十二月ももう半ば。指輪を二人に渡して、驚いた顔のアキを堪能した私はカンテレを弾きながら学校探索をしていた。探している部屋は、『みぞの鏡』のある部屋。あの部屋にハリーが現れるのはクリスマスの夜だし、その前に部屋を見つけたい。……それに、私が何を望んでいるのかも気になるね。
「あ、やっぱりここに居た」
「おや、見つかってしまったね」
「だって、この時間はだいたいのこ場所に居るじゃない。寒くないの?」
私が居る場所は、フクロウ小屋へと続く道とは反対側にある渡り廊下。大きな窓ガラスのない窓に腰掛けカンテレを弾いている。この場所から見る森や山、湖が綺麗で、週に一度はここでカンテレを弾いている。毎回お昼頃だからアキはここに探しに来たんだろう。
「ミカはクリスマスどうするの?」
「学校に残るよ。家に帰ってもやることはないし……戦車を取りに行くのは夏休みでもできる。アキはどうするんだい?」
「私も残ろうかなー。ホグワーツのクリスマス料理は豪華だって聞いてるし。……ミカ、何か悪巧みしてないよね?」
「私はいつも悪巧みなんてしてないよ」
「……信用できない」
もう少しで、クリスマス休暇が始まる。
◇◇◇◇
休暇初日、私たち三人は必要の部屋へ向かった。戦車の確認だ。
「何が待ってるかな?」
「使いやすいと良いけど……」
戦車の隠された部屋を思いながら壁の前を三回通り過ぎる。現れた扉の中にあった戦車は……
「おっきい……」
「これって……」
「Ⅷ号戦車……だね」
Ⅷ号戦車こと、超重戦車マウス。ナチス・ドイツ時代に開発されていた化け物級戦車。そんな怪物が、ホグワーツには残されていた。
「……なんでお母さんはこんな怪物を残したんだろう……」
「でもよかったじゃないか。モスクワまで行く手間が省けて。マウスはモスクワ近郊の博物館に展示してある一両しかないそうだよ」
壁にはスパナとかの整備用の器具がそろっている。これなら、すぐに使えるようにできるだろうね。
「ねぇ……思いついたことを言ってもいい、ミカ?」
「どうしたんだい、アキ?」
アキが私の服の裾を引っ張り聞く。どんなことを思いついたのかな?
「あのさ……わざわざ盗みに行かなくても、必要の部屋に願えば……戦車、手に入るんじゃない?」
「……………………あ」
ミッコと二人して固まる。そうか、そんな手が。
「ミカ、どう?」
「……その案に意味はないかもしれないけれど、やってみる価値はあるかもね」
三人で一度部屋の外に出て、扉が消えるのを確認。次はBT-42を思い浮かべながら壁の前を通る。
「あ……扉、出た」
勢いよく扉を開けると、そこには少し歪な体型をした戦車──BT-42があった。この指輪を手に入れた意味はなかったようだ。
「落ち込まなくてもいいんじゃない?だって、これで家でも魔法の練習ができるし」
「ミッコの言う通りだよ、ミカ」
……ともかく、これであとは〈縮小呪文〉を覚えるだけになったわけだ。今は、素直にこのことを喜ぼう。
……それと、あと数日以内にみぞの鏡を探さなくちゃ、ね。どこの教室にあるんだろう。
そうだよ……必要の部屋なら戦車も出てくる可能性あるじゃん。なんでこんな簡単なことに今日まで気がつかなかったんだ私は。まぁ、主人公たちの学校外での魔法使用制限がなくなったことだけでも良しとしよう。