俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第15.5話 ヘタレはヘタレだった

 

 

居酒屋鳳翔。そこで、私は既にビールを5杯飲み干して、カウンターに伏せていた。

 

「うぅ〜……わたしのばかぁ〜……なんであそこでチキるかなぁ〜……」

 

隣の武蔵と、カウンターの鳳翔さんはそっと目をそらしていた。

 

「今回に関しては本当にその通りですよね……」

「ああ。何もビビる要素はないだろうに」

 

ぐうの音も出ない程の正論を叩き込まれ、私は項垂れるしかなかった。

 

「…………だって、だってぇ……そもそも提督も提督よ!あんな風に急に告白してくるなんて‼︎」

「いや、お前が倒れた後もちゃんと医務室で仕切り直していたろう」

「いや、それは、そうだけど……」

「あそこで覗いてた艦娘、全員が呆れてましたよ。『何故あそこでチキるのか』『面白いネタ掴みそうだったのにガッカリ』『大和さん意外とビビリだった』『逆に、提督が意外と男だった』……」

「や、やめてくださいよー!」

 

私は頭を抱えて、再び机に伏せた。

 

「ううう〜……!し、仕方ないじゃない……変に緊張しちゃったんだもん……」

「しかし、あの提督が大和さんにあそこまで言うなんて……少し意外ですね」

 

鳳翔さんが話題を切り替えてくれた。ほんと、こういうところはお母さんだなぁ。

鳳翔さんが続けて言った。

 

「ま、なんにせよ告白されたんですから、いつでも大和さんの方から告白すれば、晴れてカップルの誕生ですね」

「いや……確かにそうかもしれんが……」

「? 何か心配があるのですか?武蔵さん」

「いや、前に提督に大和の事を聞いた時にな、」

 

武蔵の言葉に、私の耳がピクッと動いた。それを見て、武蔵が目を逸らした。

 

「…………いや、なんでもない」

「な、何⁉︎武蔵!」

「武蔵さん、言い掛けてやめるのは卑怯ですよ」

「……………」

 

ジィ〜ッと、私と鳳翔さんが武蔵を見つめると、観念したように武蔵はため息をついた。

 

「………前に、提督と出かけた時に聞いたんだよ。大和のこと。そしたら、なんか別に大和に恋してるようには見えなかったんだ」

「ええっ⁉︎」

 

私はその言葉に、椅子を倒して立ち上がった。

 

「じ、じゃあっ、あのときの言葉は⁉︎」

「それが分かれば苦労はしない。ま、心変わりしたってこともあるだろうし、気にするな」

「気にするわよ‼︎ど、どういうことよ‼︎」

「わ、わかったから落ち着け!揺らすな!」

 

武蔵の肩を掴んで揺らすのをやめた。

 

「ま、まぁ……あの提督の事だ。大和の事が好きである事は嘘ではあるまい」

「そうですね。お二人の話を聞いてる感じだと、提督は嘘が苦手なようですから」

「…………」

 

………そうよね、あの人の嘘はすぐに見抜ける。とりあえず、喜んでおくべきよね。

 

「それよりも、ここからは問題は大和の方だな」

「えっ?ちょっ、なんでよ⁉︎」

「それもそうですねぇ」

「鳳翔さんまで⁉︎」

「大和、お前は奥手過ぎる。普通、あそこまで言われたらちゃんと答えるぞ」

「そうですよね。提督だって少なからず勇気を振り絞ったでしょうし」

「何より、ここまで提督を落とすために何もして来なかったからなぁ」

「毎日毎日、一緒に居られれば、いつか恋人になれると思ってる幼馴染みたいですね」

「付き合いたいなら、必ず何処かでどちらかが告白しなければならない、そして今回は向こうからして来たというのに」

「それすらにも怖気付きましたからね」

「何より、これまでデートの一つも誘ったことがない」

「男子中学生みたいです」

「〜〜〜っ!う、うるさーい!な、なんですか二人して⁉︎」

「「今現在、ありのままの大和(さん)」」

「声を揃えないで下さい!ていうか最後の、男子中学生は酷いです!」

 

私が声を荒立てても、二人は何食わぬ顔で続けた。

 

「ま、幸い提督は艦娘には決して好かれてるわけではないし」

「そんなに焦る必要も無いと思いますが、」

「そもそも今回の事は、大和が沈みかけた所だ。仮にも今は戦場」

「お互いにいつ会えなくなるかわかったものではありません」

「今のうちにデートの一回くらい誘っておいた方が良いんじゃないか?」

「なんで二人ともそんな息ぴったりなんですか⁉︎打ち合わせでもしてたんですか⁉︎」

 

ツッコんだものの、少し納得していた。確かに、いつ死ぬか分からないのに、モタモタしてる場合じゃない。

 

「女は度胸ですよ、大和さん」

 

背中を押すように鳳翔さんに言われ、私は頷いた。

 

「………そうですね。誘ってみても良いかもしれないです」

「そういえば、さっきから思ってたんだが、大和はもう提督が好きなことを訂正する気はないんだな」

「⁉︎ な、何を……⁉︎」

 

ひ、人が決心した時にこの妹は………‼︎

 

「そういえばそうですね。大和さん、もう認めたみたいで良かったです」

「な、何もよくありません!違いますから!」

「「いやそれは無理」」

「だから声を揃えないでください!」

 

何なのよこの二人⁉︎人の心を蹴る時だけ仲良くなって……‼︎

 

「良い加減、素直になれ大和。さっきも言ったが、いつ死ぬかわからないんだ。素直にならずに後悔する真似はするなよ」

 

武蔵に言われ、私は少し腕を組んで考えた。

………武蔵の言うことも分かるけど、素直に好きと言えないのも事実なのよね……。これがただの照れ隠しなのか、何処か拒絶する場所があるのか……まだ私には分からない。

 

「武蔵さん、面倒なので提督に電話して、大和さんとデートの約束をさせてしまえばよろしいのでは?」

「それいいな」

 

鳳翔さんがとんでもないことをほざき出した。

 

「な、何を勝手なことを……⁉︎」

「いえ、ですから、とりあえずデートでもすれば良いじゃないですか」

「な、なんでそうなるんですか!」

「二人きりになれば、何かわかることもあるでしょう」

「そ、そんな勝手な……!武蔵も何か言ってやってよ!」

「………あ、提督か?もしかして寝てた?」

「もう電話してる⁉︎ちょっ、やめなさ……!」

「はい大和さん、どうどう」

「どうどう、じゃないで……って、大和型の私を抑え込んでる⁉︎」

 

こ、この鎮守府の鳳翔は化け物か⁉︎

 

「ああ。少し、用があって……なに、また今度、大和のパッド渡してやるから許せ。……うん、うん。……ああ、それで、明日暇か?」

「ちょっ、やめなさい武蔵……!」

「え?無理、か……じゃあ明後日。……ダメ?いつなら空いてる?……おい、ふざけるなよ。ダメ。明日だ。明日、大和がブラジャー買いに行きたいらしいから……」

「なんでよりにもよってブラジャー⁉︎」

「明日はどうしてもダメ、か……。なら、いつが良い。とりあえず、大和とどっか出掛けろ」

「や、やめなさい武蔵!そんな強引に……!」

「え?嫌だ?」

 

ビキッと、額に青筋が立った。そして、武蔵からスマホを奪った。

 

「あ、おい大和……!」

「提督。今度、出掛けましょう。そうですね……来週の日曜日とか。は?嫌?ふざけないで。絶対行きます。いいですね?……んなっ⁉︎そ、そんな脅しには乗りませんからね!で、では失礼します!」

 

通話を切った。勢いとはいえ、デートの約束をしてしまった。

 

「……………」

 

涙目で二人を見ると、武蔵は知らん顔で熱燗を飲み、鳳翔さんは知らん顔で料理していた。

 

「……………た、助けて下さい」

「「頑張って」」

「み、見捨てないで下さいよぅ‼︎」

 

結局、助けてもらう事になった。

 

 


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