翌日、またまた出撃が終わり、MVPをビスマルクさんが取って来た。で、俺の机の前に帽子を取って頭を下げてきた。
「もーっと、褒めても良いのよ?」
「え?あ、は、はい……」
またまたビスマルクさんの頭を撫でた。すると、「えへへっ」とビスマルクさんは嬉しそうにはにかむ。そして、その度に隣の大和から轟ッと紫色のオーラが発せられた。
「ビスマルクさん?そろそろ良いんじゃないですか?」
「何よ、他の子達と違って練度が低いのにMVPを取ったのよ?別に褒められてもあげても良いじゃない」
「………あげても、ですって?」
「ちょっ、や、大和さん落ち着いて!」
「ちょっと提督、誰が手を止めても良いと言ったのよ」
「………す、すみません……」
引き続き頭を撫でると、大和の目がギンッと光った。だから怖いって………。
俺は冷や汗を流しながら目を逸らした。手を止めても手を止めなくても怒られる……なんだこれ。何この板挟み。
そのまましばらく撫でてると、ビスマルクさんは帽子を被った。
「………ふぅ、もう良いわ。じゃ、また明日頑張るわね、提督♪」
ビスマルクさんはようやく満足して部屋を出て行った。時計を見ると、今の時間はほんの2分弱だった。マジかよ、俺はてっきり2時間は経ってるものだと……。
「………提督、随分と鼻の下が伸びてらっしゃいましたね」
「えっ?」
「…………伸びていましたよ」
「そ、そんな事ないですよ」
確かに、明らかに成人した外国人女性に甘えられるのは悪い気分ではなかったが、それ以上に恐怖があったので鼻の下を伸ばす余裕なんかなかった。
「………どうだか」
それでも、大和は信用してくれなかった。完全に拗ねている。仕方ないので、隣に座ってる大和の肩を抱き寄せた。
で、頭に手を置いた。
「………そんなつもりはなかったんだって。これは本当。だから怒るなよ」
「………ふ、ふんっ。この大和がこんな事でいつまでも許すと……」
「怒るなよ。俺は浮気なんてしないよ。今はビスマルクは新入りだから、ある程度、ああいった甘えは許してるけど、1回目の改造が終わったらちゃんと他と同じように扱うからさ」
「………他の子にはあんな風に撫でてなかったじゃないですか。大和は誤魔化されませんよ」
「それは誰もああやって撫でて、とか言ってこなかったからな。この鎮守府で俺が特別扱いしてるのは、大和だけだよ」
「…………ふ、ふにゃあ………」
許された。なんか心配になる程チョロいなこの子。まぁ、今言ったのは本音ではあるけど。
あと、ある意味では大鳳さんも俺の中では特別な子だけどね。あの子の場合は、こう……いや、思い出すのはやめよう。クロスボウで何処から狙撃して来るか分からんし。
………でも、実際の所、いつまでこれで大和が大人しくしててくれるか分からないからなぁ。明日からは少し対策考えないと。
俺は大和の頭を撫でながら思考を巡らせた。
++++
翌日、俺は第一艦隊が帰って来てビスマルクさんご報告に来る前に、俺は仕事を速攻で終わらせてソファーで寝転がった。寝たふりなら向こうも諦めるだろう。
ちゃんと仕事も終わらせたし、文句は言わせない。
「じゃ、おやすみ大和。ビスマルクさん来たら誤魔化しといて」
「はい」
断じて、ただ寝たいわけではない。
俺はとりあえず目を閉じた。………ビスマルクさんが来るまではこのままだな。
「……………」
なんか、目の前に何かある気がする。目を閉じてても、影を感じることは出来る。電灯の光が遮られた感じがした。
………薄っすら目を開けると、大和の顔が目の前にあった。
「……………」
えっ、何してんのこの人?なんで段々近付いて来んの?え、襲ってきてんの?バカじゃん?俺が起きてるの分かってるじゃんお前は。でも、俺が起きちゃったらいつビスマルクさん来るか分からないし……どうしよう。
その時だった。
「失礼するわ!艦隊帰投し」
「わひゃあぁあぁああ⁉︎」
案の定入ってきて、目の前の大和はすごい悲鳴をあげてひっくり返った。俺もビスマルクさんも驚いてる。
「ど、どうしたの大和………?」
「ッ、ッ、ッ……!な、何でもないですよ……!」
「そう?まぁ良いわ。それより、提督!私、またMVP取ったわよ!」
良かったな、大和。ビスマルクさんがバカで。
「ねぇ、提督……あれ?提督は?」
ビスマルクさんは業務机を見たが、そこに俺の姿はない。まあ、こっちで寝てるからな。
ソファーで寝てる俺を見つけるなり、ビスマルクさんは俺の方に来た。
「もう、何よ。寝てるの?」
「え、ええ。昨日は夜遅くまで仕事していましたから」
ある意味本当のことだ。昨日は夜遅くまでハンターの仕事でディアブロス狩ってたからな。
「……まったく、昼のうちに仕事終わらせないからよ」
言いながら、足音が近づいて来た。多分、ビスマルクさんだろうな。大和の足音は聞き分けられるし。
と、思ったらまたまた俺の顔に影が掛かった。
「………へぇー、提督って意外と可愛い寝顔してるのね」
「っ!ち、ちょっとビスマルクさ……!」
「大和もそう思わない?」
「可愛いどころの騒ぎではありません!」
「へ?う、うん?」
おい、何張り合ってんだよあの人。バカかマジで。
「じゃあ良いじゃない。ふふ、提督の頬柔らかいわね」
ちょっ、頬をツンツンするなっていうか顔近い近い近い良い匂い。
「び、ビスマルクさん!いきなり何してるんですか⁉︎」
「あ、そ、そうよ!なんで提督の頬なんて突いてるのよ私!」
「そ、そうです!そう言うことは私に許可を取って……!」
「私が頭を撫でてもら……じゃなくて、撫でられにあげて来たのよ!」
「いやそうじゃなくて………‼︎」
「提督!起きなさい!」
おーい、人が寝てるのに御構い無しかこいつ。どうしよう、観念した方が良いかな。
うだうだ悩んでると、大和が口を開いた。
「ま、待ちなさい!分かりました!大和が撫でてあげます!」
おお、その手があったか。でもね、その言い方をするとビスマルクさんは……。
「べ、別に撫でてなんて言ってないわよ!撫でたければ撫でても良いのよ?」
「……………」
我慢しろ大和。頑張れ大和。お前は出来る子だろ?
再び薄っすらと目を開くと、ビスマルクは大和の前ですごいソワソワしている。大和がチラッと俺を見たので、頷いてあげた。す?と、大和は深くため息をついた。
「分かりましたよ……。撫でさせていただきます」
「良いわよ」
それで良いのかビスマルクさん……。いや、本人が良さそうだしもう良いか。
そう思って薄っすらと目を開くと、大和にビスマルクさんが頭を撫でられていた。随分と嬉しそうな表情で大和に頭を傾け、大和は困った顔且つ、可愛い妹を愛でるような顔で撫でている。あ、武蔵さんの事ではないよ?あの人はカッコいい妹だし。
そんな感じで、ビスマルクさんに構ってばかりいる大和を見てると、何となくイラっとした。
…………俺も構って欲しい。
「大和の方が提督より撫でるのが上手いわね〜」
「違いとかあるんですか?」
「ええ。それはもう」
ポケットからペットボトルのキャップを取り出して飛ばした。寝ながら目を閉じて撃ったのに、見事にカーブの曲線を描いて大和のこめかみに直撃し、壁に当たって跳ね返って後頭部に当たり、地面に当たってバウンドしてスカートの中に入った。
直後、ビスマルクさんを撫でる大和の手が止まった。そして、ギギギッと俺の方を睨んだ。
「………て、い、と、く?」
「………くかー」
「………………」
寝たふりをして嘘のいびきをかくと、俺の上にまた影が掛かった。薄っすらと目を開けた直後、ゴヌッとこめかみに一発、頭を抑えて悶えた所を後頭部に軽く一発、最後にケツを引っ叩かれた。
「いっだ⁉︎」
「何するんですかいきなり⁉︎」
「俺は何もしてませーん!寝てましたー」
「ペットボトルのキャップをあの精度で狙えるバカは世界中探してもあなたしかいません‼︎」
「………むー」
「なっ、なんで提督がむくれてるんですか……!」
すると、ビスマルクさんが歩いて大和の手を引いた。
「ち、ちょっと!やめて良いなんて言ってないんだけど!」
「す、すみませんビスマルクさん……!」
「パッド」
「何か言いましたか提督⁉︎」
「ちょっとアドミラル!私が撫でてもらっ……撫でられてあげてるのに邪魔しないでよ!」
「はぁ⁉︎お前いつまで上から目線でいるつもりだバーカ!言っとくけどな!俺もお前も撫でてやってんだぞ⁉︎」
「なっ……⁉︎」
カアッと顔が赤くなるビスマルクさん。
「べっ……別に頼んでないわよ!」
「ハッ、頼んでんだろどう見ても。大和の方見てソワソワソワソワ暁みたいな声出してたくせによ!」
「だ、誰が駆逐艦よ!あんなお子様と一緒にしないでくれる⁉︎」
「いやいやいや同じだから〜。同レベルですから〜。いや、大人と子供の差があるだけ、ビス子の方が下かもしれんわ〜」
「だ、れ、が、ビス子よ‼︎あんたブッ飛ばすわよ⁉︎」
「やってみやがれ!本部にいた頃は『天下無双の孤王』と呼ばれた俺の実力を見せて差し上げましょうか⁉︎」
「何それかっこいい!艦娘の腕力に人間が勝てるわけないじゃない‼︎」
「腕力で喧嘩の腕が決まるとでも?これだからお子様はな!ザクとクィンマンサでも乗ってるのがアムロとシャアじゃザクが勝つんだよ!………や、流石にそれはないやごめん盛った」
「そこまで言うならやってやろうじゃない!表に出なさい」
「上等だよ‼︎俺が勝ったらお前明日から一週間、カエル倒立で生活しろよ‼︎そして大和に二度と近づくな‼︎」
「私が勝ったらあなたは一週間、耳に椎茸を挿して生活しなさい‼︎」
「「よし、では表に」」
「やめなさい‼︎」
ゴヌッと大和の拳が、俺とビス子の頭に降り注いだ。シュウゥゥ……と煙が脳天から上がり、俺とビス子は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「二人とも、それ以上喧嘩するなら私は二人にもう二度と構ってあげませんよ」
「「ぐっ………!」」
こ、このやろう……!それは卑怯だろう………!ていうかビス子は構って欲しいこと否定しないのな。
「ビスマルクさん、今日はもう終わりです。部屋に帰って下さい」
「………はーい」
ビス子は部屋に戻って行った。俺はソファーの上に不機嫌そうにふんぞり返った。
…………はぁ、なんで怒ったんだ俺……。あそこは黙って見てるべきだっただろ………。馬鹿は俺だったよ畜生………。
「まったく、提督。なんで急に………提督?」
「………はぁ……最悪」
「何がですか?あ、すごく欲しがっていたビスマルクさんと性格が合わなかったからですか?」
「いや……そんなんじゃなくて。まさか、俺が怒るとは思わなくて……」
「……………」
「すみません………」
情けない……。昨日、大和に偉そうに言っておきながら何してんだよ……。
肩を落としてると、大和は俺の頭に手を乗せて撫でてくれた。
「?」
「落ち込まないでください。私は、提督がヤキモチを妬いてくれて嬉しかったですよ?」
「…………大和」
「まぁ、喧嘩したのは良くありませんでしたけど。そこはちゃんと反省して下さいね」
微笑みながらそう言われ、思わず涙が出そうになった。この人は本当に天使か?天使なのか?
「………大和」
「? なんですか?」
「…………今日だけ、俺の部屋で寝ない?」
「…………甘えん坊」
「うるさい」
あ、あれ?ビス子vs大和のはずがいつの間にかビス子vs提督になってた………あれ?