俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第21話 喧嘩は「ごめんなさい」が重要

 

 

「あの、大和さん!すいませんでした!」

「知らない」

「寝るつもりはなかったんです!だけどあの手のジャンルは好みじゃなくて!」

「知らない」

「………ていうか、目の前でイチャつかれて若干イラついたというか……でも、本当にすいませんでし」

「知らない」

 

大和さんはプリプリと怒って先を歩いてしまっている。あーあ、どうしてこんなことになっちまったのか……。

いや、今回は俺が悪いか。寝たんだし。でも、それだとこの後が困るんだよなぁ。仕事は終わったものの、これから飲む約束をしてしまったし、その約束が破棄されるのかだけでもハッキリさせておきたい。

だって、行く行かないですごい悩むじゃん?破棄になってて行ったら、何も食べずに店を出るなんて出来ないし、破棄されてなくて行ったら、怒ったままの大和さんと飲むことになる。だからといって行かなくて、大和さんが来なかったら良いものの、来ていたらそれはそれで申し訳ない。

四分の一可能性に賭ける程、俺はギャンブラーじゃない。

けど、流石に怒られた後に「じゃあ、後で飲みに行くかどうかだけハッキリさせてくれませんか?」なんて聞けない。ここはほとぼりが冷めるまで、時間を置くのが良いだろう。

 

「分かりましたよ……。少し反省して来ます」

「えっ?」

 

俺はその場でUターンして、書庫の個室に篭った。しばらくは様子見だ。何にせよ、飲みに行くのかはハッキリさせないといけないが、謝っても話を聞いてもらえないなら、今大和さんに声を掛け続けるのは逆効果だろう。落ち着くまで待機していた方がいい。

そう決めて個室に戻ろうとした。作戦を考えるには、一人になれる所が良いと思ったからだ。その俺の肩を大和さんが掴んだ。

振り返ると、頬を膨らませて、涙目でプルプルと震えてる大和さんが立っていた。え、なに?なんで泣いてんの?

 

「どうして追い掛けてくれないんですか‼︎」

 

ヤダこの子メンドくさい。

 

「…………は?」

「なんでもっと食い下がろうとしないんですか!」

「………言ってる意味が分からないんだけど」

「普通、もう少し謝ったり交渉したりするでしょう⁉︎なんか、こう……嫌われないように!なんですんなり引き退るんですか⁉︎」

「だって、大和さん怒ってたから……。これは交渉の余地ないなと予知したので……」

「ぷっ」

「一人になって作戦練ろうと………今笑った?」

「笑ってません」

「あんたほんとはあんま怒ってないだろ」

「怒ってますよ!大体、怒られてる時に下らないこと言わないでくれる⁉︎」

「ごめん魔が差した」

「あ、ああ言えばこう言う……‼︎」

「え?いや、何か言わないと会話って成立しないでしょ」「それ!そういう所!」

 

えぇ……結局俺はどうすれば良いのか。

 

「ああもう……どうして私はこんな面倒臭い人を好きになったのよ………」

 

それはこっちの台詞だ、なんて言ったらまた怒られるからやめとこ。

 

「分かりましたよ………。交渉すれば良いんですね」

「いや、そんな義務的にやられても……」

 

こっちのカードはいくつある?金、近代化改修、装備……いや、「物で片付けようとしないでください!でも貰います!」ってなるよな。なら、精神的なものが良いか。

だが、謝罪が通用しない以上、精神的なものなんて通用するのか?それならいっそ、物的かつ精神的な物を渡せば良い。

 

「……………よしっ」

「?」

「可能な限り、今日1日なんでも言うこと聞きますよ」

「……………へっ?」

 

ポカンと惚けた表情になる大和さん。最大限のカードを初手で切らせて貰った。これで許して貰えないなら、どうしようもないだろうな。

 

「ど、どういう……?」

「そのまんまの意味です。ただし、自殺しろ骨折しろみたいな俺が無事では済まない事、デスノートをくれ的な不可能なプレゼント、今から火星に飛べみたいな物理的に不可能な事、提督を辞めろみたいな俺の人生終幕ルートは無しですからね」

「そ、そんなこと頼みませんよ……」

「ま、そういう事です。……あの、ホントさっき寝ちゃってすいませんでした」

 

俺は頭を下げると、個室に戻ろうとした。その俺の肩を大和さんは掴んだ。

 

「提督。早速、良いですか?」

「はい」

「とりあえず、二人でソファーに座りましょう」

 

との事で、執務室に向かった。

 

 

++++

 

 

三時間前。ソファーに座ると、大和さんは俺の横に座って、肩の上に頭を置いた。

それからずーっとそのままである。大和さんはそのまま寝てしまい、「絶対動かないで下さい」と命じられた俺は、ずっとそのままである。俺はこのまま、どうすれば良いんだろうか。寝ようにも、大和さんの顔が近くて、やけに緊張して眠れない。

 

「…………どうしたものか」

 

どうしようもないんだけどね。まぁ、多分この調子だと、このまま飲みに行くことになるし、それまでの時間潰しにはなるけども。時間潰しなのに暇ってどういう事だろう。

ていうか、大和さんはこれで良いのかな。何でも命令できるのに、肩枕で寝るだけって……。こっちとしては別に良いけど。

そんな事を思ってると、コンコンとノックの音が聞こえた。

 

「失礼する」

 

返事をする前に入って来ちゃう辺り、さすが武蔵さんだなぁ。

 

「むっ、随分と仲がいいじゃないか」

「まぁ、そうですね」

「今日は二人で飲むのだろう?そいつ、酔うと面倒くさいから気を付けろよ」

「それより、何かご用ですか?」

「いや、この前借りた亜人を返しに来ただけだ」

「あーじゃあそれ、その辺置いといて下さい」

「うむ」

 

武蔵さんは亜人全10巻を机の上に置くと、スマホを取り出し、俺たちに向けて無許可で写真を撮った。

 

「…………はぁ?」

「では、失礼する」

「おい待て色黒痴女メガネ」

「お前今なんつった?」

「何勝手に写真撮ってんだよ」

「大和をこれで脅して今度奢らせようと」

「許可する」

「するのか」

 

すると、大和さんはズルッと体勢を崩し、俺の膝の上に顔から落ちた。

 

「………………」

「………………」

 

カシャ。

 

「お前今、また写真撮った?」

「大和をこれで(ry」

「よーし、許可する」

「ブライトさん?」

「二度も殴ってないから」

「では、私は失礼する」

「そういえばこの前、小林さんちのメイドラゴンって漫画を買っ」

「借りよう」

 

あいつ、どんどんオタク化していってんな。

 

「俺の部屋に置いてあるから」

「うむ」

 

武蔵さんは部屋から出て行った。そのタイミングで、大和さんは起き上がった。「んー……」と息を漏らしながら、ボーッとした表情で目をコシコシと擦る。おい、目は良いから口、口。ヨダレがすごく糸引いてる。

 

「…………ていとく?」

「おい、ヨダレヨダレ。スパイダーマン並みに糸引いてるから」

「よだれ………?」

「早く拭………」

 

直後、大和さんは俺に思いっきり口を付けた。

 

「ッ⁉︎」

 

え?な、何?なにやってんの?この人マジで。

 

「んっ…………‼︎」

「んっ⁉︎」

 

何かが口の中に侵入して来る感覚。舌だ、舌が入って来た。唾液でヌメヌメした状態の舌が俺の口の中を掻き回した。おい、ヨダレってそういう意味じゃねぇよ。

そこで、ようやく大和さんは自分が寝ボケてた事に気付いたのか、目を見開いて真っ赤な顔で俺を突き飛ばした。

 

「ッッッ⁉︎」

「ゴフッ‼︎」

 

突き飛ばされた俺は、ひっくり返ってソファーから落ちた。

 

「な、何するんですか⁉︎」

「こっちの台詞だハゲ‼︎」

「ね、寝てる所を襲うなんて!」

「寝てる奴に襲われたんだよ‼︎」

「…………え?本当に?」

「本当に‼︎」

「………………」

「………………」

「………も、申し訳ありませんでした……」

「………いや別に謝られる事じゃないから」

「本当にすみませんでした………」

「いいって。…………嫌では、なかったし」

「へ?今なんて……」

「いいからヨダレを拭け」

 

俺は机の上のティッシュ箱を大和さんに放った。大和さんはティッシュで口元を拭うと、時計を見た。

 

「………飲みに行きましょうか」

「んっ」

 

執務室を出た。

 

 


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