居酒屋鳳翔。そこで、私は既にビールを5杯飲み干して、カウンターに伏せていた。
「うぅ〜……わたしのばかぁ〜……なんであそこでチキるかなぁ〜……」
隣の武蔵と、カウンターの鳳翔さんはそっと目をそらしていた。
「今回に関しては本当にその通りですよね……」
「ああ。何もビビる要素はないだろうに」
ぐうの音も出ない程の正論を叩き込まれ、私は項垂れるしかなかった。
「…………だって、だってぇ……そもそも提督も提督よ!あんな風に急に告白してくるなんて‼︎」
「いや、お前が倒れた後もちゃんと医務室で仕切り直していたろう」
「いや、それは、そうだけど……」
「あそこで覗いてた艦娘、全員が呆れてましたよ。『何故あそこでチキるのか』『面白いネタ掴みそうだったのにガッカリ』『大和さん意外とビビリだった』『逆に、提督が意外と男だった』……」
「や、やめてくださいよー!」
私は頭を抱えて、再び机に伏せた。
「ううう〜……!し、仕方ないじゃない……変に緊張しちゃったんだもん……」
「しかし、あの提督が大和さんにあそこまで言うなんて……少し意外ですね」
鳳翔さんが話題を切り替えてくれた。ほんと、こういうところはお母さんだなぁ。
鳳翔さんが続けて言った。
「ま、なんにせよ告白されたんですから、いつでも大和さんの方から告白すれば、晴れてカップルの誕生ですね」
「いや……確かにそうかもしれんが……」
「? 何か心配があるのですか?武蔵さん」
「いや、前に提督に大和の事を聞いた時にな、」
武蔵の言葉に、私の耳がピクッと動いた。それを見て、武蔵が目を逸らした。
「…………いや、なんでもない」
「な、何⁉︎武蔵!」
「武蔵さん、言い掛けてやめるのは卑怯ですよ」
「……………」
ジィ〜ッと、私と鳳翔さんが武蔵を見つめると、観念したように武蔵はため息をついた。
「………前に、提督と出かけた時に聞いたんだよ。大和のこと。そしたら、なんか別に大和に恋してるようには見えなかったんだ」
「ええっ⁉︎」
私はその言葉に、椅子を倒して立ち上がった。
「じ、じゃあっ、あのときの言葉は⁉︎」
「それが分かれば苦労はしない。ま、心変わりしたってこともあるだろうし、気にするな」
「気にするわよ‼︎ど、どういうことよ‼︎」
「わ、わかったから落ち着け!揺らすな!」
武蔵の肩を掴んで揺らすのをやめた。
「ま、まぁ……あの提督の事だ。大和の事が好きである事は嘘ではあるまい」
「そうですね。お二人の話を聞いてる感じだと、提督は嘘が苦手なようですから」
「…………」
………そうよね、あの人の嘘はすぐに見抜ける。とりあえず、喜んでおくべきよね。
「それよりも、ここからは問題は大和の方だな」
「えっ?ちょっ、なんでよ⁉︎」
「それもそうですねぇ」
「鳳翔さんまで⁉︎」
「大和、お前は奥手過ぎる。普通、あそこまで言われたらちゃんと答えるぞ」
「そうですよね。提督だって少なからず勇気を振り絞ったでしょうし」
「何より、ここまで提督を落とすために何もして来なかったからなぁ」
「毎日毎日、一緒に居られれば、いつか恋人になれると思ってる幼馴染みたいですね」
「付き合いたいなら、必ず何処かでどちらかが告白しなければならない、そして今回は向こうからして来たというのに」
「それすらにも怖気付きましたからね」
「何より、これまでデートの一つも誘ったことがない」
「男子中学生みたいです」
「〜〜〜っ!う、うるさーい!な、なんですか二人して⁉︎」
「「今現在、ありのままの大和(さん)」」
「声を揃えないで下さい!ていうか最後の、男子中学生は酷いです!」
私が声を荒立てても、二人は何食わぬ顔で続けた。
「ま、幸い提督は艦娘には決して好かれてるわけではないし」
「そんなに焦る必要も無いと思いますが、」
「そもそも今回の事は、大和が沈みかけた所だ。仮にも今は戦場」
「お互いにいつ会えなくなるかわかったものではありません」
「今のうちにデートの一回くらい誘っておいた方が良いんじゃないか?」
「なんで二人ともそんな息ぴったりなんですか⁉︎打ち合わせでもしてたんですか⁉︎」
ツッコんだものの、少し納得していた。確かに、いつ死ぬか分からないのに、モタモタしてる場合じゃない。
「女は度胸ですよ、大和さん」
背中を押すように鳳翔さんに言われ、私は頷いた。
「………そうですね。誘ってみても良いかもしれないです」
「そういえば、さっきから思ってたんだが、大和はもう提督が好きなことを訂正する気はないんだな」
「⁉︎ な、何を……⁉︎」
ひ、人が決心した時にこの妹は………‼︎
「そういえばそうですね。大和さん、もう認めたみたいで良かったです」
「な、何もよくありません!違いますから!」
「「いやそれは無理」」
「だから声を揃えないでください!」
何なのよこの二人⁉︎人の心を蹴る時だけ仲良くなって……‼︎
「良い加減、素直になれ大和。さっきも言ったが、いつ死ぬかわからないんだ。素直にならずに後悔する真似はするなよ」
武蔵に言われ、私は少し腕を組んで考えた。
………武蔵の言うことも分かるけど、素直に好きと言えないのも事実なのよね……。これがただの照れ隠しなのか、何処か拒絶する場所があるのか……まだ私には分からない。
「武蔵さん、面倒なので提督に電話して、大和さんとデートの約束をさせてしまえばよろしいのでは?」
「それいいな」
鳳翔さんがとんでもないことをほざき出した。
「な、何を勝手なことを……⁉︎」
「いえ、ですから、とりあえずデートでもすれば良いじゃないですか」
「な、なんでそうなるんですか!」
「二人きりになれば、何かわかることもあるでしょう」
「そ、そんな勝手な……!武蔵も何か言ってやってよ!」
「………あ、提督か?もしかして寝てた?」
「もう電話してる⁉︎ちょっ、やめなさ……!」
「はい大和さん、どうどう」
「どうどう、じゃないで……って、大和型の私を抑え込んでる⁉︎」
こ、この鎮守府の鳳翔は化け物か⁉︎
「ああ。少し、用があって……なに、また今度、大和のパッド渡してやるから許せ。……うん、うん。……ああ、それで、明日暇か?」
「ちょっ、やめなさい武蔵……!」
「え?無理、か……じゃあ明後日。……ダメ?いつなら空いてる?……おい、ふざけるなよ。ダメ。明日だ。明日、大和がブラジャー買いに行きたいらしいから……」
「なんでよりにもよってブラジャー⁉︎」
「明日はどうしてもダメ、か……。なら、いつが良い。とりあえず、大和とどっか出掛けろ」
「や、やめなさい武蔵!そんな強引に……!」
「え?嫌だ?」
ビキッと、額に青筋が立った。そして、武蔵からスマホを奪った。
「あ、おい大和……!」
「提督。今度、出掛けましょう。そうですね……来週の日曜日とか。は?嫌?ふざけないで。絶対行きます。いいですね?……んなっ⁉︎そ、そんな脅しには乗りませんからね!で、では失礼します!」
通話を切った。勢いとはいえ、デートの約束をしてしまった。
「……………」
涙目で二人を見ると、武蔵は知らん顔で熱燗を飲み、鳳翔さんは知らん顔で料理していた。
「……………た、助けて下さい」
「「頑張って」」
「み、見捨てないで下さいよぅ‼︎」
結局、助けてもらう事になった。