俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第2話 怒られる術

 

 

翌日。布団の中で俺はゴロゴロしていた。今日は出撃の予定も、演習の予定もない。

だから今日は朝遅いのだ。布団の中で10時半くらいまでゴロゴロしていようと思い、布団の中に潜った。

その直後、俺の部屋にノックの音が響いた。

 

「提督、大和です。マルキューマルマルを回りましたが、どうかされましたか?」

 

えっ、何急に………あっ、そういえば昨日、秘書艦を付けるとかそんな話になってたっけ………。や、でもだからって起こしに来ますかね普通。

どうしよう………。いいや、寝たふりしちゃえ。

 

「提督ー?」

 

大和さんの声だ。うん、無視だな。流石に部屋の中に入って来るような事はないだろう。

 

「提督ー?……寝てるのかな。入りますよー?」

 

おいおい、マジかよこの女。普通に入って来たよ。

 

「提督ー?……って、なんですかこの部屋。散らかし過ぎですよ」

 

るっせーな。ほっとけよ。どうせあんまこの部屋にいないんだから良いんだよ。

 

「むぅ、寝てるんですか?提督ー」

 

むぅ、じゃねぇよ。寝てるんだから放っとけや。

大和さんは俺の布団の周りをウロウロと歩き回った後、「んっ?」と声を漏らした。俺の枕元に落ちてる漫画を拾った。

………あっ、やばい。それ監獄学園だ。あの漫画はクッソ面白いのだが、多分女の人が読んだら………、

 

「な、なに⁉︎この卑猥な漫画は……!」

 

ああ、やっぱそうなるよね。死にたい。

 

「て、提督はこんなものを読んで……‼︎」

 

キッ、と真っ赤な顔で俺を睨む大和さん。あ、やばい。目を閉じないと……。

 

「提督、起きなさい‼︎」

「あぐっ⁉︎」

 

漫画を顔面に叩きつけられた。

 

「いってぇ‼︎背表紙の角が……!眉間に……‼︎」

 

おでこを抑えて悶える俺に、大和さんは言った。

 

「提督!艦隊の司令官ともあろうお方が何時まで寝てるつもりですか⁉︎」

「だからって漫画顔面に叩きつけなくても……」

「それに、なんですかこの漫画は⁉︎艦隊の司令部ともあろうお方が……!」

 

どんだけ艦隊の司令部聖人じゃなきゃいけねーんだよ。艦隊の司令部だってな、男なんだよ、人間なんだよ。

それに、監獄学園はエロ漫画じゃない。ちょっとエッチな部分があるだけだ。

 

「チッ、うるせーな。アフロダイAみたいな胸しやがって……」

 

思わず小声で愚痴ると、大和の表情はさらにクワッと悪化した。

 

「な、に、か、い、い、ま、し、た、か⁉︎」

「いえ、何も」

「早く着替えて執務室に来なさい!それと、この漫画は没収します!」

「えっ、な、なんで⁉︎」

「こんなもの、必要ないでしょう⁉︎」

 

ああ、怒られてる……。

はっ、いやいや落ち着け俺。流石に自室の数少ない娯楽が奪われるのは困る。

 

「あの、それ別にエロ漫画とかじゃないので……没収はちょっと………」

「ダメです!そもそも、艦隊司令部に漫画があること自体……!」

「や、そういうんじゃなくて。それ……」

 

男の股間も出て来るんで、そんなもの大和さんの部屋にあると……あれじゃないかな、武蔵さんにバレたらアレでしょ?と言おうと思ったのだが、そこで台詞は止まった。

もしかしたら、大和さんがさっき見たシーンは、クソ漏らしが副会長に股間を鞭でいじられてるシーンだったかもしれない。

女の子は男よりエッチだと聞くし、もしかしたら漫画を読みたいだけである可能性も……もしそうなら、むしろ気付かないふりして、貸してあげた方がいいんじゃないか。

 

「………何でもないっス。どうぞ持ってって下さい」

「……?え、えらく素直ですね……」

 

大丈夫、大和さん。俺は誰にも言わないから。そもそも言う相手もいないし。でも、武蔵さんにはバレないようにね。

 

「…………なんか、失礼な勘違いしてませんか?」

「や、してない。じゃあ、着替えるんで。出てもらっていいですか?」

「了解しました」

「あ、これまとめときますね」

「え?あ、うん?」

 

監獄学園全巻紙袋にまとめて部屋の外に置いた。

 

「………あの、提督?ホント何か勘違いしてませんか?私別に……」

「あの、着替えるんで……」

「…………? はっ、す、すみません!」

 

慌てて部屋を出て行った。

うむ、やっぱり大和さんはムッツリスケベか。

なんて失礼な予測をしながら、とりあえず着替え始めた。

 

 

 

++++

 

 

 

着替えを終えて、ついでに朝飯と歯磨きも終えて執務開始。その間に、大和さんは釈然としない様子ながらも監獄学園を自室に持って行っていた。

で、仕事開始。大和さんが隣に座って聞いて来た。

 

「大和は何をすればいいですか?」

「えっと……じゃあ、部屋に」

「提督?」

「や、冗談。えっと……開発任務全部お願いします。最低値でいいんで。結果は後で紙に書いて渡して下さい」

「了解しました」

 

微笑みながら、頷いて大和さんは出て行った。わざわざ隣に座ってくれたのに、また部屋から出してしまって、少し申し訳なかったけど、大和さんは何一つ文句を言わずに出て行った。良い人だなぁ。

そんな事を思いながら、パソコンを起動。過去に使った開発の報告書のテンプレをコピペ。あとは開発に使った資材の数値と結果だけ変えれば報告書は完成。

建造した艦娘は近代化改修するから、そっちの報告書も作らないと。まぁ、こっちもテンプレあるんですけどね。

今日は出撃の予定は無いし、後は演習次第かな。

 

「………仕事完了」

 

だからゆっくり寝てたかったのに。大和さんはクソ真面目だから、仕方ないのかもしれんが。

…………暇だ。誰か来ないかなぁ。いや、来られても困るんですけどね。

遊んでるか。多分、開発20分くらい掛かるでしょ。

 

「小学生の時の昼休みと同じ時間か」

 

今にして思えば、昼休み20分ある上に、昼飯の時間とは別に限られてるとか反則でしょ。いや、今は鎮守府に勤めてるから昼休みも何もかも全部俺の思いのままだけど、大学とか食堂アホみたいに混んでる癖に昼休み45分だからね。

席取り合戦やってたなぁ。

はっ、いかんいかん大和さんが帰ってくる前に遊ばないと。

 

「ニコニコでも見てるか」

 

暇だし、20分という時間はとてもちょうど良い。

パソコンを起動させた直後、大淀さんが部屋の中に入って来た。

 

「失礼します」

「⁉︎ は、はいっ?」

「演習の申し出がありましたが、昨日のメンバーでよろしいですか?」

「は、はい。それで、お願いします……!」

「では、失礼しました」

 

大淀さんは部屋を出た。

演習か……仕事が増えた。まぁいいや、作戦指揮は古鷹さんに任せよう。

 

「………報告書途中まで作っておこう」

 

キーボードを打ち始めた。

えーっと、編成とその編成した意味、その後に結果と考察かな。

…………あの編成に意味なんてねーよ。テキトーに思い浮かんだの選んだだけ。どうしよ。

古鷹、榛名、瑞鶴、蒼龍、朝潮、霞、か………。と比較的、練度の低い艦娘を選んで、古参の古鷹さんの指揮の元でどのように立ち回りを覚えるか……あ、ダメだ。蒼龍と古鷹さんほとんど同期だった。

 

「…………どうしたもんか」

 

………後回しにしよう。面倒臭ぇ。

それより、大和さんがいない間の休み時間が終わってしまう。ニコニコで何でもいいから動画を……!

 

「お待たせしました、提督。開発任務、完了しました」

 

帰って来ちゃったよ……。早いなおい。

大和さんの手元には開発資材が四つある。

 

「申し訳ありません。全部失敗してしまいました」

「あ、いや全然いいです。任務成功させたかっただけなんで。開発資材無駄にならなくて良かったです」

「ほんとに申し訳ありません……」

「いや、いいってマジで」

 

謝られると何故かこっちが申し訳なくなる。これ、コミュ障の性分な。

 

「でも、ただでさえ私は補給で資材を多く消費するというのに、開発でまで資材を無駄にしてしまっては……」

「あの、マジ気にし過ぎだから。大体、開発任務でちゃんと成功すれば大本営から上塗りして資材送られてくるから平気ですよ」

「それならいいんですけど……」

 

ふぅ、ほんとにクソ真面目は大変だな。こっちのフォローも大変だよ。これだから秘書艦なんていらないんだよ。

自分で全部やれば、責任は全部自分で負える。

 

「それで、お次は何を?」

「今、開発の報告書終わらせて印刷するから、昨日と同じように判子とホッチキス」

「………あの、中身の確認とかはしなくてよろしいのですか?」

「いらない」

「で、でも、万が一提督の書類にミスがあったら……」

「そしたら俺の所為だから平気ですよ」

「いや、何も平気じゃないですよねそれ」

「え?あー……」

 

そういえば、昨日はちゃんと周りの艦娘を頼れって怒られたんだっけ。その言い分は間違ってないどころか正しい。

俺だって人間だから、ミスしないとは限らないし、ここで内容をチェックしてもらうのは、当然といえば当然な判断だろう。逆に、ここでチェックしてもらわないのは大和さんに怒られる未来しか見えない。

だがしかし、俺はその未来を選ぶ。

 

「いや、チェックしてもらわなければ、ミスは俺一人のミスで済むでしょ?チェックしてもらって、それでもミスがあったら大和さんも怒られるんですよ?」

 

如何にも大和さんの昨日の説教をまるで無視した答えを言った。これでまず間違いなく大和さんは………、

 

「提督は、昨日の私の話をまるで聞いていなかったんですね?」

 

ほら怒った。

ああ、でもその顔はやめて。すごーく怖いから。

 

「提督は何も分かってないんですね!私昨日言いましたよね⁉︎艦隊は提督も含めた全員で作っていくものだと……!」

「はい、ごめんなさい」

「何、ニコニコしてるんですか!バカにしてるんですか⁉︎」

「ニコニコしてないです」

 

このまま説教は昼まで続いた。

 

 


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