俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第9話 固い絆

 

 

夜中、自室を出て俺はトイレに向かおうとした。のだが、

 

「…………うおお」

 

何これ。夜の鎮守府の廊下ってこんな暗いのか。電気とか全然ついてない。

まぁ、俺はお化けとか信じてないから。ただの暗闇くらいなら余裕だから。さっさとトイレに行こう。

暗い廊下を歩いて、スマホのライトを頼りにトイレに進む。

…………うん、怖くないよ?怖くないけど、アレだよね。ちょっと鬼気迫るというか……何も出ないって分かってても……その、なんだ?ちょっと雰囲気あるよね。

 

「っ⁉︎」

 

コツコツ、と足音が聞こえた。思わず腰を抜かしそうになった。なんだよ、誰だよこんな時間に!悲鳴あげそうになっちゃったじゃねぇか‼︎

足音は前から聞こえて来る。や、ヤバイ……みんなこの時間はもう寝てるはずだ……!って事は、何者かが侵入してきたかお化けか………‼︎でも、膀胱も既に限界近い……‼︎

上等だ、お化けだろうがなんだろうがやったんぞコラァッ‼︎こう見えて軍の中で武器無しの武術なら三番目に強ぇんだぞコラァッ‼︎

足音は前方から聞こえてくるが、前には右に曲がる道がある。俺は壁に沿って歩き、右に曲がる道の直前で止まった。足音は右側から聞こえてくる。

 

「………」

 

姿が見えたら奇襲する……‼︎

コツコツ、と足音を聞きながら、敵と自分の距離を掴む。

…………ここだ‼︎

 

「死ねやお化けがああああああああ‼︎」

「きゃあああああああああああああ⁉︎」

 

げっ、た、大鳳さん⁉︎

ドロップキックを無理矢理、大鳳さんから避ける為、空中で脚を曲げた。結果、壁に脚を強打し、頭から床に落ちた。

 

「ぬッ……おお………⁉︎」

「て、提督⁉︎だ、大丈夫っていうか、何してるんですか⁉︎」

 

大鳳さんがしゃがんで、俺のおでこを撫でてくれる。俺は起き上がった。

 

「っ⁉︎」

 

やっべ、足捻った臭いなこれ……。けど、早くトイレに……!

 

「す、すいません。お化けだと思って……じゃ、あの……トイレ行くんで」

「ま、待って下さい!」

「うぇい⁉︎」

 

大鳳さんに後ろから声を掛けられた。

 

「あ、あのっ……わ、私も、トイレに行きたくて……!だけど、いや怖くないんですけどね⁉︎怖くはないんですけど……不安なので……一緒に行っていただけませんか?」

 

怖がってんじゃん。まぁ、怖がってるなら声なんてかけてこないだろうし、というか怖がっててそれどころじゃないだろうし、別に良いか。

 

「把握」

「は、把握?」

「あ、いや、い、行きましょうか」

 

そんなわけで、二人でトイレに向かった。

………あの、大鳳さん?あまり、俺の腕にしがみつかないでくれません?歩きにくいんですけど。

まぁ、そう思っても言えないのか俺だ。この貧乳とはいえ柔らかいものが当たってる感触を楽しみたいのではなく、怖がってる子に歩きにくいというこちらの事情だけで引き離すのは気が引けるということだ。

そのままトイレの前に到着した。ここからは別行動だろう。

 

「………………」

「………………」

 

一切動こうとしない大鳳さん。

 

「………あの、着きましたよ?」

「は、早く女子トイレに入って下さい!」

「はっ?」

 

お前今なんつった?

 

「いや、流石にそれは………」

「ひ、一人で行けと言うんですか⁉︎」

「え、そりゃそうだと、思いますが……」

 

思いますが、ってなんだ。自分のことだろうが、俺。

自分のコミュ障につくづく呆れてると、大鳳さんが俺の胸ぐらを掴んで自分の顔の前に引き寄せた。ちょっ、近い近い近い良い匂い!なんでうちの艦娘はみんな良い匂いすんの?

で、大鳳さんはすごい剣幕で俺に怒鳴った。

 

「バカな事を言わないで下さい‼︎花子さんが出たらどうするんですか⁉︎」

 

はい、この時、俺の中の「コミュ障メーター」を「こいつバカじゃねぇの?メーター」がブチ抜いた。

仮にも、いや仮じゃないけど装甲空母がビビり過ぎだろ。

 

「分かった、分かりましたよ……」

「では、早く来て下さい!」

 

ちょっ、胸ぐらを引っ張るな!

そのまま、深夜の女子トイレに女の子と入った。だからこれどんなプレイだよ。

 

「い、良いですか⁉︎絶対に待ってて下さいね!」

「分かりましたって」

 

大鳳さんは個室の中に入って行った。その直後、ギィッと女子トイレの扉が開く音がした。

 

「ッ⁉︎」

「ちょっ、ていと……キャアッ⁉︎」

 

慌てて俺は大鳳さんを押し込んで個室に逃げ込んだ。

 

「て、提督何を……ングッ」

 

大鳳さんの口を塞ぎ、ポケットのスマホを取り出し、ホーム画面を下にスワイプして検索画面に文字を打ち込んだ。

 

『誰か入って来た。ちょい黙って』

 

それを見せた直後、個室のドアの向こうから声が聞こえてきた。

 

「提督?……あれ、おかしいわね。さっきここに入るのが見えたんだけど………」

 

大和さんかよおおおおおおお‼︎なんなんだあの人は!タイミング悪いどころの騒ぎじゃねぇぞ⁉︎

すると、全てを察してくれたのか、大鳳さんが俺スマホを取り上げて文字を打って画面を見せてきた。

 

『あの、私、もう限界なんですが』

 

気が付けば、涙目でふるふると震えていた。

 

『すればいいじゃん』

『提督の前で脱げと⁉︎』

『女子トイレに男を連れ込んだ奴の台詞か。子供の放尿見ても何も思わねえし、前向いてるから』

『子供じゃありませんし、放尿でもありません!』

『んなこと言ってるば

 

そこで、俺のスマホを打つ手が止まった。ほ、放尿じゃないの?………ってことは?

 

『うんこか?』

『ハッキリ言わないで下さい‼︎』

 

顔を真っ赤にして胸ぐらを掴まれた。すると、コンコンと後ろからノックの音が聞こえた。

 

「提督?いますよね?」

 

ビクゥッと俺と大鳳さんの肩が震えた。

 

『提督の所為ですよ⁉︎なんとかして下さい!』

『ふざけんな。そもそもお前が俺をこの中に入れたんだろうが!』

 

「提督?寝てる時に聞こえたシャッター音について聞きたいのですが?」

 

ちぇっ、俺か。

 

『待って下さい、提督。寝てる時のシャッター音ってどういう事ですか?』

 

「……………」

 

大鳳さんがゴミを見る目で俺を見ていた。嗚呼……なんかもうどう転んでも俺終わるじゃん……。

 

『後でその件は説明するから』

『………絶対吐かせますからね』

 

そうだ、まずはこの状況をどうにかしないと。考えろ、何とかなるはずだ。

刹那、思い付いた。これなら何とかなる。

 

『俺前向いてるから用を済ませて下さい。その間、俺は大和さんを話術で追い返す』

『ええっ⁉︎そんな無理でしょう⁉︎』

『漏らしたいのかお前は』

 

すると、大鳳さんは少し考え込んだ後、顔を真っ赤にしてスマホを見せてきた。

 

『絶対こっち見ないで下さいよ』

 

決まりだ。俺はドアの方を見て叫んだ。

 

「あ、えっと……大和さん?」

「あ、やっぱり提督でしたか。女子トイレで何やってるんですか?」

「は?女子トイレ?」

「ここ、女子トイレですよ?」

「……あー、マジか。すいません、寝ボケてたみたいで間違えました」

「まったく……誰かいたらどうするんですか?気を付けて下さい」

 

いや、誰かいるんですけどね?

しかし、我ながら自然な演技だ。役者になれば良かった。

すると、さっきまでと違って怒ってる時の声が聞こえてきた。

 

「で、先程のシャッター音はなんですか?」

 

………来たか。

 

「シャッター音って?」

「惚けないで。それで私、目が覚めたんですから。………せっかく提督とデートしてる夢が見れたのに」

「いや、知らないです」

「嘘をつかないで下さい。私は現に起きてます」

「いや、マジ知らないって」

「ならスマホを見せなさい」

「今持ってないんスよ、充電中」

「嘘です。充電ケーブルにスマホがありませんでした」

 

………やばい。バレバレも良いとこ。

 

「まぁいいです。それなら、強行突破するまでです」

 

その直後、バゴッ‼︎とすごい音が聞こえ、個室にヒビが入る。

俺も大鳳さんも顔を真っ青にする。

 

「ど、どうするんですか提督⁉︎(小声)」

「ッ………‼︎」

 

そうこうしてる間に、大和さんの撃滅のセカンドブリットがトイレのドアに追撃する。あれ、相当(怒)だな。

 

「背に腹は変えられん‼︎」

 

俺は後ろに振り返った。

 

「ッ⁉︎ッ⁉︎ッ⁉︎」

 

直後、大鳳さんが悲鳴をあげそうになったので、慌てて口を塞いだ。

そのまま、ズボンとパンツを少しズラし、大鳳さんと便器の隙間に放尿した。

その直後、バガァンッとトイレのドアが吹き飛んだ。

 

「さぁ、提督!逃がしませ……!」

 

大和さんの口が止まり、目を見開く。大和さんの目には、後ろを向いてる俺が放尿してるように見えただろう。

 

「…………あの、あんまジロジロ見ないでくんない」

 

徐々に、徐々に顔が真っ赤になり、やがて大和さんの顔はトマトかってレベルまで赤くなった。

 

「しっ、ししっ、しちゅれいしましたぁ〜〜〜ッ‼︎」

 

大声を上げて逃げて行った。

計画通り‼︎

…………さて、問題は山積みだ。俺は放尿を終えてズボンとパンツを上げると、大鳳さんが真っ赤な顔を手で覆って俯いていた。

 

「……………」

「……………」

 

俺も大鳳さんも何も喋らない。大鳳さんはズボンとパンツを上げようともしない。

こういう時、何を言えばいいのだろうか。コミュ障じゃなくても分からないだろう。だが、ただ黙っていれば、いずれ他の人が来るかもしれない。

 

「………あの、大鳳さん」

「……………」

「…………とりあえず、移動しましょう」

「……………」

「……………ほ、他の人が来るといけないから、」

「……………」

「……………」

 

………な、何か答えてよぅ……。俺だって恥ずかしかったんだから………。

 

「…………………して」

「へ?」

「……………説明して。一から、十まで。何がなんでどうなって、どういうつもりだったのか」

「…………わ、わかりました」

 

執務室に移動して、説明した。

この時間から、何か固い絆で結ばれた俺と大鳳さんは、少し仲良くなった。

 

 


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