ホグワーツでカンテレをかき鳴らしながら   作:零崎妖識

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ボートに乗って

ローブを着た後、必要な荷物──杖とチューリップハット、カンテレ──を持って廊下に出る。ハリーとロンが着替えるためにコンパートメントの中に戻って一分ほどで、残り五分で到着するとアナウンスがあった。

汽車が完全に停車して、人の波に押されて外に出る。小さくて暗いプラットホームだ。ホグズミード駅だっけ?

 

「イッチ年生!イッチ年生はこっち!」

 

遠くの方──先頭車両の方からハグリッドの声が聞こえる。大きなランプを持ってこちらに──ハリーに近づいて来るけど、私を見つけた途端に少しびっくりした顔を作った。

 

「さて、イッチ年生はこれで全部か?足元に気をつけてついてこい!」

 

ハグリッドが新入生の先頭に立ち歩き出す。狭く暗く、険しい小道。二年後に入学じゃなくて良かったよ。原作三巻の九月一日は大雨だったからね。

 

「みんな、ホグワーツがもうすぐ見えるぞ」

 

ハグリッドが振り返りながら言う。その言葉の通りに、すぐに黒い湖と、向こう岸のホグワーツ城が姿を現した。あちらこちらで歓声が上がっている。

 

「四人ずつボートに乗って!」

 

ハグリッドが岸辺に繋がれたボートを指差す。ハリーと一緒に乗ってもよかったんだけど、今回はハグリッドとご一緒させてもらうとしよう。原作では一人だったけど、別に私一人ぐらいなら沈みはしないはずだ。

 

「みんな乗ったか?よーし、では、進めぇ!」

 

何十艘ものボートが一斉に動き出す。神秘的な光景だね。最も、城の中には更に神秘的な光景が広がってるんだけどさ。

 

「ところでお前さん、ダイアゴン横丁でハリーに何か言ってたよな?」

 

「おや、覚えていたのかい」

 

ハグリッドがこっそりと話しかけてくる。

 

「もしもハリーに何かあったら……そん時は支えてやってくれ」

 

……私に頼むのは御門違いだと思うんだけどね。

 

「私は風に乗って流れてるだけ……それを頼むのなら、彼と一緒に居てくれる人にした方がいいね。私はいつも彼と共に在るとは言い切れない」

 

「まあ、もしもの時だ。そん時に誰もハリーの側に居なかったらって意味だ。……ところでお前さん、何でカンテレ抱えてるんだ?」

 

「もしもの時、か。その時が来ないように祈っておこう。カンテレは私の生きがいの一つだよ」

 

「そ、そうか……」

 

ハグリッドとのおしゃべりを中断して、進行方向を見る。あと三十秒もしないで崖下にたどり着くだろう。

 

「頭、下げぇー!」

 

崖下に到着すると、ハグリッドが大声を出した。蔦のカーテンに隠れている暗いトンネルを潜り抜け、船着場へと進む。

全員が岩と小石の上に降り立ち、ハグリッドがちゃんと全員居るか、船に落し物が無いかを確認する。

 

「ホイ、お前さん!これ、お前さんのヒキガエルかい?」

 

一艘のボートの近くでハグリッドが何かを持ち上げる。ネビルのトレバーだろう。現にネビルが喜びの声をあげてたし。

ハグリッドの後に続いて岩の路を登り、夜露で湿った草むらへと踏み込む。

石段を登った先には巨大な樫の木の扉があり、その前に全員が並んだ。

 

「みんな、居るか?お前さん、ちゃんとヒキガエル持っとるな?」

 

ハグリッドが最終確認し、握りこぶしを振り上げて、城の扉を三回叩いた。


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