俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第4.5話 秘書艦1日目の夜

 

 

居酒屋・鳳翔。私はビールを一気に飲み干すと、ダンッと机にジョッキを置いた。

 

「もうっ!もうもうもうっ‼︎あの提督はッ‼︎」

 

叫ぶと隣に座ってる武蔵、カウンターの向こうの鳳翔さんがドン引きした。それに構わず、私は愚痴を続けた。

 

「起きるの遅いし!えっちな漫画部屋に隠してるし!全然、人と関わろうとしないし!フォローするの下手くそすぎるし!ヤケに人のこと観察してくるし!すぐに集中力切れるし!掃除の最中に漫画読むし!急にセクハラするし!なんなんですかあの人⁉︎」

「お、落ち着け大和。何があった?まだ1日目だぞ」

 

昨晩、私はこの場で、明日から秘書艦として提督をサポートすることを二人にぶちまけた。

早速、今日報告をしに来たのだが、思わず愚痴ってしまった。私は頼んでもないのに鳳翔さんに注いでもらった二杯目のビールを飲んだ。

 

「何かあったんですか?」

「ありました!ええ、沢山ありましたとも!」

「順番に今朝の出来事から話してください」

 

鳳翔さんに言われ、ビールを飲んで落ち着いてから話し始めた。

 

「まず、今朝です。私が部屋に入っても提督寝てたんです。もう9時過ぎていたというのに!」

「ま、まぁ、今日は提督も休みのつもりだったのでしょう?それなら少しくらい寝てても……」

「………夜遅くまでえっちな漫画読んでてもですか?」

「……………」

「……………」

 

私が言うと、二人の目はジト目になる。

 

「あいつ……そんなもの読んでいるのか。前々から気に食わない奴だと思っていたが……」

「ま、まぁ提督も男性ですし……」

 

武蔵と鳳翔さんが苦笑いを浮かべる。

 

「一度、あいつの精神を鍛えてやるか」

「ええ、やっちゃって武蔵。ボッコボコに」

「お、おお……」

 

なんで自分でボコボコにするって言っておいて引くのよ武蔵……。

すると、鳳翔さんが聞いて来た。

 

「でも、えっちな本ってどんな本なんですか?」

「なんだ、興味あるのか?鳳翔」

「ち、違います!ただ、もしかしたら大和さんの早とちりだったのかもしれませんし」

「そんなはずありません!たくさんの女の子がお風呂に入ってる絵が描いてあったんです‼︎そこに五人の男子が覗きに現れていました!提督は絶対、アレで覗きの方法を勉強して実行しようとしてたんだわ」

 

間違いない。私はまたビールを飲み干した。

 

「そんな、決め付けては提督が可哀想ですよ」

「まず、どんな漫画なのかを見ないと私達は何も言えんな」

「ええ、いいでしょう!見せてあげるわよ!」

 

こんなこともあろうかと、没収しておいた漫画を持って来ておいた。それを、二人の前に差し出す。

武蔵がまず手に取った。

 

「………ふむ、プリズンスクールか……。男子が五人で他は全員女子の共学、と……?」

「もう、その設定だけで汚らわしいわ……!」

「中身も読まずにそう判断するのは良くないだろう。鳳翔も読むか?」

「いえ、私は漫画とかはよく分かりませんので」

 

武蔵が一巻を読み始めること数分、

 

「なんだ、確かにエロい部分は多いが、別にエロ本というわけではなかろう」

「な、何を言ってるの武蔵⁉︎」

「基本的にはギャグだろうこれは。しかし、真面目なところはちゃんと真面目というか……ていうか普通に面白い」

「武蔵、あなた正気?それともアレなの?百合とか言う……」

「違う。……これ、2巻はあるか?」

「何ハマってるのよ!」

 

ああもうっ!と、私は机をバンッと叩いた。

 

「とにかく、間違い無いんです!だ、だって……!さっきなんて提督、わ、私のスカートを……!」

 

ああ、ダメ……これ以上は思い出すだけでも、恥ずかしくなってくる。

 

「顔が赤いぞ、大和。スカートを脱がされたくらいで何をそんなに恥ずかしがる」

 

んなっ……!こ、この妹は……‼︎

漫画読みながらテキトーに返して来たのが余計に腹が立った。

 

「ふんっ!そんな痴女みたいな格好をしてる子には分からないでしょうね‼︎」

「んなっ……⁉︎だ、誰が痴女だ!」

「今時、サラシしか着てない女なんて、痴女以外の何者でもないわね」

「お前の言えたことか‼︎スカートを脱がされたからって、上官を艤装でぶっ放した危ない女が‼︎」

「んぐっ……‼︎」

「私は確かに痴女かもしれないが、それはこの鎮守府の中だけだ。男は提督しかいないし、問題ないだろう。だが、お前はわざと脱がしたわけでもない提督に主砲をぶっ放した。どちらが問題あると思う?鳳翔」

「えっ⁉︎わ、私ですか⁉︎え、えーっと……」

 

鳳翔さんは困った顔で武蔵を見たあと、私を見た。そして、苦笑いを浮かべた。

 

「あ、あははっ………」

「うわああああん!どうせ私は暴力女ですよー‼︎」

「あ、落ち着いてください大和さん。余り良い酔い方ではありませんよ」

「んぐっ、んぐっ……プハァッ!」

 

私は更にビールを飲んだ。

…………なんだかわからないけど、ジワッと目尻に涙が浮かんで来た。

 

「………私、提督に嫌われちゃったかなぁ……」

「…………今度は泣くのか……忙しい奴だな」

「そ、そういえば、提督は無事だったのですか?」

 

鳳翔さんが会話を逸らした。

 

「提督は奇跡的に無傷でした。動揺していたみたいで攻撃を外したみたいで……」

「動揺していてよかったです……」

「でも、提督……ああ、明日からどんな顔で秘書艦をやればいいのかなぁ……」

 

問題はここだ。自分を殺しかけた相手が秘書なんて提督は絶対嫌がるだろう。あの提督なら尚更だ。

 

「何、心配なら何か向こうが喜ぶようなことをやってやればいいだろう。例えば、これだ。濡れTシャツコンテスト」

 

漫画の一部を私に見せて武蔵は言った。

 

「な、何よその卑猥なコンテストは⁉︎」

「そのまんまだ。明日、服を着たまま全身に水を被って行けばいいだろう」

「む、無理よ!そ、そんな恥ずかしい事……‼︎」

 

パンツ見られただけでも恥ずかしかったと言うのに……‼︎

 

「何、案外許してくれるかもしれんぞ?行って来い、全身潤わせて」

「無理無理!そ、それある意味普通に下着見られるより恥ずかしいわよ⁉︎」

「なんだ、情けない……」

「そりゃいつも下着姿晒してるようなあなたには分からないでしょうね⁉︎」

「ま、まだ言うかお前……‼︎」

「二人とも、落ち着いて下さい」

 

鳳翔さんがおつまみを私と武蔵の間に置いた。

それによって、ひとまず私達は大人しくなった。

 

「大丈夫ですよ、大和さん。提督は怒ってませんよ」

「そ、そうですか……?」

「はい。提督は何でも自分で背負い込もうとする方なのでしょう?言い換えれば、それだけ責任感が強いと言うことです。今回の事も『そもそも、自分が部屋を片付けておけばよかったのでは?』と思うはずです。ですから、そう慌てないでください」

 

うっ………た、確かに………!

 

「じゃあ、私別に嫌われてない………?」

「はい」

「良かったぁ……」

 

ホッと胸を撫で下ろした。良かった……嫌われてたら明日から秘書やりにくいったらない。それに……、

 

「な、なんですか?」

 

気が付けば、武蔵と鳳翔さんがニマニマしながら私を見ていた。

 

「なぁ、大和。前々から思っていたんだが、」

「提督のこと、好きなんですか?」

「んなっ………⁉︎」

 

カァッと頬が熱くなるのを感じた。

 

「だ、誰が誰を好きなんですか⁉︎」

「だから大和が」

「提督を」

「こ、交互に言わないで‼︎」

 

な、何を急に言い出すのよこの二人は⁉︎

 

「でも、今日は掃除結構付き合ってたんだろう?」

「と言うか、今朝からずっと二人きりみたいですし」

「間宮の話だと、今日は昼飯の時、大和盛じゃなくて大盛りだったらしいじゃないか」

「好きでもない人と一緒にいる時に、お昼の量を我慢します?」

「だから交互に言わないで下さい!」

 

あ、ああああもうっ‼︎誰があんな人好きになるのよ!

 

「まぁまぁ、誰にも言いませんから」

「そうだぞ。この3人の、この場だけの話だ」

「だ、だから好きなんかじゃありません!」

「でも、気になってはいますよね?」

「これから秘書艦ずっとやるとか言い出すくらいだしなぁ」

「……………」

 

………『気になってる』と『好き』は別物よね。

 

「…………少し」

「「ほらぁ〜」」

「な、なんですかその返事!す、好きなわけじゃありませんからね⁉︎」

「いや、女性の『気になってる』は九割九分九厘『好き』ですから」

「違いますよ!その理屈はおかしい‼︎」

「じゃあ落ち着け。まずはどこが気になってるのかを言ってみろ。それ聞いたら私達も判断するから」

 

武蔵に言われて、私は少し考えた。いや、でもここは言わないと『好き』認定されてしまう。

 

「べ、別に気になってるってくらいだからね?」

「いいから言え」

「えーっと……二人とも知ってるか分からないけど、この鎮守府のゴミ捨てってどうなってると思う?」

「私の居酒屋や間宮さんのお茶屋さんと食堂なんかは、提督がお店の裏口にゴミ袋をまとめて置いておけって言われてますけど」

「業者か何かじゃないのか?」

「その通りなんだけど、業者は鎮守府の近くのゴミ捨て場までしか来てくれないのよ。で、ほんとに偶然なんだけど、夜中に提督がそのゴミ捨て場までゴミ袋を全部回収して運んでるところを見ちゃったんですよ」

 

あの時は驚いた。あの、艦娘と誰とも仲良くなろうとしない人が、私達が出したゴミ袋を運んでいたんだから。

 

「へぇ……そうなのか」

「意外、ですね……」

「あと、夜中に入渠ドッグの掃除をしていたり、鎮守府の表を掃き掃除していたり、空母の方の弓道場の手入れをしたり……とにかく色々な雑用を私達の見えない所でやってくれてるんです。そういう姿を見た時に、なんていうか……私達と関わろうとしない癖に、提督ご自身の出来る限りは私達をサポートしようとはしてくれてるんだなって思って……そういうところが、ちょっと気にな………なんですか二人ともその目」

 

聞くと、二人とも顔を見合わせてから、私を見た。

 

「………それ、惚れてますよね」

「完全にメスな顔だったぞ」

「んなっ………⁉︎」

 

な、なんで本人より先に確信してるのよ‼︎

 

「ほ、ホントに好きなんかじゃないんだから‼︎今日1日、あの人と関わって、何回声を荒げたか分からないんですよ⁉︎」

「うわー、聞きました武蔵さん?」

「『あの人』って言いましたね『あの人』って」

「な、なんですか二人して‼︎ち、ちがいますから!ほんとに違いますからね⁉︎」

「「はいはい」」

「も〜‼︎聞きなさいよー!」

 

その後は二人してからかってくるのに、私は何度もリアクションしてるだけで、飲みは終わってしまった。

 

 


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