俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第15話 勘違いしたままだよこれ

 

 

大和さんの部屋の前。そこに到着すると、俺は深呼吸した。さて、謝る、謝るぞ………。

…………もう一回深呼吸。

 

「おい、ダンジョンか私の部屋は」

「いや、だって緊張するじゃないっスか」

「だからって二度もするな。言い忘れていたが、大和は今、体調が悪い」

「えっ、何それ聞いてない」

「余り、精神に負担かかるようなことは言うなよ」

「えっ………」

 

い、今更そんな事言うなんて……⁉︎ていうか体調悪いって……‼︎

俺はゴンゴンと強めにノックした。

 

「何よ……武蔵?体調悪いから今は」

「大和さん」

「て、提督⁉︎」

「あの、体調悪いって聞いたんだけど……大丈夫ですか?」

「ちょっ、待っ……!だ、大丈夫じゃないです‼︎」

「えっ、そんな辛いんですか?入りますよ」

「は、入らないでください!う、移しちゃ悪いですし!」

「いや、俺身体だけは頑丈で風邪なんてハレー彗星並みの頻度でしか引きませんから」

「お気を使わないでくれて結構です!」

「はぁ?気?そりゃ常日頃から使ってますけど」

「ッ!」

 

ドアの向こうから、息を呑む音が聞こえた。そして、しばらく静かになった後、大和さんは震え声で言った。

 

「…………提督」

「はい」

「大和を、解体して下さい……」

「はい?」

 

こいつ今、なんつった?

 

「提督は、いつも口うるさい大和が嫌いなんですよね⁉︎それなら、大和は解体されて、鎮守府から……」

「いや、好きだけど」

「出て行………はっ?」

「んっ?」

 

思わず口を滑らせると、大和さんどころか、武蔵さんまで声を漏らした。流石に、直で本人に好きと言うのは照れたが、開き直って好きである理由を言った。

 

「や、だから俺は大和さんのこと好きですよ。構ってくれるし、仕事も手伝ってくれるし(一人でも出来るとはいえ)」

「………で、でも、昨日お風呂に突入して来たときに、舌打ちしましたよね?」

「しましたっけ?」

「しました!アレで大和は提督に嫌われたと……!」

 

腕を組んで俺は思い出す。………ああ、そういえばしたような気がする。

 

「あの時はー……確かアレ神様に舌打ちしたんですよ。大和さんと全然話せなくて、俺嫌われたんかな、と思い始めてた時に、まさかの風呂突入して全裸見ちゃったから、俺にあんな運命を辿らせた神様をいつか殺すと心に決め……」

 

そこで、俺は「ヤバい」と悟り、口を止めた。そうじゃん、俺ここに全裸見に来たこと謝りに来たんじゃん。

 

「や、大和さん……すいませんでした。昨日、わざとじゃないとはいえ、大和さんの裸を見てしまって……」

「……………」

 

しばらく沈黙。流石に怒ってるか、俺はそれ以前にも股間を下から覗き見て、パッドを強奪しておっぱいを見ている。許される方がおかしい。けど、許されなければならない。俺は、大和さんに怒られたい。

………もう少し何か言った方が良いよな。

 

「でも、俺はもう大和さんがいないとダメなんです。大和さんがいない生活なんて考えられない。(加減を知らない)武蔵さんでも、(ズボン脱がしてくる)大鳳さんでもダメなんです。大和さんが良いんです」

 

俺はそう言い切った。気が付けば、後ろにいる武蔵さんは「こいつ、ほんと馬鹿だな」って顔をして立っていた。

俺はそれを後で問い詰めることにして今は無視し、大和さんの返事を待った。おそらく、考えているのだろう。散々、今までチョッカイとセクハラをして来たバカをここで許すべきか、少し厳しく対処すべきか。大和さんとしても苦渋の選択のはずだ。

俺が大和さんなら、こんなクソ提督さっさと見限っている。それでも、見捨てなかったのは、やはり大和さんの優しさからなのだろう。それでも、ストレスは溜まる。今回、大和さんが体調を崩したのは、そのストレスが限凸したからだと考えられる。

だから、今、俺が許しを請うてるのはただのワガママだ。ワガママを通してでも、俺は大和さんにこれからも構って欲しい。そう心に誓い、とりあえず大和さんからの答えを待った。

 

「………………」

「………………」

 

つーか、返事遅くね?俺は武蔵さんと顔を見合わせた。

 

「…………」

「…………」

「あの、大和さん?」

「大和、何か答えてやれ」

「…………」

「…………」

「や、大和さん?入りますよ?」

 

俺は一応、ノックしてから部屋の中に入った。中では、顔を真っ赤にして、漫画みたいに目をグルグルと回してる大和さんが発見された。

とりあえず、医務室に運んだ。

 

 

++++

 

 

夕方になった。今頃、食堂では祝勝会をしているのだろうか。医務室で、大和さんの面倒を見ている俺には関係のない事だが。

本当は、今日中に大和さんが目を覚ます保証はないので、俺は部屋でゲームをやろうと思ってたのだが、武蔵さんが「お前は大和の側にいろ」との事で、医務室でゲームをしていた。

 

「………おお、ラオかなり楽しくなってんな」

 

大砲の弾三連発とかマジか。ラオ可哀想だろこれ。

そんな事を思いながらゲームしてると、「んっ……」と吐息が漏れた。大和さんからだ。

目をコシコシと擦りながら辺りを回し、大和さんはくあっと欠伸をして起き上がった。

 

「…………あ、おはよーございます」

「ていとく……おはようござ………提督⁉︎」

「提督です」

 

ギョッとした様子で大和さんから声が上がった。

 

「て、提督⁉︎なんでここに……⁉︎」

「うおお、なんだこの大砲。ラオの顔面超燃えてたぞ今」

「て、提督!話を……!」

「しかも5分後にまた使えるんか。反則だろこれは」

「て、提督!」

「あ、ちょい待ち一時停止するから……よし、おk」

 

一時停止した後に、ゲーム機を台の上に置き、俺は大和さんの方を見た。

 

「で、何ですか?」

「ど、どうして提督がここにいるのですか⁉︎ていうか、ここ何処ですか⁉︎」

「医務室」

「い、いい医務室‼︎」

「大和さん大丈夫ですか?さっき話してたと思ったら急に倒れたんですよ?」

「話してた………?」

 

すると、大和さんは何か思い出したのか、カアァァッと顔を赤らめた。すごい赤らめた。

 

「大和さん?」

「な、なんですか⁉︎」

「まだ熱あるんですか?顔赤いですけど」

「あ、赤くありません!誰がシャアですか⁉︎」

「いや、言ってねえ」

「なら黙ってなさい!」

「え?俺が黙るの?」

 

大丈夫かこの人……。

大和さんは真っ赤になった顔を両手で隠すと、指と指の隙間から俺を見て、小声で言った。

 

「…………か?」

「あん?」

「………さっきの言葉は、夢、ですか?」

「さっきの言葉って、どの?」

「私のことが、好きとか………何とか………」

「………あー、それは夢じゃないですけど」

「ッ………!」

「それより、さっきの返事欲しいんですけど……」

 

早く安心したいためか、俺はさっき許しを乞うた時の返事を急かしてしまった。

すると、しばらく沈黙。大和さんは顔を赤らめたまま動かない。

…………あれ、なんだろうこの感覚。なんか、色々と間違いが起こってるような気がする。

 

「………あの、大和さ」

「ちょっと今は話し掛けないで下さい」

「えっ」

「……………」

 

あの、怒ってるの?

すると、大和さんが顔を真っ赤にしたまま、震えた声で言った。

 

「……………あ、あのっ、」

「ん?」

「……あ、あああのっ、て、提督……」

「なんすか?」

「………じ、じじっ、実はっ……私もっ………」

「…………?」

「…………やっ、大和もッ………」

 

………えっと、なんで大和「も」?許しを乞うてるのだから、me too的な意味になるはずが……いや、大和さんなりの伝え方があるのだろう。ここは黙って聞こう。

 

「………………」

「………………」

「…………………や、大和をッ、秘書艦に復帰させて下さい………」

 

何故か、落胆しながら大和さんはそう言った。

 

「はい?や、むしろこちらからお願いしたいくらいなんですけど………」

「…………はぁ、私のバカ……」

「えっ?」

 

なんで急に自己嫌悪?もしかして、そんなに秘書艦やりたくないの?

 

「………あの、もし嫌なら別に」

「うるさい黙ってて」

「はい」

 

えっ、なんで怒ってんの。マジでなんなのこの人。

大和さんはしばらく肩を落とした後、再び深いため息をついた後、切り替えるように両頬を叩き、再び俺に正面から向き直って頭を下げた。

 

「………それと、提督。この前は、申し訳ありませんでした。提督は、大和の身を案じて下さったのに、指揮官としての資格がないなどと言ってしまって……」

「え?いや、良いですよ。気にしてないです。あの時は俺も悪かったですよ。大和さんに手をあげるなんて」

「………いえ、悪いのは大和ですから……」

「いや、悪いのは俺です。そもそも、俺がキチンと指揮を取れてれば、大和さんは大破なんてしなくて済んだはずですから」

「いえ、大和の方が悪いです」

「や、俺の方が悪い」

「いえ、私の方が悪いです。駅とかに手配書貼られてます」

「いや、俺の手配書の方が懸賞金が高い」

 

そこまで言い合った後、大和さんはクスッと笑うと、微笑んだまま言った。

 

「では、お互いに悪かった、としましょうか」

 

その笑顔を見て、思わずドキッとしてしまった。……あーくそっ、やっぱこの人は美人だ。美人で可愛いとか反則だろ畜生。けど落ち着け。どんなに俺が美人さんが好きでも、美人さんが俺のことなんて好きになるはずないんだ。平常心、平常心。

………よし、落ち着いた。

 

「じゃ、俺寝ますね。今、新海域攻略の祝勝会やってるみたいですから。大和さん、気が向いたら顔出してあげて下さいね」

「? 提督は祝勝会行かないのですか?」

「俺の事なんて、みんなお呼びじゃないでしょうから」

 

そう言って、俺は机の上のゲーム機を持って、立ち上がって医務室のドアを開けた。

ドアの向こう側には、武蔵さんを先頭に、うちの鎮守府の艦娘が全員揃っていた。

 

「……………」

「……………」

 

しばらく沈黙。やがて、武蔵さんが「退避!」と言うと全員が逃げ出した。

怒る気力も追いかける気力も無かった俺は、欠伸しながら自室に向かった。

 

 


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