お昼を終えて、仕事も終わった。これで大和さんは俺から解放される。
「ふぅ、お疲れ様でした」
「はい。お疲れ様です」
テキトーに挨拶した。昼からの作業を開始して一時間弱で終わったので、ここからは遊びの時間だ。
こんなんで給料もらっていいのかな、とも思ったりするが、うちの鎮守府はちゃんと戦果もあげてるので問題ない。
後は、演習メンバーが帰って来て結果を聞かなくてはならないが、それくらい一人でできる。
それなのに、なんで大和さんは自室に帰ろうとしないんですかね。
「あの、大和さん?」
「提督、このあとに仕事はないんですね?」
「え、ええ。ないっスけど」
「なら、部屋のお片付けをしましょうか」
笑顔でなんてこと言うんだこいつ。
「え、いやいいです。別に不便とかしないんで」
「そういう問題ではありません。社会人、それも人をまとめる立場にあるのですから、身だしなみくらいキチンとして下さい」
「いやでもあれなんで。俺の部屋今……」
「…………今、なんですか?」
あ、ダメだ。人の言うこと聞かねえよこの人。てか聞く気ねえよこの人。
「じゃあ、自分でやるので別に大和さんは……」
「ダメです。大和も手伝わせていただきます。むしろ、大和がお片付けするので、提督が手伝って下さい」
おい、それどう言う意味だ。
「わ、分かった。分かりましたよ……」
仕方なく、俺は了承し、自室に大和さんを連れて来た。
しかし、確かに改めて見ると汚ねえなこの部屋。漫画とゲームでとっ散らかってやがる。
あ、衣服は汚いの嫌だからちゃんとタンスにしまってあるけど。
「…………な、なんですか、この部屋は」
大和さんが頬をヒクヒクとさせている。おい、お前は今朝見ただろうが。
「いや、その……寝る前によく漫画とか読んでたので、その……枕元から全部手の届く位置に……」
「何やってんですかあなたは!………はぁ、これが私達の司令官だと思うと、なんだか情けない……」
そこまで言うかな……。ちょっと流石に傷付くんだけど。
「まぁ、嘆いてても仕方ありません。とりあえず、落ちてるものを拾うことから始めましょうか」
そう言って、大和さんは足元の漫画本を拾い、順番とかまったく気にすることなく、本棚にしまい始めた。
今朝は「漫画なんて必要ありません!」とか、なんとか言って監獄学園全部掻っ攫っていったのに、今手に持つナルトはちゃんと本棚にしまっている。相当、あの漫画読みたかったんだろうなぁ。
まぁ、ボヤボヤしてたら怒られるし、俺も片付けるか。そう思って、布団の上に落ちてるジャンプを拾った。
…………あ、懐かしい。スケダンじゃん。これ、終わっちゃったんだよなぁ。ゲスリング部、好きでした。なんて事を思いながら懐かしいジャンプを読みふけってると、俺の手に持っていたジャンプが消えた。
「?」
「提督?何をしているのですか?」
うわっ、やべっ。
「今は片付けをしてるんですよ?漫画を読む時間じゃ、ありません」
「いやーでも懐かしいジャンプって片付けとかの時に読みふけりますよね」
「ふけりません。いいから片付けてください」
手に取ったジャンプを大和さんは本棚の横に束ねた。俺は仕方ないので、別のジャンプを拾って開いた。あ、これ遊戯王カード付いてんじゃん。売ろう。
「提督?」
「はいはいすいません」
怒られる前に、大和さんが束ねたジャンプの山の上にジャンプを置いた。
すると、ジャンプの山と本棚の間に、ジャンプSQがあった。そういえば、トラブルダークネス読んでみたくて買ったんだっけ。やり放題やってて良かったと思いました。
「うわあ、あったなーこんな話………」
「提督!いい加減に……‼︎」
思わず漏らした声に反応して、大和さんがこっち見た。俺の読んでるページを見るなり、顔を真っ赤にした。
「なっ……!ななっ、何を読んでるんですか⁉︎」
「あ、いやこれちがうから!ギャグマンガ日和読みたくて買っただけだから!別に乳首が見たくて買ったわけじゃ……‼︎」
「〜〜〜ッ‼︎いい加減にしなさい‼︎」
ゴンッ、と戦艦のゲンコツを喰らい、俺は顔面から床に叩きつけられた。
++++
涙目になりながら、部屋の掃除を再開した。大和さんは部屋にある雑誌を全部紐でくくってしまった。
「あの、まだ付録とか出してないんですけど……」
「知りませんっ」
未だにほんのりと赤い頬を膨らませて、ぷいっとそっぽを向いて、掃除を再開してしまった。
あーヤバイな、やらかした。怒られたい、と言っても今後に支障の出る怒られ方だけは避けるつもりだったんだが……。
どうしよう、謝った方が良
「提督も早く掃除してください‼︎」
「は、はいっ」
思考を遮られる程の声で、俺は掃除を再開した。
しかし、それだけ怒るなら俺の部屋の掃除なんて止めればいいのに。
そのまま、とりあえず床に落ちてる漫画だけ本棚にしまった。それだけでだいぶ綺麗になったが、大和さんはまだ納得していないらしい。
布団をベランダの手すりに掛けた。俺も何かやる事を探そうと思い、ゲームをしまうことにした。
「ああ、もうっ……布団に埃がたくさんついてる……!」
パンパンと布団を叩く音を聞きながら、俺は懐かしいものを見つけた。
「うおっ、64じゃん」
刺さってるカセットはスマブラ。これは後でやろう。
他にも色々とゲーム機が出て来たが、取り敢えず全部テレビの下の扉の中にしまった。
布団、ゲーム、漫画を片付けるだけで部屋が見違えるように綺麗になった。どんだけ汚かったんだ俺の部屋。
ま、いっか。後は掃除機かけてゴミ拾って、大和さんが干してくれてる布団を敷けば終わりだ。
「ふぅ……疲れた」
「なんかすいませんね。俺の部屋の片付けなんて」
頼んでないけど。
「いえいえ。秘書艦の勤めですから」
大和さんは微笑みながらそう返した。
「それより提督。もう少し清潔にした方が良いですよ」
「すいません。や、こう見えても綺麗好きなんですけどね」
「キレイ好きな人は、あんな埃まみれの布団で寝たりしません」
「衣服とかはその辺に転がってないでしょ」
「それは人として当たり前のラインに立ってるだけです」
つまり、この人の中では衣服をその辺にほっとく人は人として見ないって事か。怖っ。
「では、私は掃除機をかけますので、提督はペットボトルみたいな大きなゴミを回収して下さい」
「了解」
…………俺なんかより大和さんの方が指揮するの向いてるんじゃねぇの。いや悲しくなるから考えるのはやめよう。
しばらく、ペットボトルを拾ってると、ペットボトルのキャップも落ちていた。
あー、懐かしいなぁ。うちの高校で流行った奴。まぁ、流行ったといっても、俺は友達いなかったから家で一人でやってたんだけどね。
ペットボトルをデコピンの形にした人差し指と親指の間にセットして飛ばす奴。不規則な変化球を、大人から子供まで楽しめる総合メディア玩具といっても過言ではない。
ちょっとやってみたくなったため、俺は両手にキャップをセットした。
「ターゲット確認、これより破壊する……‼︎」
俺のバスターライフルから2発のペットボトルのキャップか発射された。
キャップA(←キャプテン・アメリカではない)は、本棚に当たったあと、天井に当たり、壁に当たって大和さんの頭部に、
キャップBは、本棚に当たったあと、床に落ちて、大和さんのスカートの中へ入り、恐らくお尻に直撃して跳ね返り、スカートからキャップが落ちて来て、コロコロと転がった。
つまり、2発とも大和さんに直撃した。
大和さんは「ひゃうっ」と可愛らしい悲鳴を上げて、慌ててスカートを抑えた。
冷や汗を流してると、大和さんはゆっくりとこっちを見た。
「…………何したんですか?」
「いや、違うんですよ。わざとじゃないんです。てかわざとやる方が難しいでしょ」
「いいから。私は何をしたかを聞いているんです」
「いや、待って待って。お願いだから待って。わざとじゃないんですって」
「質問に答えなさい」
「はい」
こ、答えなさい……?答えてくださいじゃなくて答えなさいって言った?思わず即答しちゃったじゃねぇか。
「その……ペットボトルのキャップをデコピンで飛ばして、不規則な変化球を楽しむアレをやってました」
「提督。大和と提督は今、誰の部屋を片付けているんですか?」
「僕の部屋です」
「ただでさえゴミが多い部屋なのに、それを散らかすような真似しないで下さい‼︎それと、いくら二人きりだからってセクハラはやめて下さい‼︎」
「いや、セクハラは誤解だってばよ」
「人のお尻にペットボトルのキャップを当てといて何を言ってるんですか⁉︎」
「いや本当に!テキトーに本棚に向けて撃ったら跳ね返って跳ね返って頭とケツに直撃しただけで……!」
「ケツとか言わないで」
「あ、すいません」
ヤバい、これはマジでキレてる。いや、まぁ俺が悪いんですけどね。
「や、でも本当にわざとじゃないんです。てか、不規則な変化球なんで当てる方が難しいですよこれ」
「……………」
「や、開き直ってるわけじゃないんですけど……」
「……………」
「はい、ほんとすいませんでした……」
「……………」
誤ると、大和さんはおでこに手を当てて、大きなため息をついた。そして、俺をジロリとジト目で睨んだ。
「………次はありませんからね」
「はい」
大和さんはそう言うと、掃除機のスイッチを入れた。ていうか、まだ片付け手伝ってくれるんだ。本当良い人だな。
さて、そろそろ俺も真面目にやらないとマジで嫌われる。掃除しよう。
そう思って、とりあえず投げたペットボトルのキャップを拾おうとした。
ペットボトルを踏んだ。
「ふぬをっ⁉︎」
前に大きく転んだ。何かを掴んで顔面から床に強打した。
「グッ、オオッ………‼︎」
良かった、鼻血は出てない。
ヨロヨロと立ち上がって顔を上げると、目の前にお尻があった。正確には、純白のパンツを履いたお尻だ。
「……………えっ?」
「…………」
恐る恐る顔を上げると、そのお尻は大和さんの身体に繋がっていた。
つまり、大和さんのスカートを脱がした。
「………………」
「……ぃっ、いっ……」
顔を真っ赤にして、艤装を展開する大和さん。それと共に、口が悲鳴をあげる形へと変形していく。その過程が進むたびに、俺は悟った。
________________ああ、死んだなこれ。
「いやああああああああああああ‼︎」
女の子らしい悲鳴と共に、全主砲が俺の部屋をなぎ払った。ゲーム機、一つでいいから無事でありますように。