俺は大和さんに怒られたい。   作:LinoKa

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第8話 過去最大に怖かった。

 

「大和さん、コーヒー飲みますか?」

「大和さん、肩揉みしましょうか?あ、セクハラなんてしませんから!そんな度胸ありませんし!」

「大和さん、もしアレなら全部俺が仕事やりますよ!あっちのソファーで休んでて下さい」

「……………」

 

俺は全力でノーパン大和さんを労っていた。が、大和さんは戸惑った表情で固まっていた。

 

「………あの、提督?どうかなさいましたか?」

「え?何が?どうもしませんが?」

「いえ、その……親切すぎて……」

「いやいや、全然いつも通りだから。何もないから」

「あの、何か変なものでも食べました?」

「は?全然?あ、りんご食べます?切りますよ」

「じ、じゃあ、その……お願いします……?」

 

困惑してる大和さんをよそに俺は立ち上がって、冷蔵庫に向かった。りんごを取り出すと、包丁で切り始めた。やったことないけど、まぁ大丈夫でしょ。

 

「あの、提督?普通にお願いしてしまいましたけど、皮剥けるんですか?」

「やったことないけど大丈夫でしょ」

「ええっ⁉︎」

 

りんごに包丁の刃を向け、見様見真似で親指でリンゴを回しながら(多分そんな感じな気がする)、固定させた包丁で切る。よし、手順は完璧だ(多分)。

早速、実行した直後、リンゴの皮を薄く小さく切って、包丁は素通りし、立てた親指にブッ刺さった。

ぶしーっ、と無情に流血する親指を無表情で眺めた。リンゴも包丁も俺の手も赤く染まっていき、それと共に俺の額に嫌な汗が溜まっていき、痛みが指全体に走った。

 

「…………」

 

………血が止まらないんですけど。あれ、やばくない?これ、やばくない?ウソ、これヤバくない⁉︎

 

「〜〜〜ッ⁉︎」

 

リンゴと包丁が手元から落ちた。

 

「提督?どうかなさいましたか?」

「えっ⁉︎何がッ⁉︎」

「え?いや、さっきから動きませんし、りんごと包丁落とされたのでどうしたのかと……」

「いや、全然大丈夫!何もないから!指なんて全然切ってないから‼︎」

 

思わず嘘をついた。だって、ダサ過ぎるじゃん。「大丈夫でそwww」とか余裕ぶっこいて、指切るんだよ?

 

「指切ったんですか⁉︎見せて下さい提督!」

「いや、切ってないから‼︎俺の強靭な身体に包丁の刃なんて刺さらな」

「いいから見せなさいッ‼︎」

「はい」

 

過去一番の怒声に、ノータイムで素直に頷いた。

寝坊した時よりも、スカートの中を見た時よりも、今朝のちょっかいで椅子を引いた時よりも、ずっと鋭い怒声が飛んできた。

未だ出血の止まらない俺の親指を握って、大和さんは傷口を見ると、自分の口で咥えた。

 

「っ⁉︎ や、大和さん⁉︎」

「ふぁふぁってててふだはい」

 

多分、「黙ってて下さい」だろう。でも、その、あなた今、ノーパンなんですよねぇ。あの、成人男性がノーパンの女性に指を咥えさせてると、その……高度なプレイみたいでちょっと恥ずかしいんですけど……。

すると、大和さんが俺の指から離れた。

 

「ふぅ……」

 

ふぅ、とか言うな。

大和さんは白とピンクのハンカチを取り出し、俺の指に強く当てた。圧迫止血という奴だ。あの、傷口をそんな風に握られると痛いんだけど。

 

「ていうか、あの、ハンカチ良いんですか?血が……」

「ジッとしてて下さい」

「いや動いてるの口だけなんですけど……」

「じゃあ黙ってて下さい」

 

あの、なんでそんな辛口なんですか……?

辛口大和さんは傷口をキュッとハンカチで縛ると、俺に言った。

 

「このまま10分間、血が止まるまでこうしてて下さい」

「あ、はい」

 

ああ……面倒をかけさせてしまった。なんか申し訳ない、ハンカチまでダメにしちゃって……。見栄張ってリンゴの皮なんて剥かなきゃよかった。結果的に指の皮剥いちゃったし。

 

「提督」

「はい」

「怪我したら隠さずに言ってください‼︎それと、出来ないのに無理して刃物を使わないで下さい‼︎」

「す、すいませんでした……」

「まったく………‼︎」

 

………なんか母親に怒られてる気分だ。はーあ、やっぱ見栄なんて張るもんじゃないな。

反省しながら、大和さんに舐められた指を眺めた。

 

「………痛むのですか?」

 

さっきとは違って、心配そうな顔で大和さんは俺を見た。

 

「いや、その……こんなに心配してくれると思わなくて……。俺の指を舐めてまで治療してくれたし、なんか意外で……」

「ーっ!」

 

言うと、大和さんは徐々に顔を赤くした。どうやら、今になって自分が俺の指を咥えた事に気付いたようだ。マズイな、流石に今日はこれ以上、からかう気にはなれない。

 

「あっ……!いやっ、えっと……!そ、それはですね⁉︎」

「なんか今まで怒られた中で一番怖かったし。あ、ハンカチまでダメにしてしまってすみません」

 

なんとか話を逸らしてみた。だが、大和さんは顔が赤いままだ。

 

「まずは洗い流さないといけないけど、周りに水が無かったものでして‼︎」

 

話が逸らせてなかった。

 

「ハンカチ、ちゃんと洗って返しますね」

「そ、それに唾液には殺菌作用があるらしいですし!」

「もしアレなら、新しいの買って返しますし」

「あ、あの時は提督の指の出血をなんとかすることだけを考えていましてね⁉︎」

「………今日、お昼何食べた?」

「決して、提督の指を舐めたかったわけじゃないんですよ⁉︎」

 

どんだけ言い訳してんの。少し可愛いんだけどこの人。

少し引いてると、ピーッという電子音が聞こえた。コーヒーができた音だ。

 

「コーヒー飲もっと。大和さんはブラックでしたっけ?」

「そ、そもそも提督が悪いんですからね⁉︎出来ないなら私が教えてあげたのに、わざわざ自分でやろうとして!」

「はいはい、ブラックね」

 

言い訳してる大和さんを無視して、大和さんの席に置いた。俺は、砂糖と牛乳をアホみたいに入れて混ぜて飲んだ。

 

「聞いてるんですか⁉︎提督!」

「あー聞いてる聞いてる」

 

生返事しながら、机に戻った。

 

 

++++

 

 

仕事が終わり、俺はスマホでゲームを始めた。大和さんは未だに指を舐めたのが恥ずかしかったのか、若干顔を赤らめていた。意外とこの人も引きずるタイプだなぁ。

すると、扉が開いた。武蔵さんが入ってきた。

 

「失礼する、提督」

「あ、武蔵さん。どうしました?」

「いや、提督の部屋に泊まらせてもらう件で少しな」

「はっ⁉︎」

 

ガタッ、と大和さんが立ち上がった。あー、そういや話して無かったっけ。

 

「ど、どういうことですか⁉︎提督‼︎」

「あー、いや……その、ちょっと色々あって、大和さんの部屋の天井に穴を開けちゃって……それで、今日は二人が俺の部屋を使って、俺は執務室のソファーで寝ようかなって思って」

「ああ、そういう……」

 

大和さんは一瞬、ほっと胸を撫で下ろした直後、すぐに表情を戻した。

 

「って、ダメですよ!上官をソファーに寝かせて私達が布団を使うなんて⁉︎」

「いや、気にしないでいいですよ。俺が悪いんですし」

「で、でも、そんな……‼︎」

「布団一人用だから、武蔵さんと共用じゃ狭いかもしれませんけど、そこは我慢してもらえませんか?」

「そ、そういう問題ではないです‼︎」

「俺が良いって言ってるんだから良いですよ」

「大和がよくありません‼︎」

 

うーん、この人ほんとにこういうところ固いよなぁ。

 

「………あ、いや良く考えたら執務室に布団あるわ。だから俺のことは気にしないで下さい‼︎」

「そんなすぐバレる嘘で誤魔化せると思わないで下さい‼︎」

 

デスヨネー。あー、マジでどうしよう。

 

「何、簡単な話だろう」

 

武蔵さんが口を挟んだ。

 

「布団を二枚並べて同じ部屋で寝ればよかろう?」

 

お前は真顔で何を言い出すんだ。

 

「無理無理無理無理!そんなん眠れませんから俺!」

「何、貴様がどんなに興奮して私達を襲おうと、100億%私達は負けない」

「そういう問題じゃなくて!倫理的風紀的憲兵的問題ですから!」

「私達が良いと言ってるんだ。後は周りの艦娘には内密にしておけば良かろう」

「〜〜〜っ!や、大和さん!何とか言って下さいよ‼︎」

「………わ、私は、別に……それでも………」

「や、大和さぁん⁉︎」

 

な、なんでモジモジしながら言うかなこの人……。ちょっとエロいんだけど。

大和さんの返事を聞いて、武蔵さんがまとめるように言った。

 

「決まりだな」

「えっ、ちょっ……」

「先に部屋に行って待っていてくれ。私と大和は風呂に入ってくる」

「待っ……」

 

俺の制止も聞かずに、武蔵さんは大和さんを連れて、執務室を出て行った。

…………よし、さっさと部屋に戻って風呂入って寝ちまおう!俺が先に寝ちまえばこっちのもんだよな‼︎

そう宣言して、俺は走って自室に向かった。

 

 

++++

 

 

夜中、俺は目を覚ました。どうやら、速攻風呂に入って、速攻寝る作戦は成功したようだ。

俺の右隣で大和さん、さらにその隣に武蔵さんが眠っていた。で、その……大和さん。なんでこっち向いて寝てるんですかね……。

寝間着の着物から谷間が見えてるんですが……。

あーいかんいかんいかん!見るな、俺!過去にこんな状況になったこと無いから、理性を抑えられる自信ないぞ‼︎

………にしても、だ。大和さんが寝てる姿は、それはもうエロい。色っぽい、という奴なのかもしれない。寝るときは横を向いて寝るようで、着物から片方の脚が出て、太過ぎず、細過ぎない良い感じにムッチリした太ももが月光を浴びている。

下から覗けば、パンツがギリギリ見えるか見えないかの辺りで着物が身体を覆っているが、ボンッキュッボンを絵に描いたようなお尻、腰回り、胸は着物の上からでも分かる。

胸前で両腕を重ねていて、呼吸をする度に体全体が大きくなったり小さくなったりする。

寝息を立てている大和さんの口は、口笛を吹く時のような形になって、形の良い唇から「すぅ、すぅ」と静かに息を漏らしていた。

 

「…………って、何観察してんだ俺」

 

とりあえず、寝てる姿を写真に収め、立ち上がった。そもそも、起きたのはトイレに行くためだ。

大和さんを跨いで、武蔵さんと大和さんの間に脚を入れ、今度は武蔵さんを跨ごうとした。

武蔵さんは武蔵さんで、眼鏡を外して寝ていた。眼鏡をしていると、キリッとして何処までもイケメンなのだが、外すと何処か、やはり妹なんだな、という感じの幼さが見える。寝間着は大和さんと同じ着物で、大和さんとほとんど同じ格好で寝ていた。

 

「…………やっぱ姉妹なんだなぁ」

 

二人仲良く寝ているところを写真撮った。これ、明日印刷して二人にあげ……いや、ぶっ殺されそうだから止めとこう。なんて思ってると、手からスマホが落ちてしまった。武蔵さんの足元に落下した。

 

「やっべ……」

 

仕方ないので、武蔵さんの足元に移動し、スマホを拾った。すると、武蔵さんが寝返りをうった。それと共に、武蔵さんの着物がはだける。

直後、武蔵さんの下半身が丸出し状態になった。それも、パンツをパイルダーオフしてる状態。

 

「ッ⁉︎」

 

こ、こいつ……⁉︎寝てる時は下着は履かないタイプなのか⁉︎そんなのがいるのは一部の男子だけだと思っていたが……‼︎

ああ……1日で大和型二人の股間を見てしまった……。見てしまった罪悪感と、この世で大和型の股間のコンプリートをしたのは俺だけだという高揚感が混ざり合った変な感情が胸の中で混ざり合ったが、とりあえずトイレに行きたいので部屋を出た。

_______________ちなみに、雑草は普通に生えてた。

 

 


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