俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

9 / 36
第7話 知らぬが仏

 

 

朝。俺は早起きして、支度をして執務室の椅子に座った。俺はやらなければならない事は、手短に早めに終わらせるのをモットーとしている。緊急事態を除いて提督業のスタートは朝の6:00からだが、俺は5:30には起きていた。

この時間なら艦娘と遭遇することもないので、ポストまで歩いて、届いてる書類を持って執務室に戻れる。

で、仕事開始。音楽を聴きながら大本営からの手紙に目を通し、終わったらファイリングしてしまう。何か書く必要のあるものは、今のうちに終わらせておいた。

ようやく終わって一息つこうとしたところで、大体30分経過し、一週間ほど前からできたイベントが発生する。

 

「おはようございます、提督」

 

大和さんがノックとともに入って来るのだ。

 

「おはようございます」

 

そう返すと、大和さんは俺の隣に座ってくる。相変わらず良い匂いだなぁ、香水の匂いじゃないし……ナニコレ?体臭?

 

「相変わらず、早いですね。提督」

「さっさと仕事終わらせたいですからね」

 

テキトーに返事をしながら、今日の予定に目を通す。すると、隣からグゥッと音が聞こえた。

 

「……………」

 

真っ赤な顔の大和さんだ。

 

「…………朝飯は食べてないんすか?」

「その、お恥ずかしながら、寝坊してしまいまして……」

 

あら、珍しい。

 

「なら、食べて来て良いですよ。仕事、今日もほとんどないんで」

「い、いえ!そんな提督より遅く来た上に朝食を食べに行くなんて………!」

「いやいや、そんな楽器みたいな腹の状態で仕事できるんですか?」

「が、楽器⁉︎ど、どういう意味で……!」

 

ぐうぅっとまた音がなった。しばらく沈黙が流れたが、すぐに大和さんが赤面しながら言った。

 

「………行って来ます」

「いってらー」

「ニヤニヤしないで下さい!」

「ぐうぅううう」

「お、怒りますよ⁉︎」

「いいから行ってきて下さいよトリコさん」

「だ、誰がトリコですか⁉︎」

 

サイヤ人でも可。大和さんは顔を真っ赤にして食堂へ走った。

 

 

++++

 

 

数時間後。いつものように俺は仕事をしていた。隣では、大和さんが頑張って手伝ってくれている。

 

「あー……飽きた」

「飽きた、じゃありません。仕事して下さい」

「むーりー。ゲームやるわ、そろそろアサルトタイムだし」

 

言いながら、俺はスマホを取り出した。そのスマホを大和さんが横から取り上げた。

 

「だーめっ。ちゃんとお仕事してください」

「…………」

 

この野郎……。なんか最近、大和さんの俺に対する態度が大きくなってる気がする。そのくらいで腹は立たないが、何となく変に悔しいんだけど。

 

「ちゃんと休憩時間になったら返します」

「……へーい」

 

素直に返事はしたものの、俺はこんな簡単に引き下がる男ではない。書類を書きながら、ケシカスをデコピンで大和さんの顔面に飛ばした。

が、それをキャッチする大和さん。

 

「なっ⁉︎」

「甘いです。一週間と少し、同じことをやられていれば、攻撃だって読めます」

 

や、偉そうに言ってるけど、それ逆に返すと一週間も同じ技食らってたの?って話だからね?

 

「……………」

 

が、少し気に入らなかったので別の攻撃をした。大和さんが進めてる書類に手を伸ばし、紙を引っ張った。が、紙が動かない。よく見ると、ペンを持つ反対側の手にで紙をしっかりと抑えていた。

 

「それも読めてます」

「っ……!」

 

さらに、脇腹を突こうとした。が、それも掌で止められ、指が思いっきり反対側に曲がって突き指した。

 

「痛ッ………⁉︎」

「それも慣れました。………言っておくけど、今のは自業自得ですので、謝りませんし治療もしてあげませんからね」

 

ジト目で睨まれながら、大和さんに言われ、俺はため息をつきながら引き出しから湿布を取り出して指に巻いた。

………はぁ、仕方ない。レベル2だ。

 

「大和さん、コーヒー飲みます?」

「それくらい良いですよ。大和が淹れますから」

「いやいや、頼んでないとはいえ手伝ってくれてますし。俺がやりますよ」

「………いいです、私がやります。コーヒーに塩なんて入れられちゃたまりませんから」

 

ビクッと俺の肩が震え上がった。その様子を見て、大和さんは大きなため息をついた。

 

「ほんとにバカですね提督……。いつも通り、砂糖は多めですか?」

「………お願いします」

 

素直に言うと、大和さんは立ち上がってコーヒーを淹れに行った。

コーヒーメーカーにコーヒーの粉と水を入れ、コーヒーを作り始め、戻って来た。

 

「出来るまで、少しでも仕事進めましょうか」

 

そう言いながら大和さんが椅子に座ろうとした直後、俺はその椅子を引いた。思いっきり、床に尻餅をついてひっくり返る大和さん。

残念だったな、さっきの塩のくだりは演技だ。それを大和さんに看破させ、油断した所で椅子を引く。

普通の人は尾骶骨を折るかもしれないから無理だけど、艦娘にはそれが可能だ。

 

「何やってるんですか大和さん。椅子の前に座っても机には届きませんよ?」

 

ニヤニヤしながら煽ると、お尻をさすりながら大和さんが涙目で、キッと上目遣いで睨んで来た。あ、これやり過ぎた。

 

「てぇいぃとぉくぅ〜‼︎」

「あ、あばよー、とっつぁん!」

「誰がとっつぁんですか!待ちなさい‼︎」

 

俺は床を蹴って慌てて机の上を転がって脱出し、執務室を出ようとした。

 

「逃がすか!」

 

直後、頭部にゴヌッと何かが直撃した。お陰で俺は前に倒れ、横に頭に直撃したと思われるものが落ちた。

…………俺のスマホじゃないですか。

完全に画面にヒビが入っているが、それで絶望してる暇はなかった。

俺の後ろから、別の絶望が迫っていたからだ。

 

「て、い、と、く……?捕まえましたよ?」

 

俺を腰の上辺りを跨いで仁王立ちする大和さん。ゴゴゴゴッとラスボスのようなオーラを出しながら、指を鳴らしていた。

 

「何か言うことは?」

「どうでした?俺の頭脳プレー」

「歯を食いしばって下さい」

「嘘嘘!冗談ですすいませんでした‼︎」

 

謝るが、大和さんの表情は変わらない。俺にゲンコツするため、一歩踏み出した時、俺は信じられないものを見た。

大和さんのスカートの中だ。問題は、そこにパンツが無かった事だ。

 

「ええええええっ⁉︎」

 

思わず絶叫してしまった。え、えっと……な、なんで?どういうこと?何あれ?夢?幻覚?なんでメデューサがこっち睨んでんの?

だ、ダメだ……!目が離せない!ほんの一瞬も、瞬きすらもさせてくれない!キヨシの気持ちがよく分かる‼︎そうか、あいつはこんな気分だったのか⁉︎

漫画の世界のキャラに共感しながら、ガン見していると、メデューサが闇の中に隠れた。

それと共に、俺はハッと現実に帰る。何が起こったのか確認すると、大和さんが顔を真っ赤にしてスカートを抑えていた。

 

「あ、貴方はっ……!貴方という人はッ……‼︎」

「うわっ、やべっ……⁉︎」

 

しまった、ガン見し過ぎたか⁉︎いや、そんな場合じゃない!このままだと今日1日、大和さんがノーパンで過ごすハメに……‼︎

 

「怒られてる最中に……‼︎さ、最低です‼︎」

「ま、待って大和さん!謝る、謝るから一旦待って!制裁はいくらでも受けるから、今は一旦……‼︎」

「待ちません‼︎」

 

ゴッ‼︎と、ゲンコツされ、俺はその場に倒れ、気絶した。

_____________ちなみに、雑草は生えていませんでした。

 

 

++++

 

 

一言も口を聞いてもらえないまま、昼飯の時間になった。大和さんはさっさと執務室を出て行ってしまい、俺ものんびりと腰を上げた。

結局、パンツの安否は聞けていない。そりゃそうだろう、聞けるわけがない。だが、このままでは恥かくのは大和さんだ。

 

「…………誰かに頼るしかないか」

 

そう決めると、俺は一人で執務室を出ることを決心した。

頼る相手は武蔵さん。なるべく艦娘達に見つからないように、大和型の部屋に潜伏するしかない。

俺は窓を開けて、屋根に上った。一ヶ月くらい前に、何とか艦娘に見つからないように鎮守府内を移動するための通路、通称「エンジェル・ハイロウ」を通って大和型の部屋に向かう。通路の名前の由来?俺に聞かれても知りませんよ。

スマホのライトを点けて、中を移動する。鎮守府の屋根の上のマップは自室と執務室と食堂と大和型の部屋だけは把握済みだ。いや、別に夜に襲おうとかそんなんはないからね?

大和型の部屋に着くと、天井を一部をパカッと開けた。

武蔵さんは寝転がって監獄学園を読んでいた。おい、それ俺の俺の。何、人の漫画没収して楽しんでんだこの姉妹。

 

「ははっ、なんでそうなるんだ」

 

笑ってるよ、あの人。良かった親に変な性癖あると思われなくて。

ていうか、この角度すごい。武蔵さんのおっぱいの谷間がベストポジションで見える。サラシなだけあって、乳首とかは見えないが、それでも童貞を興奮させるには十分過ぎた。

っと、いかんいかんいかん!大和さんのノーパン事件だ!移動して、部屋の前に降りよう。天井を元に戻し、部屋の前まで移動しようとした直後、メキメキッと嫌な音が聞こえた。

 

「「えっ?」」

 

俺と武蔵さんの声が漏れた。そして、天井が陥没し、俺は落下した。

 

「嘘おおおおおお⁉︎」

「ぬっ、て、提督⁉︎」

 

死ぬ!と目を瞑った直後、体にやわらかい衝撃が走った。薄っすらと目を開けると、武蔵さんにお姫様抱っこされていた。

 

「だ、大丈夫か?何やってるんだ?」

「は、はい……」

 

あの一瞬で漫画を放置して立ち上がり、落ちてくる成人男性をお姫様抱っことか、この人は本当にかっこいいなぁ。

 

「…………あのっ、ありがとうございます」

「いや、良いさ」

 

降ろしてもらった。………ふぅ、少し恥ずかしかったです。

 

「………で、提督よ」

「はい?」

 

いつの間にかジト目の武蔵さんが俺を睨んでいた。

 

「何故、天井から落ちて来たんだ?」

「それより武蔵さん!大変なんです!」

「おい、話を聞け」

「あなたの姉が大変なんですよ!」

「分かったから、まずはこっちの質問に答えろ」

「話を逸らして誤魔化そうとしないで下さい‼︎」

「それはお前だろ。おい、マジで良い加減にしろ」

「良いから俺の話を……あ、いや怒らないで。謝るからメガネを外して臨戦態勢にならないで。ごめんなさいごめんなさい」

 

チッ、誤魔化せなかったか。まぁいいや。

 

「や、鎮守府の廊下を歩いて艦娘に遭遇するの嫌なんで、屋根裏を移動してたんですよ」

「忍者かお前は」

「そしたら、天井が抜けたというわけです。後で修理しますから許して下さい」

「まぁ、いいだろう」

 

よし、誤魔化せた。まさか、女性の部屋に不法侵入できる術を持ってるとは言えまい。今回は屋根が落ちたという不可抗力を強調した。これなら怒られまい。

で、本題に入った。

 

「で、何の用だ?」

「あー、それなんですけど……」

「……………」

「……………」

 

開いた口が、塞がらない。しかし、声が出ない。だってなんて聞けば、いいか分からないんだもん。なんと聞いてもセクハラになる気しかしない。

慎重に言葉を選んで説明しないと。

 

「……えーっと、艦娘ってパンツを履く文化ってあります?」

「殴って欲しいのか?」

「あ、いやえっと……違くて。なんというか……あ、透明のパンツとか履いてます?」

「おい、さっきからなんだ。セクハラの練習か?」

 

だ、だよね。えっと……いや、でも俺が大和さんのスカートの中を覗いたと知られたら……!

………どうする。というか、どうしよう………いや、こうして悩んでる間にも、大和さんのパンツは………‼︎

………放っておこっか。どう足掻いても俺がセクハラ扱いされる未来しか見えない。今日はなるべく大和さんは出撃させないでずっと俺の隣にいさせて、他の人に気付かれる機会を無くそう。精一杯、優しくしてやろう。

 

「………すいません、武蔵さん。何でもないです」

「…………? なんなんだ一体?」

「もし、アレなら寝る時は俺の部屋貸しますよ。俺は執務室のソファーで寝ますし」

「そ、そうか?悪いな」

「いえいえ、天井壊したの俺ですから。その時は大和さんも呼んであげて下さいね」

「お、おう……?」

 

そう言って、俺は執務室に戻った。いや、昼飯食ってねえな。やっぱ、食堂に向かった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。