静岡県沼津市、富士山を望む、潮風が心地よい海辺の町。太陽はその日の頂点に達していた。
その、鏡の中。ミラーワールドと呼ばれる世界。
「これで・・・最後!!!」
白銀の戦士はそう叫びながら、自身が持つ斧型の機械にカードを差し込んだ。
無機質な声が鳴り響く。
『ファイナルベント』
「やっとおわったよ~!お腹すいた・・・。」
千歌はそう言いながら、ベルトのカードデッキを抜き取る。同時に、千歌をまとっていた白銀の鎧が消えていく。
「千歌ちゃん、お疲れ様。」
鏡の中から出てきた千歌の元へ曜が駆け寄る。手に持つペットボトルを渡しながら会話が続く。
「ヒーローも大変だね、いつもお疲れ様であります!」
「ありがとう曜ちゃん。でも、この力はね、私がずっと望んでいたものなんだと思う。何かしなきゃって、このまま普通でいいのかって悩んでいた私が手に入れた、私にしか出来ないこと。」
千歌がこの不思議な力を手にしたのは、高校1年の3学期が終わろうとしていた時だった。
甲高い音が聞こえたと思うと、鏡の向こうに誰かがいた。性別も、年齢も思い出せない。
ただ一言「闘え。」そう言いながらカードデッキを差し出されたことだけが、千歌の記憶に残っている。
「千歌ちゃんは偉いよ、そうやって手に入れた奇跡を人のために使うんだから。尊敬するであります!」
曇りの無い笑顔を千歌に向ける。千歌も笑ってそれに答えた。
「それよりお腹すいた~。ねえ曜ちゃん、どこか寄っていこうよ!」
「よしきた!実は前から気になってたお店があってね・・・」
声を弾ませながら、二人は市街へと歩いて行った。
同時刻・東京
少女は鏡の中の自分を見つめていた。
「ついに・・・始まるのね。」
不安が入り混じながらも、その意志は固い。
その胸に想いを仕舞い込んで。
言い聞かせるように、見つめなおして。
一つ、大きな深呼吸をして、少女-梨子-は沼津へと発った。
掌にあるのは、紅色のカードデッキ。
【side千歌】
私はこのまま、普通のまま日々を過ごすんだって。そう思っていた。
朝起きて、ご飯を食べて、学校にいて、友達とお話をして、一日が終わって。
それは、とても幸せなことなのかもしれない。普通の日常を当たり前に過ごすことができる、贅沢なことですらあるだろう。
けれど、違う。いつも考えていた。何かしなきゃ、と。このまま普通で終わっていいのかと、自分に問いかけ続けていた。
奇跡は突然やってきた。普通の一日が始まる、その朝のことだった。
鏡の中の人物は私にカードデッキを渡した。「闘え。」それだけ言いながら。
それからの毎日はこれまでとは大きく違った。
人を襲う怪物、腰に巻かれたベルト、私を覆う白銀の鎧、鏡の中の世界「ミラーワールド」。
少しずつ、私は理解した。同時に、少しの高揚感を覚えた。
普通の日常に突然訪れた「それ」は、私を大きく変えた。
私はヒーローだ。この町の平和を守る、ヒーローなんだ。
これだ。私が普通の自分に求めていたものは。
私は輝いているだろうか、特別になれただろうか。この力が、私にそれを教えてくれると、そう信じて。
ヒーロー、高海千歌。輝き目指して今日も頑張ります!
初投稿です。
頭の中でラブライブサンシャインと龍騎が関わって離れそうにないので書き起こしてみました。
1年生や3年生、あとは学年飛び越えた絡みのお話もごちゃごちゃと頭の中にいらっしゃるので、整理できたら続き物にしようかな、と思っています。
そのときのお話で初登場した子の、力を手にしたエピソードも一緒に書けたらな、と。
なので今回は千歌ちゃんです。何かしなければ、と漠然と思いながらもがく少女。
ではまた。