俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第24話 場の雰囲気と天気は関係ない。

 

 

流れるプールで早くも体力を使い果たし、俺と大和は自分達のパラソルの下で座り込んでいた。ちなみに、俺の脳天にはたんこぶが出来ていて、湯気が上がっている。

 

「………頭蓋骨割れるかと思った」

「………あんな子供みたいなチョッカイ出して来るからですよ……」

「お前さぁ、大人だったら笑って見過ごす事も覚えろよ。ちゃんと手加減くらいしなさいよ」

「大人だったらチョッカイ出さないで下さい!」

「いや、それは無理。俺、子供だし」

「あなたは……!いやもういいです。諦めました」

「じゃあもっと手加減してよ」

「諦めてください」

「どんだけ俺の事殴りたがってんの……」

 

怖い彼女だ。いや、まぁ基本的に悪いのは俺だけど。

ああもう、疲れた。ていうかお腹空いた。あんな序盤からトップギアで泳ぐなんて聞いてない。

 

「はぁ……今何時?」

「えっと……11:13ですね」

「まだ少し早いか………。何する?」

「では、そろそろ泳ぎに行きましょうか!」

「え、まだ早くない?もう疲れて死にそうなんだけど……」

「ダメです。時間が勿体無い」

 

おいおい、マジかよこの人。

ていうか、体力無尽蔵かよ。化け物だな。

 

「も少しだけ休ませて」

 

欠伸をしながら、横になった。その直後、パンッとビーチボールが俺の顔面に当たった。大和がいたずらに成功したクソガキみたいな表情で俺を見ていた。

 

「…………これは何の真似ですか」

「いつもの逆です」

「…………」

 

それはつまり………?

 

「俺に怒られたいんですか?」

「違います!遊んで欲しいんです!ていうか、今まで怒られたくてチョッカイ出したんですか⁉︎」

「まぁ、そうなるな」

 

しかし、遊んで欲しいのか……。随分と素直になったなぁ、大和の奴は。

まぁ、そういうことなら俺も遊びに付き合ってやるか。俺はビーチボールを拾って、大和に放った。

 

「はい」

「あ、はい」

 

ボールはゆるやかに高く上がり、大和の頭上に落下して行く。大和は打ち返そうと、両手を構えた。

その直後、俺は地面を蹴って、大和に突撃した。

 

「ふえっ⁉︎」

「ここから、ここから!出て行けェエエエエ‼︎」

 

正面から大和の腰に飛びついて、プールに落とした。俺は水の中に入らないで、プールサイドギリギリで踏みとどまって、落ちた大和を見下ろした。

お尻から水の中に落ちた大和は、ガボッゴボボッともがいた後、プハァッと顔を出した。

 

「………ェホッ、ケホッ……!な、何するんですか⁉︎」

「いや、遊んで欲しいって言うから、ユニコーンの日ごっこでもしようかなーと思って」

「………そうですか、そんなに追いかけて欲しいんですか」

「へ?」

「なら、私も本気出しちゃいますね」

「え、いやガンダムごっこな訳であって鬼ごっこしたいわけじゃ……。つーかさっきの本気じゃなかったの?」

「覚悟して下さいね」

 

あ、ヤバイ。よく見たら怒り浸透してる。そりゃそうだよね、2回目だもんね。

大和さんは手を使わず、跳躍だけでプールからプールサイドに上がると、コオオオッ……と、口から冷気を出しそうな雰囲気で構えた。

………ああ、死んだな俺。

そう覚悟を決めた直後、ぐぅっと情けない音が鳴った。俺からではない。俺に狙いを定めている状態のまま、顔を赤くしてる奴からだ。

 

「……………」

「……………」

「………お昼にしますか?」

「………………はい」

 

お昼にすることにした。

プールの園内に軽い食堂的な場所があるため、そこでお昼を食べることにした。まぁ、正直味には期待していないけど。海の家みたいなもんだろ。

まずは席を取って、その席の机の上にビーチボールを置いた。

 

「さて、何食う?」

「……………」

「おい、凹むなよ……。もう過去に何度も君の腹の音色は聞いてるんだから」

「フォローになってません‼︎」

 

お、おお。いやだから良い加減なれろって事なんだが……。

 

「ここ来る途中で奢る約束してるんだしさ、マジで凹むなって。飲み物も付けていいから」

「………デザートも」

「お、おう………」

 

別に良いけど、それ君の食いしん坊をさらにさらけ出してる事になるよ?

前々から思ってたけど、大和さんって割と頭悪いよな。多分、俺の方が頭良い。

 

「で、何食べる?」

「………カレー特盛」

「デザートと飲み物」

「ラムネ。デザートは帰りにコンビニで買って下さい」

 

良いのかそれは、とも思ったが、まぁこれからまだプールで遊ぶってのにデザートもまでつけたりしないか。いや、それでもカレー特盛りなんですけどね。

出店でカレーの特盛とラムネとラーメンの大盛りとメロンソーダフロートを注文して、大和の待つ席に戻った。

 

「ほい」

「ありがとうございます………」

「まだ凹んでんの?」

「いえ、これからまだ泳ぐのになんで特盛りを頼んだのかと思って……」

「ああ、でも大和なら特盛くらいのカレーなんてストローで一口で啜るくらいのもんでしょ?」

「それは流石にありません!周りの目を気にしての意味です!」

「お、おう……ごめん。でもそれは大丈夫だろ。俺もラーメン大盛りにしたし」

「………もしかして、私のために?」

「……まぁ、半分はな。基本は俺が食べたかっただけ」

「て、提督………」

 

うるせー、感動すんな。俺が優しいのはいつもの事だろうが。優しくて気遣いが出来るから、基本的に他の艦娘と話さないんだろ。まぁ、最近は良く向こうから話しかけてきたりするけど。

 

「っと、伸びちまう。いただきます」

「いただきます」

 

二人で手を合わせてから、食事にした。

 

 

++++

 

 

あの後、色々と遊ぶに遊びまくり、そろそろ帰ることにした。屋内プールも中々捨てたもんじゃねーな、と思いつつ着替え終わり、更衣室の前で大和を待った。

スマホゲームをしながらベンチに座ってると「お待たせしました」と声が聞こえた。

 

「あ、来た」

 

パッと顔を上げると、何故か大和は不機嫌そうな目で俺を見ていた。

 

「えっ、何」

「提督、なんですかその頭」

「へ?頭?何、超サイヤ人みたいになってる?」

「ビショビショじゃないですか!ちゃんと拭かないと風邪を引きますよ⁉︎」

「大丈夫だろ。俺、バカだから風邪引かないし」

「そう言う問題じゃありません!ああもう、じっとしてて下さいね」

 

大和はそう言うと俺の隣に座り、鞄からタオルを取り出した。

 

「向こう向いてください」

「え?んっ……」

 

ふわっ、と良い香りのするタオルが俺の頭上に乗せられ、わしゃわしゃと髪を拭かれた。

 

「………恋人っつーより、母ちゃんみたいだな」

「………せめてお姉ちゃんと言ってくれませんか」

「んー……大和お姉ちゃん?」

「ぐはっ……!」

「は?」

 

あ、ていうかダメだこれ。少し恥ずかしいわ。

だが、大和はそうもいかなかったらしい。さっきまで俺の頭を拭いていた手は完全に制止している。

 

「も、もう三回呼んでいただけませんか?」

「え、なんで」

「良いから!」

 

怖いので従っておくことにした。

 

「大和お姉ちゃん」

「ぐはっ……!」

「大和お姉ちゃん?」

「がふっ……!」

「大和お姉ちゃん♪」

「ぐほっ……!」

 

せっかくなのでイントネーションを変えてみると、それによって大和お姉ちゃん(笑)は面白い感じにリアクションしてくれた。この人ホント馬鹿だな。これ、別の呼び方してもバレねえんじゃねぇの?

 

「ふぅ……もう大丈夫です。あ、髪も大丈夫です」

「うん、ありがとう大和お婆ちゃん」

「お前今なんつった?」

「じ、冗談です………」

 

ガッツリバレてた。これからは下手な実験はしないようにしよう。

大和がタオルを鞄にしまうのを確認すると、立ち上がってプールを出た。出口の傍にアイスの自販機を見つけた。

 

「あ、そうだ」

「?」

 

俺はその自販機でアイスを二本買うと、大和に放った。

 

「んっ」

「? これは?」

「プールのあとのアイスってすごい美味いんだよ」

「へぇ……そうなんですか」

「………っていう話を、中学の時にクラスメートが話してるのを聞いたことがある」

「そのソース、いらないです……」

 

少し悲しい想いに浸りながら、二人で帰宅し始めた。

 

 

〜10分後〜

 

 

雨が降って来た。どしゃ降りどころの騒ぎではない。

 

「っ⁉︎ て、天気予報では晴れって言ってたのに!」

「どうする?その辺のコンビニで雨宿りでもする?」

「何落ち着いてるんですか⁉︎でも、そうしましょう!」

「大丈夫ですよ。こんなビショビショになったら、どんなに慌てたってもう同じですから。のんびり行きましょう」

「あ、あそこ!コンビニ!」

「人の話聞いてる?」

 

こんな雨に降られた経験はないのか、大和は慌てて走り出した。まぁ、そういう時のお約束は大体決まってる。思いっきり濡れた道路に足を滑らせ、豪快にすっ転んだ。

 

「きゃあっ!」

 

何やってんだよ………。俺は大和の横に駆け寄って、手を差し出した。

 

「お前……だから慌てるな言うたろ。大丈夫か?」

「ううっ……も、申し訳ありません………」

「もうビチャビチャになっちまったな……。このままじゃコンビニに入るわけにもいかないし………」

 

どうしたもんかね……と、思いながら辺りを見回すと、ちょうど良い建物が目に入った。

ヤケにテラテラキラキラしたピンクっぽくて黄色っぽくて赤っぽい色の文字で「Hotel」と書かれていた。

 


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