俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第6話 学習しろよ

 

 

「提督ー?いらっしゃらないのですかー?」

 

………まずいな、非常にまずい。妹を俺の部屋でシャワー浴びせてますなんてバレたらヤバイ……。

いや待て。うちの大和さんは男の部屋だろうとなんだろうと問答無用で突撃してくる無防備さを持っている。なんだろうと入って来るだろう。返答は早い方がいい。

 

「あ、はい。いますよ」

「失礼します」

 

大和さんが入って来た。

俺は布団の中で寝転んでいる。

 

「大丈夫ですか?間宮さんから聞きましたよ?戦艦パフェ30分以内に完食しようとして失敗したんですって?」

「は、はい……」

「まったく……あまり心配かけさせないでください……」

「すいませんね……」

 

何とかして大和さんを部屋から追い出さないと。

 

「それより、そろそろ執務に戻った方が……」

「終わりました。だから、提督の助け舟に行こうと思ったのですが……」

 

おおう……そうきたか。いや、落ち着け。まだ何とかなる。

要は、武蔵さんの存在がバレることなく、大和さんを部屋から追い出せばいい。しかし、一時的に退かすのではダメだ。武蔵さんがいつシャワーを浴び終えるか分からないからな。

 

「所で武蔵はどこでしょうか?」

「えっ⁉︎えーっと……」

 

ど、どうする。もし、武蔵さんにも用があったら厄介だし、なるべく遠いところにいると言った方がいいよな。

 

「なんか、イスカンダルまで行くとか何とか……」

「…………はぁ?」

 

ちょっと遠過ぎた。本当、嘘が下手だな俺。

 

「………まぁいいです。要するに知らないってことでしょう」

「は、はは……まぁね」

「あ、それで遠征の子達はどうしましょう」

「今日はもう休ませて下さい」

 

よしっ、これで大和さんは駆逐のガキどもの所へ行く!突け入る隙が見えた‼︎

 

「と、いうわけなので、みんな今日は休んで大丈夫ですよー?」

 

「「「「はーい!」」」」

 

駆逐艦引き連れて訪問してたのかよおおおお‼︎

駆逐のガキどもは部屋の前で解散した。大和さんは部屋に残った。

 

「あの、大和さんも別に出て行っても……」

「いえ、提督の体調が優れないのでしたら、誰か一人くらい看病に残った方が良いですから」

 

ああ、だよね。ヤバイな、このままだとまた全砲門一斉射撃される。ほんと良く無事だったな俺。

すると、大和さんの鼻がヒクヒクと動いた。

 

「………シャンプーの、香り?」

「っ⁉︎」

 

しまった……!バスルームからか⁉︎

 

「そ、そうですか⁉︎そんな香り全然しませんけど⁉︎」

「いえ、でも……」

「そういえば空気が悪いなぁ!換気しよう!」

 

俺は起き上がって窓を開けた。その俺の手を大和さんが引いた。

 

「だ、ダメです提督!具合が悪いんですから無理なさらないでください」

「え?い、いや……!」

 

いや、このくらいのアクションは平気なんだけど……。

 

「具合が悪いのに窓を開けるなんて言語道断です!」

 

ああ、そういうこと……。

大和さんは窓を閉めた。まぁいいか、臭いなんて気の所為で誤魔化せ………、

 

「………? なんか、水が流れる音しませんか?」

「……………」

 

確かに聞こえる。雨のような不規則な音ではなく、サアァァァッ……と、心地よささえ感じさせる音、

……シャワーの音か!

 

「そ、そういえば最近、俺音楽聞くんですよね!」

 

慌ててスピーカーにウォークマンを繋いで、音楽を流した。これでシャワーの音は聞こえまい。

そう思って、チラッと大和さんを見た。が、大和さんの目は完全に疑いの目と化して、俺を睨んでいる。

 

「………提督、何か隠してませんか?」

「か、隠してない!何も隠してないから!」

「………バスルームですか」

 

こ、こいつ……!意外と鋭……いや、あれだけのヒントが聞こえて来てて、わからない方がおかしいだろう。

大和さんは「失礼します!」と言って俺の洗面所のドアに手をかけた。

 

「ま、待てぇええええ‼︎」

 

俺は慌ててその前に立ちふさがる。

 

「退いて下さい提督!」

「絶対に嫌だ!ていうか、人のバスルームを覗くとか何しようとしてんだあんた⁉︎」

「誰かいますよね⁉︎誰を提督のバスルームに連れ込んでるんですか⁉︎」

「つ、つつつ連れ込んでないし⁉︎誤解を招く言い方はやめろ‼︎」

「風紀の乱れです!通ります!」

「おまっ……‼︎」

 

チイィッ……‼︎これをやると、万が一バレた時に次から仮病が使えなくなるが……やるしかない!

俺は腹を抑えて蹲った。

 

「ウッ………⁉︎」

「⁉︎ 提督⁉︎」

 

慌てて大和さんは俺の元へしゃがみこんだ。

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎」

「………お腹の、具合が……!」

「も、申し訳ありません……。大和の、所為で」

 

うっ、良心が痛む………!

 

「だ、大丈夫ですよ。案外大したことないかも」

「いや、ダメです。今日はもう大事をとって寝てください」

「え、いや……別にそんな大したことじゃ」

「い、い、か、ら!」

「は、はい……」

 

俺は大人しく寝る事にした。だってそうしないとキレられそうな勢いだったんだもん。

もうこうなったら、運に任せるしかない。

 

「あの、大和さん」

「なんですか?」

「あまり、こういうパシリみたいなこと頼みたくないんですけど……」

「何でも仰ってください」

「お茶、淹れてもらえませんか?」

「分かりました」

 

よし、その間に武蔵さんが出て行ってくれれば勝てる!

大和さんは快く承諾して、部屋のドアノブに手を掛けた。その直後、洗面所のドアが開いた。

 

「提督よ、換気扇は回すか?」

 

巨乳の所為でジャージのチャックが閉まらない武蔵さんが出て来た。

空気が凍った。

 

 

++++

 

 

「…………で、どういうことですか?」

 

不機嫌を隠そうともしない大和さんが、俺だけでなく武蔵さんまで正座させて、前で腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「どういう紆余曲折をへて、ムサシが提督のお部屋でシャワーを浴びることになるんですか?」

「………いや、その……今回の事は俺は全然悪くないんですよ。いや、そもそもの原因は俺がお腹を壊したことにあるんですけど」

「言い訳は結構です。何があったかをキチンと説明なさい」

「はい、すいませんでした」

「な、なんで私まで……」

「武蔵?何か言った?」

「イエ、ナニモ」

 

武蔵さんまで少しビビっていた。どうやら、普段は怖いのは武蔵さんだけど、怒ると怖いのは大和さんの方みたいだ。

俺と武蔵さんは視線で「どっちが説明する?」みたいなやり取りをしたあと、武蔵さんが口を開いた。

 

「………その、だな。提督がお腹を壊したあと、ここに連れて来て介抱したんだが、提督が『濡れTシャツ姿の武蔵さんを見たら元気出そうです』とか言い出して」

「はぁ⁉︎」

 

ちょっ、こいつ何言って……⁉︎

大和さんは当然、ギロリと俺を睨んだ。

 

「………そうなんですか?提督」

「や、違っ……!」

 

すぐに否定しようとした俺の口が止まった。今、武蔵さんは遊真のサイドエフェクトなんて使わなくても分かるくらいのウソをついた。多分、今になってあの奇行が恥ずかしくなったんだろう。

大和さんはその事を聞いたら、まず間違いなく武蔵さんを痴女認定し、下手したら姉妹間に亀裂が入るかもしれない。それだけは避けないと。

それなら、俺が大和さんに少しドン引きされる方がマシだ。

 

「…………いや、冗談のつもりだった、んですけど……まさか本気にすると、思わなくて……」

 

苦笑いしながら呟くと、武蔵さんは「えっ?」と反応して、大和さんは眉間にしわを寄せた。

 

「………提督は自分の体調の悪さを盾にして部下にそういうセクハラをする人ではないと思いましたが」

「いや、だから冗談のつもりだったんですって!ホントに水被ると思わなくて!それで風邪引くとマズイからシャワーを貸したんですよ。全身びしょ濡れの武蔵さんが俺の部屋から出て行くところを、もし他の艦娘に見られたら変な噂広まると思って、艦娘の大浴場じゃなくて俺の部屋のシャワーを貸したんです」

「じゃあ、なんで武蔵をこんな格好にしてるんですか?サイズの合わない提督の服を着せるなんて」

「いやそれは武蔵さんが自分の部屋に戻るための応急処置という奴でして……‼︎」

「廊下で誰かに出会したら、恥ずかしい思いをするのは武蔵なんですよ?それに、提督のジャージを着てるとバレたら、それこそ艦娘の間で噂は広がります」

 

……………あ、確かに。え、でもじゃあ、あの場合はどうすれば良かったんだ?

 

「……なんで、私を呼んで下さらなかったのですか?私と武蔵は同じ部屋ですので、そうすれば全部解決したじゃないですか」

「…………確かに」

 

思わず納得してしまった。今まで人に頼るとか、そういう考えは無かったから、大和さんを呼ぶなんて発想は皆無だった。

 

「…………すいませんでした。俺の考えが足りなかったみたいです」

 

素直に謝ると、大和さんは大きくため息をついた。「ま、この提督だから仕方ないか」と言った感じで。その納得の仕方は少し腹立つんですけど。や、事実なんだけどさ。

 

「まぁいいです。今回は提督の言うことを信じます」

「…………すいません」

「提督はこれからはこういうことがあった時はキチンと私に言うこと。いや、こういうことがない方がいいんですが。良い加減、他人に頼ることを覚えて下さい」

「はい」

「武蔵も。簡単に女の子が肌を見せちゃダメです。この提督だから良いものの、普通の男の人なら襲われてるわよ」

「………(襲われても私なら勝てるということは黙っておこう)分かった」

「や、どう見ても女の子って歳じゃ」

「「………はぁ?」」

「や、なんでもないです」

「じゃあ、武蔵。ここで待ってなさい。着替え、取りに行ってあげるから」

 

そう言うと、大和さんは部屋から出て行った。

そこでようやく俺と武蔵さんは正座崩して胡座をかいた。

 

「っふぅ……危ねぇ。一時はどうなるかと思ったわマジで……」

「……………」

 

俺は後ろに寝転がると、武蔵さんが俺をじっと見てる事に気付いた。「なんだよ」と視線で聞くと、不思議そうな顔で聞いてきた。

 

「いや、なぜ私を庇った?私が勝手に水を被って来たのに、自分が見たいなどと……」

「………だって、そうでも言わないと大和さんが武蔵さんを痴女認定するでしょ。変に姉妹間に亀裂が入るくらいなら、そう言った方が良いと思いまして……」

「………大和とお前の間に亀裂が入ったかもしれんぞ?」

「武蔵さんと大和さんの間に入るよりマシですよ」

 

そう言って、俺は横向きになって、自分の肘を曲げて枕にした。

武蔵さんは俺の事を、少し意外な物を見る目で見た後、俺の肩に手を当てた。

 

「提督よ」

「え、何」

「余り、自分を貶めるなよ」

「…………はっ?」

「今回は丸く収まったかもしれんが、私と大和の仲を繋ぐために、大和とお前の仲を切って良いということはない」

「………や、お二人は姉妹なわけだし、どっちが重要な縁なのかなんて考えるまでも……」

「いいから聞け。必ずどちらか一方を切らなきゃいけないなんてことはない。両方とも守る事だって出来るはずだ。その考えも、ちゃんと忘れないでくれ」

「…………」

「とはいえ、助かった。ありがとう」

 

初めて、人に正面からお礼を言われた気がする。今まで、そんな経験はなかった。

その事に感動してると、真面目なことを言ったのが気恥ずかしくなったのか、武蔵さんが照れたような声を上げた。

 

「………そ、そういえばっ、私とも話せるようになったな」

「へ……?あっ、確かに」

 

そういえば、さっきから普通に話してたわ。だって、俺の思ってた5倍くらいこのひとアホなんだもん。怖さとかないわ。

 

「どれ、褒美をやろう」

「え、いやいいです」

「良いからこっちを向け」

「はぁ?」

「早くしないとくすぐるぞ」

 

仕方ないので転がった武蔵さんの方を見た。すると、いつの間に寝転がっていたのか、武蔵さんの顔が目の前にある。

 

「ッ⁉︎」

 

慌てて離れようとしたが、その手を武蔵さんは掴んだ。にげられない!

え、な、何⁉︎も、もしかして褒美にキス的な⁉︎無理無理無理無理!お、俺は別に良いけど武蔵さんはそんな俺得な展開があって良い……⁉︎

 

「腕枕をしてやろう。ほら、頭を上げろ」

「………どこまで男前なんだよあんた」

 

………なんか舞い上がってた自分が恥ずかしいです。

 

「仮にも乙女に向かって『男前』はないだろ」

「いや、武蔵さんじゃ『仮』にもならないと……」

「何か言ったか?」

「何でもないです」

 

俺は言われるがまま、頭を上げた。俺の頭の下に武蔵さんの腕が伸びて、その上に頭を置いた。

…………待て。キスとか妄想してて腕枕とか言う男前な行動をナチュラルに受け入れたけど、武蔵さんの顔近いし、顔どころか胸も近いしこれすごく恥ずかしいな。

 

「あ、あの俺やっぱ結構で」

「遠慮するな」

 

反対側の武蔵さんの手が伸びて来て、俺の肩に手を置いた。にげられない!

 

「ふふ、顔が赤いぞ?意外と可愛いところあるじゃないか、提督よ」

「う、うるさい!」

 

恥ずかしくなって、身体を丸めて赤くなった顔を隠した。

その俺の頭の上に、さっきまで肩の上にあった武蔵さんの手が伸びた。

 

「顔を隠すな、その可愛い顔を見せてくれ」

「〜〜〜ッ‼︎」

 

何処まで男前なんだよこの人は⁉︎ていうかこれ、性別入れ替えた方がいんじゃね?何このシチュエーション。俺がそっち側やりたいんですけど!

………でも、こっち側もかなり悪くない!うおお!なんだこれ!なんかもう一層の事このまま……!

 

「武蔵ー、着替え持って、来た……わ、よ………?」

 

大和さんが部屋の中に入って来ました。

誰がどう見ても、第三者から見たら俺が武蔵さんに甘えてるようにしか見えないだろう。

顔が真っ赤になり、ボンッ、と音を立てて煙が出る大和さん。武蔵さんもそれに気付いて、今更自分が恥ずかしいことしていた事に気付いたようだ。

 

「なっ……なっ………⁉︎」

「やまとっ……ちがっ……こ、こりっ、こりぇはっ……‼︎」

 

二人して声を漏らす中、俺は逆に落ち着いてしまった。周りの人が自分と同じように動揺すると、俺は何故か安心しちゃうんだよな。

すると、大和さんは顔を真っ赤にしながら言った。

 

「ふっ……ふっ……‼︎」

 

ふっ、なんだろうか。「不健全ですっ!」とか「二人ともそこに正座なさい!」とか?

 

「不埒者ーっ‼︎」

 

ゴンッ、ゴンッ‼︎と俺と武蔵さんの頭にゲンコツが来た。

_____________不埒者、と来ましたか。

俺は薄れゆく意識の中、そんな事を思った。

 

 


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