俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第3話 昼飯

 

 

説教が終わり、俺と大和さんが黙々と仕事をしていた。その間、俺は大和さんに怒られる方法を模索していた。何とかして怒られたいが、大して仲良くない人にちょっかいを出すと、嫌われて過去の過ちを再びから返すことになる。

だが、すごく構って欲しい自分もいる。隣の大和さんは説教した後、一言も話してないからか、とても機嫌が良さそうには見えない。

どうしたものかと考えてると、隣から「ぐぅっ」とトリコみたいな音が聞こえた。

 

「……………」

「……………」

 

チラッと横を見ると、大和さんが顔を真っ赤にしていた。で、チラッと俺を見る。チラ見同士で目が合った。

 

「……………」

「……………」

 

…………だめだ、今笑ったら殺される。怒られるんじゃなくて殺される……。いくら怒られたくても、痛いのは勘弁だ。

いや、でも、大和さん………、

 

「………ぷふっ」

「あー!」

 

余りにも、「聞こえた?聞こえてないよね?」みたいな何かに懇願するような涙目だったので、思わず吹き出すと大声が聞こえた。

 

「笑いました⁉︎今、笑いましたね⁉︎」

「…………笑ってないです」

「嘘です!絶対笑いました!」

 

涙目で突っかかって来る大和さん。俺はそれを面倒臭そうに受け流しながら、立ち上がった。

 

「お昼にしますか」

「今、笑いましたよね⁉︎」

「分かったから、昼休みにしましょう。1時間後に再開で」

「て、提督!誰にも言わないでくださいよ⁉︎」

「言いませんよ」

 

言う相手いないし。

俺が執務室を出ると、大和さんは慌てて後ろを追いかけて来た。

そのまま、二人並んで食堂に向かう。つか、初めて並んで立ったけど、この人俺より身長高いな。

 

「……………」

「……………」

 

あの、なんでついて来るの?

いや、どうせ「艦娘とのコミュニケーションがどうの」とか言い出すんだろうけど……。

 

「あの、秘書艦だからって無理について来る必要ないですよ?」

「ダメです。昨日、艦娘とコミュニケーション取るのも仕事だと言ったばかりじゃないですか」

「あ、はい。そうですけど……」

「今日は私とずっと一緒にいてもらいますからね!」

「え、何それプロポーズ?」

「っ⁉︎ は、はぁ⁉︎」

 

あ、やべっ。声に出てた。

さらに顔を真っ赤にして大和さんは俺にガミガミと怒鳴り始めた。

 

「だ、誰が誰にプロポーズするんですか!」

「や、冗談ですからそんな怒らないで。………てか、ドン引きしないで」

 

ただでさえ二人きりの執務室なのに、ドン引きなんてされたら気まずくて仕方ない。また、ドン引きされたら、もう怒ってもらえなくなる可能性も考慮しなければなるまい。

 

「まったく……」

「…………」

 

ま、いっか。学食で知らない人が隣に座って来たと考えれば。

そのまま、会話を一言もすることなく、食堂に到着。お昼には少し遅い時間だから艦娘は少ない。俺としてはその方がありがたい。

食券を買うために、券売機へ歩いた。

 

「……………」

「……………」

 

何となく、大和さんに先に買ってもらおうと思って待機してるのだが、なかなか買おうとしない。隣を見ると、大和さんは俺に言った。

 

「お先にどうぞ」

「あ、いやいいです別に。俺、人を待つのは好きだけど人を待たせるの嫌いですから」

「お先にどうぞ」

「や、まだ何食うか決まってませんし……」

「お先にどうぞ?」

「…………じゃあ、お先に」

 

そう思って、俺はどれにしようか少し考えた後、唐揚げ定食のボタンを押そうとした。

券売機の一番下のボタンに、「赤城盛」「加賀盛」「大和盛」「武蔵盛」のボタンがあった。

色々と察した俺は、見なかった事にして券を購入し、カウンターに出した。後から大和がやってくる。

 

「あら、提督。他の方と一緒なんて珍しいですね」

 

中から間宮さんが顔を出した。

 

「ええ、まぁ」

「唐揚げ定食ですね?大和さんは……あら?今日は大和盛には」

「わ、わー!わー!わー!な、なんですか大和なんとかって⁉︎わ、私そんなの知りません!」

 

なんで必死に隠そうとするのか……。別に大食いでもいいじゃん。

一方の間宮さんは、何も察してないのか、キョトンと首を捻った。

 

「へ?アレですよ、大和盛はご自身の身長くらいまで」

「へ、へー⁉︎そんなのあるんですか⁉︎知らなかったなぁ!今度時間があったら頼んでみますね!」

 

おい、マジかよ。俺より数センチとはいえ身長の高い大和さんと同じくらい盛られた飯って、バリバリ体育系の運動部かよ。

涙目になって必死に惚け続ける大和さんを見ていられなくなり、俺は間宮さんに言った。

 

「間宮さん、お腹空いてるので」

「ああ、そうでしたね。すぐに作りますから」

 

そう言って、厨房に消えていった。

さて、どうしたものか。大和さんが必死に隠そうとしていた事を俺は察してしまった。

大和さんはさっきから黙り込みながら俺をチラチラ見ている。これは、俺が大和さんの秘密を察したかどうかで、これから気まずいことになるかどうかが決まる。

俺は慎重に言葉を選んだ。

 

「そういえば、駅前のラーメン屋で特盛30分以内に食い終われば1万円らしいですよ」

「なんですか!挑戦しろって言うんですか⁉︎どうせ私は大食い女ですよ!」

 

ちょっと話題を間違えた。

腕を組んで涙目で「ふんっ」とそっぽを向いてしまった。これだからコミュ障は話題を作れないんだよなぁ……。

これ以上、何かを言うと神経逆撫でするような事しか言えなさそうだし、黙ってよう。はぁ、またやらかした……。

 

「お待たせしました。唐揚げ定食とカレー大盛り」

 

結局、大盛りにしてんじゃん、大和さん。

二人で食堂の一席に座った。俺の正面に座る大和さん。普段は、多分武蔵さんとかと食べてるんだろうけど、今日はコミュ障の俺のために二人きりにしてくれたんだろうな。

だけどね、コミュ障はむしろ大勢と食べた方がいいのよ。だって、自分以外の人たちが盛り上がっててくれれば、俺に気を使わせなくて済むでしょ?

まぁ、でも今回は大和さんが不機嫌になってくれたお陰で、会話しなくて済む空気になってくれた。後は、さっさと飯を食って仕事に戻れば、気まずい空気からは解放される。

 

「いただきます」

「………いただきます」

 

食事開始。しかし、間宮さんの作る飯は本当に美味い。なんでこんな美味い飯作れんのかな。遠月にでも通ってたんですかね。

皿の上のキャベツをそのままモシャモシャと食べてると、大和が声をかけて来た。

 

「提督」

「うえっ⁉︎な、何?」

「一々、驚かないでください……。いえ、野菜にソースはかけないのですか?」

「え、あ、うん、まぁ。俺、たこ焼きにもソースかけないし、餃子に醤油もかけないんですよね」

「な、なんでですか?」

「何となく?かけなくても美味いから?あ、でもコーヒーに砂糖は絶対入れますね」

「ふふっ、子供みたいですね」

 

ほっとけ。ブラックコーヒーとかアレ、人の飲むものじゃないだろ。

 

「大和さんはブラック飲めるんですか?」

「飲めますよそれくらい」

 

………ああ、今の答えでなんとなく察した。いわゆる、「飲めるよ?(好んで飲むとは言ってない)」という奴だ。「飲めますよ、それくらい」って言葉の中には、なんとなくだけど「好んでる」というニュアンスが含まれてるようには聞こえなかった。だけど、飲めないこともない、と言う感じだ。

 

「そうですか、大和さんは大人ですね」

「………なんですか、その含みのある言い方」

「いえ、別に」

 

言いながら、野菜を頬張る。

大和さんも、幸せそうな顔をしてカレーを頬張った。その様子を俺はなんとなく見つめていた。なんか構ってくれそうな気がしたから。

予想通りというか、最初は気にせず食べていたものの、途中で俺の視線が気になったのか、大和さんは若干顔を赤らめながら聞いて来た。

 

「あの、なんですか?」

「………いえ、その……何でもないです」

「…………なんですか」

「何でもないです」

「なんですか⁉︎」

 

おい、なんでそんな気になんだよこいつ。さっきまで赤らめていた顔は、またまたキッと鋭くなる。

 

「いや、ほんと大したことじゃないんで」

 

テキトーに返しながら、俺は唐揚げを一つ食った。噛むと、肉から肉汁が溢れ、口の中に広がる。ああ、ホント美味い。

 

「なんですか!人の顔をじっと見ておいてそれは失礼ですよ⁉︎」

「えぇ……ほんとに何となく観察してただけだって」

「提督!」

「……………」

 

うるせぇなぁ。もう仕方ないから言っちまうか。絶対怒るよこの人。

 

「…………や、その……大和さんって食べるの早いですよね」

 

そう言った通り、いつの間にか大和さんのカレーは大盛りなのに三分の二、なくなっていた。

 

「口も何もかも普通の人と同じくらいの大きさなのに、なんで食べるの早いんだろう、と思いまして……」

「人の食事を見ながら何を分析してるんですか!いいから、さっさと食べてお仕事再開しましょう!」

 

ほら怒った。まぁ、怒られても大して気にしないしむしろ喜んじゃうからいいんだけどさ。

しかし、なんであんなに早く食えるのか。もしかして、一度にスプーンで掬う量が違うのか?気になって、カレーを掬う瞬間を見ようと、再び大和さんの方を見ると、目が合った。

 

「……………」

「……………」

「こ、こっちを見ていないで早く食べなさい!」

「いだだだだ!頬を引っふぁるな!」

 

仕方ないので、食事を再開した。

 

 


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