俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第12話 護るべき物

 

 

夜中。天井を直すことをすっかり忘れていた俺の所為で、大和さんと武蔵さんは今日も俺の部屋で寝泊まりする。

俺は寝転がってテレビを見ていた。すると、大和さんと武蔵さんが部屋に入って来た。

 

「ただいまー♪」

「ふぅ、いいお湯だった……」

 

ただいまー♪じゃねぇよ。ここお前らの部屋じゃねぇぞ。完全に何か勘違いしてない?

 

「何見てるんですか?」

「ニュース」

「あら意外ですね」

「それどういう意味だ。ニュースくらい見るだろ」

 

時刻は10時前。欠伸しながらテレビを見てると、ニュースが終わった。

 

『この後は、本当にあったら怖いは』

 

直後、俺はテレビを切った。そして、布団の中に入った。

 

「さ、明日早いし、寝ますか」

「見ないのか?あのテレビ」

「見ません」

 

武蔵さんに聞かれ、即答した。

 

「なんでだ?いや、見る理由ないでしょ。ほら、仕事がアレだし。意味わからん」

「お前の言ってることが意味わからんぞ」

「いや、てか明日早いし。ね?寝ましょう?もしアレなら俺、外で寝ますから」

「いや、別に追い出すつもりはないが……」

 

すると、大和さんが意地悪い笑みを浮かべた。

 

「もしかして、提督……怖いんですか?」

「………はっ?」

 

いきなり何を言いだすんだよ、この人。てか、何その顔。腹立つ。

 

「怖いから見たくないんですよね?提督?」

「ち、違うから」

 

普段の俺なら認めていた。だが、この笑みは認めたら、からかうつもりだ。

 

「だったら見ましょうよ」

「明日は朝早いっつってるでしょ」

「明日はゆっくり寝るかーとかさっき言ってたじゃないですか」

「明日は演習入ってるんですよ。万が一、寝坊したら」

「大淀さんから提督がいない時に、向こうの提督が風邪引いたと連絡があったそうですよ」

 

おい、そういうことなんで早く伝えないの。聞いてないよ俺。

 

「見たくないんです!寝させて下さい!」

「とうとう本音を言いましたね?」

 

くっ、なんて楽しそうな顔と声だ!普段の仕返しをするつもりだな⁉︎

 

「とにかく、絶対見ないからな!」

「まぁ、そう興奮するな提督よ」

 

後ろから武蔵さんに抱き着かれた。背中ですごいパイ圧を感じ、思わず気が抜けた所に武蔵さんが後ろから囁いた。

 

「こうしてれば逃げられないだろう?」

「何が興奮するな、だ⁉︎ふざけんな!離せクソメガネ‼︎」

「………生意気な口を叩くのはこの口か?」

「ひ、痛ひ痛ひ!頬を引っふぁるな‼︎」

 

こ、この女……!おっぱいがすごくて抵抗できねえだろうが‼︎

すると、大和さんが俺を武蔵さんがひっぺがした。

 

「む、武蔵!ふしだらですよ!」

 

そうだそうだ!言ってやれ大和さん!

 

「ふむ、しかしこうでもしないと、提督は逃げるぞ」

「で、でも……‼︎だからってそんな……!」

「なら、大和もやれば良い」

 

いやいやいや、大和さんはそういうことしないでしょう。いいから早く手を離してくれませんか、大和さん。

と、思ったら、大和さんは俺の手を引き、自分の膝の上に乗せた。

 

「………あの、大和さん?何して」

「今こっち見たら殺します!」

「こ、殺……⁉︎」

 

ぎゅうううっと俺の背中を締めて、背中に顔を押し付けてくる大和さん。

 

「………よし、落ち着いた」

 

こっちが落ち着かねえよ。

 

「ほ、本当に見るんですか……?見たければ二人で見てくださいよ」

「ダーメです。私達の提督がお化けなんかを恐れてるようじゃ、ダメですから」

「いや、お化けは誰でも怖がると思うんですけど……」

「大丈夫です。大和も武蔵も付いてますから」

 

そう言われてしまうと、こっちとしても頷かざるを得ない。

 

「じゃ、テレビつけましょうか」

「おい待て!心の準備を!」

「武蔵、テレビ。私、抑えてるから」

「うむ」

「おい待て!待って下さいお願いします!」

 

無情にも、テレビの電源はつけられた。

 

 

++++

 

 

本当にあったら怖い話、というだけあって、本当に内容はリアリティがあり無駄に怖かった。

掻い摘んで説明すると、森の中で動物を殺すと森の中から永遠に抜け出せなくなったり、畑のカカシを抜いてストレス発散にボコボコにすると、翌日、自分が骨だけになってカカシになっていたり、自分の今までの思い出が、なぜか全部月島さんのおかげになっていたりといった感じだ。これらにもう少し肉を付けて、怖さを演出しているから、怖い事は怖かった。

だが、俺は別に超ビビるほど問題はなかった。怖い話というのは、俺が思うに「アレが自分だったらどうしよう」という思いから恐怖を感じるものである。最後のはともかく、基本的にどの話も、主人公の自業自得で痛い目にあってるだけなので、あんな目に遭う事はまずあり得ない。

だから、眠れなくなるほどではないのだが、俺は今眠れそうになかった。

 

「………て、ていとくぅ……」

 

後ろで俺に抱き着いてる大和さんが、すごい動揺してるからだ。涙目でガクガク震えながら俺を、さっきまでとは違う意味で抱き締めている。

 

「………あの、大和さん。もうそろそろ寝たいんですけど」

「ま、待って下さい……!もう少し……!」

「……………」

 

大体、俺に抱きついてたって何も変わりゃしねーぞ。

 

「む、武蔵さぁん………」

「zzz………」

 

寝てるよ……メガネつけたまま。後で外して写真を撮ってやろう。

 

「………あの、とりあえず寝ません?」

「…………無理です」

「だ、大丈夫ですよ。ほら、寝ちゃえば気付いたら明日になりますし」

「寝てる間に襲われたらどうするんですか⁉︎」

「え?それ俺の事?俺の事じゃないだろうな」

 

こ、この人は……。まぁ、お化けに襲われると前向きに解釈しよう。

 

「大丈夫です、大和さん。世の中に幽霊もお化けもいません」

「そんなの分からないじゃないですか‼︎」

「いや、俺試したんですって。一回、中学の時に学校に忘れものして。取りに行ったんですよね」

 

俺の話を聞いてるかは分からんが、とりあえず締め上げる腕は止まった。

 

「最初はビクビクしてましたけど、何も出て来ないまま教室に着いちゃったんですよね。忘れ物回収して、あまりにも暇だったんで、そのまま学校の中を探検しながらゲームやったんですよ。勇生やりながら」

「何やってるんですか……」

「で、結局何も出なくて、学校出て帰ろうとした時………昇降口付近に赤いスカートを履いた女の子の姿が______」

「キャアアアアアアア⁉︎⁉︎⁉︎」

「ゴフッ‼︎」

 

思いっきり締められ、俺は横に倒れた。当然、大和さんも俺を抱きしめたまま、横に倒れる。

 

「なんで……!なんで怖い話するんですか⁉︎」

「いや、ちょっと面白いなーって……」

「バカバカバカァ!提督のバカ‼︎」

「まぁ、その女の子結局、クラスの子で俺と同じ忘れ物取りに来ただけだったんですけどね」

「ホッ………」

「で、俺その時に悲鳴を上げ掛けて尻餅ついて、次の日から『チキンリトル』ってあだ名をつけられ………」

 

アレ、おかしいな……目から汗が………。あの時、嬉々として俺をチキンリトルと呼ぶみんなが怖かったよ。

大和さんが俺の頭をポンポンと撫でてくれた。

 

「………寝ましょうか。提督」

「…………うん」

「……あの、提督?」

「なんすか」

「このまま寝ても……よろしいでしょうか?」

「え、このまま寝るでしょ?またシャワー浴びたりするんですか?」

「いえ、そういうことではなくて……その…………抱き締めたままで………」

「……………は?」

「ダメ、ですか………?」

「や、ダメってことないけど………」

 

それ俺寝れんの?色んな意味で起き上がっちゃって眠れねーよ。

 

「じ、じゃ、提督……おやすみなさい……」

「お、おう……?」

 

大和さんは目を閉じた。俺も寝る事にした。

 

 

++++

 

 

夜中。寝てると、頭上でギシッという音がして目を覚ました。薄眼を開けて見ると、大和さんが部屋を出ようとしていた。

………なんかあったのか?どうしようか迷ったものの、聞いてみた。

 

「………やぁまとさぁ〜ん」

「ひゃうっ⁉︎」

 

なんとなく幽霊みたいな声で言うと、大和さんはその場で座り込んでしまった。

 

「て、提督⁉︎驚かさないで下さいよ!」

「どこ行くんですか?」

「お手洗いです」

「…………一人で行ける?」

「ば、馬鹿にしないでください‼︎」

 

そう言うと、大和さんは部屋を出て行った。

何となく気になったので、俺は部屋から顔を出した。寝間着姿の大和さんが廊下を恐る恐る歩く背中に向かって、俺は叫んだ。

 

「ッアーーーーーーーーーーッッ‼︎(すごい裏声)」

 

直後、ビクビクッと肩が跳ね上がって、腰を抜かしたように後ろにヘタリ込む大和さん。

キッ!と涙目で俺を睨んだ。

 

「なっ……て、ていとくッ‼︎」

「俺も行きますから。待ってて下さい」

「………す、すみません……」

 

俺は立ち上がり、充電ケーブルからスマホを抜くと、武蔵さんの眼鏡を外し、寝顔を写真撮ると、大和さんの後を追った。

 

「…………武蔵に殺されても知りませんよ」

「大丈夫でしょ」

 

後でこの写真送ってやろう、なんて考えながら、大和さんとトイレに向かった。

大鳳さんほど子供ではないのか、俺の腕にしがみついてくるような事はなかった。だが、しっかりと俺の後ろにくっ付いている。

ちなみに、俺はといえば、前の時のおしっこ事件の所為で、夜中のトイレは怖いもの、というより業の深いもの、という風に脳内でインプットされてしまっていたので、まるで怖くなかった。なので、

 

「あっ!」

「っ⁉︎ な、なんですか⁉︎」

「いや、なんでもないです」

「も、もうっ!驚かさないで下さいよ‼︎」

 

と、いう風に全身全霊でからかっている。

はい、小学生の時はリアルいじめっ子だった俺が、「これ、Bダッシュをかましたらどうなるんだろうか」という案を思い浮かべたことを、誰が責められよう。

俺はクラウチングスタートの姿勢をとった。

 

「て、提督………?」

「トランザム‼︎」

「ち、ちょっと⁉︎」

 

全力で走り出した。

 

「ち、ちょっとー!なんで投げるんですかー⁉︎」

「アーアアー、アーアアー、アーアーアーアアー、アーアアー」

「何の歌ですか⁉︎」

 

涙目で追いかけて来る大和さん。仮にも軍人だ、簡単に捕まってたまるか!と、思ったら、ツルッ、と。ツルッと足を滑らせ、俺は盛大にすっ転んだ。

その俺に駆け寄る大和さん。

 

「も、もう!どうして逃げるんですか‼︎」

「い、いや……ちょっとノリで………」

「やめて下さい!本当に‼︎怖いんですから‼︎」

 

怖いって言っちゃったよ……。てか泣いてるし。

 

「ああもう、分かりましたよ……」

 

これ以上、いじめるのは気が引ける。なんか怒ってくれないし、俺がちょっかいを出す理由もない。

さっきよりへっぴり腰になって、大和さんは俺の腕にしがみつきながら付いてきた。

 

「…………逃げないでよ」

「分かってますよ……」

 

ビビり過ぎてタメ口になっちゃってるしよ……。

その直後、耳の良い俺の耳に、嫌な音が聞こえた。ひたっ、ひたっ……と、裸足の足音だ。

 

「………」

「……どうかしました?提督?」

 

………大和さんには聞こえていない。いや、普通に俺の耳がよすぎるだけか。このスキルの所為で悪口もよく聞こえちゃうんだよなぁ……。

って、嫌な思い出に浸ってる場合じゃない。

 

「…………いや、なんでもないです」

「お、脅かそうったって無駄ですからね⁉︎」

「いや、俺も少しビビってるんですけど」

 

しまった、お化けフラグが建ったか……。お化けフラグとは、お化けを信用してなかったり、お化けに怯えてる奴を馬鹿にすると建つフラグで、お化けに襲われやすくなるのだ。嫌な奴ほど、そのまま消滅する可能性が高い。

………どうやら、俺は大和さんをいじめ過ぎたらしい。……仕方ないか、これは俺が呼び寄せた霊だ。俺は、前に大鳳さんを襲撃した曲がり角を曲がり、壁沿いに張り付いた。その後ろについてくる大和さん。

 

「………て、提督?」

「後ろから誰かついて来てます」

「⁉︎ な、何してるんですか⁉︎逃げないと……‼︎」

「迎え撃つ」

「し、正気で……むぐっ!」

「静かに」

 

大和さんの口を塞いだ。ひたっひたっ……と足音は近づいてくる。

____________顔を出した瞬間に狩る‼︎

 

「…………」

「…………?」

 

足音が、消えた……?壁から向こうの様子を覗き見た直後、

 

「何してるんですかー?」

「ひゃあああああああああ‼︎」

「ァーーーーーーーーーッ‼︎」

 

背後から声が聞こえ、俺も大和さんも腰を抜かして倒れこんだ。

ハッと見上げると、伊401さんがキョトンと首を傾げていた。

 

「い、伊401……さんっ?」

「しおいで良いよ。提督、大和さん。何してるんですか?」

「………いや、と、といれに……行こうと、おもって……」

「そうですかー。私もトイレに行こうと思ってたんです!一緒に行っても良いですか?」

「は、はい……お願いします………」

「………?」

「や、大和さん!早く、行きましょう!」

「……………(気絶)」

「や、大和さん⁉︎やま……あっ、」

 

大和さんの足元に、黄色い水溜りがある事に気付いた。

 

「………し、しおいさん」

「何ですかー?」

「先にお手洗い行っててくれませんか?」

「? 何でですか?」

「いや、大和さん寝ちゃったみたいだから、部屋に送って来ます」

「分かりました。じゃあ、おやすみなさい、提督!」

 

しおいさんは楽しそうにトイレに行った。

俺は大和さんを部屋まで運ぶと、ブッ殺される覚悟決めると共に、大和さんの名誉を守るために大和さんを着替えさせた。そして、廊下の黄色い水溜りを全部拭き、俺はその場で寝てしまった。

 

 


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