夜中。天井を直すことをすっかり忘れていた俺の所為で、大和さんと武蔵さんは今日も俺の部屋で寝泊まりする。
俺は寝転がってテレビを見ていた。すると、大和さんと武蔵さんが部屋に入って来た。
「ただいまー♪」
「ふぅ、いいお湯だった……」
ただいまー♪じゃねぇよ。ここお前らの部屋じゃねぇぞ。完全に何か勘違いしてない?
「何見てるんですか?」
「ニュース」
「あら意外ですね」
「それどういう意味だ。ニュースくらい見るだろ」
時刻は10時前。欠伸しながらテレビを見てると、ニュースが終わった。
『この後は、本当にあったら怖いは』
直後、俺はテレビを切った。そして、布団の中に入った。
「さ、明日早いし、寝ますか」
「見ないのか?あのテレビ」
「見ません」
武蔵さんに聞かれ、即答した。
「なんでだ?いや、見る理由ないでしょ。ほら、仕事がアレだし。意味わからん」
「お前の言ってることが意味わからんぞ」
「いや、てか明日早いし。ね?寝ましょう?もしアレなら俺、外で寝ますから」
「いや、別に追い出すつもりはないが……」
すると、大和さんが意地悪い笑みを浮かべた。
「もしかして、提督……怖いんですか?」
「………はっ?」
いきなり何を言いだすんだよ、この人。てか、何その顔。腹立つ。
「怖いから見たくないんですよね?提督?」
「ち、違うから」
普段の俺なら認めていた。だが、この笑みは認めたら、からかうつもりだ。
「だったら見ましょうよ」
「明日は朝早いっつってるでしょ」
「明日はゆっくり寝るかーとかさっき言ってたじゃないですか」
「明日は演習入ってるんですよ。万が一、寝坊したら」
「大淀さんから提督がいない時に、向こうの提督が風邪引いたと連絡があったそうですよ」
おい、そういうことなんで早く伝えないの。聞いてないよ俺。
「見たくないんです!寝させて下さい!」
「とうとう本音を言いましたね?」
くっ、なんて楽しそうな顔と声だ!普段の仕返しをするつもりだな⁉︎
「とにかく、絶対見ないからな!」
「まぁ、そう興奮するな提督よ」
後ろから武蔵さんに抱き着かれた。背中ですごいパイ圧を感じ、思わず気が抜けた所に武蔵さんが後ろから囁いた。
「こうしてれば逃げられないだろう?」
「何が興奮するな、だ⁉︎ふざけんな!離せクソメガネ‼︎」
「………生意気な口を叩くのはこの口か?」
「ひ、痛ひ痛ひ!頬を引っふぁるな‼︎」
こ、この女……!おっぱいがすごくて抵抗できねえだろうが‼︎
すると、大和さんが俺を武蔵さんがひっぺがした。
「む、武蔵!ふしだらですよ!」
そうだそうだ!言ってやれ大和さん!
「ふむ、しかしこうでもしないと、提督は逃げるぞ」
「で、でも……‼︎だからってそんな……!」
「なら、大和もやれば良い」
いやいやいや、大和さんはそういうことしないでしょう。いいから早く手を離してくれませんか、大和さん。
と、思ったら、大和さんは俺の手を引き、自分の膝の上に乗せた。
「………あの、大和さん?何して」
「今こっち見たら殺します!」
「こ、殺……⁉︎」
ぎゅうううっと俺の背中を締めて、背中に顔を押し付けてくる大和さん。
「………よし、落ち着いた」
こっちが落ち着かねえよ。
「ほ、本当に見るんですか……?見たければ二人で見てくださいよ」
「ダーメです。私達の提督がお化けなんかを恐れてるようじゃ、ダメですから」
「いや、お化けは誰でも怖がると思うんですけど……」
「大丈夫です。大和も武蔵も付いてますから」
そう言われてしまうと、こっちとしても頷かざるを得ない。
「じゃ、テレビつけましょうか」
「おい待て!心の準備を!」
「武蔵、テレビ。私、抑えてるから」
「うむ」
「おい待て!待って下さいお願いします!」
無情にも、テレビの電源はつけられた。
++++
本当にあったら怖い話、というだけあって、本当に内容はリアリティがあり無駄に怖かった。
掻い摘んで説明すると、森の中で動物を殺すと森の中から永遠に抜け出せなくなったり、畑のカカシを抜いてストレス発散にボコボコにすると、翌日、自分が骨だけになってカカシになっていたり、自分の今までの思い出が、なぜか全部月島さんのおかげになっていたりといった感じだ。これらにもう少し肉を付けて、怖さを演出しているから、怖い事は怖かった。
だが、俺は別に超ビビるほど問題はなかった。怖い話というのは、俺が思うに「アレが自分だったらどうしよう」という思いから恐怖を感じるものである。最後のはともかく、基本的にどの話も、主人公の自業自得で痛い目にあってるだけなので、あんな目に遭う事はまずあり得ない。
だから、眠れなくなるほどではないのだが、俺は今眠れそうになかった。
「………て、ていとくぅ……」
後ろで俺に抱き着いてる大和さんが、すごい動揺してるからだ。涙目でガクガク震えながら俺を、さっきまでとは違う意味で抱き締めている。
「………あの、大和さん。もうそろそろ寝たいんですけど」
「ま、待って下さい……!もう少し……!」
「……………」
大体、俺に抱きついてたって何も変わりゃしねーぞ。
「む、武蔵さぁん………」
「zzz………」
寝てるよ……メガネつけたまま。後で外して写真を撮ってやろう。
「………あの、とりあえず寝ません?」
「…………無理です」
「だ、大丈夫ですよ。ほら、寝ちゃえば気付いたら明日になりますし」
「寝てる間に襲われたらどうするんですか⁉︎」
「え?それ俺の事?俺の事じゃないだろうな」
こ、この人は……。まぁ、お化けに襲われると前向きに解釈しよう。
「大丈夫です、大和さん。世の中に幽霊もお化けもいません」
「そんなの分からないじゃないですか‼︎」
「いや、俺試したんですって。一回、中学の時に学校に忘れものして。取りに行ったんですよね」
俺の話を聞いてるかは分からんが、とりあえず締め上げる腕は止まった。
「最初はビクビクしてましたけど、何も出て来ないまま教室に着いちゃったんですよね。忘れ物回収して、あまりにも暇だったんで、そのまま学校の中を探検しながらゲームやったんですよ。勇生やりながら」
「何やってるんですか……」
「で、結局何も出なくて、学校出て帰ろうとした時………昇降口付近に赤いスカートを履いた女の子の姿が______」
「キャアアアアアアア⁉︎⁉︎⁉︎」
「ゴフッ‼︎」
思いっきり締められ、俺は横に倒れた。当然、大和さんも俺を抱きしめたまま、横に倒れる。
「なんで……!なんで怖い話するんですか⁉︎」
「いや、ちょっと面白いなーって……」
「バカバカバカァ!提督のバカ‼︎」
「まぁ、その女の子結局、クラスの子で俺と同じ忘れ物取りに来ただけだったんですけどね」
「ホッ………」
「で、俺その時に悲鳴を上げ掛けて尻餅ついて、次の日から『チキンリトル』ってあだ名をつけられ………」
アレ、おかしいな……目から汗が………。あの時、嬉々として俺をチキンリトルと呼ぶみんなが怖かったよ。
大和さんが俺の頭をポンポンと撫でてくれた。
「………寝ましょうか。提督」
「…………うん」
「……あの、提督?」
「なんすか」
「このまま寝ても……よろしいでしょうか?」
「え、このまま寝るでしょ?またシャワー浴びたりするんですか?」
「いえ、そういうことではなくて……その…………抱き締めたままで………」
「……………は?」
「ダメ、ですか………?」
「や、ダメってことないけど………」
それ俺寝れんの?色んな意味で起き上がっちゃって眠れねーよ。
「じ、じゃ、提督……おやすみなさい……」
「お、おう……?」
大和さんは目を閉じた。俺も寝る事にした。
++++
夜中。寝てると、頭上でギシッという音がして目を覚ました。薄眼を開けて見ると、大和さんが部屋を出ようとしていた。
………なんかあったのか?どうしようか迷ったものの、聞いてみた。
「………やぁまとさぁ〜ん」
「ひゃうっ⁉︎」
なんとなく幽霊みたいな声で言うと、大和さんはその場で座り込んでしまった。
「て、提督⁉︎驚かさないで下さいよ!」
「どこ行くんですか?」
「お手洗いです」
「…………一人で行ける?」
「ば、馬鹿にしないでください‼︎」
そう言うと、大和さんは部屋を出て行った。
何となく気になったので、俺は部屋から顔を出した。寝間着姿の大和さんが廊下を恐る恐る歩く背中に向かって、俺は叫んだ。
「ッアーーーーーーーーーーッッ‼︎(すごい裏声)」
直後、ビクビクッと肩が跳ね上がって、腰を抜かしたように後ろにヘタリ込む大和さん。
キッ!と涙目で俺を睨んだ。
「なっ……て、ていとくッ‼︎」
「俺も行きますから。待ってて下さい」
「………す、すみません……」
俺は立ち上がり、充電ケーブルからスマホを抜くと、武蔵さんの眼鏡を外し、寝顔を写真撮ると、大和さんの後を追った。
「…………武蔵に殺されても知りませんよ」
「大丈夫でしょ」
後でこの写真送ってやろう、なんて考えながら、大和さんとトイレに向かった。
大鳳さんほど子供ではないのか、俺の腕にしがみついてくるような事はなかった。だが、しっかりと俺の後ろにくっ付いている。
ちなみに、俺はといえば、前の時のおしっこ事件の所為で、夜中のトイレは怖いもの、というより業の深いもの、という風に脳内でインプットされてしまっていたので、まるで怖くなかった。なので、
「あっ!」
「っ⁉︎ な、なんですか⁉︎」
「いや、なんでもないです」
「も、もうっ!驚かさないで下さいよ‼︎」
と、いう風に全身全霊でからかっている。
はい、小学生の時はリアルいじめっ子だった俺が、「これ、Bダッシュをかましたらどうなるんだろうか」という案を思い浮かべたことを、誰が責められよう。
俺はクラウチングスタートの姿勢をとった。
「て、提督………?」
「トランザム‼︎」
「ち、ちょっと⁉︎」
全力で走り出した。
「ち、ちょっとー!なんで投げるんですかー⁉︎」
「アーアアー、アーアアー、アーアーアーアアー、アーアアー」
「何の歌ですか⁉︎」
涙目で追いかけて来る大和さん。仮にも軍人だ、簡単に捕まってたまるか!と、思ったら、ツルッ、と。ツルッと足を滑らせ、俺は盛大にすっ転んだ。
その俺に駆け寄る大和さん。
「も、もう!どうして逃げるんですか‼︎」
「い、いや……ちょっとノリで………」
「やめて下さい!本当に‼︎怖いんですから‼︎」
怖いって言っちゃったよ……。てか泣いてるし。
「ああもう、分かりましたよ……」
これ以上、いじめるのは気が引ける。なんか怒ってくれないし、俺がちょっかいを出す理由もない。
さっきよりへっぴり腰になって、大和さんは俺の腕にしがみつきながら付いてきた。
「…………逃げないでよ」
「分かってますよ……」
ビビり過ぎてタメ口になっちゃってるしよ……。
その直後、耳の良い俺の耳に、嫌な音が聞こえた。ひたっ、ひたっ……と、裸足の足音だ。
「………」
「……どうかしました?提督?」
………大和さんには聞こえていない。いや、普通に俺の耳がよすぎるだけか。このスキルの所為で悪口もよく聞こえちゃうんだよなぁ……。
って、嫌な思い出に浸ってる場合じゃない。
「…………いや、なんでもないです」
「お、脅かそうったって無駄ですからね⁉︎」
「いや、俺も少しビビってるんですけど」
しまった、お化けフラグが建ったか……。お化けフラグとは、お化けを信用してなかったり、お化けに怯えてる奴を馬鹿にすると建つフラグで、お化けに襲われやすくなるのだ。嫌な奴ほど、そのまま消滅する可能性が高い。
………どうやら、俺は大和さんをいじめ過ぎたらしい。……仕方ないか、これは俺が呼び寄せた霊だ。俺は、前に大鳳さんを襲撃した曲がり角を曲がり、壁沿いに張り付いた。その後ろについてくる大和さん。
「………て、提督?」
「後ろから誰かついて来てます」
「⁉︎ な、何してるんですか⁉︎逃げないと……‼︎」
「迎え撃つ」
「し、正気で……むぐっ!」
「静かに」
大和さんの口を塞いだ。ひたっひたっ……と足音は近づいてくる。
____________顔を出した瞬間に狩る‼︎
「…………」
「…………?」
足音が、消えた……?壁から向こうの様子を覗き見た直後、
「何してるんですかー?」
「ひゃあああああああああ‼︎」
「ァーーーーーーーーーッ‼︎」
背後から声が聞こえ、俺も大和さんも腰を抜かして倒れこんだ。
ハッと見上げると、伊401さんがキョトンと首を傾げていた。
「い、伊401……さんっ?」
「しおいで良いよ。提督、大和さん。何してるんですか?」
「………いや、と、といれに……行こうと、おもって……」
「そうですかー。私もトイレに行こうと思ってたんです!一緒に行っても良いですか?」
「は、はい……お願いします………」
「………?」
「や、大和さん!早く、行きましょう!」
「……………(気絶)」
「や、大和さん⁉︎やま……あっ、」
大和さんの足元に、黄色い水溜りがある事に気付いた。
「………し、しおいさん」
「何ですかー?」
「先にお手洗い行っててくれませんか?」
「? 何でですか?」
「いや、大和さん寝ちゃったみたいだから、部屋に送って来ます」
「分かりました。じゃあ、おやすみなさい、提督!」
しおいさんは楽しそうにトイレに行った。
俺は大和さんを部屋まで運ぶと、ブッ殺される覚悟決めると共に、大和さんの名誉を守るために大和さんを着替えさせた。そして、廊下の黄色い水溜りを全部拭き、俺はその場で寝てしまった。