話。
またこのような時間が来ることをどれだけ望んでいただろうか。
環境はあまり良くないかもしれない。
それでも、この再会は素直に喜びたいと思った。
善子も、花丸も。
「あと善子ちゃんはルビィちゃんにも会わなきゃずらね。ルビィちゃんも、ずっと善子ちゃんに会いたがってたんだよ。」
もう一つの懐かしい名前に善子が反応しようとした時だった。
「危ない!!!」
梨子の叫び。
見上げれば無数の火の玉。
明らかな殺意を持ったそれは、定められたように四人の元へ。
着弾した衝撃と爆風が、少女たちを襲った。
いつもありがとうございます。
内容のお話。
というわけで、花丸について、でした。
梨子の疑問もあるように、この戦いにはまだ何か残っている、それが戦いの真実に繋がっていたりしますので、楽しんでいただければ嬉しいです。
千歌のヒーロー論、実はそのあとの善子が言っていることが近かったりします。
なんかよくわかんないけど、困ってるならたすける。
このお話の善子の考えていることは単純で、だからこそいい子で、痛い子だけど素直なかわいい子なんです。
こういうと千歌は?
千歌は、誰よりも立ち上がる強さを持ってます。
だからこその梨子へのライダーパンチだし花丸に訴えた自分の思いなのです。
余談。
本当は、区切り回以外は1,500程度の短い文章で続けるつもりだったのですが、今後それだと1話であまり進めない、と思い3000前後にすることにしました。
サクッとさらっと読めるのがいいと思っていたのに・・・。でも頑張ります。
あ、あと。
前々回の2年生組お昼の会話、梨子が他二人の(果南についての)不安に対しての言葉。
「そういうこと・・・。」
これを
「なるほどね・・・。」
に変更しました。
読み返してたら、梨子がまるで果南のこと知ってるみたいに見えたので・・・。
気を付けますすいません。
長くなりました。
次回は、なんかどったんばったん。
それではまた。