『サッキヤルヴィン・ポルッカ』を数回繰り返し、続いては『アメリカ野砲隊マーチ』を弾く。二人は私の音楽をBGMとしておしゃべり中だね。ああ、前世がオタク予備軍でよかった。色々な曲を覚えてるからね。
「ところでさ、ミカ」
「ん、なんだい?」
マーチを弾き終わったところでハリーから話しかけられる。さて、何の用かな?
「ミカの家族も魔法使いなの?」
「ふふ、それは風だけが知ってるんだろうね」
今世において、私の家族の記憶はとても曖昧だ。居たかもしれないし、居なかったかもしれない。まさに、『神のみぞ知る』って感じだ。
「……ごめん、変なこと聞いちゃって」
「ちょっと待って、どんな解釈をしたんだい?」
「え、もう亡くなってるのかなって……」
まあ、間違っちゃいないだろうけど……。
「んー、じゃあさ、さっきからメロディばっかだけど、歌は歌えるの?」
「歌えるよ。そうだね、北欧……と言うか北国とかそんな繋がりでソ連、もしくはロシア関係の歌としよう。曲名は、『どこまでも響くハラショー』だよ」
艦これの響の歌だ。カンテレの弦に指をかけたタイミングで、扉が開いた。
「車内販売よ。何か要りませんか?」
おっと、もう十二時半か。お腹も空いてきたし、かぼちゃパイでも貰おう。
「買わせてもら……」
「全部貰います!」
……ハリーに先を越された。車内販売の魔女はニコニコしてるけど、確かこの人って、少なくとも百年は生きてるんじゃなかったっけ。『呪いの子』でそんな記述があったけど。
ハリーは腕いっぱいの買い物を空いてる座席に置くと、かぼちゃパイと大鍋ケーキを私の方に差し出してきた。
「さすがにお金だけじゃ悪いかなと思って。いくらでも食べていいよ、ミカ」
「持つべきものは友達だね」
かぼちゃパイを一つ貰い、口に運ぶ。うん、かぼちゃの甘さがちょうどいい。
気を取り直して、カンテレを弾き始める。さて、上手く歌えるといいけど……。
「〜〜♪」
「わぁ……」
「すっごく上手い……どこでこんな歌覚えたんだい?聞き取れないけど」
ハリーとロンが何か言ってるけど無視。ついでに、日本語で歌ってるから基本英語のハリーたちには聞き取れないだろう。暇を見つけて英語に直すつもりだけど。
歌っている間に、どうやって戦車を作るか思案する。楽なのは博物館の戦車を〈双子の呪文〉で貰っていくことなんだけど、問題は〈十七歳未満の匂い〉。これを何とかしないと呪文は使えない。バックには〈検知不可能拡大呪文〉がかかってるけど、これはダイアゴン横丁の人にかけて貰ったものだし……曲の代金として。
もしかしたら、魔法省には匂いを無効化するマジックアイテムがあるかもしれない。まずはそれの捜索、検証。その次は戦車を置いてある博物館の捜索。手始めにBT-42、次はKV-1だ。そこから先は未定だけど……センチュリオンとかマウスとかかな?どうせだったらカール自走臼砲も欲しいけど。
歌い終わってハリーの方を見てみると、百味ビーンズで悶絶してるところだった。どれ、私も一つ貰うとしよう。
「ミカ?やめた方がいいと思うよ?」
「百味ビーンズぐらいで悶絶するようなら、サルミアッキは食べられないよ」
バックからサルミアッキを取り出してハリーとロンに渡す。代わりに白いビーンズを貰う──石鹸味だった。
「なにこれ不味い!」
「マーリンの髭!」
そして二人はサルミアッキで悶絶中だね。
外の景色は荒々しくなってきている。こんな時は……『フニクリ・フニクラ』とかがいいかな?
歌も歌っていくスタイル。
アメリカ野砲隊マーチ…ガルパン劇場版にて流れた曲の一つ。元はアメリカ野砲隊の行進曲。
どこまでも響くハラショー…艦これの駆逐艦『響』のキャラソング。曲の最後にハラショーを何度も繰り返している。
フニクリ・フニクラ…イタリアの曲。アンツィオ関連で聴いたことある人が多いかも。ハワイアンズとか某鬼のパンツの歌の元。
サルミアッキ…フィンランド発祥の『世界一不味い飴』。中毒性があるようで、気づいたら貪っていた人がたまにいる模様。
BT-42…フィンランド軍戦車。ソ連軍のBT-7を鹵獲しイギリスのQF4.5インチ榴弾砲を取り付けた戦車。
KV-1…ソ連軍戦車。ガルパンにおいてプラウダ高校が所有──そのうち一台がいつのまにか継続高校に鹵獲されていた。
センチュリオン…イギリスで開発された化け物戦車。ガルパン劇場版では島田愛理寿が乗っていた。17ポンド砲と7.92mm機関銃を兵装として取り付けている。
マウス…超重戦車マウス。史実では活躍の機会がほとんどなかった。日本軍はこれを元に四式中戦車を開発した模様。
カール自走臼砲…ドイツ軍の化け物戦車その二。スピードは遅いが、攻撃力は異常。少なくとも、コンクリートで2.5Mは貫通する。