私はカンテレを抱えてダイアゴン横丁を歩く。すれ違う人の大体が振り向くけど、理由は簡単だ。何故か、私がダイアゴン横丁の都市伝説の一つになってしまってるから。
必要以上のお金は神様が用意してくれていたけど、それだけだと将来が不安だろう?だから、ダイアゴン横丁の道端でカンテレをかき鳴らして代金を取っていたことがあるんだけど、いつからか『ダイアゴン横丁にはカンテレを持った神出鬼没の女の子が居る』だなんて噂が出来てしまった。確かに、後ろについてくる男を撒くために袋小路に入ったところで〈姿眩まし〉たり、人に見られないように全員の視線から外れた瞬間に〈姿眩まし〉たりしたけどさ。
おかげさまで、今の私は小金持ちだ。さすがにどこぞのフォイみたいに大金持ちとまではいかなかった。
さて、今日は何を弾こうかな。……よし、せっかくだし、『ヘドウィグのテーマ』にしよう。今日は七月三十一日。ハリーの誕生日で、彼がダイアゴン横丁に買い物に来る日でもある。この記念すべき日には、ハリポタで最も有名であろう曲が相応しい。ダイアゴン横丁に楽譜売ってたし。
このカンテレは前に言った通り、弦楽器以外の音も出せる。いわば、小さなオーケストラだ。マクゴナガル先生やフリットウィック先生に見せたら分解されてしまいそうな気がする。
◇◇◇◇
よし、まずは杖だ。今はお昼ぐらいだし、杖を貰ったらちょうどハリーが杖店に来る頃合いだろう。
と言うわけで、オリバンダー杖店の前に居るよ。早速、店の中へ入るとしよう。
「いらっしゃいませ」
すぐに、老人が挨拶してきた。
「お待ちしてましたよ、ミカ・クリスティさん」
「こんにちは。私宛の杖を取りに来たんだけど」
「ええ、わかっていますとも。誰とも知らぬ方が貴女用にと、わしに預けた杖。妖精の呪文と変身術が大得意。豊かな感性を持つ、掴み所の無い杖じゃ。おまえさんにはぴったりだろう……」
店の奥に向かい、戻って来た彼の手には一つの箱があった。箱の表面には盾のようなマークがついてる。その中には一つの模様──漢字の『継』が書かれている。うん、継続高校のマークだ。
箱の中に収められてた杖は鉄みたいな色をしている。なんだか優しい感じがして、私の手にはよく馴染んだ。
「いい風だね」
「そうですな。芯材は一角獣のたてがみですが、本体の素材はわかりません。今までにわしも扱ったことの無い素材じゃ。きっと、不思議なことを──それでいて、大切なことを成してくれるじゃろう」
お代は既に貰っていると言われ、私はお礼を言って外に出る。すると、そこにはハリーとハグリッドが居た。
「こんにちは」
「あっ……えっと、こんにちは」
彼の手にはいっぱい荷物があった。ハグリッドの片手には白フクロウの鳥籠。あれがヘドウィグだろう。
「そんなところで立ち止まって、どうしたんですか?」
おっと、考え込んでしまっていたか。
「ふふ、その問いにはたして意味はあるのかな?少なくとも、私には敬語とかを使う必要はないよ。同い年だしね、ハリー・ポッター」
ハリーが一瞬、ビクッとする。ついでに言うなら、私の誕生日はハリーの一日前、七月三十日だ。
「自分が信じることをすべきだよ、ハリー。自分のことを信じないで決めたことで何かを成せるとは思えないからね」
私はそう言うと、店の前を離れて横丁の奥の方に歩き始めた。後ろではハリーが何か言いたげにしていたけど、口を開く前に私は人混みの中に紛れていた。そう言えば、今日はドラコ・マルフォイとのエンカウントイベントもあったっけ。そっちは無視しちゃったけど、まあ良いかな。きっと風向きが悪かったんだろう。
ヘドウィグのテーマ…映画『ハリー・ポッターと賢者の石』でハグリッドがオカリナで吹いていた曲。おそらくハリポタ音楽では一番有名。
ミカ・クリスティ…ミカの名字を迷った末にクリスティに決定。元ネタはフィンランド軍戦車『BT-42』、より正確にはその改造元であるソ連軍戦車『BT-7快速戦車』についているクリスティー式サスペンション。製作者はジョン・ウォルター・クリスティー。BT-42は『クリスティ突撃砲』と呼ばれたそうな。