俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第12.5話 スマホ

 

 

翌日。居酒屋鳳翔で、私と武蔵は飲んでいた。と、いうのも、提督が私達の部屋の屋根を修理するとかで、今日一日休みをくれたのだ。

 

「「乾杯」」

 

私と武蔵はジョッキを軽くぶつけて、ビールを飲み干した。

 

「それで、武蔵」

「む、なんだ?」

「昨日はどこへ行ってたのよ、提督と」

「は?」

「へ?」

 

鳳翔さんが私の質問に声を漏らした。

 

「む、武蔵さん……提督と出掛けたのですか?」

「まぁな。二人きりだな」

「二人きり⁉︎大和さんを差し置いてですか?」

「ほ、鳳翔さん!どういう意味ですかそれ⁉︎」

 

聞き捨てならない言葉に食いかかったのだが、武蔵も鳳翔さんもそれを無視して会話を続けた。

 

「いや、実は提督が大和のハンカチをダメにしたとか言ってな。私が誘って一緒に行って来たんだ」

「どうでした?提督のエスコートは」

「いや、デートというより本当に目的のためだけに出掛けた感じだった」

「待ちなさい、武蔵」

 

私はどうしても気になったことがあったので、口を挟んだ。

 

「あなた、私服持ってないじゃない。まさか、その格好で外に出たわけじゃないわよね?」

「ああ。提督がなんか目立つだのなんだの言って、服を貸してくれた。ジャージだがな」

「いいなぁ、提督のジャー……はっ、いや何も言ってないわよ⁉︎」

「いや、無理がありますよそれ。いい加減、認めたらどうなんです?」

 

鳳翔さんに冷たい声で言われ、私は顔を赤くして縮こまった。

 

「いや、でもハンカチを買う前に、提督がスマホを買ってくれたぞ」

「すまほ、ですか?」

「ち、ちょっと武蔵!聞いてないわよ私⁉︎」

「これだ」

 

武蔵はスマートフォンを取り出し、机の上に置いた。

 

「「おおー!」」

 

それに、感嘆の声を漏らす私と鳳翔さん。

 

「いいなぁ……私も買って頂こうかしら」

「いや、それはハンカチを買うのに付き合ったから買ってもらえたものだ。まぁ、お前も何か提督の買い物に付き合えば買ってもらえると思うぞ」

「まぁ、あの提督ですから。買い物について行くのも簡単ではないと思いますよ?」

「どういう意味ですか?」

「私も提督のことはお二人から聞いたことしか知りませんが、大体予測はできます。どうせ『いや、俺の買い物に付き合わせるのはなんか悪いですから』とか言って断りますよ」

「うむ、容易に想像できるな」

「………なんか納得できますそれ」

 

そうなのよね……あの提督、本当に人と一緒にいるの嫌がるから……。

改めて実感するとショックだわ、やっぱり。

 

「でも、武蔵さんすまーとふぉんなんて買っても使うんですか?」

「たまにな。ゲームとか楽しいぞ。意外と」

 

なんか妹が良くない方向に進んでる気がするわね……。

 

「提督ともたまにL○NEするぞ」

「らいん?」

「メールのようなものだ。遠くから紙に入れてポストに出さなくてもメッセージを送れる。それを簡易的にしたものだな」

「へぇー、今はそんな便利なものがあるんですねぇ」

 

直後、私はビールを思いっきり飲み干した。ゴクッゴクッと喉を鳴らし、ダンッ‼︎とジョッキを机に置くと、「………るい」と声が漏れた。

 

「「ん?」」

「ズルイ‼︎武蔵ばっかり!私も提督とメールでやり取りしたい‼︎」

「………お、おお?」

 

本音をぶちまけた。

 

「いや、でもそんな頻繁にやるほどではないぞ?そもそも、話があれば会いに行けばいいだけだしな」

「でも、憧れるものは憧れるのよ‼︎それを持つ者には分からないわ‼︎」

「大和さん。落ち着いてください。タコワサです」

 

鳳翔さんがタコワサを私と武蔵の間に置いた。わたしはそれを摘みながら言った。

 

「それで、どんな会話してるの?」

「ああ。他愛もないことさ。まぁ、私が質問ばかりするんだけどな。映画とか音楽とか」

「っていうことは、武蔵は私より提督について詳しいというのね⁉︎」

「お前は本当に何を言ってるんだ?」

「私にも教えてよ‼︎提督の好きなこと‼︎」

「あ、それ私も気になりますね。鎮守府では謎に包まれていて、今朝に至っては廊下で寝ているところを発見された提督の好みは少し気になります」

「お、お前ら……気になることは一緒でもここまで目的が変わる事なのか……?」

 

武蔵が少し引き気味に呟いた。

 

「まぁ良い。私は別に提督の事が好きというわけでもないからな」

「kwsk!」

「大和さん、落ち着きなさい。飲み過ぎですよ」

 

鳳翔さんに言われ、私はタコワサをもう一口食べて落ち着いた。

で、武蔵さんが言った。

 

「まず、好きな映画だが、マー○ルのアメコミヒーローが好きらしいぞ」

「あー!アイ○ンマンとか⁉︎」

「そうだ。音楽はボーカロイドとかアニソンとかが好きらしい」

「ぼーかろいどって、なんですか……?」

 

鳳翔さんがおばあちゃん発音で聞いた。

 

「大和さん?今、失礼なこと考えてましたね?」

「うえっ⁉︎い、いやそんなことありませんよ⁉︎」

「武蔵さん、このタコワサ全部どうぞ」

「ちょっ、鳳翔さぁん⁉︎」

 

な、なんで分かったの⁉︎鋭過ぎるでしょう⁉︎

武蔵は武蔵で、「ふむ、悪いな大和」とタコワサを全部食べると、ビールを飲んでから言った。

 

「鳳翔、ボーカロイドというのは、アレだ。初音ミクとか聞いたことないか?」

「ああー、たまーに夕張さんとかが話してるアレですか」

「ああ。アレのことだ」

 

夕張さん、ボーカロイドとか聞くんだ……。意外でもないけど。

 

「提督、そういうのが好きなんですね」

「そういうの聞いて、武蔵はどうしてるの?」

「いつか、大和にこの情報を売ろうと思っていた。今日の飲み代で良いぞ」

「い、嫌よ⁉︎払わないからね⁉︎」

「冗談だ」

 

………ほんとに、特に最近、妹が生意気になってきてる。ただでさえ、私より育ちが良いくせにムカつく……。

 

「ふむ、そうだ。せっかくだし、今から提督にL○NEでもしてみるか?」

「そうですね、見てみたいですし」

「ふむ、じゃあ昨日撮った写真でも送ってみるか」

「へ?昨日?」

 

私の眼の前で、武蔵はL○NEを開くと、提督に武蔵と提督が頬をくっつけて、夕日をバックにツーショットを撮ってる写真を送った。

 

「って、何その写真⁉︎」

「昨日撮ったんだ。良いだろう?」

「良いなんてもんじゃな……!い、いやちょっと羨ましいだけよ!」

「随分と素直になったな、お前」

「あ、既読って付きましたね」

「これは、相手が読んだという意味だ」

「武蔵!ちょっとその写真についてkwsk!」

「大和さん、静かに。はいキュウリの味噌漬け」

 

それで黙ると思ってるのかこの人は!

 

「今頃、提督は顔を赤くしているだろうなぁ」

「まぁ、確かにあの人はこういうのに純情そうですからね」

 

ううッ……私も、私もスマホさえあれば……!

悔しがってると、画面に写真が送られてきた。

 

「おっ、返事が来……」

 

写ってるのは、武蔵のメガネなしの寝顔写真だ。昨晩に撮っていた。

 

「ッッ⁉︎な、なんっ……なっ……なんだこの写真は⁉︎」

「あら、可愛らしい寝顔ですね」

「み、見るなお前ら‼︎」

 

顔を真っ赤にして慌てふためいてるのは武蔵の方だった。

 

「あ、あいつ……‼︎ちょっと文句を言ってくる!」

「ダメですよ、武蔵さん」

「そうよ。先に提督を照れさせようとしたのはあなたの方じゃない」

「ぐぬぬっ……‼︎」

 

武蔵が悔しがってると、もう一枚写真が送られてきた。

私と武蔵がほとんど同じ格好で寝ている写真だ。………そういえば、1日目の夜に提督が用を足してる所を見てつい逃げて有耶無耶になっちゃったけど、シャッター音が聞こえたんだったわ………‼︎

 

「…………武蔵」

「行くぞ、大和」

「二人とも。ほどほどにして下さいね」

 

私と武蔵は、五千円札を鳳翔さんに渡すと、店を出て行った。

 

 


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