俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第26話 波乱のビスマルク。

 

 

俺が大和と性交して2日経過した。大和はまだ出撃禁止期間で、隣でずっと書類を片付けている。

すると、コンコンとノックの音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

大和が答え、中に艦娘が入って来た。

 

「おう、提督。遠征成功したぜ」

 

入って来たのは天龍さんだった。相変わらず胸が尖ってんなーこの人。まぁ、童貞を捨てた俺にとってその程度のハニートラップはその辺のとんがりコーンと変わらん。

 

「………は、はい」

「入手した資材は全部、備蓄庫へお願いします」

「おう」

 

代わりに説明してくれた大和に従って、天龍さんは執務室を出て行こうとした。その天龍さんの背中に、俺は控えめに声をかけた。

 

「………お、お疲れ様、でした……」

 

勇気を振り絞って声をかけてみたら、天龍さんはテキトーに片手を挙げた。

 

「おー」

 

返事をしてくれた。それが少し嬉しくて、俺は俯いて微笑んだ。

天龍さんが部屋を出て行くと、大和さんが声をかけて来た。

 

「ふふ、段々とコミュニケーション取れるようになって来ましたね」

「まだ挨拶程度ですけどね……」

「それでも、ちゃんと会話出来るようになったのだから、素晴らしいと思いますよ?」

「………それはありがとうございます。あ、これハンコ。遠征の報告書終わりました」

「はいはい。………え?早くないですか?」

「仕事が早いのだけが取り柄ですから」

 

そんな話をしてると、またノックの音が聞こえた。

 

「提督!提督!」

「ん?」

 

レーベさんの声だ。

 

「は、はい……」

「来た!ついに来たよ!」

「………あ、あの……とりあえず入って下さい……」

「う、うん!」

 

そう言って、中に入って来たのはレーベ……ではなく金髪の美人さんだった。これは演習中に何度も見たことがある。その度に羨ましい思いをして来た。

 

「グーテンターク。私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルク。よーく覚えておくのよ」

「…………」

「ち、ちょっと、聞いてるの?」

 

なんか言われた気がしたが、感動のあまり声が出ない。もう何年こいつのことを見ていなかったか………。

 

「提督、提督?」

「っ! な、何⁉︎俺は死んだの⁉︎」

「提督⁉︎」

 

大和に肩を揺らされてようやく目が覚めた。目の前にはビスマルクさんとレーベさんがいる。

 

「………ちょっと!聞いてるの⁉︎私よ!ビスマルク!」

「あっ、す、すみません………」

 

えっと……どうしよう。自己紹介した方が良いかな。や、でも……どうしよう………緊張して来た。ていうかテンパって来た。チラッと大和を見上げた。

察した大和は代わりに説明してくれた。

 

「すみません、ビスマルクさん。提督は少し、他人とコミュニケーションとるのが苦手でして、気を悪くなさらないでください」

「何よそれ。せっかく私が来てあげたのに、まともに挨拶もできないなんて。この艦隊大丈夫なの?」

 

直後、ビキッと隣から青筋の立つ音が聞こえた。大和をチラッと見ると、ニコニコ笑顔なのに負のオーラを出していた。とりあえず、控えめに言ってすごく怖かった。

とりあえず、俺がなんとかするしかない。次に喋るのがビスマルクさんか大和だったら、その時点で喧嘩勃発待った無しだ。

 

「…………れ、レーベ……」

「なんだい?提督」

「…………びっ、ビスマルク、さんを……その、案内して………」

「分かったよ。ビスマルク、鎮守府を案内するから、行こう」

「分かったわ」

 

ビスマルクさんはレーベと部屋を出て行った。

 

「…………ふぅ」

 

とりあえず一安心して一息ついた。だが、隣の大和は不機嫌だ。むーっと唸って腕を組んでいる。

 

「………なんですかあの人は」

「き、気が強い子なんだよきっと。戦艦には結構多いし、あまり気にしない方が良いですよ」

「でも!提督を悪く言う方は許せません!」

 

な、何でだよ……と、思ったが俺だって大和を悪く言われたら半殺しにしたくなるだろうし、同じか。

だけど、怒りたくなるのは仕方なくても、怒って良いのかは話が別だ。

 

「ま、まぁほら、でも俺は気にしないから怒らないで下さい。大和の方がこの鎮守府では先輩なんですから、そこは余裕を持って対応しないと」

「………そうですね」

 

何とか頷いてくれて、俺はホッと胸を撫で下ろした。だが、大和の怒りはまだ収まっていなかった。

 

「…………それと、ビスマルクさんが来た時、すごい嬉しそうでしたね。ぼーっとして私の声も耳に届かないほど」

「へっ?」

「……………」

「………怒ってます?」

「………つーん」

 

声に出すなよ……いや、可愛いけど。

本来なら、俺は仕事とプライベートは分けたいんだけど、俺のポリシーを貫き通して大和が不機嫌なんじゃ仕方ないからなぁ。

あまりキザな真似はしたくないが、映画やドラマの恋愛に憧れてる大和にはこれが一番良いか。

 

「大和」

「? なんです………んっ」

 

大和の黄色いスカーフみたいなのを引っ張って顔を近づけさせると、口にキスをした。

 

「………これで許して下さい」

「…………は、はいっ………」

 

大和は顔を真っ赤にして俯いた。うん、可愛い。

 

「じゃ、さっさと今日の仕事を終わらせましょう」

「………そ、そですネ……」

 

とりあえず、明日からビスマルクさんのレベリングだな。ちょうど、大和はお休みしてて、MVPも取りやすいだろうし。

 

 

++++

 

 

翌日、ビスマルクさんの出撃の日。古鷹さんについて行ってもらって、なるべくビスマルクさんにMVPを取らせるようにしてもらった。プライド高そうだから、MVP取らせてることをなるべくバレないように。

出撃が終わるまで、とりあえず書類仕事に目を通し、こちらからの指示は俺が大和に伝えて、大和から旗艦のビスマルクさんに伝えてもらった。ま、指示と言っても、陣形と進撃撤退だけだが。

今のうちに開発建造遠征の報告書と任務を終わらせ、書類を大和に渡してハンコを押してもらっている。

すると、向こうから通信が入った。

 

『敵艦隊撃沈したわよ』

「任務完了だそうです、提督」

「じゃ、撤退」

「撤退です、ビスマルクさん。戦果報告お願いします」

『私が3隻、古鷹と飛龍と神通が1隻ずつ撃沈したわ!』

「分かりました。では、MVPはビスマルクさんで」

『私が一番ですって?何言ってるの、あたりまえじゃない。良いのよ?もっと褒めても』

「あ、あははっ……では、帰投して下さい」

『了解したわ!』

 

通信は切れた。

 

「………どうするんですか、提督。ビスマルクさん、すごく喜んでますが」

「まぁ、時には優しい嘘も大事だから」

「………バレなきゃ良いですけど」

「そこは上手く、たまに古鷹さんとか飛龍さんあたりにMVP取ってもらえれば大丈夫でしょう」

「そう言われればそうですが……」

 

うん、大丈夫。例え体育のサッカーで、周りに嫌われて俺と競り合うのを避けられてるのにも気付かずにガンガン活躍して一人でいい気になってても、気付かなければダメージは無いんだ。気が付かなければ。

 

「………提督?目が濁ってますよ?」

「………ごめん」

「い、いえ……。また何か思い出したくないことでも思い出されたのですか?」

「…………少し」

「大丈夫です。今の提督には大和がいます」

「…………ごめん」

 

頭を撫でられ、なんか母親に慰められてる気分になった。

すると、第一艦隊が帰投した。

 

「提督!帰還したわ!」

「…………お、お疲れ様、です……」

「聞いた?MVPよ!MVP!着任してまだ間もない私が!」

 

うっ、良心が………!でも、この嘘も彼女の育成の為だ。

 

「………じ、じゃあ……部屋に戻って、結構です、ので……」

 

途切れ途切れにそう言うと、何故かビスマルクさんはジト目で俺を睨んだ。それで、目の前に歩いて来て、俺の前に立つと机に両手を置いて言った。

 

「もっと褒めても良いのよ?」

「…………は、はいっ?」

「だーかーらー!わ、私の事をもっと……こう、もっと褒めてくれても良いのよって言ってるの!」

「………………」

 

え、ど、どうしよう……。チラッと大和を見上げると、援護射撃をしてくれた。

 

「ビスマルクさん、提督は忙しいので、またの機会に………」

「い、良いじゃない!少しくらい褒めてくれても!」

 

めんどくさっ。大きい暁かよこいつ………。俺の中で「ビスマルクとかいう鬼強艦娘」から「ビスマルクとかいう暁艦娘」にイメージが変わりつつあるぞオイ。

 

「………褒めて、って言われても…………」

 

どうすりゃ良いんだよ……。隣の大和を見上げて助けを求めると、俺に耳元で囁いた。

 

「………頭でも撫でてあげれば良いんじゃないですか?」

「…………え、でも……」

 

大和の前で?それは流石に………。

 

「………大丈夫です。私とはもう……その、シちゃってるわけですし……そのくらいでは嫉妬しません」

「………そ、そうですか?」

「………でも、まずはちゃんと許可を取って下さいね」

「…………は、はい」

 

しかし、少しハードル高いな……。でもまぁ、向こうは大きい暁だし、ドン引きはされないはず………。

小さく咳払いしてから、俺はビスマルクさんに声をかけた。

 

「………じ、じゃあ、その……頭でも、撫でましょうか?」

 

すると、ビスマルクさんはキョトンとした顔で数回瞬きすると、急に顔を赤らめて目を逸らしながら帽子を取った。

 

「………な、撫でたいなら、撫でれば良いじゃない………」

「……………」

 

暁かよマジで、と思いながら、俺は頭に手を伸ばした。

 

「………………」

 

しばらく無言で撫でると、ビスマルクさんは大人しくなった。やめ時が分からなくて、1分ほど撫で続けて、大和に「いつまで撫でてるんですか」的な感じで脇腹を抓られたので手を離した。

 

「…………こ、これで、良いですかっ?」

 

すると、ビスマルクさんは帽子を被って早足で執務室の扉に向かった。

 

「あ、明日からも頑張るわね!」

 

それだけ言って、部屋を出て行った。

俺は、この時知らなかった。今回の事が、まさか波乱の幕開けになることになるなんて。

 

 


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